それは出会いと…【月と太陽】
『Light.and.dark〜太陽と月の兄弟~』
そう名付けなれたゲームのエンディングに置いて、その結末は一つだけだった。
ーー ハッピーエンド、
主人公達は、最良の結末を迎える。
彼等の行動次第で、多少のイベントの差異はあれども、大まかな筋書きは変わらない、
主人公が、出会いと別れを繰り返し、15歳と若いながらに成長する。
そんな有り触れた物語、言い換えたならば一言で表せる。
『王道』と。
今マサト達が迎えている状況も、ゲームの物語においては『最終話』
最後に主人公が自身が助からない、と踏んでその覚悟を胸に秘め仲間を助ける、
海上を飛空する魔王城と共に、海の藻屑になったか?に思えるが、結果としては。
その一月後…あの森で。
マサトが好きだった場所、キールとのーー 出会いの森。
そして、レオンが、マサトに己が過去を吐露したーー 友情の森
そして、ナターシャと出会った森もまた、その胸に秘められた想いを告げたーー恋の森。
もしかしたら、この世界においては少し違うのかも知れない。
だが、俺の知る限りその場所は、彼らがそれぞれに特別な場所だったのかも知れないと、そう思った。
彼等にとってはマサトの事を想える、そんな場所だったかに思えた。
この世界の始まりの大樹のお膝元、その樹海の前半部分に位置する拓けた空間。
その場に魔王を倒した’‘英雄のマサト’‘の墓が建てられた。
基本的に四人以下のパーティだが、ゲームにおいては最大6人。
その定められた枠の中に、入れ替わり立ち代わり、シナリオに関わる登場人物であるNPCが入っていた。
時に村人、或いは鍛冶屋、またある時は商人、ある時は騎士、そして、何処かの国の王属。
彼の物語を彩って見せたその登場人物だった彼等は、王都の中央広場に建てられたマサトの銅像の前で追悼式を行うのだ。
いまだに、魔王の最終決戦時の王都の被害から復興を迎えては居ないながらにも、時の王の手腕によって真っ先に完成を急がれたソレは。
その偉大な大きさにも関わらす、完成まで僅か一か月と言う、驚愕の速さで式を迎えた。
強力な魔物が道中出るかもしれない、彼等の『思い出の地』には行く事が叶わなかった人々が多く、そう言ったが為の措置だったのかもしれない。
ーー ゲームの続編を発表した際に、製作者さんらのコメントでは、マサトの世話になった鍛冶屋が頑張ってくれた。と言う事らしい。
銅像を建築している様の挿絵なんかを、創作で描いてるゲームファンも居て嬉しかったとも、語って居た。
そうして、それぞれに主人公マサトの居ない一月を過ごし無事に迎えた式終わった。その後に…。
丁度その日は、式が終わってから数えて一週間後の時の事だ、レオンとナターシャ、そして私事キールは。
久々に、平和を取り戻しつつある王都の街の一角に位置するギルドで、食事を取って居た。
それぞれが思うままに旅立つ前の、元居た生活に戻りつつも多忙な時を過ごしていた。
私が賢者として、世界の遺跡を探求する旅を続行!…と言う訳では無く。
首都の魔術の研究の盛んな地で、文字通りに缶詰になり。
レオンは、己が領地に帰って治安維持などに、その力を役立てている
ーーー だが…ナターシャは…。
そんな皆が思い思いに過ごしている最中、私が久し振りにと会食の提案を持ちかける手紙を送った。
決して書類の山が嫌になってしまったのではないと、私の名誉にかけて告げておこう。
息抜きがしたいです、などと私は決して言わなかった。うむ、決して。
