どうやら母の温もりを思い出した様です。【月】
幾つかの手直しを施しましたが、前回の書き直し前と被る点がございます。
そちらを読んだ事がある方、読み飛ばして頂いても大丈夫です。
ーーー 『Light.and.dark〜太陽と月の兄弟』
それが俺が転生したゲームの名前だ。
コレにおいて、ナハトの立ち位置は『最初は』ライバルキャラの男であった、
暗黒の銃剣を使い、紫色の長髪に黒のジャケットとジーンズ、そして黒く短いマフラーがトレードマークと言った格好である。紅い瞳に猫を思わせる瞳孔。
ストーリーにおいて、主人公のマサトを何度も苦しめ邪魔をする。
そんな、分かりやすい敵キャラ。
今回の様な一騎打ちを3度行い、最初の主人公との出会いではゲームの主人公マサトの敗北。
次に、物語の中盤に差し掛かった所で引き分けに近い形でマサトが勝った。
そして、今回の物語最後のラスボスを目の前にした上での一騎打ちが行われた。
マサトが魔王の城に突撃する前夜、彼は自分とナハトが兄弟だと知る事となる。
そして、物語開始からずっと謎だった『母の存在』が明かされる。
アメリア・M・トリスタン。
名前が前に来て、名字が後に来ると言う点は、恐らくナハトの前世に置いては異国を思わせる響き。
そして、父の名はグランツ・S・アプストリア
マサトと同じ赤い髪を刈り上げた頭髪に、全身を筋肉で包まれた大男だった。
2人の性が違うのはお互いの部族に置いての立場が原因だったりする。
彼らの結婚はこの世界においては稀な存在だったのだ。
片や、代々男性が一族の長となる仕来りがある『太陽の部族』に置いて、その一族を守る立場の長と呼んで差し支え無い男。
そして、代々女性が部族を纏める存在になると言う仕来りがある『月の部族』。その女王とも言える『月下美人』の女性。
その彼らから産まれたのが、マサトとナハトである。
その事実を最終決戦に向けて準備をして居る時、父と会話イベントで明かされた。
マサトはアメリアとグランツに激昂を受け、改めて魔王に挑む覚悟を決める。そんな物語の内容だった。
そして明る後日、決戦の朝マサトはアメリアに呼び出された後『とある一つの約束』を交わした。
ーー ナハトを倒し欲しいと、後は私が何とかするから ーー
ーー そして、もし叶うのならば ーー
ーー どうか、命までは取らないで欲しい ーー
その言葉にマサトは力強く頷いた。
だが、ココで一つの『事実』が伏せられ、その『事実』が伏せられた事によってマサトの中で『一つの勘違い』が生まれた。
ソレは、性別を変えてしまう程の魔王の『暗黒の魔法』
人の人生を大きく狂わせる程の『魔の法則』
その『大いなる力の存在』をナハトの人にとって呪われた半生を大事な闘いを前に心の負担を、少しでも減らす為の親としての気遣いによって成された事だった。
『ナハトとは貴方の兄です。』
全てが終わった後に、彼に伝えようと。
今まで出来なかった時間を取り戻そうと、その時は勿論……叶うのならば家族全員で。
今日の日までは『兄弟』として、辛かった記憶に一つの区切りをして、
闘いが終わった日からは『姉弟』として、その2人と家族の幸せをアメリアは願っていたのだ。
だが…その願いは叶わない事を…
俺は知っている…。
それは、ひとりの科学者の手によって…成される事を。
この後に待ち受ける物語が、彼女の願いを阻んでしまう事を。
主人公マサトの物語は、彼の成長を伺わせる展開だった。
最初は、15歳さながらの幼さがあり、時には感情を簡単に高ぶらせて居た。
数々の試練を乗り越えた物語の終盤には、性格に変化が見られて居た。
そんな彼の冒険の物語の最中、彼の前に現れた存在。ナハト。
主人公として、ナハトはかなりの強敵であった、先ずこのゲームにはタイトルに『太陽と月』とある様に、昼夜の時間の設定があった。
現実の時間で1時間ほどでゲーム内時間が過ぎ、昼から夜へ、夜から昼へ変わってしまう。
アイテムや魔法で時間を戻したり進めたりする事も可能だった。
主人公マサトの魔法は、大部分が太陽と光属性の魔法や固有技、スキルで占められており、
