20
「ににににににぃぃーーーーーーーー!! サイコキネシス!!」
「ぬううううううーーーーーーーーー!! サイコキネシス!!」
チョンカのサイコキネシスによって周囲にあった大小様々な鉄球が一斉に浮かび上がった。
そしてゴリ郎のサイコキネシスにより背後にあったチョンカの背丈の倍ほどのある大きさの鉄球が一つ浮かび上がった。
観客席は沸きに沸いていた。もしかしたら観客もエスパー同士の戦いではなく、競技としての玉入れが見たかったのかもしれない。エスパーにしては珍しく良識のあるチョンカとゴリ郎、二人の間の約束によって新たなルールが追加され、いよいよ玉入れをしようとなってから、観客は二人の熱さが伝播したかのように声援を送っていた。
『きゃっぴぴー☆ 時間もかなり押してるけどそんなのどうでもいいよね☆ みんな見て見て! 正義のエスパーチョンカ! のサイコキネシス!』
『ごりろうも あなどれない。 あれだけの おおきさ ふつうは もちあがらない』
「チョンカーーーーーーーーーーーーっっっ!! 頑張ってーーーーーーーーーーーーっっ!!」
「チョンカちゃーーーーーーーーーーーーーーーん!!」
シャルロットとラブ公は声が枯れるほど叫びチョンカを応援していた。周りの熱意と声援にその声は消えてしまうのだが、ゴリ郎との玉入れの前に、チョンカが自分達のほうへマフラーをはためかせながら親指を立てるのを見て、興奮が一層高まっていたのだ。シャルロットはチョンカのその姿に少し胸がときめいてしまったほどであった。
「ふむ、ゴリ郎君はどうやらサイコキネシスのみを集中的に修練してきているようだね。かなり大きな鉄球だが……あれが限界でもないだろう」
「でも、マスター! チョンカだってサイコキネシスが一番得意よ!?」
「ふむ。その通りさ。一番得意で一番好きな能力だね。ゴリ郎君はどこまでチョンカ君についていけるかな?」
両手を高く振り上げ、勢い良く振り下ろす。
空中で待機していた鉄球たちがチョンカの振り下ろされた腕の動きに合わせるかのように一斉に穴に向かって飛び立った。
勢いを殺さずに乱暴に穴に殺到する鉄球たちは、お互いにぶつかり合い火花を散らせながらも、そのまま地中へ、吸い込まれるように次々と落ちていった。
少し短めの両手と鼻先を高く振り上げ、力強く振り下ろす。
浮かび上がっているのが不思議なほどの大きな鉄球がゴリ郎の動きに合わせて穴めがけて弾かれる。
その大きな鉄球の滑空は空気を震わせ風が巻かれる低い音があたりに響いた。
そして穴の縁の土を抉り吹き飛ばしながらも、跳ね返りながら地中へと消えていった。
フィールド中の鉄球が、ロシェとぱんの両名によってチョンカたちの周辺に集められており、二人は次々に鉄球を投げ入れていく。
ゴリ郎がチョンカに提案した一つに、鉄球をぶつけて邪魔をしてもよいといった案があったが、二人とも互いの邪魔などはしない。
チョンカもゴリ郎も、相手の邪魔をして勝利を得るといった考えなど持っていないのだ。
互いに相手が鉄球を入れる様を見て笑みを浮かべていた。
そしてゴリ郎の手が止まる。近くに大きいサイズの鉄球がなくなってしまったのだ。チョンカに後れを取ってしまうと思いゴリ郎は慌てながら少し離れた場所にある大きな鉄球のほうへ駆け出した。
「に、にぃ!? ……チョ……チョンカ……お前」
走り出した巨体は鉄球に辿り着くまでに止まってしまっていた。チョンカの姿を見てあっけにとられてしまったからだ。
チョンカは腕組みをしたまま、鉄球を浮かすわけでもなく、じっとゴリ郎を待っていたのだ。
「……ん? 次はゴリ郎の番じゃろ? はよしぃや」
「チョンカ……!!」
勿論二人の取り決めに順番などない。