そうして行われた、何時ものギルドでの会食では。この一か月の事を話し合って楽しい空気が流れて居たかに思う。ただ一人の聖女と言われた彼女を除いて。
最初はその様な感じだった、気づけば旅の思い出を話を皆が避け、これからの事や今の事なども話していた。
時に私は、レオンに恋人出来たか〜?などど、軽口を叩いて居たかに思う。
そうして時が流れて、食器の音だけが彼等の間に聞こえる様になった頃。
賢者と騎士は互いに同じ事で悩んでいた…どう切りだそうか…と、パーティのムードメーカーとも自負していた、賢者のキールでさえ’‘彼’‘の事に関する話題を出すのは二の足を踏んでしまっていた。
何故ならナターシャの想いを、彼等は皆…知って居たから。
何よりも、彼女が久しく会ったにも関わらず、極めて静かだ。
パーティを組んだばかりの頃は、マサトの悪ふざけに怒りを見せ、魔王の犠牲となってしまった者達を想い涙し、それでも、彼女は気丈に微笑んで見せていた。
聖女としての微笑みの仮面を被っていた。だが、この場にいる自分達の前では、その仮面もいつの間にか、消えていたかに思う。
マサトと関わっていた時には、花が咲いた様な笑みを浮かべていた。
そして、時には腹を抱えて笑う事も有った。
だが、それも今は見る影もない、何故ならなどと言うまい、その答えは明白だ。
その答えは、私も彼女程で無いにせよ同じなのだから…
レオンもきっと、この気持ちに近しい想いを抱えているのだろうか…、
ーー 違うと、幻聴が聞こえた気がした。
彼との性別に違いは有れども、この気持ちは…きっと、いや、そうだ、レオンの様に、戦友としてだ。
ーーまた、違うよ、と聞こえた気がした。
ナターシャの恋慕と比べた時に、どちらかと言えば、レオンの方に近いのかもしれない。きっとそうだ。
胸に刺す棘の様な痛みに、誰かの声に、そう『自分に』言い聞かせ…押し潰そうとした。
でも、それでも彼女の姿が、有り体がとても羨ましい、と頭の中で誰かが言った気がした。
その頭の中の誰かと共に、気持ちに再び蓋をして。改めて此処に居ない彼の事を思う。
思ってしまえば、考えてしまえば。
彼の存在は自分達にとっては、かけがえのないモノだったのだろう。
何時も傍にある事が当たり前になっていた存在。それはまるで『太陽』の様に。
もしも、彼が生きて居たのならば、蓋をした物が溢れない様に気をつけて置かねば、
そうでないといけない、いけないのだ。
何度か目の…そんな束の間の静寂に、そろそろ『彼』の事を切り出そうかと決意を決めた時、それは起こった。
ナターシャが、大きな声で叫んだのだ。
彼女はテーブルに広がる食事を、ひっくり返さん勢いで両手を叩きつける。鈍器の打つ音が室内に響き渡った。
ーーー皆!マサトの事、忘れてしまったのっ!?
ーーーどうして?どうして彼の事を、誰も言わないの!?
ーーーーこの街の、いいえ、この世界の何処でだって、きっと彼の…マサトの事で持ちきりよ!?
ーーー今や彼は!、そして私達は!英雄と言われているのよ!?
ーー 聖女だって、レオンも光翼の剣聖だって、キールも瞬転の賢者だって…
俯きながらも声を荒げ続けるナターシャを、自分達は眺めているしか無かった。
尚も彼女の独白は続く。
ーー 彼だって!
ーーでも、例え見ず知らずの人からみて私達は英雄だったとしても、
ーー 成し遂げた事『だけ』を知っていたとしても、
ーー 私達の事を本当に知っているのは、仲間だった私達だけなのよ!?
