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どうやら、俺は何かが落ちたのを見た様です【月】


くるくる…くるくると回る。


ーーソレは少女の前を


ゆっくりと、まるで時間の流れが遅くなってしまったかの様に、


ーーゆっくりとソレは大地へと突き刺さった。



『剛くん!!』


少女は友の名を叫けぶ。


……だが、突き刺さった刃に罅が走り、やがて音を立てて床へとその身を傾け。そして…




……カラン。




…と言う小さな音だけが、少女の叫びに対して返された答えだった。



「そんな…」



まるで支えを無くした案山子(かかしの様に、その場にへたり込んでしまう少女。


それ見届けたかの様に、化け物の咆哮が、その場に響き、彼女の絶望の言葉さえもかき消す…。



『オオオオオオオオ!!』




ーーー 友達が…剛くんがやられた。



巨体を誇る彼者(かのもの)の咆哮は、風を生み出し、まるで空間そのものを揺らすかの様に響き渡る。



白の少女は草花が風に舞うかの様に、いとも容易く吹き飛ばされ大地に引き倒される。




ーー どうして?こんな事になったの?。


初めから相手の強さなどは知っていた筈だ、友達…デス・ゴーストのレベルもだいたい分かっていた。



転がった矢先に起き上がろうとした所へ、奴からの尻尾による追撃がくる。

少女の光が失われかけた瞳がソレを捕らえると、少女の白い法衣が再び輝きを放つ。



ーー また、私は守られている。

母親が授けてくれた羽衣、そして『フリージアの花言葉』で彩られた巫女装束が守ってくれている。

母が守ってくれたあの日の様に。


それが、まるで母が今も守ってくれているような気さえしてくる。


だけど…。


私には、これほどの強敵を倒すだけの力は…無い。


魔王がやって来たあの日、私を攫ったあの日、母が生きて居る事さえも不安だった…あの日。



ーーー 『お母さま!ご無事ですかっ!?』


そう言って、あの日の私は母と魔王が戦っている場所へと飛び出して行った。


従者達の声にも耳も貸さず、そのせいで散らずとも良かった命が散ってしまった…。


母も私のせいで深傷を負ってしまった。



あの日と同じだ。

剛くんも、私が居たから、私を助けようとしてくれたから…だから死んでしまった。


幼い記憶の時とは違い、強く抱きしめる人形(モノ)の無くなった胸元に、腕を抱く。




ーー 私は逃げて…守られる事しか出来ないの?。



この結界がいつ破れてしまうかも分からない、いや、いつ破れてもおかしくは無いのだ。

ただ私が怯えて居るのを見て彼奴は楽しんで居るだけ。


その証拠に、尻尾で攻撃しては来ても他の手立てで攻めて来る様子も無く、ただただ尻尾で結界が軋み上げるの見て、人に見える頭部の顔が微笑みを浮かべている。


要は奴にとっての時間潰し。遊んでいるのだ。結界と同じく、悲鳴をあげる城が崩れて行く…その時までの。


何せレベルがレベルなのだから。例え魔王城が崩れ去った後だとしても、海に落ちた後しぶとく生き残って居るだろう。


そして、海を渡り。やがては本土で第二の魔王宛らに人々の恐怖の対象として、君臨するかもしれない。


…これは、それまでのお遊び。


対して私は、このまま結界に閉じこもって居ても、城が崩れた時耐えれるか…どうか。


海に落ちた時、無事で居られるかさえ分からない。いや、これらの法衣の力を持ってしても。無理かもしれない…。


だからと言って、結界を解けば、自分の何倍もの大きさの…まるで壁の様に見える尻尾が今度はこの身を押し潰し、或いは切り裂くだろう。



「お母様…」


「ごめんなさい…」



ーー 私…ダメかも。



そう呟いた時、軋み上げた結界が遂に限界を迎え…ここに来て何度目になる事かの、硝子の砕けた音と共に少女を吹き飛ばす。


………螺旋階段沿いへと。





衝撃で仰向けに大地へ引きずられた先で、螺旋階段の上部が見えた。

自分の上の階の階段は、所々に穴が空いている様らしく壊れかけて居る様だ。


……何故?