互いに邪魔をすることなく同じ穴へ鉄球を入れているうちに、偶然交互に入れることになっていただけだ。明確に順番を意識していたわけではない。少なくともゴリ郎はそうであった。しかしゴリ郎の目の前にいる少女は腕組みをしながら不敵に笑い、言い放った。
「正々堂々──じゃろ? ゴリ郎」
「────────っっ!!」
ゴリ郎はチョンカの真っ直ぐな瞳に撃ち抜かれていた。確かにチョンカは正々堂々と言っていた。しかしその「正々堂々」を目の当たりにして、ゴリ郎の胸は熱くなっていた。
「に……にぃぃぃ!! チョンカ……いや、正義のエスパーチョンカ! 俺の本気を見るっちゃか?」
「にへへ、うん! じゃあうちも本気出すけぇね!!」
『あ、熱い!! 熱すぎる!! お前ら足の引っ張り合いと殺し合いしかできない馬鹿エスパーと違って、この二人を見て!! わたし久しぶりに胸が熱くなった!!』
『かぷちゃん すが でてるヨ』
『だ、だってぽんぽん!!』
『みんな みて。 ふたりとも たのしそう』
あれほど熱気渦巻き大歓声があがっていた観客席が静まり返っている。二人の正々堂々の戦いの行く末を見届けるためである。
チョンカ達の周りには小さな鉄球がほとんど残っていなかった。チョンカが軒並み穴に入れてしまった為である。
フィールドに残った鉄球は大きな鉄球のみ。それも少なくともゴリ郎と同じ大きさのもの、大きいものはゴリ郎の倍ほどもあり、ゴリ郎であっても見上げてしまうほどの大きさであった。
ゴリ郎はその大きな鉄球に歩み寄り鼻先でそっと触れてみた。
腕組みをしているチョンカのほうをちらりと見る。一年間、更に磨き上げたサイコキネシスの全てを解き放つのは今しかないと自らを奮い立たせた。
両目を閉じて精神を集中させる。
「ぬうううううううううううううううううううう──────っっっっっ!!」
接地部分についた土を落としながら鉄球が少しずつ浮かび上がる。
鉄球が少し振動を起こしている。サイコキネシスの力が全体に及びきっていない為である。
しかし、それでもゴリ郎はやめない。鉄球を睨むゴリ郎の目が充血している。
「おお……!! す、すごい!! ゴリ郎すごいやんっっ!! ぶちすごいっっ!!」
ゴリ郎はかなりの重量であったにもかかわらず、鉄球を空高く持ち上げて見せた。空中で静止する鉄球は安定している。制御しきったのだ。そしてゴリ郎は目標の穴めがけて掲げた両手を勢いよく振り下ろした。
「ふんぬうううぅぅぅぅーーーーーーーー!!」
力を出しきり全てを鉄球に乗せた。弾かれ一直線に目的地へ向かい轟音と共に風を切った。
そして大量の土砂と土煙を巻き上げ爆音と共に穴の内壁に鉄球をめり込ませる。
巻き上げられた土砂が観客席の前のサイコガードで弾かれ地に落ちる。
土煙が薄れ、観客たちからフィールドの様子が見えるようになった頃、めり込んだ鉄球がゆっくりと地中へと落ちていった。汗だくになり、息を切らしながら、ゴリ郎はその場にへたり込んでしまった。
「────っ!! ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
その瞬間、観客席から大きな歓声が上がった。ほとんどの観客が席を立っている。
『こ、これはすごい!! すごすぎる!! さすがゾウ!!』
『ごりろう だヨ。 かぷちゃん』
『あ──おほん、きゃっぴーん☆ カプちゃんあまりの凄さに興奮しちゃった☆ さぁ、これを受けて正義のエスパーチョンカ! どうするか~? っていうかこれ以上のものが持ち上げられるのか!?』
『いつのまに そんな るーるに なったの? ……まぁいいか』
『きゃぴぴ☆ あ~っと、正義のエスパーチョンカ! 動き出したぁ!!』