だった、と彼女は言った。
人の目が多いこの場に置いて、その部分だけを切り出して聞いた場合、今は仲間で無い様にも聞こえてしまいそうな、そんな危険を孕んだ言葉は、自分達に向けた言葉の様で、何処か違って聞こえた。
だった…、
その言葉に含まれてしまった悲しみ、この場に居ない彼と自分達へと向けた…その言葉の中に。
彼女の苦悩が見え隠れしていたかに思った。
だが、その言葉の部分だけを自分達に伝えたかったのでは無い。
本当のマサトと言う人物を知るのは、私達。ココが重要なのだと。
彼女の様子からも分かる。
お昼時の人が多い酒場にもかかわらず、彼女はその想いの丈を叫びあげた。力の限り叩きつけたであろう小さく折れてしまいそうな両の拳は、何処か切ってしまったのだろう、血が滴っている。
両手の痛みなど忘れているかの様に何度も、拳を振るいながら声高々に思いの丈を叫んび、その言葉の数々は悲しみに満ちて居た。
ナターシャは、修道女だ、
普段の彼女なら、ココまでの激しい感情は、あまり公には出さない。
微笑みのかめんを被り、本当の気持ちを隠している。
そう言えば、マサトや仲間達には言う事ははっきりと言う素直さを見せて居た。仲間以外と話す時には、聖母もかくやとして居たっけ。
いわば公的な場では、物腰柔らかな丁寧系!猫を被っているツンデレ女子。逆を言えば、それだけ体面を気にする人なのだ。彼女は
そんな彼女から溢れた激情に、
誰もが訪れて来る様な、上流階級御用達でもなんでもない民間のギルドの食事所の、その一角に在わす『魔王を倒した英雄達の食卓』を遠巻き見つめる人々を仲間達だけでは無く目を丸くしていた。
そうして、最後には、
ーー皆と会えば…皆と会えば…きっとと思ったのに。
そう譫言の様に呟きつつ、床に涙ながらに崩れ落ちた。
酒場のマスターから、静かな視線を向けられて来た。
普段から口数は多くない彼だったが、今回ばかりは彼の立場だったら仕方ないだろう。
分かっていると、意思を伝える様に彼に頷いて見せた。
レオンとキールは、彼女に気を使っていたつもりが裏目に出てしまったらしい。慌ててナターシャに謝ると、傷ついた彼女の手を取った。
そんな中、ギルドの酒場に一人の幼い少年が訪れた。
酒場を見回しカウンターに目を向けた。
すっかり静まり帰ってしまった酒場の中で、少年の足音とナターシャの啜り哭く声だけが聞こえた。
酒場の主人、いやギルドマスターの男が、少年に問いかける。
ーーー どうした、親は?依頼か?と、
少年は筋肉モリモリで熊を思わせる程の大男のギルドマスターに、少し怯えながらも小さな手を懸命にカウンターの上へと伸ばした。手には右ポケットから出した。一枚の紙切れが有った。
ギルドマスターは、その紙を受けると、すぐ様目を通して再び彼等3人の方に視線を向けた。
三人に呼びかけると、依頼だと一言告げ、彼等は一瞬お互いに見つめ合って、再び視線を戻した。
今度は少年へと。
ナターシャが、涙を拭いつつスカートを軽く払って立ち上がると、
ーー恥ずかしい所を見せてゴメン
と皆に詫びた、少年から依頼書を受け取ると、レオン、キールも揃ってナターシャの手元を覗くと、
マスターが一言で言った。
『英雄さんのお墓まで、護衛して。』そんな内容だった。
そこで、彼女らは『彼』と再開を果たす。
森を抜ける直前、思い出の広場に人影が見えて思った。
先客が居る様だ、と
前衛でいち早く気づいたレオンが、そう後衛ニ人に語りかける。
元々、この森には宗教的な考えを持っている人も入り口付近まで訪れ、神域と定められた樹海の奥深く以外はそれなりに人が訪れていた。
魔王が放った魔物達も神域までは立ち入る事は叶わず、今はエルフや精霊達によって、駆逐活動が行われ始めてる。
そして、
樹海の中でぽっかりと空けたその場所に佇む、人影。
小さな身体では茂みで見えにくい少年は、レオンの肩を借りて、皆と同じ様に遠くの人物を覗き込む。
その後ろ姿を彼等は知っていた、少年を除いて。皆が驚愕の表情を浮かべる。
ナターシャが、キールが、少年を肩に乗せたレオンが、駆け出して行く。
勇者一行の最後の1人、太陽の勇者の元へと。
………そして、『画面はエンドロール』へと切り替わる。