そう思った時、仰向けに寝転んだ自分から見て少し上の方で爆発が起きた。



「きゃあっ!!」


咄嗟に顔を庇い、爆発のあった上の階層の方へと視線を向ける。


その視線を向けた先は、一段一段大きな階段の様にして魔王城の内側に在る螺旋階段の落ちる擦れ擦れに寝転ぶ自分の上。

詰まる所の螺旋階段が囲む、中心の柱の上部で爆発が起きたらしい。とうとう城の崩壊が本格的なモノとして現れた様だ。


そこまで分かった時、不意に落ちて行く小さな瓦礫に混じって別のナニカが落下して行くのが見えた。


そして、その影を追う様に先程の爆発で出来たで有ろう、大きな瓦礫が落ちて行った



「今のはっ!まさかっ!」





その影は、自分の視界で捉えたのは一瞬…



刹那ともいえる瞬間だった。



だが、その影には見覚えが有った、何故なら…




「そんなっ!?」




その影の名は、『マサト』


コレはナフティアが知る由もない物語の一部であり、語られずに飛ばされてしまう事の一つ、

全体の物語においては些細な時間の、その瞬間だが確かに有った事を彼女は目の当たりにした。



それは、本来のゲーム時代には無かったシナリオが動き出した瞬間であった。





見覚えの有る影…マサトの姿を目で捉えた瞬間に、少女の中でナニカが男性の声で囁いた。



『アレは自分の…弟だよ』



その声と共に、自分の中で再びナニカが切り替わったのが分かった。




ーーー俺は?今まで何をしていた?。



いや、ここまでの道のりの中での記憶はあるし、特別意識が飛んだと言うわけでも無い。

ただ…なんだこの違和感?。


だが、一瞬だけ…そう…誰かを背後から抱きしめようとした様な…情景が頭にチラつく。



いい知れない様な気持ちの中で身体を起こすと、先程の蛇の化け物が別の魔物と戦っていた。


よく見ると、俺や奴が通って来た道から魔物達がゾロゾロとやって来たらしい。皆それぞれに正気の瞳をして居らず、道の真ん中に陣取った奴に襲い掛かっている様だ。


恐らくは、魔王城という自分達の巣が崩壊している事で魔物達も逃げ出そうと躍起なのだろう。

どうやら俺が横になっている間に襲った衝撃が彼らにとってのダメ押しであり、そんな焦っている最中に道を塞いでいる奴を邪魔だ!と襲い掛かっている。とそんな感じなのだろう。


対して奴は、獲物を弄び、いざ止め…と思った矢先に格下のゴブリンやらオークやらゴーレムやら、ワイトやら

…そしてゴースト達の魔物に邪魔をされて怒り心頭になっている様子。



どうやら…俺は運が良かったらしい。


不思議と先程までよりも頭も冷静だし…、それに、



少女の上を彼が通過したのは、ほんの刹那の時間であった、だがそれはつまり…それだけ早く落ちていると言う事。


「急がないと…」


早く助けなければ間に合わないかもしれない!