「ゴリ郎、すごいんじゃね。うちびっくりした!!」
「はぁ……はぁ……チョンカ……なはは」
「次はうちの番じゃね! じゃあうちも本気出すけぇ、見とってね!!」
チョンカは鉄球へ向かい歩き出した。
その鉄球は今しがたゴリ郎が持ち上げた鉄球と同じサイズの鉄球であった。右手で鉄球の表面を触ってみる。
そして左手で、隣にある鉄球の表面を撫でる。右の鉄球と全く同じサイズの鉄球。
「え……チョンカ……?」
『え……?』
『は……?』
チョンカのマフラーがはためいた。
「サイコ……キネシスっっっっ!!」
巨大な鉄球が二つ同時に宙に浮く。
まるでそよ風に吹かれて木の葉が浮かび上がるように、軽やかに持ち上がった二つの鉄球は徐々に高度を増していく。
鉄球のあった地面が窪んでいるが、鉄球に土はついていない。とても美しく、そして力強い、完成されたサイコキネシス──
「ふむ、チョンカ君。さすがは私の弟子だね」
チョンカは鉄球と共に浮かび上がり、観客席よりも高くのぼった。二つの鉄球を左右に従えて、真下には底の見えない穴が鉄球を待ち構えている。
そしてチョンカは穴めがけて急降下を始めた。鉄球たちもチョンカの後を追う。
「にいいいぃいぃぃぃぃいいいいいいいい!! これがうちの本気じゃああああああああああああああ!! いっっっっっけーーーーーーーーーーーーーーー!!」
開いた両手で鉄球を投げるように手前で交差させチョンカは減速。二つの鉄球が炎の軌跡を描き爆風を渦巻きながらチョンカを追い抜き、穴に向かって急降下していく。ゆっくりと空中で回転しながら減速していくチョンカは、テレポーテーションで空中から地上へ瞬間移動した。
鉄球が穴に叩き込まれた直後、大きな縦揺れとともに轟音が鳴り響き、穴から大量の土砂が空高く巻き上げられた。
『あーーーーーーーーーーーーっと!! こ、こ、こ、こ、これはーーーーーーーーーー!!! ロ、ロシェ君!? ぱんぱん!? ぶ、無事かぁーーーーーーーーーーーー!?』
『…………ん ふたりとも てれぽーとして だっしゅつした みたいだヨ』
『な、なんてこと……正義のエスパーチョンカ! な、何者なの……? こんなエスパーがいるだなんて……』
『かぷちゃん きもちは わかるけど かいせつ』
「チョ……チョンカ……お前……お前は……!!」
「にへへ、ゴリ郎! うちの勝ちじゃね!」
ゴリ郎は予想外のチョンカの力に圧倒され、腰を抜かしていた。
サイコキネシスで大きな力を使い、疲れていたこともあったが、今地面にへたり込んでしまっているのは間違いなく目の前の少女の力に驚きを隠せないためである。
しかしゴリ郎の中で、全力を出して笑う少女を見て何かが脈打った。
拳が地面の土を握る。
雨の日も、雪の日も、一日も欠かさず体力の限界までサイコキネシスの練習を続けてきた。
相手がいくら凄かろうが、体が動くのならば終わることはできない──
「チョンカ、頼みがあるっちゃ……」
「どしたん? ゴリ郎」
「最後の……最後の勝負をして欲しいが」
「最後?」
「あ、いや、これは勝負じゃないにぃ……チョンカに挑戦させて欲しいっちゃ。玉入れはチョンカの勝ちでええ。俺の完敗だにぃ……でも一年間必死に訓練してきた俺の力を最後まで試させて欲しいっちゃ!!」
ゴリ郎は立ち上がっていた。
そしてチョンカは自分を見つめるゴリ郎の本気の眼差しを一身に受け止める。びりびりと痺れるような心地よさを感じる。
ゴリ郎の全力は、まだまだあの程度ではないのだと、本能が悟っている。
「ええよ、ゴリ郎。ゴリ郎の全部、うちが受け止めてみせる!!」
チョンカの拳とゴリ郎の鼻先がコツンと触れ合った。