そんな、どこか物語で有り触れた様な内容のエンディングだった筈だ。
だが…どうしてマサトは、無事だっだのか?、ソコが、詳しく分かって居ない。
いや…
『Light.and.dark〜太陽と月の兄弟』の続編で、マサトが物語の途中でナフティアと、初めてゲーム上で出会った際、
「貴女はっ!」と言ったり、その時ナターシャを見てナフティアは、人差し指をたてるシーンが有ったり、
関わっている様な描写が、有った。
………
『ナフティア、……もう一度、男の姿に戻り、ココから脱出してください。』
…………
ーー『月の巫女の名の下に』
ーー 『慈愛と狂気を秘めし、その輝きの元』
ーー 『我に、その輝きの一端を貸し与え給え』
ーー 『変身!!』
………
太陽の光が空の、彼方から地上の全てを照らしだし恩恵を与える。
そんな昼間の姿とは異なり、その力強い光りを借り受けた淡い光を持って、星々と共に月が地上を照らし出す。
風によって波が立ち上がり、その逆に波によって風が生まれる、一見しただけでも流れが激しいのが見てとれる程の海が在った。
昼間の太陽が健在だったとしても、その光は海底深くまで照らしだす事は叶わず。
昼夜を問わない、その『暗闇』の存在があった。
そんな『暗闇』を抱く海上に、もしも船乗りの姿が在ったなら、こう言っただろう。
ーー 満点の星空に夜よりも尚、暗い影が在ったと。
時代の唄を語るべく、世界を旅行く吟遊詩人に就く者達の耳に入ったならば、それはそれは畏れ慄いた様の怪談になり、時に酒場に、はたまた大きな街の端に座して彼等は、唄を広めその商売で懐を細やかでも潤しただろう。
ここに、そんな月と星々の明かりに、照らしだされた存在『魔王の城』が在った。
見渡す限り、月明かりが無ければ海と空の境目さえも区別する事叶わずと言った水面の上、
遠く離れた陸地からもその城の姿を目にする事は叶わず、
然りとて船で城の下に辿り着くことも叶わない。
何故ならば、
彼の城を中心とする様に、海底から水面にかけて大きな渦が、獲物を今か今かと待ち行く。
それはまるで蟻地獄の様に、その姿を見せている。…それも一つや二つの一目で数えるに容易い程では無い。
もしも、先に例えた時の様に海上に舟が在ったならば、
幾ばくかの時間と待たずして、その姿をただの木の屑に変えてしまっただろう。言い得て表すならば、海の藻屑。
そうなってしまってはいけないと、この地は、近く船乗り達の’‘言い伝え’‘として、近づく事が憚れて居た。
なれど、城に侵入など考えた日には、空を翔ける手段しか無いと、
ここまでの話を聞いた誰もが思う事であろう。
…だが、その考えとは裏腹に堅牢な自然の力に守られたかに見える…その城の力は。
空を翔ける者達にも牙を向ける。
天高くその壮大な姿で世界を旅行く雲の下、風に流せれる事なく尚その力に逆らってその場に座する城には、
気流が生まれていた。
然りとてその気流は、只の気流に非ず邪なる化身の在わす城に触れた事によってか知らず、
それとも他の何者によってか、邪な魔を孕んだ風の流れとなっていた。
その流れは、城を護るかの様に流れ、城をぐるりと囲う帯の様な輪によって球体を作るかの様に導かれていた。
これらだけを持ってしても、彼の城に近寄り難しと言える物に加え、その『何者か成る者』が更なる手を加えた物が『砲身』で有った。
脅威という脅威を潜り抜けた先に、それらを退けた猛者達を待ち受けた先に在るソレは、如何なる者で有ったとしても、攻城する事敵わない正しく堅牢、難攻不落の要塞と言わしめた物だろうか。
ーー だが、
どんな事にも始まりと終わりが有る様に、この日その難攻不落にも終わりが訪れる。
彼の城の終焉を飾った者達の名はマサト、そしてその一行であった。
この物語の主人公マサト達は、遺跡から発見された飛行する船、その技術を研究する者達の力を借りて、空を駆け抜け、城の前へと訪れた。
船乗り達の’‘言い伝えの地’‘その脅威を避け得るが為に、見つけた策である。
世界樹に宿る精霊、
その僕達の力を借りて気流を打ち破り、対空放火を魔術の最高峰『賢者』の力と精霊の力を持って打開した。
それでも、これらは彼に訪れた最後の試練、その数々の始まりに過ぎなかった。
