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数学の先生。

週が明けた月曜日の昼休み、職員室の奥にある会議室で、担任の『迫じい』と向かい合って座っていた。

私の成績表を手に、時折、上目づかいで私を見る。

「・・・じゃあ、歯科衛生士の専門学校を受けるんだな?」

「はい・・・」

大迫おおさこ。通称『迫じい』は、間もなく65歳を迎える担任教師だ。

教える教科は数学で、身長は150cmにも満たない白髪頭。

授業はボソボソと何を説明しているのかもよくわからず、迫じいが担当したクラスの成績はあまりよくない。そのくせ、校則違反の生徒を見つけると、すぐさま職員室へ呼び出し、風紀の先生に引き渡したり、授業中に私語をしている生徒めがけてチョークを投げたりと、生徒からはかなり嫌われている。

進路決定が遅くなった私に、嫌みの一つも言いたげな顔だ。

「試験科目に数学があるが、お前は他の教科に比べて成績があまり良くないな。」

「はい・・・すみません。」

「大学入試のような難しい問題は出ないと思うが、今からしっかり復習せい。」

「はい」

「よし。行っていい。」



一礼して、職員室を出ると、廊下でせんちゃんが待っていた。

「せんちゃん、教室戻ろっ」

「何か言ってた?迫じい」

「うん、受けていいって。でも、数学勉強しろって」

「あ〜やっぱりね。自分が教えてる教科だから余計に言うんでしょ、あのジジイ」

「んー。でも、ちょっと頑張らないとマズイしね。今日、駅の本屋さんで参考書買って帰ろうと思う。」

「うん。私も付き合うよ♪」

「ありがと」

週末に両親と相談して、歯科衛生士の専門学校へ進むことに決めた。

ようやく決心した私に、両親も安堵の表情を見せていた。


自分一人で勉強できるのか、少し心配だけど・・・


「それにしても、よくぞ決心したね!きい」

「うん・・・せんちゃんのおかげ」


あの日、松山先生が診察券を届けてくれた時の笑顔を見て、先生に近づきたいと思った。

少しでもいいから。

同じ職場で働くなんて、そんなに旨いこといくわけないけど、松山先生に一番近い仕事が、歯科衛生士だから。

動機は不純だけど、頑張って目指そうと思う。

将来に向けての、一つの目標。


きっかけをくれたのは


松山先生・・・



「でも きい、もう歯医者さん行かなくていいんでしょ?」

「うん」

「松山先生と会えないの、寂しくない?」

「んんー・・・」

「せっかく、きいがいいなって思い始めた人なのにさ」

「・・・」

そう。

会いたくても、理由がない。

どこも悪くないのに、クリニックへ行くわけにもいかないし。

先生は、夜遅くまで仕事してるみたいだし。

偶然どこかで・・・なんてこともないだろうし。

「歯医者の前で待ち伏せでもしちゃう?」

「そっそれはダメでしょ。ストーカーみたい」

「だって、そうでもしなきゃ会えないじゃない。忘れられちゃうよ〜きいちゃ〜ん?」

「ちょっと。やめて」

「なによ、きいちゃんて呼ばれて嬉しかったくせに」

「ー・・ぅ、まぁ・・・」

「ふふっ。それにあんた頑張んないと、なんか近くにイヤな女もいるじゃない。上原だっけ?」

「うん・・・」

「その女、先生のこと狙ってんじゃないの?あんたに釘刺すくらいだもん」

「ホントに怖かったんだよ。すごく綺麗な人なんだけど、なんかコワかった。」

「あっ」

「え?」

せんちゃんが急に立ち止まる。

「私ら、松山先生がフリーだっていう前提で話進めてるけど、そうとは限らないよねぇ?カッコいい上に歯科医だし・・・」

「あ・・・」

そうだ。

先生にも、彼女くらいいるかもしれないんだ。

