第1話 始まりは即死から
なんか一人称視点なのか三人称視点なのか分からない文章になってしまった……。
駄文ですいませんがよろしくお願いします。
第1章
舞台《次元連結世界〝クルシュマナ〟》
・大まかな許容性
気力許容性:非常に高い
魔力許容性:非常に高い
生命許容性:高い
理許容性:やや高い
フェバル能力許容性:極めて高い
・特筆すべき理許容性
時空間法則許容性:極めて高い
魔神ちゃんことプリシラに見送られて、目が醒めるとそこは見知らぬ森だった。
目を擦りながら、起きあがり周りを見渡す。
「………これがそういう」
そこは、湿気の多いジャングルの様な場所だった。
プリシラが言っていた、フェバルになると宇宙を永遠に彷徨う事になるというのは、成る程こういう事か。
フェバルの旅とはどうやら星と星を移動する形になるようだ。
宇宙に放り出されて、そのまま宇宙空間を彷徨う訳じゃなくて安心したと言うべきか。
そもそもフェバルにならなければ大人しく死ねたのでそうとも言えないだろうか。
「………サバイバルは得意」
とりあえず、現状の打開が優先だろう。
食料は勿論、まともな生活に使う道具すら持っていない。持っているのは背中に背負うこの愛剣だけだ。
女性としてどうかと思うかもしれないが、私は、あまりそういうのは興味ないので、差し当たっての必要なのは雨風をしのげる場所くらいか。
私の故郷では雨風をしのげる屋根ですら贅沢なものだったのだから、女としての手入れがどうとかは二の次、三の次だ。
他の星に来てまで屋根の無い拠点で暮らさないといけないとか悲しいし。故郷では見れない緑豊かな場所に来たんだから、どうせなら満喫したいじゃん。
幸い、サバイバルの技術には大体手を付けてある。
サバイバル技術はあの荒廃した大地では必須技能と言えるだろう。
10年以上もしているのだから孤独感や緊張感、不安感にも慣れている。
私が生き残る上で必要な技術の習得を怠る筈がない。
まぁ、その生存能力の高さ故に、死にたい時に死ねなくなってるんだから、私としては人生複雑だなとしか。
幸い周りの森には緑が多く、自然が生い茂っている。故郷には無い多くの恵みがそこにはあった。以前よりも贅沢な食べ物も一杯あるかもしれない。
生存に特化した獣の嗅覚は毒の有無も見分けられる。私の中にもその獣の遺伝子があるので、大丈夫だろう。
他にも慣れない足場でも直ぐに立て直せるなどの身体的メリットが多いのは獣人の特徴だ。
「………とりあえず、食べもの」
次の方針を声に出して呟くのは癖だ。
私にとっては、孤独感を紛らわせる為に身についた一種の生存技能と言える。
ーーー瞬間、視界の端から明確な殺気が放たれる。
「ーーーっ!」
それに思考するよりも体が先に動いて迎撃態勢を整える。
視界に入ったそれは、樹木から飛び出してきた枝だった。
その太い枝がまるで鞭の様にしなり、他を圧倒する速度で迫ってくる。
(………遅い)
だがエネミアには通じない。
あの世界で生き残る為には、少ない資源でやり繰りする為のサバイバル技能に加えて、脅威に対応する為の思考能力も必須だった。
その技術の一つである『思考加速』。
達人にもなれば、その思考加速能力が体感時間にまで作用し、あたかも時の流れが遅くなったかのように感じる。
エネミアの思考加速は常人の何十倍にも昇華され、その加速空間は音速の攻撃にすら対応できるほどだ。
殺意を感じたら既に完璧以上の迎撃態勢ができている。
思考できればそれはほぼ確実。
視認できればもはや取るに足らぬ敵でしかない。
反射レベルにまで昇華され、思考より先に迎撃ができるエネミアに攻撃を加えようとすれば、彼女の思考空間ですら認識不可能な速度ーーー光速に至る攻撃を完璧な不意打ちで打ち込んでやっと五分五分といったところか。
(………この程度)
背中の剣に手を掛け、抜刀。眼前に迫る脅威に対抗しようとする。
(………あれっ?)
