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エスパーチョンカ!  作者: ちぇり
第5章
107/109

22

「シャル……カンガルー……」


「ええ、分かってるわチョンカ。犯人はカンガルーね……」


「……ころ?」


「勿論ころ!! 絶対に許せない……っていうかチョンカ、せめて顔を拭きなさいよ。納豆が喋ってるみたいよ?」



 お尻に納豆がついてしまったシャルロットとは違い、チョンカはなぜか頭から納豆沼に突っ込み、シャルロットの下敷きとなっていた。二人はサイコキネシス体勢を整えていた。

 ちなみに「ころ」とはチョンカとシャルロットの間の隠語で「殺す」という意味合いがある。



「行こう、シャル!! うちらめっちゃ遅れとる!! 拭くのは競技が終わってからでええ!」


「そ、そうだけど顔くらい拭いても……ん?」



 落とし穴から出ようとした瞬間、地上を見上げる二人の顔に影が落ちた。誰かが落とし穴を跨いでいる。


 ぱす~~~~~~~~~っ! と空気が抜けるような微かな音が落とし穴にこだました。



「ういぃ~~~~~~~~~~~~~~~っす」



 腹から出たような、震える声を出し、落とし穴を跨いでいた何者かは去っていった。チョンカとシャルロットは攻撃されると思い身構えていたのだが肩透かしを食らったような顔をして呆けていた。



「……?? な、なんじゃったん今の……うっ!!」


「さぁ……なんだったのかしらね……あぁっ!!」



 上から注入されたガスはゆっくりと降下し、チョンカとシャルロットの鼻を刺激した。



「くさっ!! くっっっっっっっさ!! げほ、げーーっほ!! これ、オナラじゃ!!」


「熱い!! あっつっっ!! なんて熱いのっ!? ちょっとチョンカ!! 暴れないでよ! 混ざるじゃないの!!」


「こ、こ、殺す!! 誰かは分からんけど絶対許せん!!」









 チョンカたちが落とし穴に落ちたことは参加者全員が見ていた。

 今、落とし穴を覗き込みニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる白猫と黒猫のペアもそうであった。



「おい、あいつらまだ出てきてねーよな」


「ああ、トラックに姿がねぇ。なんだ? お前もなんかすんのか?」



 白猫に尋ねられ、黒猫は一層笑みを深め、ズボンを下ろして尻を落とし穴に向けた。



「ちょっといたずらしちゃおっかな? グフフ」


「げひひ。お前も好きだなぁ。んで? ケツ出して何するんだよ?」


「UN-KO……ふんっっっっ!!」


「ちょ、おまっ、衆人環視の中でそれはねぇわ!! げひひっ、やばすぎ──あがっ!!」


「おい」


「ふんっっっっっ、ふんっっっっ!!」


「おいって」


「んだよ、話しかけんなよ! 今頑張ってしゅっ……さん……あ」



 顔を真っ赤にしながら頑張る黒猫は、呼びかける声に多少イラつきながら頭を上げた。そこには般若のような表情をした金髪の少女と、納豆がいた。

 黒猫と右足で繋がっている相棒の白猫は分厚い氷に覆われ、時が静止している。

 納豆が黒猫の額を掴んだ。



「お前……何しようとしとるん?」


「え、あ、いや、あの……ちょ、ちょっとお腹痛くなっちゃって……その、あの……」


「そう……じゃあずっとその姿のままでいなさい……サイコフリーズ」








「シャル!! い、急がんともう一周半くらい遅れとる!!」


「わ、分かってるわよ、ちょっと、足並みを揃えなさいよ!! チョンカ!!」



 チョンカとシャルロットはようやく走り出していた。

 しかし二人の足取りは揃っているとは言い難く、焦るチョンカに引っ張られ、シャルロットは体勢を整えるだけで精一杯であった。


 もともとシャルロットはチョンカよりも身長が低く、歩幅も短い。チョンカが焦って走ればこうなってしまうのは当然のことである。シャルロットはまるでジャンプを重ねるように無理な姿勢で走っていた。



「チョンカったら!! 焦ってチョンカばかり先に行こうとしても無理よ!! あたしに歩幅を合わせたほうが絶対に早いわ!! あと納豆を拭きなさいよ!!」


「にーーーーーーー、でもでも、そんなことゆうても……!!」



 チョンカとシャルロットは先頭との差を縮めることが出来ないまま、ようやく一周を走りきった。先頭は既に二周目を半分走っている。



『きゃっぴー☆ さすがの正義のエスパーチョンカ! も苦労してるみたいだね、ぽんぽん』


『せんとうの うまの きょうだい ふつうに はやい』


『きゃぴきゃぴ☆ さぁ、レースも半分終わったよー! このまま馬さんチームが逃げ切るか!?』






「正義のエスパーチョンカ! これでもくらえ!! パイロキネシス!!」


「ああ!? そんなん効かんわ!! サイコガード!!」



 チョンカとシャルロットは相変わらず他選手からの邪魔を受け、それをいなす事で精一杯であった。焦るチョンカのイライラは頂点に達していた。



「チョンカ、いい感じよ!!」


「あんっ!? 何が!!」


「みんなに邪魔されてあなたのペースが落ちてるのよ。あたし、さっきから凄く走りやすいわ。気付いてる? チョンカのペースは落ちたけどあたし達二人のペースは上がってるのよ?」