『────はぁ~~~~~~~……』
『どうしたの? かぷちゃん』
『ぽんぽん……わたし結構こういう熱いの好きかもしれない……ワクワクしてきた』
『え? そうなの? ぽんも すきだよ』
『ええええ?? ぽんぽんがぁ~?? ぽんぽんって意外と見かけによらないところあるよね』
『しつれい すぎ。 …………ん、ぱんぱんが ふたりの けっちゃく ように あたらしい ちょうじゅうりょうの てっきゅうを よういしたって』
二人のラット、ロシェ・ファンシーとぱん・ファンシーのサイコキネシスにより、急遽用意された特別製の鉄球が空輸されてきた。二人は鉄球と共に空を飛びチョンカ達の前に舞い降りた。
静かに鉄球が地面へ設置される。
「おい、正義のエスパーチョンカ! さっきは殺されるかと思ったぞ!! 全く無茶苦茶しやがって……」
「ロシェ、私達は運営ですから、無駄口を叩いていないで戻りますよ!」
「くっそー……凄いのは認めるが……覚えとけよ!」
ロシェとぱんが運んできた鉄球は先程チョンカたちが持ち上げた鉄球よりも随分と大きかった。ゴリ郎換算で高さが三倍ほどの大きさである。
「チョンカ……いくぞ?」
「うん! じゃあうち、穴のほうにおるけぇね!」
ゴリ郎は体の芯から震えた。穴のほうにいる。つまりチョンカは本気で自分の力を受け止めてくれる気でいるのだ。血が沸き立つ。
もはや勝負の次元を超えていた。
ゴリ郎は特訓の成果を出し切るという強い気持ちが、チョンカの誠意に応えたいという想いに変わっていることに気が付いた。
そしてなぜだか、さっきよりも今のほうが、もっと力が出そうな気がしてならなかった。
鉄球にそっと手を触れた。
イメージするのは先程チョンカが見せてくれたとても美しく力強いサイコキネシス──
「ふぅーーーー、ふぅーーーー、ふぅぅぅぅぅぅーーーーーーー………………ふんっっっっっっっぬっっっっっっ!!」
鉄球が僅かに震えだした。しかし持ち上がる気配はない。
「っっっっっっ────────────ふんっっっっっっっっっっっっっああああああああああああ!!」
こめかみに太い青筋が浮かび上がる。恐らくここで苦しさに耐えかねて力を抜いてしまえば、二度と持ち上げることはできない。ゴリ郎はさらにサイコキネシスに力を注ぐ。充血した目から血の混じった涙が流れた。
「ああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっっっっっっっ!!」
腕に浮かび上がった血管が内出血を起こしている。しかしそれでも引くわけにはいかない。
そして地面をすり潰すような音を立ててから、鉄球の巨体が浮かび上がった。大きく揺れた鉄球の姿を見て観客席にどよめきが走る。鉄球はゆっくりではあるが確実に高さを増していき、ゴリ郎の頭上にまで浮かび静止した。
揺れてはいない。振動すらしていない。
鉄球は完全に空中で静止していたのだ。
満身創痍であった。練習でもここまで力を使ったことはない。体を傷つけるほど強大な力を使ったのは生まれて初めてのことであった。しかしそれでも力強く大地を踏みしめて立っているゴリ郎の目は生きていた。チョンカを真っ直ぐに見据えている。
「……チョンカ……」
「…………きぃやっ!! ゴリ郎っっっっっ!!」
「サイコキネシスっっっっっっ!!」
ゴリ郎は最後の力の一滴まで絞りきった。そしてその力で振り下ろされた両手の動きとともに鉄球は初速からとんでもない勢いでチョンカのほうへ弾かれた。ゴリ郎はそのまま気を失い地面に倒れてしまう。その体はピクリとも動かない。
地面すれすれに滑空する鉄球は風圧で芝と土を抉りながら巻き上げ燃やしながらも置き去りにして加速していく。
