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エスパーチョンカ!  作者: ちぇり
第5章
98/109

12

 スジ太郎は屈んでチョンカの方へ背を向けている。両手もチョンカの方へ伸ばし、チョンカが負ぶさるのを待っているのだ。一度は了承したものの、チョンカはスジ太郎に体重を預けることを躊躇っていた。



「スジ太郎、絶対絶対ぜーーーーーーーーーーったいに乳は出さんでやっ!? ちゃんと元栓閉めとかんと、今度は本気で殴るけぇね!?」


「大丈夫だっチョンカ! もう出さない。チョンカの為に出さないって決めたから!」



 少しスジ太郎の顔が男前になっているが、チョンカにはその言葉の全てを素直に信じることができずにいた。



「さぁ、チョンカ君。早く乗らないと本番まで時間がないよ?」



 チョンカを急かす西京の後ろで、シャルロットとラブ公がハラハラしながら見守っている。というか、なぜか二人の距離が遠い。



「わ、分かった……じゃ、じゃあ乗る……よ?」


「ばっちこーーーーーーーいっっっ!!」



 チョンカは恐る恐る右足を、屈み込んでいるスジ太郎の右脇に差し入れた。



「んっっっにっひっっっ────────っっっはぁ!! はぁ!!」


「ス、スススス、スジ太郎!? ど、どしたん!? ま、まさかっ!?」


「いや!! いやいや、いや……だ、大丈夫……乳は出てないぜ……さぁ、どんどん来てくれ……」



 ポタポタと、雫が落ちるような音が聞こえるような気がしたが、チョンカはそのまま左足も差し込む。そしてスジ太郎の両手が結ばれチョンカの尻を支えた。立ち上がればおんぶ完成である。



「ちょ……スジ太郎……手が……もしかしてお前……うちのお尻……触っとらん?」


「なっ──!! ば、馬鹿っ、そんな破廉恥なことするわけないだろ!? さ、さぁ、立つぜ?」



 そうは言うもののスジ太郎の呼吸が荒い。立ち上がってすらいないこの状態でなぜ呼吸が荒くなるのか、チョンカには理解不能だった。


 スジ太郎はラブ公に授乳し、ラブ公に心を捧げようと決めていた。決めていたがスジ太郎の中では、やはりチョンカは特別な存在なのだ。初めて惚れた女である、チョンカの肌がピッタリと触れている。息が荒くなるのも当然であった。摩擦でチョンカの尻から火が出るほどに撫で回しているのも無意識のことであった。


 やがてスジ太郎は荒くなった呼吸を整えた。

 乳を我慢する術を覚え、その時間を長くするように特訓を重ねてきたのだ。精神集中は手馴れたものである。だがしかし、難しいのはこれからだ。


 牛の乳は人間の乳と違い人間で言うところの、腹の部分についている。屈み込んだ状態から立ち上がる際は腹に力を入れ、腰には大きな負担がかかる。つまり、腹にある乳にはかなりの負担がかかるのだ。

 足腰に力を入れ、乳には力を入れつつもブレーキをかけなければならない。スジ太郎は後悔していた。もしかしたら立っている状態から飛び乗ってくれた方が楽だったかもしれないと。

 しかしこの状況ではもうそれも遅い。

 スジ太郎は呼吸を止め、目を見開いた。



「今だっっっっ────────!!」



 ブシィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!



 スジ太郎の乳首から放たれた超高圧の白液が地面の土を穿った。



「何しよんよっ!! この変態っっっっ!!」



 すぐさま背中から飛び降りたチョンカがスジ太郎の後頭部に拳骨をお見舞いした。



「ひっ……ひぎぎぎぎぎぃぃぃぃぃ……く、くっそ!! 制御が甘かったああーーーーはぁんっ!!」



 好きな女を負ぶったまま乳を我慢することなど困難を極める。

 乳を噴出しながらも立ち上がれないスジ太郎の姿は、まるで離陸に失敗したロケットのようであった。










 スジ太郎は素直にチョンカ達に事情に説明した。

 再び好きだと言われてチョンカは赤面し、それ以上は責めることをしなかった。

 そしてスジ太郎の発案により今度はスジ太郎が立った状態でチョンカが背中に飛び乗ることとなった。乳を出してしまったものの、なんとか許しを得られたのだ。

 とはいえシャルロットは終始白い目でスジ太郎を睨んでいたのだが──



「スジ太郎ーー! いくよーー??」


「おう! チョンカ!! いつでもこい!!」



 背を向けて立つスジ太郎の背中に向かってチョンカは走り出した。

 そしてジャンプでスジ太郎に飛びついた。いつものラブ公のようである。



「んっっっ!! …………んほっっ!!」



 チョンカが飛び乗った衝撃で乳首からほんの少し乳が飛び散り地面を濡らす。これくらいはセーフである。見ているシャルロットから言わせれば完全にアウトであるが。



「スジ太郎? い、いけそう? おお? 今度は出とらんねっ!」


「お、おう……おぅ……おっっっふ!? こ、これは!?」



 スジ太郎の背中に、温かくて柔らかい感触のするものが二つあった。

 決して大きくはない。むしろ標準より小さいかもしれない。しかしそれは健康的でスジ太郎が触れたことのない柔らかさを持っていた。

 スジ太郎の体に、電流が流れた。我慢し耐え忍ぼうとするが逆らえるレベルの柔らかさではない。そして容易に臨界点に達してしまう──



 ブバッッッッッ!!