そんな、激闘を見せた時間から、然程の時も経たないままに、この物語はまたも動き出す。
新たにこの世界で『記憶』を覚醒した者の手によって。
そして、その城は今、主だった者達の『殆ど』をマサトによって倒されてしまった。
そんな難攻不落と、この世の誰しもがその城の存在を知ったのなら言うだろう。
そう言わしめたかも知れない城だったモノは、今は見る影無く、高度はみるみる下がり、まるで砂時計の様に中央部から崩れている。
その崩壊の激しい中央部に、白い影が走り抜けた。
影は残像を残す様に、下へ下へと真っ直ぐに落ちると、白い影から光の線が走り、白を追う様に落下して居た瓦礫を一つ、また一つと打ち砕く。
「くっ…崩壊が思ったよりもずっと早い…」
白い魔力を纏った影の名は、ナハト。その弟を腰に抱え重力のままに落下しつつ在った。
そして、先程の様に虚空に魔力の弾を召喚し、瓦礫へと放った。
先だって会い見えた勇者一行との戦闘の時とは異なり、剣を手にしている。
だが、現状を打開するまでには至らず、次々と瓦礫は彼等へと迫って来る。
加えて脅威は瓦礫だけでは無い、今彼等の身体を縛っている重力に引かれ落下している先、海だ。
海、つまりは水だ。
高所から落下すればする程に、その水はコンクリートの様な役割を成すと言う。
覚醒した前世の記憶の中で、かつて何かで見かけた記憶が過ぎる。
万が一自分が助かったとしても、満身創痍の弟が助かる可能性は…低いだろう。
落下の際に、体温が奪われつつあるのだろう、顔色も良くは無い。
「……それに」
先程よりも僅かにずつだが…『マサトを持つ手が痺れ始めている』
「強化魔術の限界か…」
加えて、ただでさえ荒れ狂っていた海の最中、瓦礫がいくつも落下して行くが為に、流れはかなり入り乱れているのが容易く想像に禁じ得ない。
ーーー もしかしたら、海の中で瓦礫に挟まってしまうやも知れないなどと、最悪の想像がナハトの中でいくつも思い浮かんだ。
「クソっ!、…何か……何か手はないか!」
不幸中の幸いにして、高すぎる地点から落ちたが為に思考を走らせる時間は幾ばくかはある。
最悪の想像と相まって、背中に夜の肌寒さとは違った寒気を覚えながらもナハトは、考えを巡らせた。
想像した結果を現実のモノにしてはいけない。
ーーー 一か八かに何処かへと転移してみるか……?
ーー だが、そもそも転移が成功するか?
ーー 変身する事は出来た、今だって魔術の攻撃は出来ている、だが焦っている、この状況で転移が使えるのか?
ーー転移する場所さえも決めれずに?もしもそれで、転移事後になったら?
ーーー いや一層の事、ブラックホールを召喚して、瓦礫…城だけでも吸収してしまう……
しまおうか、とそう思考の中で呟こうと、そこまで考えを巡らせいた時、
遠くの空から光が見えた。
「あれは……?」
その光は帯を引き一筋の線となる。
その一筋の光は、次第に大きく、大きく姿を膨らませ凄まじい速度でコチラに迫ってきた、そこでナハトの身体が、頭の何処かで前世では知り得ない警鐘を鳴らしている事に気づいた、
その警鐘を言葉にして表したならば、きっとこうだ。
ーーー これは何者かによる……攻撃だと、
この世界の様々な事に慣れていない、この世界の誰もが当たり前としている事、例えば『戦う力』
それさえも覚束ない、まるで大きな赤子とも言い得た状況の中で訪れた身の危険、
先程の大蛇との戦闘の際用いた『黒い霧』を用いたとしても、眼下に流れている自分の現状では直ぐに効果を失なってしまうだろう。
反則クラスの力とは言えど、言わばボスキャラの技、『何かしら』の攻略手段があるのだ。
そんな現状で、ナハトが知り得る、遠距離攻撃の他の対策も間に合わない程の速度。
そして、その対策も実際に使えると言った確証もない、使っていたのは『かつてのナハト』今この身を支配するは、前世の記憶が覚醒した状態の『自分の記憶』。
その『支配』がこの世界に在った『自分の反射的行動』をもまた阻害する。
「なに…コレはっ…!?」
瓦礫を飲み込みつつ迫る光線の中で、咄嗟にナハトは、もう一つの彼の反射的行動を阻害した理由…、いやコレは正しい言い回しではない。
