どうやら俺は敵キャラだった者に転生した様ですよ?【月】
皆様、あけましておめでとうございます。
今年も良ければ、この作品をよろしくお願いします。
一人称って難しい…、
不慣れな視点故に変な表現など有りましたら、ご指摘下さい。
キィン…
カラン…カラン…
高い音を奏であげ、金の薬莢が、地へと落ちた。
音の発生元を辿ると、紫の髪の青年の姿が有った。
「…行ったか」
剣を杖の代わりの様にして、彼は先程の弟達…太陽の勇者御一行が入って行った『空間の傷』へと視線を向けた。
『空間の傷』…それは彼が度々移動する際に用いる現実とは異なる空間。されど…常に現実世界の隣に座する暗黒の空間。有り体に言えば『亜空間』だ。
…代表的なモノとしては、つい先刻魔術師の足下へと移動した際に使った影の中の移動が上げられる。
ーー 剣を手にして無い方の手の平を見つめ、そっと胸元へと持って行くと、硬質な感触があった。
自分がマサト(主人公)から受けたであろう攻撃の痕、壊れた鎧だ。
俺が…この登場人物になっているとはなぁ…。
まさか…それも…
先程の事が脳裏に蘇る。
ーーーーー数時間前の事。
『マサト!?』
広い空間の中で、その鋭い声音が響く。
声を上げた男女は皆、それぞれに驚愕の声をあげ目的の者へと駆け寄って行く。
一番近い位置に居た黄金の騎士の太い二の腕が床に崩れる寸前で、彼を抱きとめた。
その者…マサトの顔色は…青冷めて居た。
そんな状況の中で、俺は思わず叫び出しそうになった。
『キター!』…と。
いや正確に言うと内心で叫んでた。
更に重ねて正確に言うと、別段何が来たと言う訳では無い。
コレは、ゲームのラストシーンの再現の夢の中。
好きなシーンが来た…と思ったからキタ!っと思っただけの話だ。
彼…青い顔の赤髪の青年…マサト。
なんかこう言う風に言うと、青いのか赤いのか、果たしてどっちなんだ?と思ってしまうが、そこは許して欲しい。
とりあえず、見るからに体調悪そうな彼は、この物語の主人公。
その名はマサト・S・アプストリア。
通称を…マサトと言った。
再びナターシャの手に癒しの光が灯る。
「傷が治ってるのに…どうして…?」
マサトの表情はやはり…晴れない。じっとりとした汗が流れる。
「これから最後の戦いだって言うのに…!悪い…」
「大丈夫だ、無理をする事は無い」
「そうだよぉ〜、マサトぉ〜疲れちゃったんだよ…ちょっと休んで行ってもい〜じゃない」
騎士の青年が片手で事も無さげに支えてながらも気遣い。魔術師は休憩を促す。
「ナターシャも…ごめんな…」
「私は大丈夫…、気にしないで!。でも…どうして…?私の力が足りなかったせい…?」
「いや…痛みは…何処にも無いんだ!…だけど何だか…力が体には入らなくて…」
沈む様なナターシャの言葉にマサトは否定するも、言葉が容量を得ない。
『力が…入らない…?』
皆マサトの言葉を繰り返して見ても、やはり疑問の言葉にしかならない。
そんな彼等の疑問の答え…その理由を、離れた所で見守っている『自分だけ』が知っていた。
「やっぱり疲れたんだよ〜。ここまでずっと戦ってばっかりだし、仕方ないよ〜。」
普段なら魔術師の軽い口調に突っかかって行くナターシャで有ったが、確かに…と、皆からもそんな感じにも見て取れたらしい、何処か修道女以外の者らからは、納得した様に喉を鳴らす。
「分かった…ごめん…ちょっと休んでから行こうか。」
『おー!!』
……ふぅむ?成る程。成る程
コレは最後の方の一画つまるところのワンシーンの筈だな。
確かこの後には、『彼』がやってくる筈だ…
『彼』とは、それは他でもない。
先程の戦闘の際に倒されてしまった『相手の事』だ。
今は姿こそ見えないが、彼は必ず…!