ーーー遅い。
音速に至る思考加速空間で、酷くゆっくりに見える敵の攻撃。
本来なら認識できた時点で取るに足らない敵に過ぎない。
(………からだがっ!?)
だというのに、腕が動かない。
いや、動いてはいる。
ただ、自分の加速した思考に体がついて行けていないだけだ。
その速度は酷く怠慢で、信じられない話だが、少なくとも自分の身体能力が通常の幼児にすら劣る程に弱体化している、という結論を加速した思考空間の中で計算し導き出した。
迎撃はーーー無理だ。
剣を抜刀する程の時間がない。
いつもなら噛み合っていた思考速度と身体能力が、今はまるで噛み合っていない。
なら剣の代わりにと、腕で迎撃するのも駄目だ。
身体能力が弱体化しているという事は例え手で受け流そうとしても力の強弱の感覚がいつもと違うのでまともな防御になり得ないだろう。
何より、速度的に素手だろうと追いつかない。
そんな思考を重ねているうちに、正に枝の槍とも言うべき脅威が迫る。
確実な死を連想した。
この程度の死線なら、鍛えた力で何度も潜り抜けてきた。
だが、今はその力もない。
常なら取るに足らぬ敵に為すすべがない。
(………なんか、悔しいな)
その事を悔しく思いながらーーーーエネミアは心臓を貫かれて、呆気なく死んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『お願い……■■■■』
『ほんとに、それでいいの?』
『うん、ごめんね?……こんな逃避に付き合わせちゃって』
『そんな事を聞いたんじゃない!…………だって私、何もできてない!……させて貰ってない!!』
『いいの。その気持ちだけで充分だから』
『………でもっ!』
『だから、お願い。私をーーーー』
ーーーーーー殺して。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「………夢見悪すぎ」
最悪の寝起きに、ため息を吐いてから起きあがる。
目醒めると、そこはまたもや見知らぬ森の中だった。
プリシラが言っていた、フェバルは宇宙を永遠に彷徨うという話、星と星の間を移動するのだろうという推測は既に確実だ。
ついでに言うと、プリシラが言っていたもう一つの事実も証明された。
死んでも別の世界で復活する。どうやらこれは本当らしい。
あの時、変な樹木に心臓を貫かれて、確かに私は死んだ。
だが、今こうして生きている。そしてまた見知らぬ土地に居る。
事実証拠だけでは不十分かも知れない。それに推測に過ぎない。
だが、少なくとも確定に限りなく近いだろう判断ができる程度には十分な体験だった。
問題は体の再生だが、これも大丈夫だ。
貫かれた心臓だけでなく、血液の一滴に至るまで全て修復済みだと思われる。
衣服もちゃんと修復されて………無いな。
正直、心臓貫かれて血塗れなこの格好は…………どうしよう、割と好きかもしれない。
なんて言うのかな?死を身近に感じるというか、何というか。
いや、実際死んだんだからそれが原因か?
