先生の空間。
「ええ〜っ!じゃあ、昨日ちゃんとした誕生日デートしたんだ」
吐く息が白くなる朝の通学路で、せんちゃんが手袋に包まれた手を擦り合せながら言った。
「うん」
「いいなあ〜。楽しかった?」
「うん。楽しかった。大きな花束ももらったの。でも、食事代は結局、先生が払ったんだ。なんだか申し訳なくて・・・」
「バカね、きい。そんなの当たり前じゃない。」
ため息混じりにせんちゃんが言う。
「あんたの誕生日だもん。松山先生がもてなして当然。先生の顔を立てる意味もあるのよ。だから、申し訳ないなんて思う必要なし。」
「そ、そうかな」
「そうよ。逆に、松山先生の誕生日の時に、きいが先生のために何かサプライズを準備したらいいんじゃない?」
「あ」
「ん?」
しまった
「私、先生の誕生日、知らない・・・」
「はあ・・・相変わらずマヌケねぇ。あんたは先生のこと何にも知らないのね〜。」
「う・・・仲村さんにも同じこと言われた・・・」
「二人でいるときは一体どんな会話をしてんのよ。誕生日祝ってもらったなら、普通は相手の誕生日も聞くでしょうが。」
「は、はは・・そうだよね。」
私ってば本当に何やってたんだろう。
先生とのデートってだけで、もう舞い上がっちゃって、何を話してたかもあんまり覚えてない・・・なんて、せんちゃんに言ったらまた怒られそう。
「あ、あー、そうだ、せ、先生がね、クリスマス、先生の家でパーティーやろうかって」
「えっ!?パーティー??」
「うん・・・」
よかった、せんちゃんの顔が輝いてきた。
「私も行ってもいいの!?」
「うん。パーティーって言っても、先生と仲村さんだけど、泉さんも誘ってみたらって、先生が」
「ホントに?」
「うん、大貴くんと一緒においでよ?」
「大貴はクリスマスはバイトなの。だから、何の予定もなくてつまんないな〜って思ってたのよっ」
「そうなの?」
「うんっ!やったー、楽しみ〜☆」
「よかった、せんちゃんが一緒で。私、まだ、先生のお部屋、入ったことないから・・・」
「あ、そっか。すごくいい高級マンションなんでしょ?」
「うん。すごいよ。エントランスも広くて、ホテルみたいなの」
「うわあ〜いいなあ。さすが歯科医!お金持ち〜。きい羨ましいー」
バシッ
せんちゃんが腕を叩いた。
痛いよ・・・
松山先生はお医者さんで、お金持ち。
時々、私みたいな高校生が、あんなに素敵な人と付き合ってるってやっぱり、なんだかちょっと不釣り合いなんじゃないかと、自信喪失に陥ってしまう。
早く大人になりたいな。
先生と並んで歩いても、恥ずかしくない大人に。
12月24日。終業式。
「年明けに入試を控えた者は追い込み。推薦ですでに合格をもらっとるものは、冬休みだからと言って羽目を外しすぎんように。卒業までは気を抜くなよ。」
迫じいの話と共に、2学期最後のホームルームが終わる。
それと同時に、教室は冬休みに浮かれる生徒の声で溢れ返る。
教室の窓から外を見ると、空には一面の灰色の雲。
日差しがない分、寒さを感じさせる。
「きい♪きい♪」
リズミカルな口調でせんちゃんが来る。
「きい、数学の成績どうだった?」
「上がったよっ♪」
「よかったねえ〜!今日早速、松山センセに報告しなきゃね!」
「うんっ」
せんちゃんが鞄を抱えながら、窓の外を眺める。
「なんか、雪が降りそうだねー。それにしても、パーティーが22時からって、ちょっと遅くない?」
雪・・・降るといいな。
ホワイトクリスマス・・・
「仕方ないよ。先生も仲村さんも仕事だし。でも、昨日、先生からのメールで、20時以降の予約は入ってないから、早めに切り上げて帰ってくるって言ってた。」
「帰ってくる・・・」
せんちゃんが、ニヤニヤしている。
「な、なに?」
「なーんかその会話、夫婦みたいだねっ」
「えっ」
「だってー、家で待ってる奥さんに送るメールみたいじゃん」
「べ、別にそんなんじゃ・・・大体、先生の部屋に入るのも、今日が初めてだし」
「ふふん、嬉しいくせに」
肘で私を小突く。
嬉しい。
嬉しいけどでも・・・
「うっ・・・嬉しいけど、なんか、朝から緊張しちゃって。」
「大丈夫よ。私が付いてるから。っていうか、現役歯科医師の部屋ってどんなだろーっ!超楽しみ〜」
「やっぱり・・・。目的はソレね、せんちゃん」
「だって、私も今まで何人かの男と付き合っては来たけど、さすがにお医者さんはいなかったし〜。きいだって楽しみでしょっ」
確かに、どんな部屋で暮らしてるんだろう・・・とか、いろいろ想像してた。
きっと、大人な雰囲気の部屋で、綺麗に片付いてて、家具とかいちいち高級感があって・・・みたいな?