大蛇が火を吹き、或いは爪で魔物達を切り裂き、尻尾で押し潰し。魔物の残骸が舞う。


そんな混沌とした空間の中で…俺は、右手を真っ直ぐに突き出した状態で立ち上がった。



「出て来なさい…暗黒の銃」


『それ』を呼びだす為には…別段多くの言葉は必要無い。


ただ…そっと呟くだけで良い。


画面の向こう側で、とある少女がそうしていた様に…、


その少女は弱くも、無力でも無い事を俺は知っている。





白と黒の風が魔物達の足元から、或いは壁から巻き起こり、小さな魔物達を転ばし…飲み込んでゆく。

その風が俺の右手に絡みつく様にして集まると、やがて俺の手には一つの銃が握られていた。




その銃を正面に構える少女



その少女の名は『ナフティア・M・トリスタン』



ーー 今の俺だ。



『ナフティア、……もう一度、男の姿に戻り、ココから脱出してください。』





そう『月下美人』アメリアは言った。


この法衣とマフラー、そして羽衣を持っているからか、

それとも、この身体になる前に、実はナハトが陰ながら行っていたからなのか、


今から行う事は…初めての事なのに、初めてじゃ無い、そんな不思議な感覚。


ナフティアは、剣と銃が合体した様な暗黒銃を正面に構えると、目を閉ざし優しげな声音ソプラノボイスで歌う様に詠唱する。




ーー『月の巫女の名の下に』




すると、両足から白い魔力が溢れ出し、それがまるで下から上に向かって風が起来ているかの様に法衣や髪を揺らす。


その片足を前へと進ませると、足音と同時に白い月の紋様が描かれた魔方陣が彼女の足元に現れた。

先程の黒い風に飲まれた魔物の仲間達だろうか?離れた位置で戦っている大蛇に比べると小さな魔物が、瓦礫を投げて来た。


だがそれは…透明な壁が魔法陣から発生する事で阻まれる。



ーー 『慈愛と狂気を秘めし、その輝きの元』



ナフティアの露出した肘から肩にかけてに、引っかかって居る羽衣が、しゅるしゅると一人でに動き出しす。

そいて空中に浮かぶと、壁の内側を渦を巻く様に大きく戸愚呂とぐろをまく。



奥の魔物達が、俺の様子に気付いた様だ…だが、それはもう遅い。




ーー 『我に、その輝きの一端を貸し与え給たまえ』


詠唱は、滞る事無く唱える事が出来た。



これで良いはず…と、魔力など未知の感覚だった筈の前世の自分が、初めての『魔法』を行使した。

先程の様な魔力の塊では無い本当の『魔法』


ナフティアは、最後の一文を唱え暗黒銃の引き金を引く。






その『魔法』の名は…




ーー 『変身メタモルフォーゼ!!』






羽衣が大きく伸びナフティアの全身に巻きつくと、魔法陣から光の柱が立ち上り、



そして、内側から銃声がすると、ガラスの割れる様な音と共に近付いて来ていたゴブリンが煙の様に消え去る。


そこから現れたのは、




紫の長髪に猫を思わせる、赤い縦の瞳孔の双眸。

闇の中に浮かぶ様に真っ白な肌に、口許を隠す様な膝までの続く黒いマフラー。


赤い装飾された、一見軽装な黒い鎧、


身長は170センチ前後まで伸び、黒と紫のサーコートを羽織って、黒のジーンズに黒いブーツ姿の男性。


『ナハト』である。



変わってしまった獲物の姿を見て、大蛇は纏わり付く魔物を振り払い、再び口から炎を放ってくる。

それは先程デス・ゴーストを倒した必殺の炎、ソレが他の魔物達を巻き添えにしつつナハトを捉えた。


得物が焼かれたと思った大蛇は勝利の雄叫びを挙げる。



『ガァァァァァァァ!!』


…だが、



ふと大蛇の視界に『黒い霧』が見えた。



段々と濃度の増して行く、その霧に、


やがては身の回りで騒めく魔物達も気づき始める。


幾ら巨大な大蛇さえも通れる広くなった回廊とは言えど、出入り口の二つしか無い。

コレでは出口が何処か分からなくなってしまうと思ったのか、魔物達は慌てて霧が濃くならない内に回廊から螺旋階段に繋がる方へと、走り始めた。


だが、魔の最も足る魔王に実力が迫る程の大蛇は、気づいていた。

それは獣の本能故か、それとも、高位の魔物故の知識故か、



ーー この霧はおかしい


大蛇は、自分よりも小さな魔物達が、慌てふためいて騒めくなか。

冷静になって、辺りを見回す。


何どうせ下は海なのだ、落ちたとしても、何ら支障はない。

瓦礫などは我が炎で打ち砕く事など造作もない、それに軽い擦り傷程度など、泳ぎ切った先で待ち受ける人間達との戦闘に対しては、丁度良いハンデと言った所だろう。とさえ感じていた。


ーー 自分だから、当たり前の様に生き残る事ができて、


ーー 自分だから、些細な手傷程度で済み、


ーー 自分だから、どんなことでも負ける事は無い。


それは、遥か強者故の自信で有り、確信にも似た…慢心。

魔王に打ち勝った勇者達も『人間』達、と言う事さえも忘れ、吹けば散る程度と嘲笑い、先程のか弱くビー玉にでも包まれただけで、懸命に生きながらえ用とした少女。最後には姿形は変わっても、ちょっと火を浴びせて見せれば、なぁに他の人族と同じく、あっさりと消えてしまった程度だったのだから。