咄嗟に動けない『守りたい者』のマサトを強く抱きしめる。
とそれと同時に、己が首元で風に遊ばせていたマフラーを中心にしてナハトの全身が光輝いて見せた。
その光は、刹那の時の内に球状の白い障壁へとその身を転じた。
次いで、ナハトを光の巨大な光線が飲み込んで行く。
視界焼いてしまいそうな強き光の光線、その最中に光に争う様に目を細めつつナハトは光を睨んだ。
「ぐっ……コレは…いったい…」
ナハトの疑問が口から零れ落ちる。
『月光の障壁』
どうやら、それは『変身』によってナフティアをナハトの姿へと変えた後にも使えるらしい。
『変身』と言っても呼んで字の如く『完全に体が変わってしまう』モノでは無い。
魔王がナフティアにした様に『性別』と言う人の生に大きく作用する様な、とんでも無い魔の法では無く。
言わば、それは『強化魔法』の一つだ、
それも『身体全身の強化』の部類。その力の一旦に女性だった身体能力を男性並まで高めると言うモノがあり、姿が変わっているのは、羽衣の屈折の力によるモノ。
光の屈折を用いて姿を偽る能力の他に宿す能力の一つである。
他に、羽衣の力に限度は有れども、相手の攻撃を受け流し、使用者を自動で守る能力をいくつか宿している。
今回のコレは使用者を守らんが為に羽衣が発動せしめた事。
月下美人がゲームの時代と同じ様に、今の自分に与えてくれた物に感謝したくなるのは、
…それは後程の事、今の混乱にも似た状態の最中の彼には、その事への考えまでは至る事はない。
なにせ、光の反対側、ナハトの背後以外は光で埋め尽くされているのだ。
側から見れば水道の蛇口の前に、ビー玉を置いて居るかの様な現状だ。
そのビー玉の内側に立ち、薄皮一枚にも見える透明な硝子の向こうには、己が死へと仇なすやも知れない光が広がっている。そんな現状。
流石に羽衣も、巨大過ぎる攻撃は、受け流せないが為に障壁だったのだろう。とは思った事も、また後程この時を振り返って見た時の事だ。
そうして、その障壁も長くは続かなかった、次第にヒビが入り2人を守る透明な膜は鈍い悲鳴の様な軋みをあげる。
光線によって、瓦礫の雨の降る中を押し出され、
障壁に守られながら当初の進行先とは違った海面に追いやられる彼等。
とうとう海へと落下せしめた障壁は、光と海との板挟みに会い、その衝撃には耐え切れなかった様で、
まるで、シャボン玉が地へと着いてしまった時の様に、
硝子が砕けてしまった時の様な音を立てて、消えてしまった。
海中に沈み行く中、彼はマサトを庇い、障壁で多少弱まったであろう光線を背に受ける。
「がっ……はっ…」
加護に守られた法衣によってか、それとも自分が痛みさえも麻痺する肌の攻撃だったのか、痛みよりも、その衝撃に、ナハトの口から空気が漏れでる。
その身に映したナハト(かつてのこの身)の姿が、古くなってしまった液晶テレビが、
まるで、その役目を終えた時の様に、虫の羽音の様な音を立てて消えてしまうかの様に、
…擦れて、消えた。
その身は少女へと…ナフティアへと戻ってしまう。
ナフティアは遠のいていく、意識の中、
この攻撃の犯人の姿を思い浮かべた、
奇しくも、その身に受けた痛みによって『前世の記憶』と『かつての魔王の下に居た自分』その身の警鐘が結びついた瞬間だった。
魔王とマサトの戦いの最中に、逃げおおせた科学者、
そして、『Light&dark〜太陽と月の兄弟〜2』においてラスボスである男の姿を思い浮かべ……
ナフティアは、弟を抱きしめながら、海の流れに飲まれていった。
ーーー その彼等の様子を見つめる影が二つ、
『ややや、ヤリマシタねー!!!ハハ博士!!』
『めめめ、命中シマシタヨー!』
『アアア、アンナ二、トオクノウゴク物体ニアテレルナンテー!』
片や全体的に丸く、頭と胴がくっ付き黒く丸い胴体から格闘家のグローブを思わせる手の形、その胴体を支える大きな足に関節部は管の様になった機械仕掛けの人形、
端的に言い表わしたならば、その姿は『ロボット』
その斜め前に佇む者は、よれよれの白衣に赤いホワイトシャツ、通称ワイシャツに、歳を思わせる白髪に髭を生やして居た老いた男の姿だった。
「とーうぜんじゃろ〜!!我が発明に不可能は無〜い!ハっハっハっ〜!」