クリスマスのイルミネーションで彩られた駅前を歩き、改札前で立ち止まる。
「じゃあ、私は一旦、自分ちに戻って、きいの家に行けばいいのよね?」
「うん。仲村さんが早めに仕事終わるから、20時過ぎに迎えに来てくれるって。」
「わかった。じゃ、あとでね。」
「うんっ」
改札を抜けて、せんちゃんとは逆方向のホームに上る。
携帯電話を開くと、着信メールあり。
松山先生からだ。
『きいちゃん、今日はなるべく早く帰るようにするからね。仲村と泉さんと、先に始めてていいよ。マンションの鍵は仲村に渡してあるから。あとでね。』
携帯を見ながら、思わず微笑んでしまう。
“夫婦みたいだね”というせんちゃんの言葉が反復される。
こういうの、傍から見たら、のろけてるとか、バカップルとかいうんだろうな。
でも、のろけでもいい。
バカでもいい。
松山先生と付き合ってる。
すごく楽しい。
楽しすぎて、怖いくらい。
「何分ぐらいかかるんですか?松山センセのマンションまで」
後部座席に座るせんちゃんが、ハンドルを握る仲村さんに聞いた。
『40分ぐらいかなあ。来るまでの道が少し混んでたしね。』
仲村さんは、ルームミラーでせんちゃんを見ながら答える。
「すみません、迎えに来てもらって。」
この車に乗るのは二度目だな・・・なんて思いながら、仲村さんに謝った。
助手席に座る私を横目で一瞬見ると、仲村さんはふっと笑った。
『いや。時間が遅いし、女の子二人で来させるのは危ないって、松山先生のお達しだからさ。』
「うわ〜紳士〜。大人の男はやっぱり違うなあー」
せんちゃんが後ろからしゃべる。
『泉さん・・・だっけ、君』
「はい。泉 舞子です。」
『舞子ちゃん。彼氏は?今日はデートとかしなかったの?』
舞子ちゃん・・・?
