表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/89

おっぱい、としか喋れない!?

 

「これで最後だぁッ! はぁぁぁッッッ!」


 渾身の斬撃!

 光り輝く聖剣の一撃は、奴の胸元を引き裂いた。



「がっ……ごふ……ぐはあッ!」


 血飛沫を吹き上がらせながら、奴は仰向けに倒れてゆく。

 間違いなく致命傷、俺の勝ちだ。



「み、見事なり……勇者クレイ……! だが……儂とて、ただでは死な……ぬ……」


「フッ、何を言っている? もう立ち上がる事も出来まい」


 最後の無駄吠えを聞き流しながら、俺は右手に握る我が愛剣である聖剣クールタンを鼻先に向けた。


 この男こそ、悪名高い大魔導士であるガナガ。

 近隣の村から若い娘を(さら)っては人体実験を繰り返していた、魔王の側近である四天王の一人である。



 そして、この俺こそ……。

 世界を救うべく魔王を倒す旅に出た『伝説の勇者』と呼ばれる存在。


 詳しく語ると長くなるが、夢の中に降臨した女神の神託を受けた。

 貴方こそは魔王を倒すべき勇者だと。


 目を覚ました時には聖剣クールタンが傍らに置いてあり、救世主となる宿命を背負う事となったのだ。


 未だ今のところは仲間すら見つけていないが、魔王の配下である四天王の一人をこうして葬り去ろうとしている。


 冒険の旅に出てから、僅か半月しか経過していない。

 始まったばかりにも関わらず、俺の英雄譚は兎にも角にも彩りを添えようとしているらしい。



「では、ガナガ……死んで貰う!」


「キヒヒッ、やりましたぞ! 魔王閣下……儂の最後の実験は見事に……」


 往生際が悪くグダグダと煩い奴だ。


 俺は躊躇なく、ガナガの首を切断した。

 その最後の台詞も紡がれる事も叶わず、こうして悪の魔導士は地獄に落ちた。


 最後の実験がどうとか意味深な発言をしていたが、俺の身体には何の異常もない。

 そもそも、この世界を司る女神に選ばれし勇者である俺は、麻痺や毒は勿論、果ては魔法にさえも耐性を持っている。



 こうして、四天王の一人であるガナガは倒した。

 犠牲になった罪もない者達の無念を晴らす事が出来たのである。


 だが、奴の居所に足を踏み入れた本来の使命、それを果たさなければならない。


 この屋敷の奥には、奴が誘拐した村の少女達が数名、幽閉されている筈だ。

 一刻も早く、彼女達を解放してやるのが勇者たる俺の使命。


 聖剣クールタンを構えたまま、薄気味悪いガナガの屋敷の奥へと歩みを進める。


 予想通りだった。

 地下へと降りる階段があり、それを降りると鉄格子で隔てられた地下牢を発見した。


 再び聖剣を抜き、鉄格子を切り裂く。

 どんなに頑丈な材質であろうと、女神より賜わりし聖剣クールタンの前ではペラペラの紙と変わらない。



 カランカランと、鉄格子が床へと落下した音に気が点いたのだろう、暗い牢獄の奥から現れたのは三人の美しい少女達。



「あの……もしかすると……私達を助けに来てくれたのですか?」


 恐る恐る、先頭に立つ少女が尋ねる。

 余程に恐ろしい目に遭ったのだろう、その身体はブルブルと震え、明らかに怯えている。


 剣を鞘に戻し、俺は笑顔を見せながら深く頷いた。



「ああっ……助かるんだ!」


「やっと家に帰れるよ……!」


 涙を零し、喜び合う少女達。

 幸いな事に、全員が五体満足の様だ。


 本当に無事で良かった……。

 早く故郷へと送り届け、この子達の家族を安心させてあげなければなるまい。




「おっぱい」


(……………ん?)



 俺は今、何と言ったのだろうか?

 少女達は皆、目を丸くして俺の顔を見ている。


 確か、もう大丈夫だ……と口にした筈なのだが。

 きっと耳の錯覚、聞き間違えたに違いない。




「おっぱい」


(……………んん!?)



 再び俺の口から出たのは、まさかの同じ言葉。


 三人の少女達は呆然としながら後退(あとずさ)り、距離を取り始めたのだった……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