待つこと数刻……
待てども、暮らせども…待ち人来らず。……あれ?こんな長かったっけ?。と思い始めた時だった。
床に腰を下ろして、互いに向かい合う様にして身体を休めて居た彼等の口が思い思いに開き始めて来たのは。
「うーん…、なかなかマサト顔色が治んないねぇ…」
青の青年が、修道女の膝に眠る紅の少年の寝顔を覗き込む。
「どうやら魔王の方も、何もしてこないみたいだし…様子見なのかなぁ?」
「…ちょっとっ!うるさいわよ!静かにしてっ」
マサトの近くで声を出して起こしたら!どうすんのよ!…とでも言いたい様に、若干小声で魔術師をたしなめるナターシャ。
「はいはい、ごめんごめん…ってば」
そんなナターシャに何処吹く風様に、尚も覗き込む事を辞めない魔術師の青年。
「ふむ…仕方ないか…」
『我、世界樹に連なる僕、水の森人の末席を預かる者』
あっれ〜?、なんか始まっちゃいましたよ?こんな内容だったか?この話?
『彼』は来ないし…なんか違う方向になってないか?、それとも俺ってこのゲーム好き過ぎて無意識に夢の中でオリジナルのストーリーでも作ったのか?、なにそれ我ながらちょっと怖い!才能が怖い!……なんて、そんな訳は無いよな…
「ちょっ!なっ!何をっ!」
「しっ!良いからいいから」
突然詠唱し始めた魔術師に驚きの声をあげた騎士を、手で制し。同じく目を丸くしているナターシャに問いかける。
おいおい…何の魔術使うつもりですかね、…この人。
「原因知りたいんでしょ?」
普段の間延びした口調では無い声に、彼女は無言で頷く。
『我は叡智を授かりし者、探求の使命を与えられし者、彼の者が宿す智を我に与えたまえ』
『簡易解析魔術』
あぁ…なるほど。
その魔術名が唱えらた途端に、魔術師の手から小さな光の文字が生まれ、マサトの身体に帯の様に巻きつき。
やがて、再び魔術師の手元に返って行った。
「解析魔術か…成る程、そう言えばその手が有ったか!」
青年の口から魔術の名前を聞いた瞬間に、分かった。
と言うより思い出した。そう言えばその魔術が有ったな。と、
黄金騎士の青年が、興奮した様に声を弾ませて魔術師の青年を見やる。
興奮した気持ちのままに勢い良く胡座の足を叩いているが、痛くないのだろうか…、いや、と言うか至近距離の彼等は五月蝿そうだ…。
この魔術、比較的最初の方に覚える魔術で、名前の通り『相手の状態を解析する魔術』だ。
えっと…名前が…思い出せないけど…青髪の青年が仲間になった時点で、使える様になる。
主な使い道は、モンスターの残存体力…言わば残りの『HP』の確認や弱点属性なんかを調べるのに用いられていた…筈?なんだけど…。
どうやら、こんな使い道も俺の夢の中では許されるらしい、全く我ながら想像性豊かである。
「ダメ…、一応病的な物から呪いの類いまで調べてみたけど…分からないや。」
魔術師の青年が、閉じた瞳をゆっくりと開けると僅かに表情を顰めて告げた。
「そう…」
そう…
って!?いやいや、どんだけ解析魔術便利なん!?。現代病院の診察室もびっくりだわっ!。
思わずナターシャちゃんに釣られて内心で曖昧な返事する所だったわ!?、まぁ、口に出しても聞こえないだろうけどさっ
青年のその言葉に対して、ナターシャの口から出てきた言葉は、それだけだった。
「本当かっ!、お前で分からない…となると原因とは一体何なんなのだ!」
黄金騎士は、皆が歯痒さを覚えている中で苛立ちを隠しもせずに、叫ぶ。
「わっかんないんだよ!、賢者のボクにだって!分かんない事ぐらいあるもん!」
「それは貴様の怠慢だろう!、だいたい普段から貴様は!…」
分からない…、大事な仲間が倒れて居るのに力になれない。
そんな言い表せない不安。
当然だろう…と思う、
この状況を言い換えて見るならば、回復役である…修道女ナターシャと青の青年。彼女らが病院の先生。
黄金騎士が友人、
告げられた『原因不明、状態不明の眠りを続ける病』
起こせば目を覚ますだろう、だがマサトは言っていた。
…『力が入らない』と。
身体に力が入らないと言う事は、再び立ち上がり、あまつさえ戦う事など出来ないかも知らない。
普段の日常であったなら治るまで休めば良いが、ここは敵地だ。
この部屋は今のままなら安全かもしれないが、些細な事でさえ命取りになる世界だ。
安心は出来ない。
そんな彼等の不安な気持ちが、俺は『不思議と分かってしまった』
いや、感じた…と言うべきか?。
夢ゆえに、そんな事が出来るのか?…、
……いや、そもそも本当に『コレ』は、夢なのか?。もしかして本当に…?
