どうやら、彼の物語の終わりへの一幕の様です【太陽】
ーーーーーー ナフティアが螺旋階段の元を訪れた時から、遡る(さかのぼ)事、数十分前。
『“ギイイイイイイイイイイアアアAAAAAAA”』
男とも女とも言えない声の断末魔が木霊する。
声の主は、全身を一枚一枚が成人男性並みの大きさの黒い鱗で覆い、頭には山羊の様な鋭利な角が生え。
大きな縦にぱっくりと開いた様な瞳孔の蛇を思わせる瞳、同じく人など丸呑み出来そうな鰐の様な口には、大きな刃の様な牙が覗く。
背に蝙蝠を思わせる被膜の翼を広げ、巨体に似合わない小さな三本の蹄の前脚に比べて、その巨体を支える巨大な脚は、人里に降りたならば二階建ての家など簡単に押し潰してしまえるだろう。
尾は更に太く先に行くに連れて細くなって行くが、それでも丸太よりも尚太くしなりがある尻尾は、硬い物は吹き飛ばし、或いは刀剣の様に簡単に相手を斬り倒してしまうだろう。
それは、現代には存在しない筈の空想の存在、そして…RPGに置いて最強の存在として、その世界に君臨する存在、その名は…
『ドラゴン』
この世界に置いても、その存在は畏怖のもので有る、
口から発せられた息吹は、大地を…空気を焦がし、焦土へと変える、強靭な爪や牙は硬い岩をも粉砕、或いは輪切りしてしまい、獲物の肉を己の糧と為す。
だが、今…その強靭な鱗に守られた筈の身体は、所々に剥がれ傷付き巨大な犬歯に当たる牙は4本の内、三本は折れ、標的を空から何処までも追い詰めていたであろう悪魔の翼は穴が空き。もう飛ぶ事は、叶わないであろうと言うのは明確である。
片方の脚には抉られてかの様な傷が残され、翼でも脚でも自分を支えられず、その身を大地へと崩れる様に横たえている様は、見る者に恐怖を刻み込んでいた、かつての姿とは見る影もなく。
その正面に、赤、金、銀の髪色の少年少女が見える。
ーーー今度こそ、やったか?
そう言ったのは、仲間の誰よりも前に佇むマサトだった。
それは、この場にいる誰もが思っていた事だろう。油断は出来ない。未だ彼等が纏う空気は緊張に張り詰めている。
「た、…多分」
このパーティの回復役を引き受ける、司祭の位を持つ彼女…ナターシャがドラゴンから視線を外さずに答える
銀髪の賢者は、乾いた様な笑い声をだし、
金髪の青年は、この王座の間を支える柱の根元で自らの血で染めてしまった床に横たわってナターシャの治療を受けていた。
「レオンは、大丈夫か?」
視線は逸らさない、何故なら…下手に油断する事が許せない相手だったから。
「うん、何とかなりそう」
「そっか、よかった」
マサトは、顔だけを僅かに動かし後方の彼女に問いかける。
「また、復活したり…しないよね…コイツ?」
銀髪の賢者…キールが杖でその身を支えつつマサトに問いかける。
「…分からない、みんな油断するなよ」
「…うん」
返事が出来たのはキールのみで、意識を失った騎士レオンは元より、ナターシャは治療を再開している為か、頷く程度に留めていた。
魔王、最初は人型だったにも関わらず、二度復活しその度に姿を変えていた。
ナフティアの前世では‘’有り勝ちな‘’RPGの魔王。そう言った方が分かりやすく馴染み深いだろう。
だが、実際にソレを目の当たりした彼等に取っては、ゾンビさながらに打ち倒しても蘇る魔王の様子は、警戒をするに充分に足る程に脅威だった。
レオンは最初から最後まで、ずっと相手からの攻撃の殆どをその一身に受け、そして最後の魔王の攻撃の際に、壁に吹き飛ばされながらも、マサトの正真正銘の最期の一撃、読んで字の如く『必殺技』へと繋いだ。
もし彼がこのパーティに居なければ、戦いの終わり(ここ)まで辿りつけなかっただろう
