あふたーとーく(浮瀬雲母と生徒会長 後編)
この話は、本編『菰宮牡丹は百倍可愛い』の後日談です。
ネタバレを大いに含みます。
というか、ネタバレでできています。
お楽しみください。
「それじゃあ、私を倒してもらおうか。」
屋上部の、生徒会から部室を奪取する戦いが始まった。
オセロ。
ボードゲーム。
浮瀬はかつて、
『ボードゲーム。いいじゃないのかな。コンピュータが生活を埋め尽くしたこの時代に、アナログのゲームに興じるのは、なかなか趣深い。まるで、戦争のようだ。』
と言っていた。
ににんぜろわゆうげん何とかかんとかゲーム。
まああれだよ。そこに偶然は無いというゲーム。
そこには、奇跡も魔法も、存在しえない。
「オセロ?リバーシ?って、すごいよねー。ルール説明、五秒で終わっちゃうもん。
ってことはさ、勝敗もそれくらいで着いちゃうかもねー。」
と、ツインテール会長は、生徒会室の棚からオセロ盤を取り出し、準備を始める。
「じゃ、小石井からやろっか。」
「はい。」
「私白ねー。」
オセロは、交互に手盤を行うボードゲームだ。五秒で決着が着くわけなどない。
五十秒でも無理だろう。
が、五百秒くらいで勝敗が決した。
8分くらい。
「あ、え、パスです。」
ぱちん。
「パス、です。」
ぱちん。
真っ白。
盤上も、頭の中も、真っ白だった。
「会長、あの、強すぎませんか?」
「ん?小石井が弱すぎるんじゃない?」
そうですか。
「じゃあ次、浮瀬ね。」
「はい。では。僕も黒で。」
と、僕は席を交代し、浮瀬は石を並べる。
次は浮瀬も警戒してか、かなり慎重に打っていてため、五百秒くらいではまだ中盤だった。
ただ、彼もまた劣勢だった。
浮瀬の手盤、彼は急に立ち上がり、「あの棚の上の箱は、人生ゲームですか。」と、指を指す。
「あ、ああ。後でやる?」と、会長は一瞬、視線をそちらに向け、答えた。
と、その瞬間。盤上の石の1つの色が、白から黒に変わる。
な、え、なんだこれ。と、僕が戸惑っていると、
「あれ、この石、黒だったっけ?」
と、ツインテール会長も、首をかしげ、ツインテールが揺れた。
「違いましたっけ、誰も触っていませんよ?」
と、浮瀬は笑顔で返した。
こいつ、もしかして、魔法とやらを使ったか…?
浮瀬は飄々と、その石の対角線上に黒の石を置く。
「ま、面白いからいいや。」と、会長もそのまま打ち続けた。
さっきの魔法(?)のおかげで、形勢が変わり始めた。浮瀬の黒色が多くなる。いや、正直なところ、オセロの形勢なんて素人の僕にはよくわからないが、ツインテール会長は明らかに思考時間が長くなった。左右の髪をフリフリ、頭を左右に揺らしている。
すると、「ああ。まるほどねー。」と、何かに納得すると、会長は手を一気に早くする。
ぱちん。ぱたんぱたん。
ぱちん。ぱたんぱたんぱたん。
会長の白が押し返してきたが、果たして。
ぱちん。ぱたん。
と、盤上のすべてのマスを白黒の石が埋め、ゲームが終わった。
「ふう。」と、お互いに、気が抜ける声を漏らした。
浮瀬が少し優勢だろうか。浮瀬は素早い手つきで黒石をかき集め,数を数える。
「32個あります。」
「うん、知ってるよ。おしかったねえ。」
32対32。
勝負は引き分けだった。
「あの、白石が黒石にいつの間にか入れ替わってた件だけど。」
と、会長は楽しそうに話し始めた。
「手品としては100点だけど、いかさまとしては30点くらいかなー。」
「ばれていましたか。すみませんでした。」
と、浮瀬はあまり悪びれずに謝る。
勝てなかったことが相当悔しいらしい。膝の上に置かれた、左手はきつく握られている。
「いや、タネは分からないんだけど。」
けど、
「あの局面、つまり、あの手数、あの石の配置の局面では、黒石はあそこにあるはずないんだよ。」
存在しえない局面なんだ。
"確かに存在する"ってことが大事なんだよー。
「だから、いかさまとしては30点。私には通用しないなあ。」
それを踏まえて、会長は引き分けまで持ち込んでいる。
「でもね、まるで魔法みたいだったよ。すごかった。一瞬、何が起きたか理解できずに、私の頭がフリーズしたもん。」
と、そこで、浮瀬は握っていた拳を開いた。
「そうですか。楽しんでいただけて良かったです。」
