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エスパーチョンカ!  作者: ちぇり
第4章
74/109

17

 チョンカ達はサイコキネシスにより、シャルロットがあけた大穴を降りていた。

 ダディとムッシュは西京のサイコガードの中で徐々に下がっていく高度を見守っていた。



「ふむ、相当深いようだね。シャルロット君のサイコシャドウもここまで到達するとは中々だね」


「ガーーーーーッハッハッハ!! ムッシュよ、入り口とはここまで深いものであるかな!?」


「ああ、そうだ。かなり深いぞ。まぁもう少しだと思うが……」



 サイコキネシスで五分ほど降りた頃、ようやく底が見えてきた。

 底には既に海水が貯まりはじめている。

 その水面に、浮かぶものをチョンカは発見した。



「あ、あそこ! 壷輔がおる!!」


「ふむ、気絶をしているようだね。どうやら火は消えたようだが、ここまで深い穴だとは思っていなかったのだろうね」



 チョンカはウルフの側にサイコキネシスで近寄り、サイコスパークを更に追加しあたりを照らしてみた。

 ウルフを水面から引き上げ、どこかへあげてやろうと思ったのだ。



「ちょっと! みんな見て、降りてるときは気付かなかったけど、大きな横穴があるわ!!」



 シャルロットの呼び声で、全員が横穴の中に入り、サイコガードやサイコキネシスを解いた。

 おそらくはこの横穴がおさかなちゃんパラダイスの入り口であるはずなのだ。

 チョンカは横穴の周囲や奥を確認するべくサイコスパークをいくつか発生させてみた。


 横穴は金属の壁で囲まれたとても広い通路であった。間違いなく人工物、おさかなちゃんパラダイスである。

 通路の奥にはサイコスパークの光も届かない。今にもチョンカ達を飲み込んでしまいそうな闇がその奥に潜んでいるようであった。

 空洞音が鳴り響き、シャルロットが喉を鳴らした。



「おお、こ、これが……あひっ! こんなに広い入り口だったとは……お、奥に続いているようだな」


「ガーーーーーッハッハッハ、ムッシュよ、そう興奮するな! 恐らく進めば水路が見えてくるはずであるな!」



 元気な大人達の声が、チョンカとシャルロットの嫌な想像を消し飛ばした。

 暗闇の雰囲気に飲まれかけていたシャルロットであったが、その声にハッと我に返ったのだ。

 しかし少しムッとしてしまう。

 この二人には怖いとか、不気味だとか、そういった感情はないのだろうかと考えていたからだ。



「そうか、海水の温度を保つって言ってたな。あひんっ! ……この施設内に海水を取り込み、循環させて吐き出して温度を保っているのか……?」


「ねぇ、それよりもウルフさんをどうするのよ?」



 チョンカがサイコキネシスでウルフを海水から引き上げ、通路へと降ろしてやる。

 シャルロットはかがんでウルフの様子を確認してみるが、どうやら本当に気を失っているようであった。

 自分のサイコシャドウで足を全て失い、さらにはパイロキネシスで燃やしこんなところまで落ちてしまったのだ。シャルロットはほんの少しだけ責任を感じていた。



「そうだね……まぁ連れて行ってもいいのではないかな? 施設内のことも詳しいだろうね。そうと決まればンダディ君、手伝ってくれるかい?」


「ガーーーーーッハッハ!! お安い御用よ!! して西京殿、何をすればよいのであるかな!?」


「このタコは足を全部失ってしまって達磨のようになってしまっているからね。足を再生してやらないと使い物にならないのだよ」


「なるほどなるほど、理解した!! つまりこのちょっぴり生えかけておる足を引っ張ってやればよいのであるな!?」


「いや、そうではなく、私が今からサイコヒールを使用するから、足をこちらへ向けて固定──」



