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菰宮牡丹は100倍可愛い。  作者: ジンボヤスヒデ@ぼんじー
9/30

9.0 高校生といえば、屋上で青春が始まるのだろう?


 放課後。


「将棋部なんてどうだろう。」


と、浮瀬は将棋部の勧誘ポスターを見ながら問いかけてくる。


「あれは将棋部という名前の、ボードゲーム部だよ。活動も、ほとんどしていないし。」


「ボードゲーム。いいじゃないのかな。コンピュータが生活を埋め尽くしたこの時代に、アナログのゲームに興じるのは、なかなか趣深い。まるで、戦争のようだ。」


「そんな意識の高いことを考えている人たちではないと思うけど。」


「もちろん、これまで戦争という物をしてきた人たちには、少なからず意識の高い、立派な人たちもいた。けれども、戦争というものの利益を被ってきた人たちは、概して意識の低い人たちだった。」


浮瀬は、大切な思い出をたどるように、深いため息をついた。


「ところでどうする、どこか具体的な部活に見学でも行ってみる?将棋部は今日は休みのはずだけど。」


「そうだね。もう少し、校内を案内してもらおうかな。まだこの掲示板にしか見ていない。」


 ここは一般的な高校だ。放課後、部活動以外に見学するような場所なんてあるのだろうか。


そもそも、僕自身がこの高校についてほとんど知らないというのに。


「そうだ、小石井君。屋上には上がれるのかな。高校生といえば、屋上で青春が始まるのだろう?」


 それはライトな小説の中の話だ。中学の時は、危ないからという理由で、生徒は屋上に上がらせてもらえなかった。きっと本当のところは、管理や清掃が面倒で、誰も立ち入らないように決められていたのかもしれない。


僕たちのような普通な高校性は、閉ざされた屋上と、存在しない美少女に思いを馳せながら、ライトな小説を読む。


 それが、僕たちにとっての青春なのだ。


「随分と安い青春だね。」

と、浮瀬は二階へと繋がる階段に向かって歩き出した。

「行ってみないとわからないだろう。」


僕は、その後ろ姿を追いかけた。



 屋上へと続く階段を上ると、一枚の扉が現れた。


浮瀬はそのドアノブを回したが、扉が開く気配はしなかった。


屋上と校内を隔てる扉というのは不思議だ。建物の中から外に出るために、鍵が必要になる。


実際、高校の屋上に出られるかもしれないということに少し期待していた。が、やはりそれは叶わなかった。


無意味なことだとはわかってはいたものの、僕もそのドアノブに手をかけようとすると、浮瀬がそれを手で制した。


「少し離れて、後ろを向いて、耳を塞いでいてくれないか。」


僕は、言っていることの意味が分からないという顔をする。


「試してみたいことがあるんだ。」


言っていることの意味は相変わらず不明だったが、浮瀬に真っすぐと見つめられ、僕はその場から少し離れる。そして後ろ向き、背を向けた。


ほんの数秒あと、錆びた重たい扉が開く音と同時に、僕が立っている階段が、明るく照らされた。


「小石井君、やっぱり鍵はかかっていなかったよ。扉が錆びていて、少し硬かっただけかも。」と、浮瀬は僕の肩をたたいた。


いやいや、それは嘘だろ。お前絶対何かしただろ。と言う目で浮瀬を見たが、彼はそのまま扉の向こうへ歩いて行った。


 僕も彼に続く。



 夕日が眩しい。僕たちは、屋上に出たのだ。


 彼は校舎の淵に近づき、校庭を見下ろしていた。フェンスも何もなく、彼が数歩前に進めば、そのまま校庭に頭から落ちるだろう。


 校庭では、野球部やサッカー部が掛け声を出し、足元の校舎の中からは、吹奏楽部の各パートの、ばらばらに別れた演奏が聞こえる。


「小石井君は、どうして部活動に所属しないんだい?」


「入りたいと思える部活が無いだけだよ。」


「それなら、自分で作ってしまえばいい。」


自分がやりたいと思うことを。


 それは、僕が九重さくらに告げた言葉と同じだった。


「僕がこの三年間でやりたいこと…」


「いや、三年という区切りで考えない方がいいんじゃないかな。石の上にも三年と言うけれど、必要な時間は人それぞれだよ。温めたい石の大きさにもよる。〝意志〟の大きさにもよる。それが十年でも、一か月でもいい。」


達成するために必要な時間。


「そう。達成感を得るために必要な時間だ。部活というものは、結果よりも過程が大事だ。何十年も前から僕たちは、そう教育されてきた。」


 そして浮瀬は、校庭に向けていた視線を、こちらに向けた。


「小石井君が今、興味を持っていることはなんだい?」


興味。


「いや、関心があることだ。」


僕の頭には、あの新聞記事が浮かんだ。


「そう、それは君の頭から離れないものだ。」


あの日から、あの記事が、あの理論が、頭から離れない。彼は、そのことを知っているのだろうか。


「そういえば、」と、僕は口を開いた。


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