彼女ならまだしも、もう結婚とかしてたりして・・・

やっと、素敵な人を見つけたと思ったのに・・・

「きい?」

「ー・・・」

「きい!!意識飛んでる!」

「え?ああ、ごめ・・・」

「そういうの、うまく調べられないかなぁ。なんなら、私が行って聞いてこようか?」

「いいよ!そんなの!」

「なんでよ?だって重要じゃない?」

「ぅっ、とにかく、今は入試に向けて、数学よ!数学っ」

「その上原が彼女だったりして」

「んもうっうるさいっ!」

「メガネずれてるわよ。動揺してる証拠じゃない」

「放っといてよっ」




−放課後−

せんちゃんと二人で、駅ビルにある書店に入った。

「参考書って言っても・・・どれを買ったらいいのやら」

「きいは専門学校の入試だし、少し応用ができる程度でいいんじゃないの?」

沢山並ぶ参考書から何冊か取り、パラパラと見てみる。


んー・・・高校で習った数学を全体的に復習できるやつがいいかなぁ・・・。

あとは、応用の問題集を一冊・・・。


参考書と問題集を一冊ずつ取りレジに向かおうとすると、せんちゃんが腕を掴んだ。

「ちょっと待って。私、ファッション誌買いたいの。」

「ああ、うん。」

立ち読みする人々をくぐり抜けて雑誌のある方へ歩く。

せんちゃんはいつもおしゃれで、ファッション誌が大好き。短大は服飾系に進んで、ファッションに関わる仕事がしたいと言っていた。

せんちゃんにピッタリだと思う。

雑誌を選ぶせんちゃんの後ろで待っていると突然・・・


トンッ


背後を歩いてきた女性客と肩があたった。

バサバサッと、持っていた参考書と問題集が落ちる。

メガネもずれて、視界がボヤける。


「すみません・・・」


と謝ったのに、ぶつかった女性客は、私を無視してレジの方へ歩いて行ってしまった。

「ー・・・」

落ちた2冊を拾おうとすると、私より先に、誰かがそれに手を伸ばした。


「大丈夫ですか?」


メガネを戻し、拾ってくれた人の顔を見る。


「はい、ありがとうござ・・・」


見たことある。


「あ、」


ドキンッ


「あっ・・・」


まっ・・・松山先生?


目の前に、ブルーのワイシャツにネクタイをした松山先生が、私が買うはずの参考書を持って立っている。


「あれっ、きいちゃん」

「セッ先生・・・」

『え?先生??』

雑誌を見ていたせんちゃんが振り向く。

「あ、あの、ありがとうございます」

とりあえず先生の手から、落とした2冊を受け取る。

「ああ、うん。さっきの人、非常識だったね。」

「いえ、あの、私がボーっとしてるから」

「いやあ、きいちゃんは謝ってたのに、無視して行ったじゃない」

「あ・・・まぁ」

私と先生の会話を横でニヤニヤしながら聞いているせんちゃん。

「あ、学校の友達?」

松山先生がそれに気づいて尋ねる。

「はっはい」

『どおもぉ。私、泉 舞子ですう。きいの親友の』

「あ、はじめまして。僕、きいちゃんの歯科医の松山です。」

『知ってますぅ。いつもきいが話してるから』

「ちょっせんちゃん」


やばいっ

せんちゃんの目が輝いてるっ

余計なこと言う時の目だあ〜っ


「せ、先生は今日は、お仕事じゃないんですか?」

上ずった声で精一杯会話をする。

「あ、今ちょうど、僕の患者さんの予約が空いててね。ちょっと休憩。コレ買いに来たんだ」

先生はそう言うと、私とせんちゃんに“歯科医療ジャーナル”という雑誌を向けた。

「そうなんですか・・・」

「きいちゃんは数学の参考書?」

「あ、はい」

『そーなんです。入試科目で数学があるんですけど、このコ苦手でえ』

「せんちゃんっ」


言わないでよ!