 ダディは左手でウルフの頭(正しくは体)を握り、右手で切れたタコ足の根元を握った。

 そして西京の言葉を最後まで聞かずに自身の胸の前で力任せに引っ張ったのだ。

 伸びきりちぎれそうなウルフの体は、タコ足の根元から何かが裂けるような音を響かせていた。



「ふんっっっっっっっっっっっっっっぬぅぅぅぅっっっっっあっっ!! ぶるるるるるるるるるるぅい!!」


「あああああああああああああああっっっっ!! いた! いた! いたぁっぁぁぁあぁっぁぁああ!! な、なんや!? 何が起こってああああああああああ!!」


「あ……まぁ、それでもいいのだけれどね……ふむ、結構出てきたね。そんなもので構わないよ」



 突然の痛みに気を失っていたウルフも目を覚まし絶叫した。

 ダディの強引な力技により、一気にズルリとウルフの足が生え、床に投げ捨てられた。

 ウルフは泣きながらのた打ち回っている。。

 そして大きな力を使ったダディも尻餅をつくようにその場に座り込んでしまう。



「お、おいダディ、大丈夫か?」


「はぁ……はぁ……だ、大丈夫。何、これしきのこと。がふっがふっ!」


「ひ、ひぎぃ……ひぎぎ……あ、足は自然に生えるもんなんや……そ、そない無理に引っ張らんでもええんや!! それをお前ら!! ほんま無茶苦茶しよんのぅ! おぅ!! こらチョンカ!! お前正義のエスパーなんとちゃうんかいっ! これが正義の行いかい!? 悪の所業の間違いとちゃうんかいっ!! おぅコラ!!」


「壷輔、まぁ助かって良かったやん? ちょっと痛かったかも知れんけど足、生え揃ったんやないん?」


「ああ? ん……まぁせやな。お、おかげさんで生え揃っとるっ!! 多分前よりも増えとるっ!!」


「や、やっぱタコって気持ち悪いわね……」


「んやとっコラァ!! 美人姉ちゃんコラァ!!」


「さて、ウルフ君。我々を案内してくれるかな?」



 突然西京に話を振られ、ウルフは西京のほうへ視線をやった。なんとなく嫌な予感がしてしまう。



「な、何でっしゃろ……? ワシが……ええ、どこにご案内すればええんでっか?」



 このリスは何かが他の奴等とは大きく違う。今まで見た人間の中でもトップクラスにヤバイ雰囲気がする。ウルフは西京を見てそう感じていた。その野生の感は中々当たっている。

 ウルフは逆らうことはせずに、とりあえず下手に出てみることにした。



「ウルフ君が気絶しているときにクレアエンパシーで記憶を覗かせてもらったのだが……君はどうやら海を駆け抜ける狼、おさかなちゃんパラダイスのタコウルフと自称しているようだね。そんな君を見込んでお願いがあるのだよ」


「へ、へぇ。た、ただの案内でっしゃろ? 任せておくんなまし」



 ウルフはダディに無理矢理引っ張られ再生した足を揉みながら二つ返事で西京の願いを了承してしまったのであった──








「ガーーーーーーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハ!! ムッシュよ!! どうであるか!!」


「す、すげぇ!! んはっ!! こんな馬鹿でかい通路が海中にあったとは……!! すごいぞダディ!! 大発見だ!!」



 西京とダディ、ムッシュを包むサイコガードはまっすぐに続く通路に流れる水流の中をかなりの速度で移動していた。

 その後ろをチョンカとシャルロットが一緒に入ったサイコガードが続く。



「せ、先生、そんなに早く行かんでも大丈夫じゃないん?」


「ふむ、チョンカ君。早いに越したことはないさ。折角快く引き受けてくれたのだからね。そうだろう? ウルフ君」


「……! ……っっ!」


「ガーーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハ!! 喋る余裕もないであるな!! 結構である!! ぶるるるるるるる」



