あふたーとーく(九重さくらと九重きょうか)。そして。
この話は、本編『菰宮牡丹は百倍可愛い』の後日談です。
ネタバレを大いに含みます。
というか、ネタバレでできています。
お楽しみください。
ツインテール会長との対決から一夜が明けた下之宮高校。
放課後の教室。
「そうですか。私の部室は屋上になったのですね。」
僕の席の近くに車椅子を寄せた九重は、なぜだか楽しそうだった。
「ごめんね。九重さん。」と、僕は謝る。
「いえ、いいんですよ。私たちの部活の存在目的が、私たち部員全員が、部室に集合することというのは、なかなか粋な目的です。」
それにしても、と、九重は続ける。
「会長はそんなに強かったのですね。オセロも、人生ゲームも。もし私がいれば、局面解析を駆使して、“室内の部室”を手にできたかもしれません。」
「いや、九重さん。いかさまはダメだよ。」
と、僕の席の後ろ、猿渡の席に腰かけた浮瀬が、発言する。
「そうですよね。すみません。」
と、九重はおどけたように、頭に手をのせる。
いかさまをしたのはお前だろ。
と、僕の視線に気がついた浮瀬は、
「でも、魔法を使っても勝てそうになかったな。」
と付け足す。
「いえ、私は魔法ではなく、科学ですから。」
と、九重は胸を張った。
「九重さんは、魔法とか、信じないの?」
と、僕は聞いてみる。
「いえ、どちらかと言えば、奇跡も魔法も、信じていますよ。小石井くんにはお話ししましたが、私には妹がいるんです。」
九重さくらの妹、九重きょうか。
「妹さん。」
と、浮瀬は興味があるという素振りを示した。
『浮瀬さんという人に会ったら、伝えておいてくれる?“余計なお世話よ。”って。』と、九重きょうかは言っていた。
彼女の言う浮瀬とは、きっとこの、浮瀬雲母のことだ。
「はい、九重きょうかという名前です。平仮名で“きょうか”です。その妹は、8歳の時に亡くなりました。」
「今は、もうこの世にいないんだね。」
と、浮瀬は尋ねる。その言い方は、返ってくるべき言葉がわかっていて、それを期待しているようだった。
「はい、この世に生きてはいません。」
けれども、
「けれども時々、彼女が、きょうかがそこにいるような気がする時があるんです。本当にたまにですが。」
“そこにいるかもしれない”と、思うときがある。
「“幽霊”という言葉ではしっくりきませんが。私も、こんな義体で、こんな形で生き長らえています。死ぬはずの私が、生きています。だから、死んだはずの妹が、そこにいてもおかしくはないはずですので。」
と、九重は教室の窓に目をやった。きっと彼女は、窓の向こう側を目にしている。
彼女は今、何を考えているのだろう。
「九重きょうかさんは、なかなか自信家で、自分一人でなんでもやろうと思っていて、しかも一人でやりきれてしまう子だったんじゃないかな?」
と、浮瀬が口を開いた。
「はい、その通りです。」と、九重はこちらに視線を戻す。
「どうしてそう思ったのですか?私もそんな性格でしょうか。」
「いや、本人の前ではちょっと。」
と、浮瀬は返事をはぐらかし、
「それにしても、いい名前だね。」
と、話題を変えた。
九重さくらと、九重きょうか。
「ありがとうございます。父の好きな歌、歌と言っても和歌ですけど、そこから付けてもらいました。」
九重は、一呼吸開けると、その歌を詠む。
いにしへの 奈良の都の 八重桜
けふ九重に にほひぬるかな
そしてまた、一呼吸、二呼吸開く。
「平安時代の女性歌人、伊勢大輔の歌です。」
「昔の都、奈良の八重桜が、今は京の都で満開に咲いている。」
と、僕が口にする。
「はい。だいぶ大雑把ですが、そのような意です。」
「"九重"で、"満開"か。」
と、浮瀬は呟いた。
彼はちらりと九重の方を見ると、頬杖を突く。
「昔と今。その対比が美しい歌だ。」
「そうですね。ですので今度は、浮瀬くんのお話を、聞かせてほしいです。」
浮瀬雲母の話。
「うん。僕もいつかは、話さないとね。」
"私の話を。"
「あら、『私の話』だなんて。なんだか女の子みたいですよ。」
と、九重は彼をからかった。
そして、彼は。
To Be Continued…
近日投稿。
彼の、彼女の物語。
彼と、彼女の物語。
『菰宮牡丹は百倍可愛い』を、最後までお読みくださり、本当にありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。




