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トイレから戻り、すっきりとした面持ちのスジ太郎と合流し、チョンカ一行はウラメシ山登山道の入り口まで来ていた。
「チョンカ、どうしたのよ? こんなところに来て……っていうかさっきから見てるそれ、あたしにも見せて。何を見てるのよ」
チョンカはいつの間にか持っていたパンフレットのようなものに視線を落としながらここまで歩いてきたのだ。シャルロットたちは先導するチョンカについてきただけである。
シャルロットはチョンカからパンフレットを手渡され目を通してみた。
「えっ……と、ああ、運動会のプログラムね。へぇ、こんなのどこで貰ったの?」
「受付の横で配っとったよ」
「へぇ~……なになに──」
第300回 エスパー大運動会
競技目録
一日目
玉入れ競争 サ○ テ○ 他○
岩運び サ○ テ○ 他○
砲丸投げ サ○ テ○ 他×
二人三脚 サ○ テ× 他○
詰め放題競争 サ× テ× 他○
短距離走 サ○ テ× 他○
格闘大会 サ○ テ○ 他○
二日目
パン食い競争 サ× テ× 他○
サイコキネシス競争 サ○ テ× 他×
棒倒し サ○ テ○ 他○
障害物競走 サ○ テ× 他○
騎馬戦 サ× テ× 他○
長距離走 サ○ テ× 他○
乗り物ヒルクライム サ○ テ× 他○
「へぇ~……競技がかなり増えているわね。それに二日目もあるのね……ふーん……」
「ねぇねぇシャルちゃん! 『サ○』とかってなぁに?」
シャルロットの肩に負ぶさるような形でラブ公がパンフレットを覗き込む。
「ああ、これはね、『サ』はサイコキネシスを使っていいかどうかって意味で、『テ』はテレポーテーション、他っていうのはサイコキネシス以外の能力のことね。全部に○がついている競技は何でもありってことね」
「なんでもあり……ゴクリ」
「…………」
「チョンカ君、ここに何か気になることでもあるのかい?」
「……え? う、うん」
チョンカは西京の言葉に思考を遮られる。パンフレットを見ながらきゃいきゃいとはしゃぐ二人を見ていたのだ。
「最後の乗り物ヒルクライムっていう競技が一番盛り上がるって聞きよってね、参加するならコースを見とったほうがええよってパンフレット配ってた人に聞いたん」
「なるほどね。確かにそれは一理あるね。しかし……チョンカ君、乗り物ヒルクライムのルールは知っているのかい?」
「え? ううん。知らんよ?」
「チョンカったら、知りもしないで下見に来たの? 多分チョンカには参加できないと思うわよ?」
「えーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!? な、なんで参加できんのん?? うちが弱いけぇ?」
シャルロットの説明不足もあるのだが、参加ができないと聞き、チョンカはシャルロットに詰め寄り肩を激しく揺さぶった。
「お、お、お、お、落ち着きなさいって!! あ、あ、あた、あたしの言い方が悪かったわよ! チョ、チョンカのせいじゃないのよ?」
チョンカは自分のせいではないと聞き、ようやくシャルロットを解放した。ラストを飾るこの競技を一番楽しみにしていたのだ。
「ご、ごめんシャル……」
「げほっげほっ、いいわよ。あのね、この競技はその名前の通り、何か乗り物がないと参加できないのよ」
「シャルロット君の言うとおりさ。まぁ、乗ることができさえすれば何でもいいのだけれどね。それこそ馬車でも馬そのものでも」
「乗り物……」
乗り物ヒルクライムは、各自で用意した乗り物に乗ってウラメシ山を麓から山頂まで駆け上がるレースである。二人の言うように乗り物がなければ参加資格は無い。
当然だがチョンカ達に乗り物などないのだ。
「ん~お前達……新顔だな。ヒルクライムに参加する気か? キューィ」
シャルロットたちが肩を落とすチョンカを慰めていたその時、突然誰かに声をかけられた。