いや、待て…、とは思うが考えの矛先は中々変えられない。
だが、目を背けていなければならない様な、気づいてしまったら…気づいてしまうのが怖い様な、言い表せない気持ちが渦巻く。
ふと、彼等を見つめる自分の視界を上から下に横切る影が有った。
無意識だった。その影を追って下を向くと、先ほどよりハッキリと月明かりに照らされて見える自分の足、
「汗…?」
そう…、誰かの声と自分の中の言葉が重なった?。
「…えっ?」
尚も自分の内心と同じ言葉が『自分の知る者の声で』聞こえて来た。
思わず感覚の鈍い両手を見つめようとして…、
自分の右手に『何か』握っている事に気付いた。
否…、視界には入って居た、だが気づかないフリをして、彼等を…マサト達の方だけを考えて居た。
だが、気のせいだろうとあえて気づいて無いフリをして居た。
握られていたのは、ロングソードとリボルバーが合体したかの様な銃剣。
そして、その頭身に映った自分自身の顔、
その顔を持つ者の名を俺は知っている、彼等マサトとは別にこの場に居る筈の者であり。
マサトを救う者、その名は…
「俺!、ナハトになってるーー!?」
俺!敵キャラだった者になってるーー!!
ーーーーーー
そうして、時刻は今に戻る。
あの時そのまま驚きの余り俺はリボルバーの引き金を引き、籠められていた魔法が発動した。
魔法名を『黒い霧』。と言ったソレ、
見た目そのままの名前の魔法の効果は、物理魔法問わず一定の蓄積ダメージまで『無効』にすると言うモノ。
加えて、発動したら使用者が任意で破棄するまで自分の周りに存在し、周りの影や闇を吸収して肥大化し蓄積の限度が上がる。もちろん蓄積限度にも限界はあるだろう…だが、そこまで試した事は……俺は無い。
更に、使用者の暗黒魔法・魔術の効果を吸収した闇・影で強化する事が出来る。
…と言う、単調な名前からは考えられない程の効果を持つ。
よくあるゲームのボスキャラが持つ『ダメージ無効系』の能力と思ってくれれば良い。
この他に、通常状態でナハトは残像を残しながら移動する程早いので、追尾系か、範囲系・必中の技で無ければ当たる事は無いし、護りを剥がす事は難しい。
しかも、これだけでも強いと思うのに、ナハトは他に様々な効果を持つ銃弾を残り5発所有して居る。
先程の蓄積限度について、俺は無い、と言ったが…そんな奴相手に、耐えるダメージの限界の限界を測ってみよう!なんて、余程チャレンジャー精神が有るか、一昔前から流行りの配信目的でも無い限りやらないと思う。
話は逸れてしまったが、そんな力の一端だけ見てもこれだけの力を持つのが、ナハトと言う存在である。
四天王の上に座する魔王軍の最終二大幹部の1人だ。
そして、…俺が先程マサトを癒した力。
それは、恐らく『月の女神の涙』と言う回復魔法の一つだ。
何故、恐らく…と付くか、それは自分がプレイしていた時、このシーンについて使用したナハトやその場に居た、彼等も『その魔法』について確固たる明言をされていなかったからだ。
ナハトは詠唱も無く魔法名も言って居ない。
だからこそプレイヤー達が予想した結果、このゲームシリーズの中で、一番見た目が似ていて効果も納得するモノの中で『これなんじゃ無いか?』と一番に言われていた魔法。
その効果は…。
自分のMPとSPの一割を犠牲にして使用され、対象のHPとMPを中回復する物だ。
一見、体力の所だけみるとパーティの回復役であるナターシャの回復の方が強力そうに思える。なにせストーリー上強力な魔術は使えずとも専門職である。