そんな存在達に負けた魔王は、蓋を開けて見れば、実は自分よりも弱かったのではないだろうか?とさえ、大蛇は思って居た。


その慢心が故に見落としていたのだ。


先程まで出口まで向かっていた魔物達の姿が


ーーー 大蛇の瞳を瞬く間に、暗き霧の中に消えている事に。


気づいていたとしても、霧の中で見えなくなってしまっただけだ。と思ったのだろう。


大蛇が蛇特有の大きな身体を引きずる様にして、歩みを進めた時。


不意に、頭の後から大きな音が聞こえた。


音に反して背後を確かめようとした時、一つの違和感に気づく


先程まであった、身体の一部に感覚がないと…


複数の視界、頭の上に位置する人の上半身の様な部分の視界で分かったのは…


自分の身体が、尻尾が切り落とされたと言う事、


そして先程の音は、斬り裂かれた身体が大地に伏した音だった事。


そこまで気づいた時、どこからか声が聞こえて来た。



「一の弾丸…『黒き霧』」




まるで何かが突き破って来たかの様に黒の霧が動いた。


そこに現れたのは…『白い魔力』を身に纏う黒い服装の青年。


その青年の…剣を握る右手だけが黒い魔力を放っている。


青年は剣の柄の部分に手を添えると、リボルバーの弾倉部分を回し一度だけ引き金を引いた。


「…強化ブースト



すると剣の魔力は次第に膨れ上がり、まるでそれは、白い雲を染め上げ、暗雲と成す様に黒い輝きを増してゆく。


だが、それだけではない


第二強化セカンド


更に黒い魔力は肥大し、大蛇は咄嗟に火球を出そうとするも…だがそれは一足遅かった。


「…いくぞ!」


その一言と共に、一瞬にして大蛇の前に現れた青年は、その開いた巨大な口ごと頭を横に切り裂いた。



その暗黒のその一閃を受け、倒れ伏す大蛇を一瞥し、青年はそっと呟く


「急がなければ…」



ーー『月の高速移動ダッシュ



と魔術を呟いた矢先に、大蛇の体に変化が起きた。


まるで泡立つかの様に、傷口が波打ちやがて切り離された身体が、再び繋がってゆく。


「何だと…」


ナハトの記憶の中で、今起きている事に心当たりはあった。それは


『再生』


それは主にボスクラスに見られ、稀に一部の雑魚モンスターが持っている再生能力。

と言ったRPGにおいてのお約束とも言える力。

ナハトが前世でプレイしていた頃にも苦しめられたコイツの能力のひとつだ。

魔王と違って復活する度に攻撃のパターンが変わったり、最大の体力値が変わったなどが無いが。

さらに、今の所まだそう言った攻撃などはしては来ないが、元々はこの大蛇の魔物による『状態異常』を多く起こす攻撃パターンが有った為に、かなり苦労させられ、結構長期戦だったと記憶している。


だが、今の時間の無い状況下では倒す事は厳しいだろう。


ーーー だから今のうちに逃げねば、


「チィッ!」


だが、思いの外に相手の再生は早く、その事に思わず舌打ちして先程のマサトを追う為に、螺旋階段の方まで一気に移動すると、それと同時に…



『ガァァァァァァァ!!』


獣の鳴き声が、崩れゆく回廊に再び響く。


ーーー その振動は壁の、天井の崩壊を早め…やがてそれはナハトが立つ螺旋階段までも



もう復活したのか…と、大蛇の方へ振り向いた時見えたのは…視界いっぱいの赤。


それは、復活したと同時に大口を開けて、ナハトを飲み込まんと開けた口内の色。


ナハトの様な規格外な移動ではなく、単純な身体の大きさの違いから繰り出された攻撃。



階段が崩れ不安定な中で、回避もままならずナハトが食われようとした時。







ーー 青い炎が見えた





『ギィああアアアアアアアa!!!!!』



それはまるで、大型の車の警報音よりも大きな断末魔の叫び。


回廊だった横穴から顔をだし、青々とした炎に焼かれる大蛇。


それら見つめながら、闇の底へと落ちゆくナハト。




あれだけ近くで叫び声を聞いてしまったにもかかわらず、耳の痛みも忘れて燃える大蛇を見つめ…


やがて、ぽつりと…呟いた



「……何が起こったんだ?」




答えが見えない中、ナハトは落ちゆく瓦礫を蹴って、青い炎に背を向けた…。






弟マサトの元を目指して。















皆様こんにちは、こんばんは、おはようございます。

サルタナです。


更新長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません、

去年の末から今年の今にかけて作者の取り巻く環境が大きく変わってしまい、長らく筆が進める事が出来ずに居ました。

重ね重ねすみませんでした。


更新は出来なくとも、感想への有難いお言葉を頂きありがとうございました。


では、さてさて次回のお話について。ここからは視点が変わります。


作者は、前回の作品を見ていた方はご存知かもしれませんが、色々な書き方にチャレンジしてみてたりするので、その為今の書き方と以前の書方が変に差を感じさせてしまい、読みにくかったりするかもしれませんが、どうぞご容赦ください。


誤字脱字など、物語に違和感などありましたら、感想だけでなく教えて頂けますと幸いです。


では、また次回の更新で

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