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エスパーチョンカ!  作者: ちぇり
第5章
103/109

18

「宣誓!! モグモグ、僕たちはこの大運動会のためにモグモグ、一生懸命練習に励んできましたムシャムシャ、今日は僕たちの家族やおいしいご飯に感謝の気持ちをこめモグモグ、ングッ、正々堂々と競技に挑む事をここに誓います。モグモグ!! 選手代表、ガナッシュ・ファンシー!」



 ラテ・ファンシーの前で、手に持ったおにぎりを秋空へ高らかと掲げ、息子であるガナッシュ・ファンシーは選手宣誓を行った。

 その瞬間、会場は割れんばかりの歓声に包まれる。エスパー達の、年に一度のお祭りの開始を告げる歓声であった。

 モニターの画面が切り替わり、向かい合う一人がけのソファーに座った二匹の女性ラットが映し出された。二人ともマフラーを巻いている。



『きゃっぴーん☆ みんな一年ぶりぃ!! ここからは毎年恒例、私ことカプチーノ・ファンシーとっ』


『みんな、ごぶさたァ~、ぽんず・ファンシーが おおくりするヨ。カプちゃん、おてやわらかにネ?』



 早口で勢いのある、それでいて猫を被ったような喋り方をするカプチーノ・ファンシーと、おっとりしてどこか眠たそうな喋り方をする、ぽんず・ファンシーは、ファンシー家の姉妹である。

 この大運動会で二人が担当する毎年恒例の役割は、実況であった。



『きゅんきゅん☆ ぽんぽんも、よろしくね! それじゃあみんな、さっそく第一種目の玉入れを始めるからぁ……参加したい人は入場門に集まってね!』


『さんじゅっぷんごに かいしするから みんな おくれないようにネ?』





「わぁ……ねずみじゃね……あれもファンシー一家なん?」


「そうよ? カプチーノとぽんずね。それよりチョンカ、参加するんでしょ? いい? 絶対戦闘になるんだから気を付けるのよ?」


「うん、じゃあうち行ってくるけぇね!!」



 チョンカは立ち上がり入場門に向かうため、人ごみを掻き分けながら観客席を後にした。

 チョンカは熱いものがたぎる胸に手を当て、こみ上げてくる笑みを我慢しながら歩いた。話を聞いてから夢に見るほど待っていた大会に、やっと参加できるのだ。

 気が付くとチョンカは走り出していた。







 入場門付近には既に多くのエスパーが集まっており、チョンカは人ごみの向こうの離れた場所にある大きな扉を背伸びして眺めていた。

 ゲート付近で、悲鳴が聞こえたり、光ったり、血しぶきが飛んでいるのが見える。

 何事かと思い、チョンカは隣にいたゾウ種の男に尋ねてみた。



「ね、ねぇ、入場門の近くで喧嘩でもしとるん……?」


「んー? お前さん、こん大会に出場するんは初めてかー?」


「うん、うち初めて参加しよるよ。おっちゃんは?」


「何言っとるー! 俺はそんな歳やないにぃ」



 巨体を揺らしながらゾウ種の男は、下から覗き込むチョンカの顔に長い鼻で照準を合わせ「ブフーーーー」と鼻息を吹きかけてみせた。



「ご、ごめん。でも凄い! うちゾウ見たの初めてじゃ!! うちチョンカ!」


「おおー、びびらんっちゃかー。俺はゴリ郎っちゅー名前だにぃ」


「……? は? ゾウなのにゴリラなん?」


「村長がゴリラのとこの子供が産まれたと勘違いして付けおったっちゃ」



 ゴリ郎は長い鼻で自身の頭をポリポリと掻いてみせた。チョンカのような反応はもう慣れてしまったという様子であった。



「へぇ~……で、ゴリ郎、あれなんなん? 大会前に喧嘩しよるん?」


「ああ、このまま進んだら分かるっちゃが……間違いなく世界で一番強いと言われとるファンシー家の忍者エスパー瑠璃と茜の姉妹が出場選手の選別しおるにぃ」


「選別??」


「こん大会はそれぞれの種目で一人だけ優勝者が決まるけぇ、ああやって選別せんと時間がかかるだら?」



 なるほどなとチョンカは納得し、自分の番はまだかと背伸びをして相変わらず悲鳴が絶えない先のほうを確認してみる。すると血しぶきが猛烈な速度でこちらの方へ近付いていた。



 刃物が、チョンカの首を掻き切る寸前でピタリと止まった。

 刃物はすぐに首から離れ、チョンカを斬りつけようとした犯人はすばやい動きで飛びのき大きく距離を取った。そのときになってようやくその姿を確認することができた。

 それは黒い毛並みとしなやかな肉体を持つ、とても美しい女性のラットであった。カプチーノやぽんず、ガナッシュもそうであったがファンシー一家のラットたちは他のラット種たちよりも体が大きく、チョンカよりも少し背丈が低いほどであった。