私を呼ぶ時は“高校生”としか言わないのに・・・
仲村さんも、せんちゃんみたいなカワイイ子には弱いのかな。
ルームミラーでお互いの顔を見ながら話をする二人の会話を聞きながら、窓の外の景色を見る。
クリスマスムード一色の町が、キラキラと流れていく。
「彼氏はバイトで忙しくて、今日は何の予定もなかったんです。」
『そうなんだ。ちょうどよかったよ。俺さ、いっつもこの二人の付き添い役でね〜。クリスマスも一人見せつけられるのかと思うと、うんざりしてたんだよ・ね〜』
語尾の“ね〜”の時だけ私の方を見る。
せんちゃんは楽しそうに後ろで笑っている。
「み、見せつけてるつもりは・・・」
『あれ、自覚なし?やれやれ。恋は盲目とはよく言ったもんだ。君もあの人もね。』
「〜〜〜・・・スミマセン」
すっごい責められてる気分・・・
「でも、きいは仲村さんに感謝してるんですよ。松山先生との仲を取り持ってくれたし、きいの気持ちを酌んでくれる、心強い味方っていうか・・・」
せんちゃんがフォローしてくれる。
『おっ?そうなの??』
「えっ・・あ、はい・・・感謝してます・・・」
俯き気味に答える。
「それに、きいは男の人と付き合うの、今回が初めてなんです。だから、なにかとサポートしてあげないといけなくて、私も手を焼いてるんですよ〜」
『ああ〜。手を焼くってすごくわかるよ。お互い苦労するね〜。』
「ホントですよお〜あははーっ」
あははーって・・・
ああー・・・
この二人・・・絶対気が合うんだろうなー・・・
早く着かないかなー・・・
『大丈夫?』
仲村さんが、左手で私の右肩をポンと叩いた。
「え?」
『酔った?窓開けようか?』
「あ、いえ、大丈夫です・・・」
『そ?もうすぐ着くから』
「はい・・・」
仲村さんて、なんだか掴めない。
憎まれ口を言ったかと思うと、急に気遣ってくれたり。
優しいのか、いじわるなのか、よくわからない。
この前、私を妹みたいだって言ってたけど・・・
お兄ちゃんて、こんなかんじなのかな。
松山先生の住むマンションに着いた時には、もう21時を回っていた。
前に一度、先生と一緒に入ったことのあるエントランスを抜けて、エレベーターホールへ進む。
エレベーターは全部で3機。
乗り込んだエレベーターの中で、ボタンを見るなりせんちゃんと目を丸くした。
「「35階(建て)!!」」
『ちなみに松山先生の部屋は27階ね。覚えてね、君。』
27階のボタンを押した仲村さんが、先生から預かって来た鍵の先を私に向けて言った。
「はい・・・」
エレベーターが上昇する。
いよいよ先生の部屋に入るのかと思うと、上昇するごとにドキドキしていく。
27階のフロアで降りて、仲村さんの後に続く。
静かなフロア、扉の一つ一つにも高級感がある。
「ホントにすごいね、きい。ホテルみたい」
せんちゃんが小声で話す。
「でしょ?私も、最初にエントランスに来た時びっくりしたもん」
≪2711≫と書かれた部屋の前で、仲村さんが止まる。
『到着。松山宅。』
仲村さんが、慣れた手つきでカギを開ける。
『どうぞ、お入りください、お嬢様方』
ドアが開けられると、センサーが反応して、玄関口の照明が点く。
「お・・・おじゃまします・・」
せんちゃんと二人そろって、中に入る。
仲村さんが後ろに続き、ドアが閉まると、一瞬、部屋のにおいが鼻を突いた。
あ・・・
松山先生のにおいだ・・・
緊張が、その一瞬で解れる。
「きい、早く入ってよ」
せんちゃんが背中を押す。
「あ、ごめん」
靴を脱いで、部屋に入る。
白いハンドルレスのおしゃれな玄関収納の横を通り、正面に見えるレリーフアートなデザインの扉に向って歩く。
廊下には4つほどの扉があり、寝室やバスルームだと思われる。
一歩一歩進むごとに、オレンジの照明がひとつひとつ照らされていく。
「すごーい、ライトって全部センサーで点くのぉ?!」
せんちゃんが、やや興奮気味だ。
正面の扉をそっと開けてリビングに入る。
「「うわあっ・・・」」
せんちゃんと二人、思わず歓喜の声を上げた。
大きなリビングウィンドウから、目の前に広がるきらびやかな夜景。
リビングの照明は自動的に点かないようになっていた。
『二人に、是非とも夜景を見せてやってくれって、松山先生が。』
背後から、仲村さんが言った。
「先生が・・・」
素敵・・・
どうしよう
今すごく感動してる・・・
「すごいすごーい!きい!松山センセってばもうサイコーじゃなーい!!」
「うん・・・・」
私とせんちゃんのために、先生が・・・
『粋なことするよなぁあの人。シティ・ビューの部屋に騙されやがって、ガキどもめっ』