 西京達を包むサイコガードの後方にはウルフが必死になって推進力となっていた。

 チョンカ達はサイコキネシスを使用しているが西京は全く使用していない。

 チョンカもさすがに見ていてウルフが可愛そうに思えてきたのだ。



「チョンカ……あたしも、かわいそうだとは思うけど……見て見ぬ振りをしましょう。マスターたち、言っても聞かないもの」


「そ、そうじゃけど……」


「ウルフさんは後でねぎらってあげましょう? それよりも随分明るくなったわね? あんまり目に優しくないけど」



 シャルロットが言うように、西へ進めば進むほどに、あたりは明るくなり今では赤い光を放つランプがクルクルと回っていた。



「この前はあんな赤いのなかったんじゃけどね……なんなんじゃろね、アレ?」


「ふむ……ウルフ君、ちょっと止まってくれるかい?」



 西京の言葉を聞き、三人を包む球状のサイコガードが海中で静止した。力尽きるようにウルフはそのまま海面へ力なくプカリと浮かび上がる。



「ど、どしたん? 先生」


「ふむ、妙だね……静か過ぎる」


「あっひ! どういうことだ?」


「ガーーーーーーーーッハッハッハ!! そう言われてみればそうであるな! 前回入ったときに視界を埋め尽くさんばかりにおった魚どもが一匹もおらぬ!! ぶるるるるる」


「そう言えばそうね……珊瑚姫のいた管制室もそろそろ近いはずなのに、護衛が誰もいないなんて確かに変だわ」


「ウルフ君」



 西京の呼びかけに、それまで水面で白目を剥いていたウルフの目に再び生気が宿った。怖い人の声には敏感なようであった。

 ウルフは酷使しすぎて痺れが残る体に鞭を打って再び水中へ潜り西京の下へ馳せ参じた。



「へ、へぃ! なんでっしゃろ……あ、あら? これは……」



 ウルフは周囲の状況の異変に、言われる前に気がついた。

 誰もいない水路と、その水路のそこかしこで光る赤いランプを見て、わなわなと震えだした。



「あ、あきまへんで!! 今は敵襲の真っ最中でっせ!!」


「ふむ。なるほど、そういうことか。納得がいったね。ウルフ君はどうして分かったのだい?」


「赤いランプがクルクル回ってまっしゃろ? あれは敵襲があったりこの施設内の非常事態につく警告灯ですねん。ワシが生まれてからアレが回るときは敵襲のとき……恐らく第五の奴らが攻め入ってきとるんとちゃいまっか?」



「ガーーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハ!! これは好都合であるな。誰もいないとなれば調べたい放題であるな!! ぶるるっほ!」


「しかしダディ、あひょ!! んっんっ! んほっ! ……し、調べるのは後ででもいいんじゃないか? 黒あわびを頂く交渉を先にしたほうが……お前の体が……」



 ムッシュの心配は、残された時間が短いダディの体のことである。

 ムッシュとしては黒あわびをいち早くダディに食べて欲しいのだ。



「ふむ、調べるにしても黒あわびを貰うにしても珊瑚姫に話をすることには違いない。ウルフ君、珊瑚姫はこういった場合はどこにいるのか分かるかな?」


「あの姉さんは血気盛んやさけ、うーーーーん……多分兵隊引き連れて自分が一番先頭におるんとちゃいまっか? おさかなちゃんパラダイスから出て海に陣取っとるかもしれまへんなぁ……」


「ほんま魚って血の気の多い奴ばっかりなんじゃね……」


「よし、そうと決まれば我々もこのまま管制室を通り過ぎて海へ出ようか。まずは珊瑚姫に会おう。さぁ、ウルフ君、もうひと頑張りだよ」


「え、あ、はい!! とほほ、もうひと頑張りて、まだ半分も来てまへんで……」


「何か言ったかい?」


「いえ、なんも言うてまへん!!」



 こうして再びウルフはサイコガードの下に潜り、身を削るような労働を強いられるのであった。

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