しかしあたりを見回すが声の主は見当たらない。覚えのあるシチュエーションにチョンカは足元を見た。
そこには大きなカボチャと、その隣にマフラーをしたモルモットがいた。
カボチャは中身がくり貫かれており、操縦席のようなものが設置されている。そして人間の目のように丸い窓が二つ、まるでハロウィンのカボチャのようだった。
モルモットは声をかけてきたくせに、手鏡を覗きながら尖った前髪をいじっている。
「わっ、ネズミじゃ!」
「ん~、俺をネズミと一緒にしないでくれるか? 俺は誇り高きモルモットだ……キューィ」
「モル……モット?」
「俺の名前はライジング・サン平。大会の常連さ……お前達、悪いことは言わない。ヒルクライムだけはやめな。キューィ」
チョンカはやめろと言われてやめるような性格ではない。むしろ藪から棒にやめろと言われて少しムッとしてしまっている。
「な、なんでそんなこと言いよるんよっ!!」
「おーーっと、レディ、勘違いは困るぜ? これは忠告さ。ヒルクライムには女王がいて、もう3年連続でトップなんだ。彼女の出したコースレコードは彼女自身にしか破られていない。参加しても優勝はあり得ないし、それに見たところレディはそれほど強そうじゃない……どの競技もそうだが殺し合うことも多い……エスパーは血の気が多いからな。このレースも相当危険だ。キューィ」
「ふーーーーーーんじゃ!! うちもう騙されんもん! エスパーの言いよることなんてもう聞かんもんじゃ!! うち、ぜーーーーーーーーーーーーったい参加するけぇね!!」
「ん~やれやれ……親切心で言ってやってるんだがな。仕方がない……レディ、俺と山頂まで競争するか? 初心者にこのレースは無理だと身をもって教えてやろう。キューィ」
「ああーええよ? うち絶対負けんけぇね!! ぐえっ!」
興奮しすっかりヒートアップしてしまっているチョンカのマフラーを、シャルロットが思い切り引っ張った。
「チョンカ! そんなこと言って! さっきの話を聞いてなかったの? 乗り物がなければ話にならないのよ?」
「げへっげはっ! そ、そうじゃった……すっかり忘れとった……」
「ふふ……くくっ、あーーーーーーーーーーーーっはっはっは! レディ、それは参加以前の話だ! レクチャーもしてやれないよっ! キューィキュィキュィ!! ははは、久しぶりに笑わせてもらったよ。じゃあ俺は練習を再開するから乗り物が見つかったらまたおいで……ぷぷぷ」
「ぬ、ぬぁぁ~~にぃぃぃ?? シャル!! こ、こいつ、踏み潰してもええ?」
チョンカが怒りをあらわにするのを見て、サン平はそそくさとカボチャに乗り込んだ。
カボチャがチョンカの目線と同じ高さまで浮かび上がる。サン平のサイコキネシスによるものである。
「アディオス! レディ!! キューィ!!」
悔しさで顔を歪ませるチョンカは、サン平がそのまま山道へ消えていくのを見ていることしかできなかった。握る拳に力が入る。
「チョンカ、仕方がないわよ……乗り物ヒルクライムはあきらめ──」
「チョンカちゃんらしくないよっっっ!!」
シャルロットの言葉を遮ってラブ公が叫んだ。それに一番驚いているのは他でもないチョンカである。
「……ラブ公……?」
「僕すっっっごく悔しいよ!! チョンカちゃんならあんな奴よりも絶対早いもんっ! ねぇ、チョンカちゃん、今からでも乗り物を探そうよ?」
「え……え、う、うん」
シャルロットはそんな二人を微笑ましいものを見る表情で見守っていた。あの様子を見ているとラブ公のおかげで本当の仲直りも時間の問題だと思えて安心できる。
そしてチョンカはラブ公に激を飛ばされ乗り物になりそうなものを必死なって考えるが、都合よく乗り物が見つかるはずもない。
「チョンカ君、もしもチョンカ君がどうしても参加したいというなら乗り物はあるが……どうするね?」
