おっぱい、としか喋れない!?
「これで最後だぁッ! はぁぁぁッッッ!」
渾身の斬撃!
光り輝く聖剣の一撃は、奴の胸元を引き裂いた。
「がっ……ごふ……ぐはあッ!」
血飛沫を吹き上がらせながら、奴は仰向けに倒れてゆく。
間違いなく致命傷、俺の勝ちだ。
「み、見事なり……勇者クレイ……! だが……儂とて、ただでは死な……ぬ……」
「フッ、何を言っている? もう立ち上がる事も出来まい」
最後の無駄吠えを聞き流しながら、俺は右手に握る我が愛剣である聖剣クールタンを鼻先に向けた。
この男こそ、悪名高い大魔導士であるガナガ。
近隣の村から若い娘を攫っては人体実験を繰り返していた、魔王の側近である四天王の一人である。
そして、この俺こそ……。
世界を救うべく魔王を倒す旅に出た『伝説の勇者』と呼ばれる存在。
詳しく語ると長くなるが、夢の中に降臨した女神の神託を受けた。
貴方こそは魔王を倒すべき勇者だと。
目を覚ました時には聖剣クールタンが傍らに置いてあり、救世主となる宿命を背負う事となったのだ。
未だ今のところは仲間すら見つけていないが、魔王の配下である四天王の一人をこうして葬り去ろうとしている。
冒険の旅に出てから、僅か半月しか経過していない。
始まったばかりにも関わらず、俺の英雄譚は兎にも角にも彩りを添えようとしているらしい。
「では、ガナガ……死んで貰う!」
「キヒヒッ、やりましたぞ! 魔王閣下……儂の最後の実験は見事に……」
往生際が悪くグダグダと煩い奴だ。
俺は躊躇なく、ガナガの首を切断した。
その最後の台詞も紡がれる事も叶わず、こうして悪の魔導士は地獄に落ちた。
最後の実験がどうとか意味深な発言をしていたが、俺の身体には何の異常もない。
そもそも、この世界を司る女神に選ばれし勇者である俺は、麻痺や毒は勿論、果ては魔法にさえも耐性を持っている。
こうして、四天王の一人であるガナガは倒した。
犠牲になった罪もない者達の無念を晴らす事が出来たのである。
だが、奴の居所に足を踏み入れた本来の使命、それを果たさなければならない。
この屋敷の奥には、奴が誘拐した村の少女達が数名、幽閉されている筈だ。
一刻も早く、彼女達を解放してやるのが勇者たる俺の使命。
聖剣クールタンを構えたまま、薄気味悪いガナガの屋敷の奥へと歩みを進める。
予想通りだった。
地下へと降りる階段があり、それを降りると鉄格子で隔てられた地下牢を発見した。
再び聖剣を抜き、鉄格子を切り裂く。
どんなに頑丈な材質であろうと、女神より賜わりし聖剣クールタンの前ではペラペラの紙と変わらない。
カランカランと、鉄格子が床へと落下した音に気が点いたのだろう、暗い牢獄の奥から現れたのは三人の美しい少女達。
「あの……もしかすると……私達を助けに来てくれたのですか?」
恐る恐る、先頭に立つ少女が尋ねる。
余程に恐ろしい目に遭ったのだろう、その身体はブルブルと震え、明らかに怯えている。
剣を鞘に戻し、俺は笑顔を見せながら深く頷いた。
「ああっ……助かるんだ!」
「やっと家に帰れるよ……!」
涙を零し、喜び合う少女達。
幸いな事に、全員が五体満足の様だ。
本当に無事で良かった……。
早く故郷へと送り届け、この子達の家族を安心させてあげなければなるまい。
「おっぱい」
(……………ん?)
俺は今、何と言ったのだろうか?
少女達は皆、目を丸くして俺の顔を見ている。
確か、もう大丈夫だ……と口にした筈なのだが。
きっと耳の錯覚、聞き間違えたに違いない。
「おっぱい」
(……………んん!?)
再び俺の口から出たのは、まさかの同じ言葉。
三人の少女達は呆然としながら後退り、距離を取り始めたのだった……。