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就寝前に

 カロリナの部屋を出て自室に戻る。本当はエドと話をしたかったが、さすがに今夜は遅すぎた。


 防音用の重い扉を開けると、ベッドに体を投げ出す。洗い立ての石鹸の香りが鼻孔を刺激し少しだけ疲れを癒してくれる。やっぱり、どんなところでも自室は落ち着く。


 元々中程度の客室である僕の部屋は一人で過ごすにはもったいないくらい広く、誰かわからないお偉いさんの人物画がいくつも飾られた真っ赤な壁に、目に鮮やかな深紅のテーブル、イス、そしてシャンデリアととてもリラックスできるようなつくりではなかった。さすがに絵画だけは取り外してもらったが、それ以外のものは残り、慣れるまで目がチカチカしてしょうがなかった。


 暗がりの中、テーブルの上に置いたコップに入れた水で喉を潤すと、カーテンを開けた。カロリナの部屋から見たのとはまた違う湖畔の景色が月明かりに照らされる。水が人の心を落ち着かせるのはどこの世界においても同じらしい。前に、ヴァイオリン奏者が湖のそばで目に見える大きさの雨を降らせ虹を出現させていたが、多くの生徒がわざとその水を浴びたり、その光景をうっとりと眺めたりと楽しんでいる様子を見たことがある。


 湖面は静かに揺れていた。今頃、マリーもこの景色を見ているだろうか。それとも、趣味の読書かあるいは楽器の演奏に励んでいるかもしれない。


 学校に入学してから今までマリーと一緒にいて、どういう人間なのか、趣味嗜好、性格、考え方などはだいぶつかめてきていた。知らないことといえば、さっきカロリナの部屋で偶然閃いた過去の出来事くらいだ。マリーの過去だけでない、この城がこの国がこの世界がどんな歴史を歩んできたのか、考えてみればまだ何も知らない。カロリナのこともマリーのこともまだ何も知らないんだ。


 今日何度目かわからないため息が出た。その息を封じ込めるようにもう一度水を飲む。下手したら頭痛もしそうだ。


 漫画とかアニメとか小説とか、普通、異世界と言えば楽しくてワクワクドキドキな大冒険が待っているんじゃないのか? 僕がやっていることと言えば、日々頭を悩ませストレスを溜めることばかりだ。


「とはいえ、楽しいけど」


 全力で何かに取り組むことなんておそらく久し振りだ。全力で悩むことも、全力で怒ることも、全力で誰かを助けようと思うことも。そう思うとこの世界も悪くない。いや、この世界の方がいいかもしれない。


 とにもかくにも、もう寝よう。明日も朝早いのだから。僕はそんなことを思いながら、そっとカーテンを閉めた。

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