そして、ナターシャの回復が、銀髪の賢者キールの知識と禁断の魔法が、誰が欠けてもこの勝利は無かったと、マサトは思う。
僅かな静寂が訪れた…
『ふふふふふ…』
その時、幾度となく、形態を変え復活していた時と同じ様に、ドラゴンの瞳が…魔王の目が怪しく輝き始めた。
「…っ!」
再び彼等に緊張が走り、誰もが息を呑んだ…、もう限界は皆優に超えている。もしも次があったなら……、
だが、今までとは異なりその輝きは何処か弱々しくも見える。
『我を倒した所で、無駄よ、我は必ず蘇り再び貴様らに絶望をもたらそう』
「何っ!?」
その預言めいた言葉は力なく、彼奴は言葉を紡ぐのがやっとと言った所であった。
終わったのだと言う安心感が、彼等の中に広まって行く。
しかし、魔王の言葉は尚も続く。
『だが、その前に貴様は、果たしてココから生きて帰れるかな?』
『この異空間自体、我の力が途絶えた瞬間、その力を失う、そして、我が城もな!』
「くっ」
その事実に誰かの苦しげな言葉が漏れた。
彼等の様子を嘲笑う様な言葉を魔王は告げる。
『果たして、そのボロボロな貴様らで崩れるまえに、逃げられるか見ものよなあ」
『あの世で、一足先に待っておるぞ、勇者諸君』
そう…言い残すと、魔王は黒い砂になって崩れていく……。
主人の崩れ去った王座は、その主が残した言葉の通り、崩壊の一途を辿り始めた。
ドラゴンの姿した魔王が崩れ去った場所から大きな波紋が空間に広がると、まるで服の虫食いの様に闇が所々に広がり始める。
「ヤバイ、こんな所に長居は無用だっ、逃げるぞ!……あっ……ぐぅっ」
マサトが叫ぶ、しかし、頬に切り傷が走り頭も何処か切ったのであろう、血が垂れていて何とか歩ける様子
「うん!」「分かった!」
キールも長い灰色のローブは破れ、杖を支えにやっと歩く事が出来る様だ、意識の無いレオンに肩を貸しながら歩くナターシャも答えた。
「ナターシャ、俺がレオンを支えるから、キールの方を頼む」
そう言って、ナターシャにマサトは声をかける、
「そんなっ!、マサトだってボロボロなのに!」
「ダメだよ!私なら大丈夫!、この中で1番軽傷よ!!」
彼女は、反射的に叫ぶ。
だが、ナターシャとは対称にマサトは落ち着いた声音で返した。
「嘘つかなくていい、例え傷は少なくとも、お前も皆の回復や補助で、魔力殆ど残って無いんだろ?、足が震えてるぜ。」
「結構辛いんだろ?、だから、貸せって俺こそ大丈夫だからさ、それに、急がないと」
「で……でも」
ナターシャは、困った様な表情を浮かべ、僅かに考える素振りを見せると、ごめんね…と呟きレオンをマサトに預けると、マサトの言葉に従い、キールの元へと震える足に鞭打ち、駆け出す。
マサトは、レオンを支えつつ、ナターシャを追うように、足元に気をつけながら、1部後衛側キールが立つ先、入って来た時の魔法陣を目指す。
…………
「キール、転移魔法は使えそうか?」
その途中で、マサトは先ゆく2人の背中に向かって声をかける。
「んー、流石にこの空間では使えないかなぁ〜、でも、来る途中の螺旋階段の当たりだったら行けるかもぉ?」
「流石は賢者、魔王の息吹とアレだけ撃ち合った癖に、魔力残って居たのか…」
王座の間に、彼等の声が響く。
「ははっ、流石に僕でも、今回は死ぬかと思ったよぉ」
「ナターシャと、レオンに感謝しろよ」
「本当2人には感謝だねー、もちろんマサトにもね〜」
「ちょっとぉ!、キール!人が支えてあげているのに、無駄話する元気が有るなら自分で歩いてよ!」
「あ〜ゴメン〜ゴメン〜」
