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【未完】フェバル 〜剣聖プロトタイプ〜  作者: No.666 暴虐の納豆菌
第1章 《次元連結世界〝クルシュマナ〟》
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第5話 間抜け




「起きなさーい。そろそろ時間よ」


「………んゆ。わかった」



私がオーメス一家に世話になり始めてから一ヶ月が経った。心地いい日差しが窓から差してくる。ポカポカとした陽気が今日も良い一日を約束してくれる。

起き抜けにアミカの声を聞くのはなんだか釈然としないものがあるが……。

私を起こすのは、いつもアミカの母親だった筈だが。



「かーさ………クルシュさんは?」


「さっきママの事、母さんって言いそうになったでしょ。別に訂正しなくてもいいのに。………ママは手続きに行ってるわ。多分直ぐに戻って来るから私が代わりにエネミアを起こしに来たって訳」



手続きって何の?……いや、それよりもーーー



「余計なお世話を………」


「起こして貰ってる身で随分と偉そうね?今度の訓練の時には川に落としてやろうかしら」


「………やったら滝壺に突き落とす」


「なら私は深海に叩き落とす事にするわ」



止まらない負のループ。ライバル宣言以降からは、こんな感じでアミカと私で対抗心を燃やし続けている。

仕返しは倍返しが基本。コレはどこに行っても同じだと思う。でも流石にループが20を超えた辺りでどちらとも無く舌戦を辞めた。


仕返しプランに倍返しプランを返し続けていると、仕返しの規模が当然の様に倍々になっていくのでボキャブラリーが足りない現象が起こるのだ。


因みに今回の倍返しプランは『高空から火山の火口に蹴り落とす』という〝飛行〟や〝空中摩擦軽減〟に〝姿勢制御〟と〝落下物角度調整〟などの、実に風魔法の訓練が捗りそうな技能が要る仕返し案が出てから二人の口は止まった。

これ以上となるとブラックホールとか言い出しそうだが、流石にそれは私達の力量では無理があるのだ。有言実行できない罰など何も怖くない。自然と自分の成し得ない領域になる前に二人とも口を噤むのがいつものパターン。


一言言っておくと、この場で発言したプランは訓練時には必ず実行されている。いつも互いに耐えるか躱すので、有言実行したとしても仕留めるには至らない。

まぁ、だからこそ安心して叩き落とす事ができるのだが……。



「手続きって何?」


「あんたの気力と魔力を測るの。昨日言ったと思うんだけど」


「………あぁ、そういえば、そんなのあった。……クルシュさんには迷惑かける」


「私にも迷惑かけてるわよ?」


「お礼は剣で返す」


「ちっ、そう来たか」



話が脱線しまくってたので初心に返って、クルシュさんが何の手続きに行ったのか聞いた。

その後のは、まぁ、微笑ましいコミュニケーションの範囲だろう。



「そろそろ朝ごはんもできるし、早く降りて来なさいよー」


「………ん」



そう言って部屋を出ようとするアミカを追う様に寝惚けた頭で目を擦りながらベットの横に立て掛けてある愛剣を掴み、足を踏み出したのだがーーーー



「へぶっ!!」



何故か剣はビクともしなかった。

私はその、一気に重さを増した愛剣を掴んだまま、自分の足の進む勢いを殺すことが出来ずに前につんのめり、転倒する。



「………何してんの?」


「………身体強化、忘れてた」



アミカの冷めた目が痛い。ライバルにこんな醜態晒すとか黒歴史過ぎるからできるならスルーして欲しかった。だが、そんな事を配慮してくれるなら日頃から口論に発展する筈もなく。

普通にバッチリ見られましたとも。えぇ。


実は、ぶっちゃけると今の私の素の身体能力では剣なんていう鋼の塊を持てる程の筋力がある訳が無いので、いつもは気力による身体強化を常に身体に施していたのだ。


気力操作を無意識レベルで発動できるのは私の強みの一つだが、そのお陰で私は普段あまり気力の操作に意識を割かないのだ。いつもは考えるより先に身体が実行してる習慣行為だからか普段の生活ではあまり意識して無い。


これが戦闘ならば少しは気力の配分に気を使うのだが、故郷と違って日常で気を張り詰める必要の無いこの場所では無意識に行使できるのだから充分だと思っていたのだが、それが仇となった。


つまり、寝惚けて気力強化を忘れて素の身体能力で愛剣を持ってしまった為、鋼鉄の重さを私の幼児にすら劣る筋力では持ち上げる事が出来なかったという事だ。そして、持ち上がらなかったのなら一度手を離せばいいものを、寝惚けた私の頭はその事にすら気づかず、そのまま剣を掴んだまま扉に向かって行ってしまった為に勢いよく転んだという何とも無様な顛末である。



「なんたる、無様…!」



しかも、アミカの前で。

そう言って床を拳で叩くが、身体強化されていない私の拳ではペチリとも言わない木製のフローリングが憎い。あと、悲しい。


あぁ、転んだ拍子で意識が遠のいて………ーーーあれ?視界の端にこちらの後頭部目掛けて落ちてくる私の愛剣が見えるぞ?


待って。マジで死ぬから。今、床におでこぶつけた衝撃でまともに対処できないから。真面目に死ぬから。………だから、お願いだから落ちてくるな。そこは私の後頭部ーーーー!!!



「間抜け」


ーーー返す言葉もありません。


私は屈辱な事にライバルのその言葉に何も言えず、そのまま視界は暗転した。


あとで聞いた話だと、結局私はこの後、後頭部に我が愛剣による無慈悲の鉄拳を打ち込まれ、その強烈な衝撃に私は3時間程意識を手放していたのだとか。


獣人の強い生存本能の為せる業か、咄嗟に後頭部を強力な気力強化で守った為にこの程度で終わったらしいが、アレを生身で受けていたら今の貧弱な私では間違いなく死んでいたと思う。

私は〝死にたがりの剣士〟だし、今も死に場所を探している馬鹿だけど、流石にこんな無様な死に方は嫌なので助かった。

自殺志願者にもーーーいや自殺志願者だからこそ納得のつく死に方で死にたいのだ。分かって欲しい、私の繊細な自殺願望(おとめごころ)である。


無意識レベルで発動できる身体強化とかは、割とありがちな設定ですよね。



骨組み状態のストーリーではキャラの掘り下げができる日常回も少なくなると思うので、時折出てくるエネミアの突拍子の無い言動に対してカバーできる作中の会話があまり出せないんですよね。


今回も、〝火山の火口に蹴り落とす〟の倍返しの一例にいきなり〝ブラックホール〟とかいう経緯も規模もかなり飛躍した一例を出してみせたエネミアちゃんでした。

………叩き落とすにしても限度があるでしょうに。

火山火口ならキャラによっては耐えられそう(実際フェバルなら耐えそう)ですが、ブラックホールはダメでしょう………。

本編でもブラックホールに耐えるキャラとか、一人それらしいフェバルの名前を聞いた位ですし。

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