実は、『死』という概念は戦士をやってると必然と付いて回るモノで、私にとっては『殺すための武器』である『剣』と同じくらい大事な概念だ。
常在戦場というが、あの世界ではそれが末期になってくると、常に死を近くに感じなければ落ち着かないという訳わからん人種が現れる。
私は、別にそこまで狂ってる訳じゃないが、それでも血を見ると気分が良くなる程度には毒されていたようだ。
感覚的には、おやつを貰って喜んでる時に近いかもしれない。
死の感覚がおやつとは、狂ってる自覚はあるが。
まぁ、この血塗れの状態で人里に降りたりすると面倒だからどうにか服を調達する必要がありそうだけど。
「…………頭痛い」
頭痛がして思わず頭を抱える。
それにしても夢見が悪すぎる。
星間移動の際に見たあの夢。どんな意味があるのか分からない。
何かを諦めるかの様にも、何かを決意するかの様にも見える死を請う少女と、殺風景な白い部屋で二人。
泣きながら親友の少女の胸に剣を突き立てるもう一人の少女の夢。
二人の少女の外見は酷く曖昧で、既に私の記憶では輪郭くらいしか分からなくなっている。
夢に過ぎないと切り捨てるのは容易だがフェバルとかいう訳分からん摩訶不思議な生命体になってしまった以上、どんな事態も考えてやり過ぎって事はないだろう。
最悪のパターンとして、私のフェバルとしての能力が『未来予知』で星間移動の際にそれを見たとか言うのだった可能性もある。
まぁ、そんなピンポイントな話はそうそう無いだろうから可能性から除外してもいい。
他者からの干渉で夢を見させられるという可能性も考えたが、エーナさんとプリシラの会話で星脈に干渉するのは容易ではないという事が分かっている。
エーナさんが『スケールのでかい話』と言っていたので少なくとも普通の超越者が出来ることではないのだろう。
だから星脈に乗って星間移動中の私に夢を見させられる人物など限られているし、そんな人物が新人フェバルに過ぎない私に干渉してくるとは思えない。
まぁ、フェバル自体あんまり知らないので何とも言えないのが現状だが。
ただ、あの状態で『星脈に干渉できる』存在で、新人フェバルに過ぎない私に『用がありそう』な存在が一人だけいる事にはいる。
魔神ちゃん、つまりプリシラだ。
彼女だけが星間移動中の私に干渉でき、そして干渉する理由が最もありそうな存在だ。
と言っても肝心の干渉の理由が分からないし、その行動が悪意のある行動かも分からない。
あの身内贔屓のポンコツが私にそんな回りくどい罠を仕掛けるとも思えないし、やったとしても純粋な手助けかもしれない。
どちらにしろ確定事項では無い上に、どちらも突飛な話だ。
そこまで考えて思考の坩堝に嵌りそうだったので、頭をブンブンと振って思考を切り上げる。
「…………とりあえず現状確認」
頭の中の思考を追いやり、気分を変えるつもりで方針を決めてから辺りを見回してみる。
私が降り立ったそこは、またもや森だった。
でも、前と違って随分綺麗な森だ。
前の森が湿気の多いジャングルで毒々しい色合いの果物が多かったのに対し、こっちの森は木々の間を木漏れ日が差す神秘的な森で、木の上には色とりどりの果物が多く実っている。
若干だが、誰かが定期的に手入れしている気配もある。
「……綺麗」
その森の姿に思わず呟いてしまう。
故郷ではここまでの実りはそうそう無かった。
私達の星では、果てのない広大な荒野しかない為、あの場所で生き残る為に生物はあらゆる進化を遂げて来た。
進化の方向性は『生存』。その一点に尽きる。
それは人が、少しでも種を残すために進化し、例え獣と交わろうとも人の子を残せる程度の優性遺伝子を得るにまで至ったし、獣だって、保護も無く食料も無い世界で生き残る為に最低3ヶ月は何も食べずに生活できる程度には進化した。
その二つの進化体系が混ざった様な存在である『獣人』だって1ヶ月は飲まず食わずで生きて行ける。
何が言いたいかというと、この森の実りは視界に入る範囲の食料資源だけでも一種族を最低2、3年は養える程に多くの資源で溢れている。
しかもそれは、あくまで視界に入る物だけでそれなのだから、後はお察しだ。
正直故郷にこんな土地があったらそれだけで世界大戦が起こる位には食料資源が豊富だ。
私の星は多くの外的要因(主にフェバルとか)のおかげで随分と大地が摩耗しているとプリシラが言っていたので、もしかしたら、他の星ではこの資源の豊富さが普通なのだろうか。
だとしたら凄く楽しみだ。
