赤髪の同級生
僕も王女とディサナスの前に立ち、ヴェルヴを取り出した。左手はいつでも装着できるようにポケットの中に入っている色彩豊かに輝くリベラメンテを触る。
「来るぞ!」
勢いよくドアが開かれたと思ったら、3人の茶色のコートを着た男が雪崩れ込んできた。
「助けてください!」
「助け、なんだって?」
「リブノール村が反乱軍に襲われているんです! 俺の、俺の子どもが!!」
今にも泣き崩れるんじゃないかと心配してしまうほど悲痛な面持ちで、壮年の男が叫んだ。
「村中に火がつけられてんです! 兵士もなんも全部あっちへ行っちまって、こんな辺境な村、誰も助けてくれねぇ」
「あなたがたが、助けてくれるって言われて……後ろの方、王女様なんですよね。どうかお願いします。私どもをどうか、どうか助けてください!」
『王女様』だと? なんでそのことを知ってる。いったい何が起こっている? 誰がここに僕らがいることを──って!
そこにはよく見知った人物がいた。頑丈とは言いがたい木壁に背をつけて腕を組んで佇んでいる、その特徴的な燃えるような赤髪。
「ルイス!」
真っ赤なコートに身を包んだルイスは、ビクッと肩を震わせると腕組みを解き、落ち着いた足取りでこちらへ歩み寄る。
「やりますか、隊長?」
僕にだけ聞こえる小声で話し掛けてきたゾーヤを小さく首を横に振ることで諌める。部屋の中へ入ってきたルイスは髪をかきあげるとまた腕を組んだ。
「ごきげんよう。ハルト」
そう言っていつもの自信に溢れる微笑みを浮かべた。
「そして、お初にお目にかかります。クラーラ・ミシュリオン様。私はハンリ・バルバロッサの長女、ルイス・バルバロッサです。こうしてお会いできた幸運に感謝致します」
「バルバロッサ!? まさか、バルバロッサ大臣のご令嬢か!?」
クリスが驚きの声を上げた。ルイスは訝しげにクリスの顔に視線を移す。
「そうですが、なにか……?」
「いや、なんでもない。それよりどうしてここが? なぜここに僕らがいることを知ってるんだ?」
あえて聞かなくてもその答えは知っていた。予想通りルイスは──。
「父、バルバロッサ大臣から聞いたの。そして、私が応援に入るよう命じられたから、ここに来たってわけ」
と答えた。
僕とゾーヤは目を合わせる。そこには流石に困惑の色が見てとれた。あっけらかんとし過ぎているからだ。まさか、バルバロッサ卿から何も聞かされていないのか?
「ハルト、どうやら襲撃ではなさそうですね」
王女は毛皮のブーツを鳴らしながら優雅に歩み寄り、村人らしき3人の男とルイスに頭を下げた。
「失礼しました。正直に申し上げれば今、我々もいつ追っ手が急襲してくるかわからない状況でして」
ルイスも慌てて頭を下げると、全身を使って懸命に訴えた。
「あの、クラーラ様! どうか、顔を上げてください! 王女に頭を下げさせてしまったとあれば私! ちょっと、ハルトなんとかしてよ!」
その様子に不自然なところは見当たらなかった。念のためゾーヤに確認を求めるが、わずかにあごを動かし同意を示す。
「クラーラ王女。それよりも状況を確認する方が先ではないでしょうか? 今の話からすると、反乱軍がこの方達の村を襲ったと言うことですが」
3人はまた口々に村が襲われた様子を話すとともに王女に助けを求めた。
──降り積もった雪のため、村中総出で家々の雪をかき、子ども達は村長の家に集まり歌い踊り、そんないつもの日常を過ごしていたときに火の手が上がった。トナカイに乗った見知らぬ集団が最も大きい村長のその家に火をつけたのだとわかったときには、もう手遅れだった。集団のリーダーと思われる男は下卑た笑い声を上げながら「反乱軍」と名乗った──。
王女は真剣な眼差しで一つ一つの言葉にうなずきながら話を聴き、一通り話が終わったところで口を開いた。後ろ姿が震えているように見えるのは、きっと見間違いではないだろう。僕自身もさっきから指が組んだ腕に食い込んでいる。
「事情はわかりました。まずは、悲嘆と怒り、そして心配と不安のなか、ここまで駆け付けてくれたことに敬意を表します。本当にありがとう。そして、一刻も早く反乱軍を村から追い出さねばなりません」
「では──」
「ええ。我々で向かいます。今から王宮に連絡を送っても間に合わないでしょう。幸いにもここには、上級魔法が使える人間が3人もいます」
当然ディサナスは除くとして、王女に僕、そしてもう一人は──。クラーラ王女はルイスの前に立った。
「町に助けを求めに来たこちらの方々をここに案内したのはルイス・バルバロッサ様、貴方ですね」
「ええ。この宿にクラーラ様らしき人が泊まっていることを聞いたあとに、町民に助けを求めていたところを見つけたのです。急な訪問で不躾とは思いましたが、緊急事態でしたので」
あまりにも王女が接近しすぎたのか、ルイスは一歩後ろに下がって一息で話した。
「いいえ、賢明な判断です。感謝します。そして、バルバロッサ大臣のご令嬢ということは貴方も上級魔法が使えるはず。私達と今すぐ出発しましょう」
「もちろん、そのつもりでこざいます。最大限の働きをしてみせますので、どうぞよろしくお願いします」
笑顔で用意していたようにスラスラと台詞を述べると、ルイスは恭しく頭を下げた。
ヴェルヴをもう片方のポケットに戻す。村人達が嘘をついているとは思えない。ルイスも疑うべき要素はない。だが、それでも僕は何か嫌な予感がしていた。