 チョンカの目の前の女性ラットはマフラーで口を隠し、逆手でクナイを持っている。チョンカの首筋に当てられた刃物はあのクナイであろう。

 チョンカは今自分に起こったことをようやく理解し、サイコルークスを発動させながら身構えた。



「……正義のエスパーチョンカ! か。合格だ。……通っていいぞ」


「お、お前!! 一体何しよんよっ!?」



 クナイを持ったラットは指で口元を覆うマフラーを下げた。



「私は瑠璃・ファンシー……突然の非礼を詫びよう。私の動きが追えていないようだったが……ここが戦場だと理解してすぐさまサイコガードを張った。そして私の攻撃を凌いだ。だからお前は合格だ」


「瑠璃ちゃん、こっちのゾウさんも合格ね!」



 瑠璃とは正反対の純白の毛並みのラットが、ゴリ郎の肩に立って上から叫ぶ。



「正義のエスパーチョンカ! ね? あなた瑠璃ちゃんの攻撃を防ぐなんてすごいわ! 瑠璃ちゃんったら本気で皆殺しにするから合格者なんて今まで出したことがないのよ!」



 興奮する白いラットがゴリ郎から飛び降りてチョンカの両手を握りブンブンを縦に振る。立て続けに色々なことが起こって、ついていけていないチョンカは、なされるがまま振り回されている。



「私は茜・ファンシー。急に襲っちゃってごめんなさいね? でもこれもお仕事だから」


「茜ちん……行くぞ。競技が始まってしまう」



 その瞬間、確かに目の前に居た瑠璃の姿が忽然と消えてしまった。そして隣にいた茜の存在感が薄くなりチョンカの体を通り抜けるように過ぎ去っていった。チョンカの背後から再び悲鳴と血しぶきが上がり始める。



「ふぅーーーーー、なんとか二人の試験に通ったっちゃ!! チョンカもすごいがぁ! あの瑠璃の攻撃を防いだ奴は初めて見ただにぃ!!」


「え、え、あ、うん……」



 チョンカは褒められて喜んでいいのか、突然の攻撃に怒っていいのか、混乱していた。

 胸がどきどきしている。

 先程のように、これから始まる大会に期待でどきどきしているだけではない。自分の知らない強いエスパーが世の中には沢山いることを、身をもって知ったからであった。
















『きゃぴーん☆ さぁ、みんな! 選手入場だよ!』


『みんな、はくしゅで でむかえてネ』



 大きな扉が軋みながらゆっくりと開く。日差しに目を細めながら、チョンカは選別で残った五人と共にフィールドに向かって歩き出した。



『ちょーっとちょっとちょっとちょっとー!! コラァ瑠璃たす!! あんたいくら選別って言っても玉入れで六人はないでしょうが!! 茜ちんもしっかりしなさいよっ!! どーすんのよこれっ!!』


『かぷちゃん すが でてるヨ』


『あー……おほん、きゃっぴーん☆ んもぉ! 瑠璃たすったらっ! カプちゃんプン☆プン☆』


『かぷちゃん せつめい よろしくネ』



 チョンカ達の目の前に広がるフィールドには大小様々な鉄球が置いてあった。小さいものは手のひらサイズ。大きいものはゴリ郎の二倍ほどもある大きさで無造作に転がっている。フィールドには四ヶ所、大きな穴が開いており底が見えない程に深く掘られているようであった。



 チョンカ達の前に、男性ラット二匹が歩み寄ってきた。大きなラットでそれだけでファンシー家であるとチョンカは直感した。



「よぉ、俺はロシェ・ファンシー。隣にいるのは、ぱん・ファンシーだ」


「私達は選手の案内役や設営、競技の準備等を担当しています。玉入れはそれぞれ別の場所に立っていただいてから始めますので、私たちについてきてください」


「あ、正義のエスパーチョンカ! はこの場所からスタートでいいから、ここに居てくれな。全員スタート位置につくまでちょっと待っててくれ」


「え、あ、はい」



 チョンカ一人を残し、他の五人のエスパーたちはロシェとぱんに連れられてそれぞれのスタート位置に案内された。

 手袋の中が湿っぽい。手汗をかいている。

 チョンカはぺろりと上唇を一舐めした。



『きゅんきゅん☆ みんな、どっかの殺人マシーンのせいで選手の人数が少なくなっちゃったけど、これから玉入れの説明をするね☆ まずー、パンフにもあるように玉入れは制限のある能力はないから自分の持てる力を全部! 100%出し切って戦ってもOKだよん☆』


『なんでも ありって こわいネ』


『そうだよねぇ~ぽんぽん! カプちゃんも怖いよぉ☆ それでね、玉入れのルールなんだけどぉ、フィールドに散りばめられた鉄球を、四ヶ所の穴、どこでもいいんで入れちゃってください☆ ロシェ君とぱんぱんがみんなの入れた鉄球の重さを量ってるからぁ、一番重かった人が優勝だよ☆』


『かんたん るーる』





『ぴっきゅーーーん☆ 今ぱんぱんからテレパシーいただきました☆ 準備完了みたい! それじゃあみんなお待たせ!! 第一競技 玉入れの開始だよ☆』


『れっつ ふぁいと みんな そこそこがんばってネ』

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