恥ずかしいっ


「見てあげようか?」


「『え?』」


せんちゃんと二人で、目が丸くなる。


「数学の勉強。良ければ僕が見てあげようか?」


いつもの笑顔で優しく微笑んでいる。


「え、あの」

『本当ですか!?』


ええっ


「うん。僕、大学時代、数学と物理の家庭教師してたんだ。アルバイトで。高校生に教えてたよ」

「・・・・」

『ええ〜っやったじゃない、きい!あの、ぜひ教えてやってください!』


うそぉ・・・


「僕で良ければ」

「あ、でもご迷惑じゃ」

『迷惑なら自分から言ったりしないでしょ?ね?先生』

「せんちゃんっ!」


少し黙ってえ〜


「ハハハッ、うん。あ、でも、平日は仕事が遅いから無理なんだけど、土日でも構わない?」

先生は、私に尋ねている。

「ー・・・」

『きいっ』

せんちゃんが、左ひじで私を小突く。

「あ、はい、あの・・・はい」

つい、先生を見つめて、顔が熱くなってしまう。

先生は鼻をススッと鳴らして笑った。

「うん。じゃあ、とりあえず、今度の土曜日、18時半ぐらいにクリニックにおいでよ。」

「はい・・」

「あ、なんなら、泉さんもいっしょに?」

『あ、いえ〜、私は土曜日は予定が〜』


せんちゃん、ニヤニヤしすぎっ


「そう。じゃ、きいちゃん、待ってるよ。」

「はい・・」

「またね」

『あ、きいをよろしくお願いします』

「あ、ハイ」

先生はそう言うと、レジの方へ歩いて行った。

『きい〜やったねっ!』


一連の流れが信じられない。


偶然どこかで・・・って


あるんだ。


本当


びっくりだ。






土曜日。

18時半。

駅前ビルの4階。

私は静かなクリニックの扉の前に立っている。

土曜日の診療は15時までだから、中に患者さんがいる気配はない。

待合室の照明は消されているようで、外からは受付のオレンジの照明だけが見える。

時間外のクリニックに入るのなんて初めてで、ドキドキする。

もちろん、ドキドキの理由はそれだけじゃないけど。


「せっかく松山先生が勉強見てくれるって言ってるんだから、きい、少しはおしゃれして行かなきゃダメよ」


昨日の帰り際、せんちゃんに言われて、私なりのおしゃれを試みた。

最初は。

でも、ムリだった。

いつもせんちゃんにダサいと言われているだけに、私服を着たらそのセンスを疑われそうでコワイ。

結局、初めに着ていた服を脱いで、制服で来てしまった。

いつもの制服。

いつものメガネ。

いつもの鞄。

いつもの髪型。

いつも通りの私でここへ来た。

ただでさえ、松山先生に勉強を見てもらうというだけで、集中できるかどうかも定かではないのに、慣れないおしゃれなんてしたらそれこそ気が散って、勉強どころではなくなるに決まっている。

それでなくても、こんなにドキドキしているのに。


「すう・・・はぁ・・・」


よしっ!