穴ではなく、チョンカのほうへ一直線に──
「ゴリ郎……すごいやん……すごいやんっゴリ郎!! 絶対に受け止めるけぇね!! ……サイコキネシス!!」
チョンカと鉄球が接触した瞬間、爆風が観客席を襲った。気圧で耳がおかしくなりそうなほどの衝撃。観客たちは風に煽られ、そして耳をふさぎながら目撃する。
あの猛烈な勢いで襲い掛かった超重量鉄球を真正面から押さえ込む少女の姿を──
「ふにににににににににぃぃぃっぃぃぃいいいいいいいいーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
チョンカの施したサイコガードは両手のひらと両足のみである。鉄球を防ぐというよりは手足の損傷を防ぐための最小限のものである。
両足はふんばり強化のためサイコルークスが施してあった。
本来であれば接触する前に大きなサイコガードで防ぐのだが、これはゴリ郎とのサイコキネシスを使った勝負である。チョンカは鉄球を防ぐためにサイコガードではなくサイコキネシスを使用している。
鉄球の進行方向とは反対側にサイコキネシスの力を働かせているのだ。
「にぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーうううううううううーーーーーーーーーーーーー!!」
鉄球に徐々に押されチョンカは穴のほうへ追いやられていた。踵が穴のふちに触れる。
「ぐぐ……うううううううーーーーーーーーーーーーーー!! ぎぎぎぎぎぎぃぃぃぃぃ……!!」
「ぱたた」と、チョンカの鼻から大量の鼻血が地面へ落ちた。踵は土俵際でなんとか持ちこたえているが、鉄球に押されている体は穴にさしかかってしまっている。
「こ……こ、こ、こんなんちゃう……!! ゴリ郎は……ゴリ郎はもっとがんばっとったぁぁぁぁーーーーーーーーー!! ぬわぁあああああああああああああああああーーーーーーーーーーー!!」
チョンカの右手が強く握られた。鉄球が大きく揺れ動く。
そして鉄球を下から掬い上げるように、左手を大きく振り上げた。
「ふにいいいいいーーーーーーーーー!! とんでけぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
突然の方向転換。それも直角に。
弾かれた鉄球はその進路を真上に勢いよく跳ね上げられた。鉄球はチョンカに弾かれた勢いで観客席よりも遥かに高くあがり、やがて減速していく。頂点に達した鉄球は、自由落下で速度を増し再び地上へ舞い戻ろうとしていた。
鉄球の着地点にはチョンカがいる。チョンカは右手を掲げ精神を集中させていた。
「サイコキネシス!!」
鉄球の動きがようやく停止した。
停止した瞬間、その重量による風圧で薄く土煙を上げたが観客席からは鉄球の姿がよく見えていた。
静まり返った観客席。
モニターにも鉄球が映し出されているのみでチョンカの姿は誰も確認できずにいた。
しばしの沈黙の後、鉄球が再び動き出した。
ゆっくりと宙に浮いていく。
ゆっくり、ゆっくりと。
そしてある程度の高さまで達したとき、観客席から大きな、空が割れるほど大きな歓声が巻き起こった。
右手を掲げサイコキネシスで鉄球を持ち上げる少女の姿があった。
そして軽く右手を下ろし、穴の底へ鉄球を投げ入れた。
マフラーをなびかせるチョンカは、正々堂々の勝負に勝利したのだ。
『た、た、た、玉入れ優勝者!! 正義の…………エスパーチョンカ!』
『すごい……すごい!! みんな はくしゅ!!』
会場を包む大きな拍手喝采は、しばらくやむことはなかったという。
こうしてチョンカの優勝で、第一競技である玉入れは幕を閉じた──