「え!? ちょっ、スジ太郎!?」



 スジ太郎を上から覗き込むチョンカは見た。スジ太郎の鼻から白液が出ている。



「な、なんで鼻から乳が出よるんよ!! き、キモイんじゃけど!?」


「チョ、チョンカ……耐えたぜ……乳首からは出てないだろう……へへ……」


「そ、そうじゃけど……ぞわぞわっ……え? 乳って鼻からも出るん?」


「それよりチョンカ……頼みがあるんだ……」


「な、何? 乳は出さんでやっ?」


「おんぶのときは……頼む……上体を起こして、なるべくでいいから腕組みをしていてくれないか?」


「は……?? ええけど、なんでなん?」



 おんぶに成功した二人のもとに西京が歩み寄ってきた。



「まぁまぁ、チョンカ君。それ以上は突っ込まないでやってくれるかい? スジ太郎君の言うとおりにしてあげなさい。でないとスジ太郎君ももたないだろうからね」


「……??」


「西京さん……っざっす!!」


「ではチョンカ君、まずは歩いてみよう。いいかい? これはかなり難しいよ? まずは二人を包むサイコガードとシールドを展開しなさい」



 チョンカは西京に言われたとおり、自分とスジ太郎を中心にサイコガードとサイコシールドを展開した。これはチョンカにとっては造作もないことである。



「ふむ、では次にガードとシールドを維持したままスジ太郎君にサイコブーストをかけてごらん」


「分かった!! ん~~~……えいっ!!」



 力んだチョンカの両目が見開いた途端、スジ太郎の体が光り始める。

 そして見る見るうちにスジ太郎は年老いてしまった。髪が伸び筋組織は衰え、乳がしわしわの伸び伸びになる。



「おーっと、チョンカ君? ストップだよ。そのままかけ続けるとスジ太郎君が老衰で死んでしまう。サイコリバース!」



 西京のサイコリバースにより、スジ太郎は元の体を取り戻す。

 チョンカは「にへへ」と言いながらペロッと舌を出しているが「冗談じゃねーぞ!」とスジ太郎はチョンカのほうを振り向きながら怒っている。



「加減をしなさい。通常の三倍ほどの速度が出せる程の加速でいい。ゆっくりやってごらん」



 チョンカは今度こそ成功させるべく精神を集中させる。スジ太郎の体が再び淡く光りだした。



「ふむ、いい具合だね。スジ太郎君、歩いてごらん」



 スジ太郎は右足をゆっくりと出し、続いて左足を前に出した。普通の歩行であるが、見ているシャルロットたちには足の動きが見えづらい程度に早くなっていた。一歩の時間で三歩ほどの距離を歩いてみせたのだ。



「それでいい。最後にチョンカ君、サイコキネシスでスジ太郎君の背中と足を押してやりなさい。ただし足は難しいよ? 前に出す足はふくらはぎ、後ろに下げる足は脛を押してあげるように。サイコブーストで動きが早くなっているからね、チョンカ君自身にも少しだけブーストをかけたほうがうまくいくかもしれない。これは二人の息が合わないとかなり困難だよ? 難しいと思うがやってごらん?」



 チョンカとスジ太郎は互いに顔を見合わせてから前を向く。

 チョンカが精神を集中させる。真剣な面持ちのチョンカの額に汗が浮かんでいた。能力の多重起動。その上、精密な操作が必要とされるこの作業は口で言うよりも難しい。西京がはっきりと「難しい」と言うのだ。相当のものである。



「スジ太郎!!」


「チョンカ! こいっ!!」



 シャルロットとラブ公には二人が突然数メートルの距離を移動したように見えた。瞬間移動とまではいかないし、確かに動いたのは見えたのだが、その速度は明らかに異常である。

 シャルロットは心の中で、素直にチョンカの才能を賞賛していた。自分にも出来るかどうか分からない。やはりチョンカは並々ならぬ才能の持ち主であると改めて認めていた。



「チョンカちゃん、すっごいよ!!」


「ええ、さすがよ、すごいわチョンカ!!」


「にへへっ、で、でもこれぶち疲れる……」


「よくやったね、チョンカ君。今のは単なる歩行だが、本番は走りながら山道を登る。つまり今以上に早い動きをしながら能力を継続して使い、さらには外敵と戦うことになる。今日と明日は二人でこの訓練に励みなさい」



 チョンカとスジ太郎は西京の言葉に力強く頷いてみせた。そしてチョンカはさっそくスジ太郎に提案を持ちかけた。



「スジ太郎、このまま山を登ろう? サン平に追いつけるかもしれんよ?」


「そうだな、どうせ練習しなくちゃいけないなら、とりあえず山を登ってみようぜ」



 そう言うと二人は腰を落とし、走り出す姿勢をとった。



「先生! うちらさっそく行ってくるけぇね!!」


「ふむ、では私達は山頂で待っていようか。クレアボヤンスで様子は見ていてあげるからね。では行こうか、シャルロット君」


「はい、マスター。チョンカ、頑張ってね!」


「チョンカちゃん……」



 心配そうにチョンカを見つめるラブ公にチョンカは伏目がちで、小さく返事をした。



「ラブ公……ありがとね」


「チョンカ、行くぞ!」



 走り出した途端に、スジ太郎は空中で美しい後方伸身宙返りを決めながら、そのまま茂みへ突っ込んでいく。

 振り落とされたチョンカは、けたたましい鈍い音を発しながら後頭部を強く地面に打ちつけた。



「あーーーーーーーーーーいっっっ!! あ、頭が割れよるっっっっ!! あたたたた……」


「チョンカ君、サイコキネシスの力の入れすぎには要注意だよ」



 そう言い残して西京達はチョンカ達を残し、山頂へテレポーテーションしてしまったのであった。

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