他の属性魔法『風』『地』『火』『水』『無』。
…そして、『時』『次元』と言った属性も組み合わせて使える。
最後の二つに関しては裏シナリオをクリアしないと手に入らない代物になってくるのだ。
昼の恩恵を受けると、その力は増し。必殺技も昼と夜で少し異なる上に、夜での方が…若干弱い。
そして、ナハトの場合は細部は違うが、基本的にその逆になる。
暗黒の魔法を使い、マサトがその場に動かずして広い射程・様々な属性を使うに対して、影のある所であれば好きな所に移動出来る暗黒の転移の魔法。
残像を残す程のスピードで動く事が出来、また分身をいくつも作り、相手を剣で攻撃する事が出来る無属性魔法
遠距離からのあらゆる攻撃を、空間に穴を開けて吸い込み、また、別な所に穴を開けて相手の遠距離攻撃を返す、と言ったカウンターが出来る暗黒魔法。
通常では近距離戦闘を好み、遠距離からの攻撃が余り多くは無いが。HPを半分切ったぐらいから攻撃手段が変わると言う、RPGゲームのボスにおいてはありがちな戦法
遠距離系の暗黒魔法を使ってくるが6回だけだ。その6回が終わると装填だ、と言う台詞と共に銃剣の弾込め作業に入る。
その作業中は隙だらけな為にHP(体力)を削って行くチャンスとなるが…ココでもHPが半分を切った時だったりすると、
その時にウッカリ遠距離攻撃してしまうと転移魔法によるカウンターや、たまに相手からの遠距離攻撃を穴で吸収しHPを回復したりする。と言った、嫌らしい戦闘方に変わる。
しかも、本来は夜の内にしか本来の能力を発揮できない暗黒の銃剣を使っているが、暗雲を呼び込む魔法を用いて暗黒の銃の本来の能力を夜に近しい状態で使えると言う。仕様だった。
もちろん、本来の夜の方がもっと強いのだが…。
そんなナハトは、1作目のストーリー上で、主人公に対してラスボスが仕向けた刺客として初登場するが、
その正体は、マサトが産まれて間もない頃に攫われた3歳程離れた姉である、
ラスボスによって刺客として育てられ、性別を偽る事の出来る呪いにも似た効果の黒いマフラーを纏う事で、男として、マサトの前に現れ、そして倒されてしまう。そんな彼は。
そんな彼は、『Light.and.dark〜太陽と月の兄弟2作目』では、『姉』としてお助けキャラの様に颯爽と現れる。
そんな感じだったかと思う。
そして……。
『…ナハト…いいえ、ごめんなさい。今の貴女は、もうナハトではありませんね、』
『ナフティア・M・トリスタン、私の事は分かりますか?』
ナフティア、それが今の姿の…俺の名前だ。
ナハトの本来の姿であり、男だったが本当の性別は女性。と言う奇しくも…いや本当に…数奇な運命を辿った存在だ。
『月下美人』の意を、その身を持って示すかの様に、月の光を身に纏っているかの様に、その身を月の陽光に輝かせた彼女は、その慈しみに満ちた微笑みで少女に問いかける。
天井は、先程の戦闘で大きな穴が開き、いつの間にか空さえも晴れて居た。
いや…、たしかマサトの最後の技…
『ライジング・サン』
アレは確か…元々は雲を晴らして、魔力の太陽を擬似的に作り出す…効果だったか?。
いや、その事は良い。先ずは何か言わないと。
「えっと…はい…お母様?」
『はい…私の名は……アメリア・M・トリスタン』
何故だろう、彼女自身の名前を言ってるだけなのに、嬉しそうな表情に見えるのは。
『どうやら…記憶は無事戻った様ですね…良かった。』
アメリアは、そう言って薄っすらと透けた身体で、胸を撫で下ろす。
『ナフティア、無事で良かった…本当に。』
その呟きにも似た細やかで、小さな声、その言葉が終わらぬ内に、また、彼女の頬に一雫の涙が流れた。
『やっと貴女を魔王の手から解放出来た…やっと、貴女を本当の名前で呼ぶ事が…』
溢れる涙を、そのしなやかな指先で拭いつつ彼女は言葉を続ける。
『ずっと…ずっとこの時を待って居ました』
『操られた貴女を彼者から取り戻す日を…』
『あの子の太陽の光の力で貴女の宿した暗黒の力が…中和される時を……ずっと…ずっと…』
「お母様…」
涙ながらにそう語る彼女に…俺は、