「あははっ、仲村さん、悔しいんですね〜」
せんちゃんが仲村さんを指さして笑う。
『うるさいね。はーい、夜景の時間は終わり終わり。電気点けますよ〜。もう、俺は腹減ったっつーの。さっさとピザの注文しよう』
仲村さんがリビングの照明を点けた。
広いリビング・ダイニングの奥にはシステムキッチン。
暖か味のあるブラウンのカウチソファー、センスのいいエリプティカルテーブル。
4人掛けのダイニングテーブル、やたらと存在感のあるプラズマテレビ・・・
想像してた通り、すっきりと片付けられている。
ここが、先生が暮らしている場所。
朝起きて、出勤の支度をする。
食事したり、くつろいだり、眠ったり。
先生が、自分の時間を過ごす場所・・・
「うわっ、テレビでかっ」
ソファーに跳ねるように座ったせんちゃんが、リモコンでテレビを点ける。
『これ、105型だろ。あの人、一人でこんなでかいテレビ見てんだよ。マジ腹立つ。あ、ピザ何にする?』
仲村さんが、ピザのチラシを私に見せた。
「クワトロなんかいいんじゃないですか?いろいろ食べれて・・・」
『OK。じゃ、電話するよ。あ、冷蔵庫見てみて。サラダが作れるようにいろいろ買ってあるって言ってたから・・・って、君たちって、料理できるの?』
疑いの目で私たちを交互に見る。
「きいは出来ますよ〜♪」
せんちゃんが答える。
「あ、そんなに難しいのは出来ないですけど、サラダなら・・・」
『そ?よかった。じゃ、頼むね。』
仲村さんは携帯を開いて廊下へ出た。
システムキッチンにあるシルバーの冷蔵庫を開ける。
さすがに、一人暮らしだからなのか、冷蔵庫は一般的な大きさだった。
中を見て、思わず吹き出してしまった。
レタス、プチトマト、キュウリ、瓶詰めのオリーブとドレッシング、その横には生ハムらしきものが無造作に入れられている。
野菜と飲み物以外、何も入っていない。
部屋の片付き具合からして、野菜は野菜室、生ハムはパーシャルへ分類されていてもよさそうなのに、冷蔵庫の中は意外に大雑把だった。
これだけ・・・?
今日のためだけに買ったような品物。
普段の食事はどうしてるんだろう・・・
とりあえず材料を取り出して手を洗う。
水栓はタッチレス。あらゆるものに高級感がありすぎて、だんだん驚かなくなってきた。
せんちゃんは、クリスマスの歌番組を見ながら、ソファーで歌っている。
まな板と包丁を探し出して、サラダを作る。
キッチンから真正面に見えるように取り付けられたリビングの時計を見ると、そろそろ22時になろうかというところだった。
スライディングクローゼットから、大きめのお皿を取り出して、盛りつけにかかろうとしていると、廊下の方からガヤガヤしゃべり声が近づいてくる。
リビングの扉が開く。
黒いコートにビジネスバッグを持った、松山先生が入って来た。
「ただいま、きいちゃん」
ドキン・・・
「あ、お、おかえりなさい・・・」
“ただいま”・・・
あ、やばい、メガネがズリ落ちてきそう
「あっ、こんばんはー!おじゃましてますっ」
せんちゃんが、勢いよく挨拶をした。
「ああ、泉さん、こんばんは。遅くなってしまってごめんね。」
「いいえ〜。私はテレビ見てましたからっ」
「お腹すいてたでしょ?ごめんね、きいちゃん、料理までさせちゃって」
コートを脱ぎながら、先生が言う。
「いえ、料理だなんて、このくらい・・・」
電話を終えた仲村さんも、リビングに戻ってきた。
『ピザ、30分で届くそうです』
「仲村、先に始めといてって言っただろ?」
『だってこいつら、夜景にキャーキャー言ってるんすもん。』
「ああ、どうだった?部屋が暗い方が綺麗に見れるんだ」
「すっごい綺麗でした〜!ねっ、きい!」
「・・・はい・・・」
先生を、見つめてしまう。
「そっか。喜んでもらえて良かった。」
先生が、優しく微笑んだ。
しーん・・・
ハッと気がつくと、仲村さんとせんちゃんが、二人並んでニヤニヤしている。
『なーんか、俺らって、邪魔じゃね??』
「ほんと〜。いいんですかあ、私たちが一緒でも〜」
顔が、カーッと熱くなっていくのがわかる。
メガネを手首で押し上げる。
「あ、あ、サラダ、出来ます。せんちゃん、運んで!」
「はーいはーい♪」
「あ、じゃあ僕は着替えてくるね。」
先生は、バッグを持ってリビングを出て行った。
なんか・・・恥ずかしい
照れくさい・・・
でも、幸せ
『あっ!高校生!』
「はい??」
仲村さんが、ダイニングテーブルの上に置いたままのコートを取り、私に差し出す。
『これ、邪魔だから持ってって』
「え?」
『出て、右の一つ目のドア』
「え」
え?