そこだけならナターシャの力だけで回復する筈であった、…だがマサト…彼は言った『力が入らない』と。
ナハトと同じ様に、彼は身の回りのモノから『力』を得る事が出来る筈の彼。
マサトとナハトとの戦いでこの空間の『力』を使い果たしてしまい補充出来なかったのでは無いか?と当初は思われはしたが、実際は違う。
その答えは、マサトがナハトに放った一発の弾丸にある。
その弾丸も、また『名前が無い』。
なので、先程の魔法同様にプレイヤー達によって付けられた名が…『覚醒の弾丸』
何を覚醒したか…ソレは、戦いの前日の事だ。
彼は、母によって一発の弾丸を与えられた。
『それを使ってあの子を救って下さい…』と。
『闇に囚われた彼を救って下さい…』と。
そう彼女は、マサトに告げたのだ。
彼は「分かりました」と静かに返した。
「必ずナハトを…、兄さんを助けて見せます!」と、弾丸を握りしめて力強く母に返した。…だが
ナハトを救う弾丸。ソレの使用方法を母に告げられた時、僅かに彼は動揺してみせた。
その使用する方法は、マサトの『太陽の魔力』…そして、彼の内に眠って居た『月の魔力』であったからだ。
『月の力』、それは『太陽の光』によって産まれる力と対になる存在。
太陽の力と同じくこの地に存在する全てに宿り、構成する属性の根底に位置する属性、その一つである。
ここまでで、何を言いたいか?、結論だけを言うならば、マサトがあの時『力が入らない』と言った理由、それは『自分の中の月の力』を使い果たしてしまったが故にある。
彼は太陽の一族で産まれたが故に、似て異なる月の力を補充術を知らなかった。
そして、ソレを母が教えなかったのは彼女が『月の一族』であり、当たり前に行える事だったから、失念して居たのだ。
もしかしたら…気づいて居たかもしれないが、マサトは太陽の力を吸収出来るから同じ要領で出来るだろうと、思われて居たか?。
その理由は定かでは無いが…、説明が長くなってしまったかもしれないが、要は無くなってしまった魔力(MP)を補充してしまえば良かったのだ。
そうする事によって、マサトは回復出来た。
ナハトが『本来』司る…月の魔力によって。
ーーー
そして、息を整えつつゆっくりと顔を上げると、薄っすらと避けた女性と目が合った。
彼女の名は、アメリア・M・トリスタン。
こう…夢とは分かって居ても実際に目の前に現れられると…立体映像のみたいでワクワクと気持ちが高まってくるかな〜と、自分に期待して居たのだが…、別な事が思い浮かんでしまったが故に、ワクワクとは正反対の気分だった。
そう、ちょっと幽霊っぽくて怖い、いや、いい歳こいて怖い…ってとは思うが…夢だし、とりあえずは素直にそう思う事にした。
そんな…我ながらくだらない事を考えていると、目の前の光は完全に女性の姿へと変わっていた…。
良かった、輪郭も足もハッキリと見える…。
銀色の膝まで届く髪に、顔は濃い青…藍色の大きめな瞳の下に朱が差し、小さい鼻、ほんのりと赤みの見える唇。
華奢な背格好、肩と胸元の谷間を大きく露出した白い膝丈程のワンピースの様な服の女性の姿。
ちょっとだけ、寒く無いかな…と心配になる格好である。
そして、その小さな口から溢れ出る言の葉は、慈愛に満ちていた。
『…ナハト…』
実は先程から俺が色々な事を考えている間、呼びかけは聞こえていた。
いい加減何か返答しないと…とナハトは申し訳ない気持ちで口を開けた。
「お前…ハ?…、ぐっ…ゴホッゴホッ!!」
あれぇ?おかしいな、このシーンでは、まだ目の前の女性をナハトは知らない筈だから…、