……そう返す事しか出来なかった。
彼女は透けた手を俺の手を取る様にしてきた。先程の姿が変わる前の時の自分とは違い、何故か素直に手を重ねる事が出来る。
確かに、俺は『記憶』は取り戻した。
だが、ソレは今世だけの記憶だけでなく、前世の記憶も…だ。
その事実を彼女に伝えておくべきか…考えを巡らせるも…本当に嬉しそうに涙する彼女の様子に…。
言葉が出てこない…。
10年だ…。
その10年もの間、お腹を痛めて産んだ我が子が奪われ、ずっと取り戻すことができなかった彼女。
心優しい彼女は…どれだけ…どれだけ自分を責めただろう…?。
8歳の自分が、攫われてしまった…あの日から。
この星の生命を育む『元素の精霊』に近しい存在たる『月の大精霊』の力を借りる事が出来、月の妖精達を使役する事もできる女性。
膨大な量の魔力を宿した存在の彼女と言えど、1人の母親なのだ。
愛した我が子と突然引き離され…、普通なら狂ってしまうかも知れない程の悲しみ、狂わずとも大きく彼女の心に傷を残した筈だ。
そして、それだけの力を持っているにも関わらず、取り戻せなかったのには幾つかの訳がある。
一つは、彼女の住まう1番大きな里が俺が攫われた時に壊滅的な損害を受けた事。
また一つは、魔王の本拠地が分からなかった事、
継ぐ一つは、月が夜に存在する事もあって、闇に近しい存在からか、月の部族の多くは洗脳されて魔王の私兵にも使われてしまった事から、残る月の部族達を『長』として守らねばならなかった事。
長としての立場上、前線に立つ事が叶わなかった。
魔王が各地に点在する『月の部族』の里を攻め入り、その中で部族の至宝『月の鏡』が安置された『月下美人』の在わす神殿に押し入って来た。あの時から今まで。10年。
それだけの時間をずっと己を責め続けていたのかも知れない彼女。
コレは俺の予想では有るが、恐らく『長』と言う立場が有ったからこそ、彼女は気丈に振る舞って来たのかも知れない。
その役割が有ったからこそ、子を失ったと言う衝撃の事実から心を強く耐えねばならなかったのかも知れない。
だが…、それも今日まで。
『ごめんなさい…』
彼女の涙ながらに口にした、そのたった一言に…どれほどの後悔が、自己嫌悪にも似た子を想う気持ちが…篭って居るのか。
俺は…ソレを想像する事しか出来ない。
ソレは彼女だけが知っている事だから、俺はゲームとして前世でマサトとして、プレイして居た記憶しか無いから。
事の次第を知っては居ても、それでも想像する事しか出来ない事が悔しくて…悲しくて…。
『母を…許して下さいとは…言えない』
『言ってはならないのです…ですが…謝罪したかった…』
俺の手を両手で包み込む様にして、言葉を紡ぐ彼女。
『貴女が誘拐されたあの日…、あの月の里が魔王の手によって襲われた日、貴女を助ける事が…出来なかった…私を…許してくれなど…』
彼女に何かを言いたくて、だけど何を言ったらいいか分からない。
口を空いては閉じる、を繰り返して、言葉が声にならない。
自分が治める里が魔族に襲われ、多くの人が死に、そして多くの若者が攫われた。
その責任は自分のせいだと、責め続けて居る事に違いない。
10年もの間。長い…本当に。
今の俺ナフティアは、18歳。10年と言えば既に大人で有った前世の自分からしたら、あっという間に過ぎてしまった時間。アメリア…彼女にとっては、そうでは無かったのかも知れない時間。
そして、子供にとっての10年とは人生の殆どの時間であり。他方もなく長い時間だったと思う。
俺達は、互いに10年と言う長い苦しみの時間を過ごして来たのだ。
ふと、今にも泣き崩れてしまいそうに俯く彼女を見て、自分の頬も濡れている事に気がついた。
俺は、いつしか泣いて居たのだ。
前世でも自分が、最後に涙したのはいつぶりだっただろうか…、
こんなにも、気持ちを露わにしたのは、いつの日の事だっただろうか…?、
男だった前世の記憶、10年間は男だったであろう今の自分の身体が、女性に変わった事によって、
身体に心が引っ張られると言った、ライトノベル小説の『転性物語』に良く出てくる様な事が、こんなにも早くから訪れたのだろうか…?、