 チョンカはそう言われて考え込んでみたが、いまいち理解が出来ていない様子だった。



「ああ、もう、あなたヒルクライムのとき、変態牛と心を一つにしたら早くなったでしょ? 今はあたしにペースを合わせないと早く走れないのよ! 分かった?」


「え、え? えーーー……わ、分かった!!」


「とにかくチョンカは手加減して走りなさい!! そのほうが早いから!!」


「分かった!!」



 チョンカとシャルロットはようやくまともに走りだした。次々に襲い掛かる妨害をはねのけ、一人、また一人と氷漬けにしながら徐々にペースを上げていった。

 そして二周目を終えたところで、三周目に入った先頭集団にとうとう追いついたのだ。



「シャル!! カンガルーがおる!!」


「ええ、見えてるわ! きっとチョンカに腹痛攻撃をしてきたやつもあの集団の中ね」


「腹痛は誰か分からん! でもカンガルーは絶対に──」


「──『ころ』よ!!」



『きゃっぴーーー☆ 早い早い!! 正義のエスパーチョンカ! とシャルロットペア!! もの凄い追い上げねっ!!』


『でも いっしゅう おくれ。 はやく しないと かてない』



 チョンカとシャルロットは先頭集団の後方を走るカンガルー二人組みの背後に迫った。



「おおお!! 兄様!! 納豆まみれの正義のエスパーチョンカ! が!!」


「分かっている、弟よ!!」


「お前らーーーーーーーーーーーーー!! 絶対許さん!! この納豆、お前らに返すけぇね!!」


「チョンカ……そのために拭かなかったのね……」


「覚悟しぃや!! サイコキネシスっっっ!!」



 チョンカとシャルロットの体が宙を舞った。基本的に走らなければいけないこの競技で空を飛ぶことは反則であるが、ジャンプの為のサイコキネシスは認められている。


 チョンカたちはサイコキネシスで勢いをつけて、カンガルーの背中に飛び掛った。



「サイコピーピー!!」



 カンガルーの背に手が届く直前、チョンカの体は地面にひれ伏した。引っ張られるようにシャルロットも転倒してしまう。チョンカは見た。再び襲い掛かってきた腹痛に顔をゆがめながら、自分に『サイコピーピー』なる能力をかけてきた犯人のほくそ笑む顔を──



「う……うさぎじゃ……うさぎぃぃぃぃぃぃ!!」


「いったたたた……チョンカ!! サイコシールドが薄いからそうなるのよっ!! 馬鹿ねっ!!」


「ふににぃぃぃぃ……い、一度ならず二度までも……ぎぎぎ……サイコヒール……」



 体を小刻みに震わせるチョンカの背中をさすりながら、シャルロットは先頭集団を眺めていた。せっかく縮まった差がまた開いてしまっている。

 シャルロットはため息を一つ吐き、両目を閉じてテレパシーを使用した。



『マスター』


『ふむ、苦労しているね。シャルロット君』


『チョンカが自分で気付くまでは黙っておこうと思ってたけど……使っていいかしら? チョンカったら、どうしても勝ちたいみたいだから……』


『構わないよ。実は私のほうからシャルロット君に言おうと思っていたくらいだからね。それにチョンカ君は鈍いからね。見せるくらいが丁度いいかもしれないよ?』


『ほ、本当は言うだけで使うつもりはなかったのよ!? ……でもありがとう、マスター』


『お互い、チョンカ君には甘いね、シャルロット君。きっとその気持ちは伝わるよ?』


『ふ、ふん! それがはずか……嫌なのよ! じゃあ行くわ』



「ふーーーー、ふーーーー、よ、ようやく治った……あ、あいつら……卑怯な手ばっか使いよる……く、く、くぅぅぅ~~~!!」



 チョンカは悔しそうに両手を地面に叩きつけた。納豆で表情までは分からないが目に涙でも溜めているに違いない。



「チョンカ」



 気付けばシャルロットが立ち上がっていた。地べたに座ったままのチョンカはシャルロットを見上げた。



「チョンカの正義第三条。もう忘れちゃったの?」



 チョンカはシャルロットのその言葉にハッとした。しかし──



「で、でも……もう追いつけんよ……こんなに離されたら……」


「言いなさい、チョンカ。チョンカの正義第三条……」


「……正義のエスパーは絶対あきらめん……どんなピンチになっても絶対立ち止まらんし、笑顔も絶やさん……」



 シャルロットはチョンカの頭を優しく撫でた。



「もっと大きな声で言ってみなさい」


「せ、正義のエスパーは絶対あきらめん! どんなピンチになっても絶対立ち止まらんし、笑顔も絶やさん!」


「チョンカ……あたしもね、正義のエスパーなのよ?」


「え、う、うん」


「チョンカと一緒にいるって言ったでしょ? 行くわよチョンカ。どんなにピンチになっても諦めちゃだめ!! それが正義のエスパーチョンカ! よ!!」



 しゃがみこみ、チョンカと目線の高さを合わせたシャルロットはそう言った後、優しく微笑んだ。チョンカはいつもこうやってシャルロットに甘えて、厳しくしてもらって、最後に道を示してもらっているんだと、改めて気付いた。

 チョンカの瞳から悔しさや諦めの色が消えていく。



「うん、やっぱりチョンカはその表情のほうが似合うわ!! じゃあ、いくわよチョンカ。体の力を抜きなさい」


「え、シャル? 何するん?」






「とっておきの技よ!! クレアエンパシー!!」

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