『ソーデスヨネー!』
初老の男と、讃えるロボット。
彼等は童子の様に、はしゃいで嗤う。
「さ〜て、いくぞ、ボビット」
『エエ…エー?アイツラノシタイ、カクニンシナインデスカー?』
笑っていた初老の男は、突如踵を返すと何処かに向かうのか、歩み始める。
次なる目的を見据える様に、彼の眼鏡が怪しく月夜の光に輝く。
「よい、どうせこのぐらいでは、あの男も死にはせん……あの裏切り者もなあ」
老人は、そう枯れ気味の声で呟くと再び歩み始めた。
眼鏡の奥で、怪しく微笑みながら……。闇へと姿を消す。
『まっ、ママ…マッテクダサイヨー!ハーカーセー!』
ロボットも、初老の男を追う様に、闇へと姿を消して行った。
そう、初めから此処には誰も居なかった様に、先程までは確かに在った。
彼等の背後に見えた『砲身』さえも、影も形さえも残さずに消えてしまったのだ。
…………
時同じくして、何処かの白い空間……
「ナフティアっ!!マサトっ!!」
その空間の中に、響く女性の声があった。
空間の中は、何処かの神殿の様でいくつかの白い柱が見える、
女性は、その神殿の中央部で大きな鏡に身を寄せるように佇み、その背後に2人の男性が、膝を折って脆いて居た。
一見して先程の声の主は彼女だ。と分かる組み合わせだ。
その女性は白く輝く髪に、民族衣装を思わせる姿に、背後の男性らは一人は彼女と同じ和を重んじる民族衣装を見に纏って居る。
現代の宮司と巫女の立場が逆転したかの様な構図。
もう一人は、彼女らとは少し異なった出で立ちをして居た。
同じ和を思わせる着物を上半身に纏い、腰には藁を巻いて居る。座する傍らに木で出来た釣り竿を置き、それと共に鈴のついた白き刀を並べている。
頭の天辺から下まで白は、この場に居る誰もが同じだが、その刀から侍を思わせる男は一見鬼没にも見えた。
その3人の集まった中で一人だけ女性の彼女は、先程ナハトの前に顕現して居た、『月下美人』アメリアである、
鏡には、女性の姿は写されておらず、何処かの暗い海が映し出されていた。
「ナフティアっ!!マサトぉ!」
再び鏡に向かって女性の悲痛な叫びがこの場に木霊する、
されど鏡はその声には答えす、映し出されるのは相変わらずも荒れ狂う夜の海の様子だけだった。
彼女は、邪な力によって他の介入をも拒む’‘言い伝えの地’‘に、その強大な力振り絞ってナフティアに更新を求めた。
鏡に向かって、その時の様に両手をかざし、
だが、かざした両の掌に光が集まった直後、彼女は激しく咳き込んだ…
口を覆った手の隙間から赤い滴が零れ落ちる。見るからに無理をしているのがわかる。
そして、ひとしきり咳き込むと、集まった光は弾ける様に散り、後ろへと倒れこんだ。
「月下美人様!」
宮司の様な姿の控えていた男が叫ぶと、アメリアを支える。
「月下美人様、これ以上はお身体に触ります……お辛いでしょうが、どうかお休みください…」
「でも…」
「これ以上は、如何に貴女様でも…厳しいかと…」
「何より先程まで貴女様は彼らの脱出するまで時間を稼ごうと、なさっておいでではありませんか!これ以上は…どうか…」
アメリアは息を切らしつつ、一度目をうっすらと瞳を開き、彼の腕の中で何かに争うかの様に、立ち上がろうとする。
「月下美人様…どうか…貴女にもしもの事が有っては…、それに巫女様達は、きっとご無事です、」
自らの手の中で、暴れる彼女に言い聞かせるかの様に男は極めて冷静さを装って告げた。
「他ならぬ貴女様の……お子ら…なのですから、どうか…お休み下さい、」
確かな根拠など無いにも等しく、だがそれでも彼女の御身には変えられない。
時には仕えるべき主人の意に背く事も必要なのだと、そう彼は知っていた。
その助言してくれた男は、彼等の背後で静かに、静かに鏡の向こうと…
そして、鏡の前に横たわる彼等を『立ち膝を立てて』見守っている。
自分が少し早かっただけ、それだけだ。
そう男に言われたアメリアは、一度男の方を見て口を何事かを呟くと……崩れる様に眠いについた。
「私は、大丈夫…か、」
言の葉として形作られなかった。彼女の声は確かに、宮司の耳に届いた。
「巫女様、マサト殿…どうかご無事で…」
