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スルノア王宮防衛戦

 外は嫌になるくらい晴れ渡っていた。宮殿から出たばかりの目に直射日光がささり目を細める。そのまま手をかざして見上げると障害となる雲は一つもなく、眩しい太陽の光は爛々と輝いていた。


 敵にも味方にも見通しのいい実に戦闘日和の日だ。そんな言葉があるのなら。


「只今歩哨から報告がありました! 敵軍の先頭が森を抜け、まもなく肉眼でも見える距離かと!」


 僕とさほど年の変わらない伝令係の若い兵士が近距離にいるにも関わらず声を張り上げた。


「うむ。では陣の展開を。ハルト殿、準備はよろしいですか?」


 フェルセン副大臣は颯爽と軍馬に跨がった。カロリナが後衛にいるため、指揮は副大臣が担う。


「もちろんです。カロリーナ様に合図をお願いします」


「了解」


 副大臣が後ろにそびえ立つ王宮に向かって腕を大きく上げると同時に、空から強迫的な激しいピアノの旋律が降り、地面から火が噴き上がった。ユラユラと揺れる炎は、まるで蝋燭に火を点すように次々と隣へと波及していく。赤い絨毯が宮殿をぐるりと一周すると、一際強く鍵盤が弾かれ、青空のある一点に向かって次々と火柱が伸びていき、総勢800人をすっぽりと収めるほどの巨大な赤色の半円を創り上げた。


 この場に集った多くの人が、カロリナの力量をいかんなく発揮したその現象に釘付けになっていた。これが戦争でもなければ大拍手が沸き起こるところだろう。


 その代わりに副大臣の号令が響くと、全員が予定された配置へと足早に移動していく。


「では、私も行きます」


 僕は制服のポケットにヴェルヴとリベラメンテがあるのを確認すると、指定の位置へと足を向けた。一歩一歩確かめるように王宮から遠ざかっていく。次第にピアノの音も喧騒も小さくなり、通り抜ける風の音と微かな地面の振動が大きくなっていった。進軍してくる足音だ。


 まるで生き物のように蠢く炎の壁のギリギリ手前まで近づくと、ヴェルヴにカロリナの魔法を込めた火と水のリベラメンテをそれぞれはめる。紅と碧で彩られた短剣が姿を現した。


 随分と久し振りな気がするその色と、爽やかな空気、そして微かに聞こえるカロリナの演奏が、自然とここに来てからの何ヵ月間かを思い起こさせる。


 いつの間にか当たり前になった日常。まだまだわからないことは多いが、もっとずっとこの世界を見てみたい。そのためにはーー。


 地を蹴る音が鮮明になる。敵影がその姿を現した。


「敵が姿を現した! 総員体勢を整えよ!!」


 ピアノの旋律を遮って、副大臣の怒鳴るような大声が戦場に響き渡る。兵士を中心にした喚声のような掛け声がそれに応えた。


 来る。僕は柄を強く握り締めた。緊張の糸が足先から頭のてっぺんまでを貫くのがわかる。赤壁の隙間から覗く先には何百か何千かとにかく数え切れないほどの軍勢が草木を薙ぎながら疾走してくる。思ったよりも移動速度が速い。馬かそれともーー。


 鼓動が速くなり、呼吸が浅くなる。本当にやれるのかこの僕に。攻撃したら敵はどうなる? 死ぬのか? 殺すのか? 僕が、この手で。


「落ち着け。大丈夫だ。身を守ることだけ考えろ。やるべきことは一つ」


「そう、敵を薙ぎ倒すことよ」


 聞き慣れた声に振り返ると銀色に輝く甲冑に全身を包んだ一人の兵士が腕を組んで立っていた。


「誰だ?」


「あのねぇ、誰だってことはないでしょ。昨日半日近く一緒にいたじゃない。私よ、ルイス」


 そう言うと兵士はフルフェイスを脱いだ。そこから現れた赤髪に切れ長の瞳は、間違いなくルイスだった。


「ルイス! なんでここに! 生徒は後衛にって指示があっただろ!」


「あったわね。だけど、今回ばかりは関係ないわ。私はいたいところにいるの。気にしないでただの気まぐれな反抗期よ」


 髪を風に靡かせながらルイスは残りの甲冑も地面へと投げ捨てていく。ちらほらとその様子を見ている兵士もいたが、ほとんどは敵に集中して前方を見据えていた。


「だからって……」


「いいじゃないの。私が来たから少しは緊張が解けたでしょ?」


 言われてみれば確かに体が軽くなっている。


「さて、無駄話もおしまい。来るわよ!」


 ルイスもヴァイオリンを構えた。慣れた手つきで弓を弦の上で滑らせると、ルイスの髪を微風が吹き抜けていく。


 敵軍と向き合うと、僕も今一度ヴェルヴに力を込めた。軽やかにかつしっかりと。カロリナ曰く、「いい演奏は肩の力を入れすぎても抜きすぎてもダメなのよ」。


木製の柄から伸びる短い刃は、淡い赤色の光を発し、僕の背丈ほどの大剣にその姿を変えた。両手でそれを振り上げ思い切り地面へと突き刺す。


 低い地鳴りのような咆哮へ向かって、一直線に地面へとヒビが入り、次の瞬間に焔が溢れ出てほとばしっていく。


「あの攻撃にやられたのよ、私」


 後ろでルイスがぼそりと呟いた。

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