「あの、会長。部室についてなんですけど。」
と、僕は浮瀬の隣から切り出した。
「あ、そっかそっか。部室部室。私に勝ったらって条件だったからねー。引き分けじゃあねー。」
でも、楽しかったし?と、
「じゃあこの校舎の屋上を、部室として正式に認めてあげるよ。」
君たち、屋上部だし。
と、会長は笑いながらオセロ盤を片付けていた。
「あの、入部者に、足の不自由な生徒もいまして、彼女は屋上には上がれないんです。」
と、僕は抗議した。そもそも屋上は部屋じゃないし。
「それを可能にしようってのが、屋上部の活動内容でしょ?」
と、ツインテール会長は座っていた椅子を動かし、その上に載って、棚の上の人生ゲームに手を伸ばす。
届いていない。
彼女の手も、僕の言葉も。
「そもそもさ、小石井。屋上部の部員候補って、全員同じクラスでしょ?放課後の教室に残って駄弁ればよくない?」
確かに。
「いいじゃん。部活の目標に『部員全員で部室に集合すること。』って書き加えれば。青春っぽくない?」
そんなことよりさー。と、彼女は今日の本題をそんなこと呼ばわりし、
「あれ、取ってよ。」
と、棚の上の人生ゲームの箱を指さした。
「はい。」と、浮瀬は立ち上がり、ツインテール会長に代わって椅子の上に乗る。
僕は、この部屋に来てずっと気になっていたことを聞いてみた。
「あの、他の役員の方はどうしたんですか?」
菰宮副会長が退学したとはいえ、他にも、書記と庶務、会計がいるはずだ。
「ああ、なんか皆、たまたま別々の用事があるみたいでさー。帰っちゃった。」
はい、お待たせしました。と、浮瀬は人生ゲームを机の上に置く。
「よし、やろうやろう。」
と、ツインテール会長は、その箱を開け、準備を始めている。
その姿も、行動も、まるで小学生だ。
暇つぶしに僕たちを呼んだだけなのかもしれない。
「よし。レッツ人生!」
と、謎の掛け声で、ゲームは始まった。
ちなみに、僕と浮瀬は大量の借金の抱え、自己破産に追い込まれる。人生のゴールまでたどり着くことができなかった。
ツインテール会長といえば、太平洋上の島を買い、月旅行に行くという偉業を成し遂げ、それでも有り余る富を有してゴールまでたどり着いた。
人生の勝ち組だった。
まあ、楽しかったからいいんだけどね。
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生徒会室から出て、僕と浮瀬は昇降口に歩いていた。
「九重さんに謝らないといけないね。」
と、浮瀬は言うが、
「仕方ないよ。ツインテール会長、凄く強かったし。『すごい幼女』とは聞いていたけど、あんなふうに凄かったとはね。」
「うん。いやあ、魔法まで使って勝てなかった。」
やっぱり魔法だったのか。
って、簡単にカミングアウトするんだな、この魔女。
「その魔法のことなんだけど。もし、あの魔法をビデオカメラで撮影したら、どんな風に映るんだろう?一瞬で色が変わっているの?」
「いや、何も変化しないよ。あの石はずっと白だった。"黒のように、見えていただけ。"」
黒のように見えていただけ。どういうことだろう。
「それよりも、きっとあの部屋、隠しカメラが仕込まれているはずだよ。僕の魔法を確認するために。」
どういうことだ?
「きっと生徒会は、僕の正体に気が付いていたのかもしれない。だからわざわざ、他の役員がいない少人数で、アナログなボードゲームをプレイさせた。」
魔法が使いやすいように。
「まあ、僕の考えすぎだといいんだけど。」
と、浮瀬は苦笑いをする。
けれど、その可能性がわかっていて、どうして浮瀬は魔法を使ったのだろう。
昇降口に着くと、「じゃあ、僕は、部室に顔を出すから。」と、浮瀬は校舎の中に引き返していった。
いや、校舎の外に、向かっていったというべきだろうか。
○○○○○○○○○○○○○○○
生徒会室。
「いやー。浮瀬の魔法、すごかったなー。カメラ回しておけばよかった。」
と、生徒会長椅子に座る少女は独り言つ。
「まあ、他の役員には伝えとくかー。『予想通りの存在だ』って。」
それに。と、彼女はため息をついた。
「なんで本名で呼んでくれないかなぁ。」
地の文でさえも。と。