意を決して、クリニックの扉を開けた。

中に入ると、受付には誰もいない。

治療の行われていない診療室も静かで、ドアの向こうは時間が止まっているように見える。


「あの・・・こんにちは」


受付から奥を伺うように、遠慮がちに声を出してみた。

パタンという、ドアの音がして、奥から足音が近づいてくる。


「あっ、きいちゃん」


受付の向こうから、松山先生が顔を出した。

白いシャツに黒のパーカー、スリムなパンツにスニーカー。

180cmはあろうかという長身に、捲られた袖から見える逞しい腕。

いつもの白衣にネクタイとは全く違った姿。

色白な先生に、そのパーカーはよく似合っていた。


「こんにちは・・・」

「時間ピッタリだね」


挨拶をすると、松山先生の後ろからもう一人、男性が顔を出した。


『あ、松山先生このコですか?』

「うん」


松山先生より確実に若い。

松山先生の髪が黒いせいか、オレンジの照明のせいか、その人の髪はやたら茶色く見えた。


『こんにちは』

「あ、こんにちは」

とりあえず挨拶してみる。

『俺、技工の仲村っていいます。』

「みっ水嶋です・・」

『じゃあ俺、向こうで作業してますんで』

「ああ、悪いな。」

仲村さんは私に向ってペコッと頭を下げると、奥へ去って行った。

「きいちゃん、中に入っておいでよ。そっちのドアから」

「あ、はいっ」

松山先生に言われ、診療室のドアから中に入る。

「こっち」

先生が手招きする方へ歩く。

奥には、ここで働く人たちのロッカールームや休憩室、技工室と書かれたドアもあった。

「どうぞ」

先生が開けたドアの部屋は、少し広めのミーティングルームになっていた。

長机にパイプ椅子、正面にはホワイトボード。

その横には、人の顎の形をしたものや、大きな歯の模型が置かれている。

「失礼します・・・」

どこへ入っても、歯科特有のにおいがある。

「どうぞ、座ってよ」

「ハイ」

ドアから一番近いパイプ椅子を引いた。

鞄を置いて、参考書を出す。

「今日は、何時くらいまで大丈夫なの?」

先生が正面に立ち、机に手をついたまま聞く。

「あ、特に、門限とかは・・ないですけど」

「そっか。じゃ、終わったら、一緒にご飯食べない?さっきの仲村ってやつも一緒に。」


ええーっ


「あ、あのでも」

「あ、ああ、ゴメン。唐突すぎたかな。ハハッ、いや純粋に、今から勉強したら、帰る頃はお腹すくかなと思ってさ。きいちゃんが気が向いたらでいいよ♪」

「はい・・ありがとうございます。」

「仲村には、僕が言って残ってもらったんだ。きいちゃんはまだ高校生だし、ここに僕と二人でいるのは、やっぱりいろんな意味で、世間的にまずいかなと。誤解を招くようなことがあったら、きいちゃんが大変な思いをするからね。」

「ー・・・」


そこまで、考えてもらってたんだ。


優しすぎるくらい、優しい先生。


私は何も考えず、ここへ来てしまった。


松山先生に会えるとか


勉強見てもらえるとか


浮足立って


なんだかちょっと


恥ずかしい。



「きいちゃん?」

「あ、すみません」

「じゃ、はじめよっか」

「はい。よろしくお願いします。」


集中しなきゃ。


歯科衛生士になるんだから。


松山先生と向かい合って座り、参考書と問題集を開く。

「どういうふうに進めていきたいとか、何か希望ある?」

先生が、参考書をパラパラとめくりながら聞く。

「えっと、一応、問題集を解いて来たので、わからなかったところを教えてもらうようなかんじがいいです・・・」

「うん。わかった。まあ、数学はなるべく問題を沢山解いて、慣れるのが一番いいからね。」

「はい。」

「じゃ、まず、何からいこうか?」

「あ、それじゃあ、昨日わからなかった複素数の問題から・・」

「うん。どれどれ・・・」

先生に、解けなかった問題のページを見せる。

「eが複素数の場合、次を解け。e+6E=・・・・」

先生が問題を見て、開いたノートにサラサラと解いていく。


すごい・・・


さすが元家庭教師


さすがお医者さん・・・


私の周りにはいない理数系だぁ・・



「うんっ」

先生が問題を解き終えて、私の方にノートを向ける。

「えっと、まずは、複素数に関してなんだけどね、二つの複素数a+b、c+di、あ、abcdは実数ね。これが等しいっていうのは、a=cかつ、b=dってこと・・・・」


先生の持つペンシルが、ノートの上で動く。


それを目で追いながら、必死に説明を理解しようとする。


「・・・だから、7をあえて複素数で表せば、7=7+0i、・・・・a=1、b=0、だから、求める複素数は、e=1+0i=1。複素数として解く問題だけど、実は解は実数。」