彼女を横抱きに、見上げた鏡に向けて宮司の男は呟き。
彼女を、そのままに腕に抱えて踵を返した。神殿の奥へと消える間際で足を止める
「宮城…私は月下美人様をお連れする」
「お前は…分かっているな?、これは我らが上の勅命だ」
「巫女様に失礼無き様、勤めを果たせ」
「恐らく、あの老人どもの迎えも向かっている筈だ、くれぐれも頼んだぞ」
そう言い残し、奥へと姿を消して行った。
宮司の姿が見えなくなった所で残された男が口を開く。
「…御意」
「そげに言わんでも…分かってますよぉ」
「一の夫様は、人使い荒いわぁ…」
そう言い残し、奥とは逆の方へと、ゆっくり立ち上がってから進んでゆく。着物の男
「さぁて、今から迎えに行きまっせ!」
「我が巫女…ティア様」
波の音が聴こえる……
「うっ……」
明るさによってか、
ナフティアは薄っすら目を開けると、天高く登った太陽と青空が見えた、
「いっつ……あ…れ…わたし…海岸……?」
起き上がろうとしたが身体は言う事を聞かず、痛む身体によって、何者かの攻撃を受けた後に海岸に流れ着いた事を悟った、
僅か首を隣にむけると、その砂の向こうに自分と同じように海岸に打ち上げられる、マサトの姿がぼんやりと見えた……
「マサト…良かった無事で…」
何とかしないと…、このままだと二人とも高波でも来て攫われてしまう…
もしそうなったら…今度こそ助からないかも知れない…
そう思った少女は、痛む体に鞭打ち時おり小さな波や水を吸って重くなってしまった服に邪魔されてなお、這いずる様にして、弟マサトの元へと進むと彼の腕を自分の肩へとかける。
「いっっつ…」
その際に、何かに引っ掛けてしまったのか、右の腕から肘にかけて鋭い痛みが走った。
まるで紙か何かで切ってしまったかの様な痛み。
「痛い……」
「けど…、それどころじゃ無いわ…」
一刻も早く安全な場所へ行かねば二人とも危うい。せめて服を乾かして体を休める場所を探さねば…
先程までの疲労にダメージのせいなのか、軋み上げる体
だが…
『ぶ…強化魔術!!』
そんなことは、どうでも良い。今の自分よりも大きな男性であるマサトを持ち上げる為に、無理矢理ではあるが右手の銃の斬鉄を引く。
「ふ…んっ…」
気合と共に持ち上げて、辺りを見回すと、海岸のすぐそばに森が広がっているのが分かった。
「ここは…どの辺りなのかしら?」
確か…魔王の城はこの大陸の北辺りの何処かあたりにだった筈だが…、自分がどれほど流されたのか分からないし。
何より土地勘が無い、
ゲーム時代にはマップ機能があったし、ストーリーに沿って進んで行くだげだったから、細部までは覚えていない。
でも、だからと言って、このままココに居る訳にも行かない。
「森を抜けた先に、何処か村でも…有れば良いのだけれど…」
そこまで言った時、森に入る手前で少女は砂に足を取られて転んでしまう。
「いっ…」
当然だろういくら強化していたとしても、身体は限界を超えている。
現状を何とかしようともがいても、疲労に膝が笑い、出血まであるのだ。そして…更に。
「ダメ…私…まだ寝ちゃ…」
眠気だ。
心や気持ちとは裏腹に、ぼやけて行く視界の中で、不意に自分達に近く気配を感じた。
何とか、頭を上に向けると…そこに見えたのは『何かの車輪』
そして…
「あの…もし?…大丈夫ですか?」
何処か幼い様な女性の声を耳に、ナフティアは意識を手放した
こんばんは、こんにちは、おはようございます。
皆様いかがお過ごしでしょうか?
サルタナです。
世間は色々と厳しい世の中ですね。早くおさまる事を私も願うばかりです。
今回からは一部ですけど本格的に修正版らしくなって参りました。
前回の修正前の文と新しく付け加えた所などが、今までも有りましたが次回からは、もっと増やしていけたら良いなと思います。
そして、この作品を手にして頂いた皆様ありがとうございます。
この作品を通して、厳しい現実の僅かでも気が紛れれば良いな、と思います。
感想への返信は、前作の際に作品への中傷頂いた時から、行わない様にしてます。
ですが、皆様の温かい感想いつもみてます。本当に感謝です、
まだ色々書き足りないですが、今日はこの辺で、
では、また次回の投稿でお会いしましょう。