余裕がある状況ではないが、もちろん脱出の手立ての相談も有ったが、何か喋って無いとマサトは疲労で意識が持って行かれそうなのだろう。
キールも、何となく察しているのか居ないのか、付き合ってくれていた。
ナターシャも分かっては居るのだろう、言葉とは裏腹にキールの腰に回した腕にしっかりと力を込めて支えて居る。
そんな会話をしつつ穴の元にたどり着く一行は、すぐ様皆で穴の中へと飛び込んだ。
そしてその穴は、空間を食らいつくす闇に飲まれて行った。
………
彼等の視界に光が広がり皆が、目を瞑った。
次第に視界が慣れて行くと、先程ナハトとマサトが戦った部屋に皆が佇んでいた。
良かった…無事に元の場所に戻る事が出来た…と、マサトは内心で呟いた時。
不意に白い光が、天井付近に見えた気がした。
顔を上げて、よく見ようとした時、
「う…くっ」
マサトの背から、微かに声が聞こえた。
「レオン、気がついたのかっ?!」
「レオン、大丈夫!?」
「お〜レオン、生きとったか〜」
レオンは、薄っすら目を開けると、小さく呟いた。
どうやらナターシャに傷の多くは治療されていたとしても、魔力や精神的なダメージが残って居る。
意識は戻っても、僅かに身動ぐ程度しか動けない様だ。
「レオン…無理するな、」
「お…俺は…いったい?、眠っていたのか?」
穴からの移動の際に、目覚めたのか
苦しそうな表情を、1度見せるとレオンは、ぼんやりとした様に、光の薄れた瞳でマサトに尋ねる。
「もう…魔王は倒したし皆も無事だ、もう少しの辛抱だからな、もう少しで帰れる」
「皆…行こう」
そう言って、マサトはレオンを背負いなおして、歩みを進める。
「ええ…」「はいよ〜」
再び、キールとナターシャが前になり、この部屋の外を目指して行く。
「そう……か…よか…」
マサト達が無事だと言う事を確かめる事が出来たからなのか、ココまで苦楽を共にした仲間達の言葉を信じているからなのか。安心した様な表情を浮かべると、レオンはマサトの背で再び意識を手放した。
「さぁて、もうひと頑張り〜行〜くぞ〜」
キールの気の抜けた激昂が飛ぶ。
ーーー 必ず皆で帰る。
ただでさえ、キールは何処か気の抜ける様な口調なのに、
その上、疲労感が伺える声を掠れさせながら、その右手に持った杖を掲げ、言葉を皆に投げかける。
いくら、賢者と言えど、全ての魔術を詠唱無しでは、行え無い。
魔王の圧倒的な攻撃の数々に皆、何度もその身体を打ち付けた、賢者の口から流れた、一筋の赤い血痕
に…賢者の喉が限界に到達していたのが、マサトもナターシャも察していた。
ナターシャによって外傷は、治せたとしても、何かしらの代償によるダメージが残っているのだろう、
ーーー 本当に…キールも無理をする。
ソレにボロボロな見た目で、杖を持つ反対側からナターシャに支えられつつ叫んでる様は、格好がつかない
それでも無いよりは心持ちが違う。
その言葉を聞きつつマサトは、先程までナハトが居たで有ろう場所に目を向けていた。
そこには、天井が崩れて来たのだろう、大きな瓦礫が鎮座している。
天井が有ったであろう、瓦礫の真上から、星々の光と月明かりがあたりを照らしていた。
その光によって、瓦礫の下の方に見える血痕にマサトは気づく。
ーーー まさか…な。
先程の戦闘の際に出来たものなのか、あるいは…マサトの胸に一瞬の不安が、湧き上がる。
最悪の想像が、マサトの脳裏に浮かぶ、だが…すぐ様頭を振ってその考えを頭から追い出した。
「兄さん…」
それに先程の『白い光』まるで俺たちが現れた瞬間を見届けたかの様に消えた…
月の光にも似た光だったが…アレは大きな魔法陣に見えたんだけど…
俺の気のせいか?