そのの言葉にチョンカが表情を喜びに一変させ、西京のほうへ振り向いた。
「せ、先生!! ほんま!? ど、どこ? どこにあるん??」
「まぁまぁ、落ち着きなさい。教えたら何でも言うことを聞くんだよ?」
「うんうん! 分かっとる!!」
「スジ太郎君、こちらへ来なさい」
「……ほぇ? スジ太郎がなんか関係あるん?」
チョンカは頭上にクエスチョンマークを沢山浮かべていたが、隣で見ているシャルロットは違った。西京の恐ろしい考えに気が付いてしまったのだ。
西京に呼ばれてスジ太郎がよちよちと歩いてくる。乳を我慢しているので無言な上、歩き方も少しおかしくなっている。
「まさか……マスター……?」
「チョンカ君、スジ太郎君に乗りなさい」
「え?? は? え、スジ、え? ……?? えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
チョンカが膝から崩れ落ちた。慌ててシャルロットが力を貸そうとするが、西京の言葉の衝撃にすっかり腰が抜けてしまい自力で立つことができなくなっていた。
「お、俺の背中にチョンカが!? うっひあ、あかん……が、がまんっっ、ふんっっっっぬ!!」
「ぜ、ぜ、ぜっっっっっっっっっっっったいに嫌じゃ!! せ、先生それだけは勘弁して!!」
「ふむ? チョンカ君はさっき何でも言うことを聞くと言ったね?」
チョンカは先程の、あまりに思慮を欠いた自分の発言を思い出し、見る見る内に青ざめていく。
「い、言った……うち言いよったわ……じゃ、じゃけどこれはっ……」
「チョンカ君、これはチョンカ君にとってもいい訓練になるのさ。別々のエスパー能力の同時使用はとても難しい。チョンカ君もサイコヒールでそれは分かるだろう?」
「う、うん……」
「まずこのヒルクライムで試されるのはサイコキネシスの持続時間さ。常に全力でサイコキネシスを使いながら山頂まで辿り着く必要がある。そしてサイコキネシスを使いながら他の能力を使用してライバルを蹴落とすなり、抜き去らなければならない。これはかなり高度なことだよ? チョンカ君にはそれができるかな?」
「で、できるもん! じゃけど……」
「ふむ、私もそう思うよ。それどころかその辺のエスパー、例えば先程のサン平よりも余程能力は高いよ。だが普通にやってはチョンカ君の訓練にならないからね。チョンカ君、いいかい? 私からの緊急課題だよ」
チョンカはようやく腰に力が入るようになり、シャルロットの肩を借りながら立ち上がる。課題と言われては受けないわけにはいかない。
「チョンカ君はスジ太郎君におんぶしてもらってこの競技に参加しなさい。自分の体とスジ太郎君の体全体にサイコガードとサイコシールドをかけなさい。さらにスジ太郎君に常にサイコブーストをかけること。そしてサイコキネシスでスジ太郎君の走行の補助をしなさい。これは二人の息が合わないといけないからね、明日は一日練習するように」
「は……はい……」
「いいかい? あくまでも走るのはスジ太郎君でチョンカ君は能力でスジ太郎君の強化、補助をしなさい。外敵と戦うのもチョンカ君だね。決してサイコキネシスで空を飛んではいけないよ?」
「マ、マスター、それはあまりにも不利なんじゃ?」
「ふふ、シャルロット君。本当にそう思うかい? シャルロット君は色々なエスパーを見て分かっているだろうが、能力の高いチョンカ君はこれくらいしないと他のエスパーと互角にならないだろう?」
ぷくっとチョンカの鼻の穴が広がった。
「よ、よーーしっ!! うち頑張る!! スジ太郎も頑張ろう? でも乳の元栓は絶対に閉めといてや!? 開けたら殴るけぇね?」
「チョンカ、殴ったらもっと出るんじゃないの……?」
シャルロットは深くため息を吐いた。本当に単純な性格だとあきれてしまう。だから自分はチョンカが好きなのだろうなぁと、さっそくスジ太郎を殴るチョンカを見ていて思っていたのだった。