いや、この胸に広がる感情は、そんな事ではない。
そんな小難しい様な事では無いと、例え『前世の記憶』が戻らずとも知っていただろう。
…なにせ、この感情は。
「…お母様?」
俺は、その感情を気持ちのままに、言の葉に乗せる為に、嗚咽を堪えていたアメリアに語りかける。
『…っ……』
今まで、何も言わなかった我が子の問いかけに、彼女の何処か怯えた様にも見える…そんな複雑な感情が見え隠れした瞳に涙を浮かべて、顔を上げた。
『どうか…しました』
…か?と、彼女が言葉を続ける前に、俺は、そっと彼女の手から自分の手を抜く様にすると、今は触れる事が叶わない彼女の顔に両手で包み込む様にして、言葉を紡ぐ。
「…お母様」
ーーー 胸の内に広がる感情を微笑みをのせて、
ーー 感謝の言葉を告げる。
「…ありがとうございます」…と。
『……っ…』
『…どうして?…なにを…言って?』
するとアメリアは、一瞬堪える様な表情をみせた。…違う、俺は貴女にそんな表情して欲しいんじゃない。
俺の感謝の意味が理解出来ない、いや、する訳にはいかないのか。
そんな疑問の言葉が、彼女の口から漏れた。
「ナハトとして、墜ちた私に気がついてくれて…ありがとうございます。」
声が変わり、姿が変わり、性別さえも変わってしまって居た自分。今は中身さえも『殆ど』変わってしまった様な自分。
彼女が気づくキッカケは確かに有った。それでも…。
『そんな!…墜ちてなど!私は貴女が…どんな姿になったとしても…私はっ!』
俺の言葉を遮る勢いで告げた彼女に、俺は目を見て再び微笑みかける。
「お母様、私は大丈夫ですよ…」
ーー だから、…もう泣かないで欲しい。
『ですが…』
「お母様が謝る事なんて無いのです、むしろ…あの日…」
ー そうだ、少し思い出した…、
「私が、従者達と逃げずにお母様の所に行ってしまった私が全て悪かったのです…」
「あの時、もしも私があの場に行か無ければ、私が人質になる事も無く…」
「この胸に宿る…『月の鏡』もまた…奪われる事は…有りませんでした。」
そう…思い出した。
自分の中に眠る、残り二つの自分だった記憶。
知らない記憶を思い出した、なんて不思議な言い方だが、そうとしか今の俺には表現出来ないのだから、仕方ない。
『そんな!、そんな事は有りません!貴女は私を心配して来てくれてただけ!』
『私が守ってあげられたら、全てこんな事には…』
『恨まれても、罵倒されたとしても、今更と言われたとしても…ナフティア』
『それでも私は…貴女に…謝りたかった…』
子供の様に慌て、とうとう両手で顔を覆い泣き崩れる彼女…、
多くを背負う立場に有った彼女、親であり人の上に立つ彼女は、多くの事を背負って生きている。
ずっと、ずっと責めて居ただろう。今日と言う日を恐怖した日も有ったかも知れない。
一つだけでも彼女の背負った重みを…取り除いてあげたい…。
今はまだ幼く…、この先まだ多くは出来なくとも…今この時にできる事を。
細やかながら、今生の生を与えてくれた彼女に…この世界で前世の記憶を取り戻した理由の…その一つだと思うから。
感謝の気持ちを込めて。
だから、伝えたいのだ。
「お母様、もういいのですよ…」
「私は、恨んでなどいません」
「お母様を責める、つもりも有りません…」
「…だから」
「もう…ご自身を責めないで下さい…」
『ナフティア…』
そう呟いた彼女は、触れる事が叶わない今の姿にも関わらず、そっと抱き寄せる様に手を俺に回した。
ーーー 不思議と、魔力で形作られた彼女の身体に触れ合った時。
ーー 俺は、確かに暖かさを
ー 母の温もりを感じていた。
こんにちは、こんばんは、おはようございます。
サルタナです。
2日連続投稿出来ました!。
まぁ、前回の手直しだったので、早めに済んだだけ…と言われましたらそれまでなのですが…。
ですが、お初の方々、前回の書き直し前を読んでくださった方々、
ここまで読んでくださりありがとうございます!。
少しずつ、投稿していきますのでらこれからもどうぞ、よろしくお願いします。
では、また次回。