待たせて申し訳無い気持ちも有って丁寧に、『貴女はどなたですか?』と聞こうとした筈なんだが?。
本当は、首を傾けたい状況なのだが初対面の女性を目の前にした上に、身体中重くて、上手く傾けられ無い。
前者は俺の性格故だが、後者は…夢だからか?ずっと手足の感覚が鈍い、まるで全身着ぐるみを着てるかの様に重く…手にしてる剣さえも硬質な感覚程度しか分からない、これに至っては重くも無いのだ。
だが、痛みは無いが全身傷を負って居るのは分かる、特に胸元の鎧が砕けて居る事から、内側もヤバイ筈である。本来ナハトは先刻のマサトとの戦闘から回復していない筈である、先程の彼等を送った空間魔法を使った時、全身から滴るモノが有ったし、壁に移動する時でさえ、床にソレは有った。
なのに…痛みさえ無い、だから、他人事の様な感覚でいれるとも言う。
コレで痛みが有ったなら…俺は。一瞬先程思ってしまった事、
異世界への転生を…確信していただろう。
とりあえず、ほぼ身体の自由が効いて無い…と、本当に満身創痍と言って良い状況、本来なら自分では知らない場所、知らない身体、知らない事が多く発狂するのかも知れないが…。
幸い、実家が仏教だった事や最近のアニメなどを見る機会もあった為に、輪廻転生や異世界転生と言った知識は有った。
もしも魔法の世界に行けたら、などと言う妄想をした事も有った。
うん、この夢…その時のせいかもしれないなぁ…。
まぁ、長い夢故に混乱しているのだろうと、自分の中に当たりをつけて。とりあえず、今の状況に対して考える。
ナハト…今の『自分』とマサトは、どんだけの死闘だったんだよ…、いやゲームでは知ってるけれどさ…。ほぼ動け無いよ、え、どうすんのコレ、なるべく混乱を表に出さない様に、考えていた筈…なのだが。
『私の名は、アメリア』
『アメリア・M・トリスタン』
混乱してるのが原因なのか、偉そうな口調になってしまったにも関わらずアメリアは、気にしてい無いと言う様に自ら名乗り上げた。
『月の意思を代弁する者、『月下美人』の名を冠して居る者です。』
「おま…」
口が自然に会話しようと動くが、しかしそれは叶わなかった。いや言葉が続かなかった、と言うのが正解かも知れない。何故なら
彼女が直ぐ目の前まで、近づいてきたからだ。
『このままにして置く訳には、行きませんね、少しの辛抱です…』
彼女は、そう述べるとそのしなやかな腕で頭を包み込む様にしてきた。
いや、近いです!お母さん!?いやいや!お母様!?
『…ナハト、今、貴女を呪縛から解き放ちます、だから、お願い……思い出して』
ーー すると、ナハトの視界が一瞬にして白い光に包まれ、やがて…その光は水風船が弾けるかの様に消え失せた。
そして、その直後に『何か』が複数落ちる様な音が俺の耳に届いた。
目が眩むかと思う様な光が収まった時、最初に見えたのは目の前のアメリアの顔
そして、アメリアの頬に、一筋の涙が流れる瞬間だった。
『ナハト…やっと、やっと…元に戻す事が出来た』
女性は、愛おしそうな瞳を…彼…いや。
「えっ…コレって…私は…えっ?私!?」
彼・女・に・向けた。
「……」
「……。」
どうやら人間驚きが限度を越すと言葉が出なくなるとは、本当らしい。
変わった状況、いや『変わった自分』の事を『物語の一つ』としては知って居た。
だが、このタイミングで変化が訪れるとは、知らなかったのだから、思わず言葉を失ったとしても仕方ない。
すっかり変わってしまった自分の両手を見つめ、動く事さえ叶わない。
何にせよゲームの時代では、主人公がボス部屋に入るシーンにはムービーが流れ、その!最後の方に!