それって
『早く』
「ええっ」
『あー、舞子ちゃん、他の皿とかグラスも運ぶからこっち〜』
コートを押しつけると、無視してせんちゃんと準備を始める。
・・・・
コートを持って、リビングを出る。
右の、一つ目の・・・ドア
ドキドキして、手が、震える
コンコン♪
ドキドキ
かすかに足音がして、ドアが開く。
「あ・・・」
「きいちゃん」
まだ、ネクタイを緩めただけのシャツにズボンのままで、先生が立っていた。
見上げるほど、近くに。
「あの、コート」
「ああ、ありがとう。」
先生の背後には、スタンド照明だけが点いた、薄暗い寝室が広がっていた。
ドキドキが、速くなる。
先生が笑顔で手を伸ばす。
コートを受け取るのかと思いきや、私の腕を引いた。
「えっ」
びっくりする間もなく、先生は寝室のドアを閉める。
ふわりと、クリニックのにおいがする。
あっという間に、先生の腕の中。
先生のネクタイが、頬に触れる。
ドキドキしすぎて、声が出ない
すぐ隣には、仲村さんとせんちゃんがいる
その事実がますます、鼓動を高鳴らせる
「・・・・」
「来てくれてありがとう、きいちゃん」
耳元で、先生が囁く。
「・・・・いえ、こちらこそ、ありがとうございます」
「今日はすごく冷えるけど、寒くなかった?」
「あ・・、大丈夫です」
「そう?」
「・・・あ、あの」
「ん?」
「数学の成績が、上がったんです」
「おっ!ホントに?」
「ハイ」
「きいちゃんが頑張った成果だね。」
「・・・先生の、おかげです」
「それはどういたしまして♪」
「・・・・」
抱きしめられたままの会話は、なかなか続かない。
「ススッ・・・きいちゃん、心臓がドキドキ鳴ってる」
「えっっ」
「ハハッ、これだけくっついてれば、さすがに伝わってくる」
うわ、恥ずかしいーっ・・・
「本当は、ここで二人だけで過ごしたかったけどまだ・・・高校生だから・・・」
「・・・・」
先生を見上げる。
優しい、表情。
「でも、年が明けて・・・、卒業したら、僕と二人で過ごしてくれる?」
「・・・はい」
早く、大人になりたい
先生のために、大人になりたい
先生と、二人だけになりたい
そしていつか先生と・・・
ピーンポーン♪
ハッッ!!
先生と二人、我に返る。
リビングから、バタバタ出てくる仲村さん。
通りすがりに、寝室のドアをドドドドンと叩く。
『はーい、お二人さん、時間切れですよー。ピザ来ましたよー』
仲村さんが、玄関のドアを開ける音がする。
松山先生と目が合い、笑顔を向ける。
「始めようかっ♪」
「ハイッ」
「うん、あ、着替えなきゃ。」
先生と一緒に過ごした、初めてのクリスマス。
夜中の12時近くになると、雪がちらついていた。
大きなリビングウィンドウから眺める、シティ・ビューのホワイトクリスマス。
どんなツリーよりも、最高に綺麗だった。
来年も、再来年も、松山先生と過ごしたい。
ずっと、先生と、一緒にいたい。