ここにいる皆は気づいていないが、魔王の空間は、時間の流れが異なる設定になっており、
その設定もナハトなら、ゲーム時代の時、2製作途中インタビュー動画で、語られたため知っていた。
「どうかしたの〜?早く行こうよ〜」
キールが歩みを止めたマサトに問いかけてくる、
「行こうよぉ〜」
その口調をナターシャが真似してみせる
「やめてよ〜ナターシャ〜」
ふざけ合うナターシャとキールの声で、我に返るとレオンを支え治し、
僅かに揺れる部屋を後にする。
ーーー『マサト…無事で良かった…』
…………………………
ナハトとマサトが戦った部屋を抜け、扉を潜り向けると足元に小さな階段がみえた。
階段を降りると円盤上の床が広がり、円盤上の床…実際は塔の様な柱なのだが…、
細い道が円盤上の柱から壁側に向かって伸びていて、そこから壁を沿う様に螺旋状に階段が、下へ下へと続いている。
この道を再び帰るとなると、流石に厳しそうだな…と、マサトは内心に思う。
「じゃあ、転移魔法行くよ〜」
マサトの内心は杞憂に終わり、先に円の中心に着いたナターシャ達が手をこちらに伸ばす。
「マサト!、早く!こっちへっ」
円盤上の床の中心部分にまで、辿りついたキールとナターシャは、キールは目を瞑って杖を真っ直ぐに持つと、呪文を唱え初めた。
程なくして、ナターシャとキール、2人の足元に光輝く魔法陣が現れる。
キールの転移魔法術式だ。
『世界と繋がる魔法』とは、キールの言
この世界の『始まり』を司る存在から、与えられた魔法でありキールを賢者たらしめた魔術とは異なる『魔法』の一つ。
その『魔法』が、キールの詠唱によって発動しようとしているのだ。
急がねば…そうマサトが思った……その時、
4人の間を遮る様に、天井が崩れ大きな瓦礫が、落ちて来た
落ちた瓦礫は円盤上の床をいとも容易く砕き、一気に円柱がひび割れて行く。
「マサト!!」
ナターシャの悲痛な叫びが視界を遮る瓦礫の向こうで聞こえた、割れた柱は二分化し、
マサト達が立つ方は、ずり落ちて行く
「マサトォ!!」
ナターシャの叫びを、聞きつつマサトはレオンを抱えた方の腕に、今残る『全ての魔力』を込めた。
そして、マサトは叫ぶ。
「俺は大丈夫だっ!!」
「何を言ってるのよ!?大丈夫な訳ないでしょう!今そっちに…」
「来るなっ!、来ちゃダメだ!」
ナターシャは、涙を浮かべて、手を伸ばしマサトの方に飛ぼうとするが…
マサトと彼女の間に影が視界を覆った、とっさにその影を避ける。
マサトが何かを投げたのだろう、まさかと思い投げられた者を見ると、それは……レオンだった。
マサトが、自身の腕とレオンに強化の魔術を付与した為か、鎧を纏ったレオンは重い筈なのに…ココまで投げれたらしい。
そして……、
「レオンを、頼む!」
「必ず!必ず帰るから!」
その言葉を、最後に、
マサトの立つ円柱の片割れは、遥か、闇の彼方へと落ちて行った。
物語の修正が少なかったお陰で、もう一ページ投稿。
早速の感想コメントありがとうございます。
作者は、ありがちな所がありつつも、余り他では見かけない様な感じ、という意識でこの作品を書いてます。