実数と言って、アヒル口でニッと笑う先生。


「あー・・・そっか。」


すごくわかりやすい説明に驚いた。


「わかった?」

「はい、すごく」

「うんっ。よし、じゃあ、似たような問題があるから、こっち、解いてみよっか・・・」

「はい」


先生に言われた問題を解いていく。


なんだか変な感じ。


最初は歯医者の先生として会ったのに


今は数学の先生。


歯の治療は終わったはずなのにクリニックにいるし


松山先生に見てもらえるし・・・


「ところで きいちゃんさ」

「はい」

「あ、ゴメンね、問題解かしてる途中に」

「いえ・・」

「どこの学校を受験するの?大学?」

「いえ、専門学校です。」

「へ〜そうなんだ。どこの?」

「あ・・」


言ったら、変に思われたりしないかな


「ん?」

「あの」

「あ、言いたくなかった??ごめ・・」

「い、いいえ、違うんです、そうじゃなくて」

「?」

「歯科・・・衛生士の専門学校なんです」

「ええっ?」

驚きに笑顔が混ざった表情

「そーなんだ!?」

「はい」

「へええ、そうかあ。なんか嬉しいなあ。同じ職種を目指してくれてるなんてさ」

本当に、嬉しそうな顔をしている

「だったらさ、僕が数学教えることになったのって、おもしろい偶然だよね!」

「あ、あーはは、ははっ、そう・・ですね、ハハ」

「ハハハ・・・」


偶然・・・と言って、いいのだろうか。


確かに


松山先生が担当の歯医者さんだったのは偶然。


書店で松山先生に会ったのも偶然。


数学を教えてもらうことになったのは・・・偶然って言うより、せんちゃんが半ば強引に決めたとこあるし、成り行きっていうか。


でも


歯科衛生士を目指そうと思ったのは


松山先生に会えたからで。


やっぱり


先生と出会ったのは偶然なんだから


ここにこうしていることも


先生が言う通り


おもしろい偶然なのかな。



「あの、この問題もお願いします。」

「ん?どれどれ・・あ、図形の方程式ね。円x^2+y^2=25・・・」


松山先生に、いろんな問題の解き方を教えてもらった。

二人とも変に熱中して、気がつけば時計は20時半を回っていた。

コンコンとノック音がして、仲村さんが顔を出した。

『失礼しま〜す。こっちどうですかあ?』

「ああ、もうそろそろやめるとこ」

『俺も、キリがいいんでやめました。』

「片付けるから、戸締まりの確認頼む。」

『了解でーす』

机に広げた参考書を鞄に入れる私に、松山先生が言った。

「きいちゃんどうする?来週も来る?」

「え・・」

「ん?」

「でも、悪いです。」

「?、なんで?僕は全然構わないよ。入試はいつ?」

「2月です」

「2月か。じゃあ、それまで、お互い都合がつく時にやっていこうか」


うそ


これからも先生に会えるの?


「いっいいんですか・・?」

「うん。いいよ♪」


立っている私に、座ったままの先生がほほ笑む。


「・・よろしくお願いします」

「うん。僕でよければこちらこそ。」


どうしよう


嬉しすぎる


足がふわふわ


浮いてるようなかんじ




外はすっかり暗くなって、駅周辺の飲食店のネオンが光る。

松山先生と仲村さんの後ろをついて行くように、駅に向かって歩く。

『じゃあ、2月まで勉強するんですか?』

「うん。その時は、残ってくれる?」

『いいっすよ。俺はいつでも』

「助かる。ねっ、きいちゃん」

松山先生が、私を振り返る。

「あ、はい。ありがとうございますっ」

『いえいえ』

仲村さんも振り返り、首をクイと動かす。


駅の改札の前で、二人に挨拶をする。

「それじゃあ、今日はどうもありがとうございました。」

「ホントにご飯一緒に行かないの?」

「はい。今日は帰ります。また誘ってください。」

『松山先生、残念そうっすね』

仲村さんがニヤニヤしながら先生に言った。

「そりゃあ残念だろ。お前と二人で食べるより、きいちゃんがいた方が楽しいに決まってる」


ドキッ・・


そんなこと・・・言ってもらえるんだ


『今日のところは、俺で我慢してくださいよお』

先生の肩に、仲村さんが腕を掛ける

「じゃあ、やっぱお前の奢りね」

『ええっ?話が違うじゃないっすか?』

「お前と一緒に食べてやるんだから当然だ。じゃあねっ、きいちゃん♪」

『ちょ、待ってくださいよお』

不満を言う仲村さんを無視して、先生は私に手のひらを向けた。

軽くお辞儀をして、改札をくぐった。




2月の入試まで、都合がつく時に・・・


電車に揺られ、松山先生の言葉が、頭の中でリピートされる。


帰ったら、せんちゃんに電話しよう。




せんちゃん





また一歩



前進したよ



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