まぁ、これからの旅をこんなに楽しみにおきながら、まだ死への執着を捨てきれない私は、本当に筋金入りだなとも思うが。
これからの事に思いを馳せながら、私は森の中で気配を殺し、一歩一歩確実に進む。
警戒はし過ぎて損になる事は無いだろう。私自身の弱体化の件もある。
自然の中にいつまでも居るのは愚策かもしれない。
「………そろそろ人里をーーーー」
ーーーぐうぅぅぅ〜。
探さないと、と言おうとした所でなんだか腹部の辺りで音がした。
この感覚は知っている。何度も経験したから何となくわかる。
そういや最近何も食ってなかったなぁ…と思い至り、でもここ最近は死に場所探しのデットツアーで忙しかったし、道中食べれるものとか何も無かったしとか、言い訳してみる。
はい、言わなくてもわかると思いますが空腹です。腹の虫は絶好調で鳴いてます。
まぁ、幸い食料はそこかしこにあるんだから心配しなくてもいいだろう。
「………これなんか良さそう」
周りをキョロキョロと見回していると、赤くて丸い果物が見つかる。
程よく熟したいい果実だ。美味しそう。
果物なんて、故郷には無かったので知識もないが毒がない事は匂いでわかる。
私の獣としての側面。片親の存在は猫という古い昔の愛玩動物が、生存の為に身体能力や嗅覚、察知能力を高め続けた先に至った魔獣だ。
猫は嗅ぎ分けることに関しては犬に負けるが、それでも通常の人よりは何倍もいい。
それこそ進化した私の故郷の猫なら、物体が自身にとって有害な物質を含んでいるか嗅ぎ分けることなど、造作も無い。
それは、人と交わった獣人である私も同じだ。
その嗅覚で、有害物質を含んでないことを確認すると手近な葉っぱで簡易な皿を作り、同じ赤い実を乗せて目の前に並べる。
「……いただきます」
手を合わせ、8年前から習慣化してきた食前の挨拶をして赤い果物を食べる。
マテリムジアイヤには食前の挨拶とかしてる余裕すら無い。周りが全部敵という環境で安心して食事ができるはずも無いので、食前の挨拶とかはそれができる余裕を持ってる強者の証だったりする。
敵の目の前で食事に集中できる余裕。命の糧となる食を、敵の目の前で奪い去る事のできる特権とでも言うべきか……要は『何をしてきても、お前らに俺はどうにもできない』という意味のわかりやすいアピールだ。
因みに、察しのいい人は気づいたかもしれないがこの食前の挨拶は8年前の〝ろりこん〟さんから教えてもらったものだ。
あの時は純粋に、糧となる命に感謝するという思想の挨拶に共感したものだし、今も分かることには分かるのだが、教えてくれた人があの〝ろりこん〟さんなのでちょっと複雑だ。
まぁ、8年も使い続けて習慣化しているので直せるものでもないし、問題なのは教えてくれた人であって、行為自体を否定する気もないので、直す気もあまり無いが。
「……ごちそうさま」
そんなことを考えながら食べていると食事が終わる。またもや複雑な気分になりながらも習慣化した〝ろりこん〟さんの故郷の食後の挨拶をして締め括る。
「………さて、もう行こーーー」
ーーープピャイっ!
そうして立ち上がり、そろそろ行こうかという所で、なんだか笛を吹こうとして力み過ぎて失敗したような、そんな間抜けな音が響き渡る。
咄嗟に音の発生源を目を向ける。
そこには綺麗な赤色の長髪を背中に流し、少しだけサイドで縛る髪型をした、恐らく私と同い年の15歳位の少女がホイッスルを構えて立っていた。
その顔は羞恥に赤く染まっている。
「「…………」」
……………………………。
………えーと、見なかった事にするから仕切り直してもいいよ?
「………その変な同情の視線はやめて!」
赤髪の少女は真っ赤に染まった顔で力強くホイッスルを握りながら叫んだ。
主人公はフェバルに必須なサバイバル技術を既に持っていると言ってましたが、そもそもが何の資源もない世界の生まれなので他の星で通用するかは不明です。
少なくとも草木があるだけマシって感じの世界で生きてたので、森とかでサバイバルとかは割と出来なかったりします。どちらかというと少ない資源でやり繰りするのに慣れてる感じですね。
そういう意味ではサバイバル技術というより節約術の範疇かもしれません。
あと、最後に出てきた赤髪の子は、この小説のメインキャラの一人です。紹介は次回にて。
※ yuukiさんのコメントによりフェバルの衣服機能に関して修正しました。代わりと言っては何ですが、主人公の『死』の捉え方に対して少しだけ話す文章を付け足しました。本当に少しだけ。