…少しだけ流れるワンシーンが今の『現・状・』である。
いや、ほんと、かなりちょっとだけ。
その映像ではナハトの傍に跪いて、まるで愛おしい者に触れるかの様に頰を撫でる、そんな月下美人の様子が映し出されて終わり、ただそれだけなのだ。
エンディングロールにも、そっと挿絵が入った程度だ。分かるわけがない。
アレだけの情報からここまで妄想したのか俺!?。
しかも、もう一つ重要なのは、外傷の一切がいきなり消えたのだ、鈍かった手足の感覚も…、ぼんやりとした様な思考の霧も、何もかも驚くなと言う方が無理と言える。
「え…?、えっと…」
両手で身体を確かめると、激しい戦闘のせいで、頭から血が出て口からも血が流れていたのは、綺麗に無くなっている。
そして、アメリアはゆっくりと俺から手を離す様にして距離を置くと、僅かに指を振っただけで、俺の目の前に大きめな鏡が現れた。
その鏡に映るのは、驚いた様に口を開けた。少女の姿だった。
着いていた血も消え失せ…まさしく綺麗な物である。
え、もしかして、コレ本気で、夢じゃない…?
ハッキリとした手足の感覚、頬を抓れば鏡の中の少女も頬を抓る。…痛い。
あっ…、ちょっと涙目になった…。
だが、これまでの事、さっきまでの自分。そして、今の自分の姿で確信が持てた。
やっぱり俺、ナハトに転生している!?。
健康的な赤みかかった頬に、髪は黒い長髪から紫の入った白い長髪になっていた。
壁に背中を預ける様にして両脚を伸ばして座ってる状態で、背中や肩に届いていた髪が、自分の膝丈まで一気に伸びている。
画面越しで見ていた頃の記憶を思い返して見ても、やっぱり結構長いな…。
若干、目の前の女性を見る視点も低いし、声もさっきより高くなって、纏っていた服も黒のジャケットから黒のワンピースになっている、魔法でお着替えとか…かなり便利だ。
ゲームではメニュー画面で直ぐ出来たが、現実となった今ならかなり有ったら便利な手段だ。
肩から腕まで露出して、胸元は目の前の女性程では無いが、僅かに谷間が見えた、先程までつけていた黒いマフラーは、床に落ちている
そして…しかも…自分の事を『俺』と発した筈の声が『私』に変換されている。
要するに、どうゆう訳か、発した言葉が『変換』されているのだ。
何故だっ!、もしかしてコレ転生補正と言う奴ですかね?。
大事だから二回とかふざけたい訳では無いが、ソレだけ俺は混乱してるのだろうと、自分の残った冷静な部分で自己分析してみる。
要は、見た目だけは黒い髪の青年が、紫の長髪の美しい女性へと姿を変えたのである……丁寧な女性口調で話す系女子になって、と言うオマケ付きで…。
驚きの2連撃ダブルパンチと表すべきか、いや、その度重なる驚きと混乱に、遂にナハトは限界を迎え、
「えっ…ぇぇぇぇ!」
異世界転生の混乱気味を我慢して居たのに、さらなる混乱が訪れ、ついにナハトは、絶叫してしまったのだった、
……絶叫と呼ぶには、随分と控えめな、“しっかりと口元を手で隠す様な仕草で驚きを露わにしただけ”の様に見える、その程度までに、この身体によって抑えられてしまったのだが…。
皆様おはようございます、こんにちは。こんばんは。
そして、改めまして2020年!、あけましておめでとうございます!。
読者の方々はお正月いかがお過ごしでしょうでしたか?、今日から仕事始め、或いは事始めをなさって居るかと思います。
作者の仕事も先日はじまりました所です。
そして、仕事とは別に作者としての今年の事始めとして、一日遅れでは有りますが本日更新させていただきました次第です。
ですが、また、久々の更新になってしまい申し訳有りません。
昨年は色々ありまして、中々更新出来ませんでしたが、今年こそコツコツ更新したい…と思います。
全然更新してないのにブックマークをして、待ってくださって居た読者の方々、感想を書いて下さった方。
本当にありがとうございます!。
感想は見てます、ですが前作の時の様に、怖い方から感想が来るかも知れないと思うと、思わず返信を躊躇ってしまいまして、大変申し訳ない気持ちです。
ですがどうか、こんな作品で良ければ、また手にして頂けますと嬉しいです。
では、本日はこの辺りで、