プロローグ:前編
※ちょっと誤字修正ついでに文章を追加しました。あまり違いはないので気にしないでもいいかも知れません。
プロローグ
舞台《炎熱と闘争の崩壊の星〝マテリムジアイヤ〟》
・大まかな許容性
気力許容性:やや低い
魔力許容性:なし
生命許容性:極めて高い
理許容性:非常に低い
フェバル能力許容性:低い
・特筆すべき理許容性
物理法則許容性:非常に高い
ーーー惑星マテリムジアイヤ。
永遠と荒廃した大地が広がる決して裕福とは言えない大地に、体に悪そうな灰色の空。そして、それらを照らす巨大な太陽が空を見上げれば目と鼻の先にある星。
地球における太陽とも言うべき星が大気圏を隔てた直ぐそこに存在する為、生命の許容性が高いにも関わらず凡ゆる命が死滅した世界。
この世界は空にある太陽のお陰で、深刻な資源不足状態にあり、一滴の水、一欠片のパン屑が人の命以上の価値があると言えるこの星で、人々は生きる為に生まれた時から限られた資源を奪い合う闘争に晒され続ける事になる過酷な環境で生きる事となる為、5歳児の子供ですら世界的強者を出し抜く事すらあり得る闘争と強奪、成り上がりが常に成立し、存在し続けるその星で彼女は生まれた。
ーーーー剣聖エネミア。
この世界の人々特有の、いつ死ぬかわからぬ命の価値が低い世界だからこその優性遺伝子に、この過酷な環境で生き残れる獣の因子を埋め込んだ事が原点となり生まれた生物。
人より強い生存本能と人より短い寿命、そして獣の身体的特徴を持ち、その生まれる過程が《人と獣が混ざり合う》という事情故に『堕ちた人』の象徴とされ、迫害の対象となる『獣人』として生まれながら過酷な生存競争を生き抜き、人類の頂点にまで至った齢15歳の少女。
ーーー彼女は今、死のうとしていた。
「ーーーーあなたがエネミア?」
そんな時に背後から響いて来た女性の声。
今まさに大峡谷に身投げする所であった剣聖という少女はその声に振り返る。
そこにはこのご時世、王族ですら見かけることのない上質な衣装に身を包んだ女性が居た。
「…………………」
エネミアは、それに対して思う所はない。
多少、自殺の邪魔をされて不満だったり、そんな上質な素材の癖に魔女風にデザインするという遊びができる程目の前の存在は裕福なのだろうかという疑問はあったものの、呼び止められて応えない彼女ではない。
実際、剣聖打倒という名声はこの生きる事すら辛い世界では一種の抑止力たり得る事実となる。
唯、そこに居るだけで最強の力を振り撒き、一瞥しただけで魔神すら逃げ出すとまで言われる彼女を打倒するという事はどんな搦め手を使ったとしても容易に手を出せぬ強者である証明になってしまう。
故に目の前の魔女風の女性の様に挑戦目的で声を掛けられる事もある。まぁ流石に真正面から搦め手を使わず声をかけて来たのは数えるほどしか居ないが。この世界では正々堂々などという飾り言では生きていけないなのだから、この女性を殊勝な心構えだなと思う事はあってもその心に賞賛する事はない。
そんな気持ちのいい奴ほど早く死ぬのがこの世界だ。
殊勝にも正面から剣聖であるエネミアに挑んで来たこの女性も直ぐ死ぬ類だ。だから彼女の中では〝殊勝な人〟で終わる。いい人だったと惜しまれる事はあれど死ぬのは当然の帰結として悲しまれる事はない。もし、他の世界なんかがあれば、そこがこんな世界の様に過酷な環境でなければそれなりに多くから必要とされる善性がこの世界では〝ただの敵〟を出し抜く為の〝判断材料〟に成り下がる。
ーーーそれがこの世界だ。
故に、衣装の上質さから純粋培養された箱入りお嬢様だったりするのかなとか想像しながら。エネミアはいつもの様に、背中に抱えているボロボロの剣に手を掛けて女性の目を見た。
ーーーーその瞬間に今までの思考の一切を撤回した。
その全身に漲る強者のオーラ。
その瞳に宿す〝乗り越えて来た〟覇者のソレ。
まさか死に際に、これ程の強者に会えるとは思わなかった。
「私はエーナと言う者よ。ーーー早速だけど貴女には死んで欲しい」
「………やれるなら」
私を殺すのが目的か。
常なら無謀な挑戦者で終わる所だが、彼女の力なら十分に可能だろう。
寧ろ自分が小物に見える程の力を持ち得ながら態々自分を狙う理由が判然としない。それ程までに目の前の存在は圧倒的だったのだから。
エネミアはそんな事を思いながらも、挑戦に応える為に剣を抜く。
身投げする予定だったのだがどうせなら戦いの中で死ぬのも一興である。
エネミアは目の前の超越者を見て、そんな何時もの自分からしたららしくもない気持ちを抱きながら鍛冶屋から盗み出した人生で初めて手にした盗品であり、凡そ10年もの付き合いになる愛剣を構える。
「勘違いしないで欲しいのだけど此方は貴女のために貴女を殺す。恨むならそれも仕方がないけど、できるなら抵抗しないで頂戴」
「…………御託はいい、さっさと来る」
目の前の女性の口から出る言葉に、いきなり出鼻を挫かれる。
そんなに強者のオーラを漂わせて私に挑戦しておきながら今更言い訳か?
今も自分で殺すと言っていながら訳がわからん。命だって例え価値が少なくとも無いわけでは無いのだ。
価値ある物を奪うのならその価値と同価、もしくは上等な価値を示す物と交換するか、持ち主から奪う以外に無い。
そんな当たり前の事は彼女も知っているだろうに。
だが、彼女は至って真剣だった。真剣に〝私の為に〟私を殺すと言っていた。
どんな意図があるかは知らないが、もとより己の命の価値に押し潰されそうになって身投げしようとした身なのだ。死ぬならそれも良いだろうと思いはするが、流石にこの状況で無抵抗は無理だ。
「………後悔するわよ」
「………やってみないとわからない」
地獄の底からやって来る亡者の姿を幻視した。
幻視したのは強者や覇者では無く、亡者。
それは彼女の言う後悔という物が、真実として私にすら耐えられぬ絶望を見て来た者の実感を伴った忠告だからだろう。
だが、それが何だ。寧ろ上等だ。
そんな強者と戦って死ねるなら一興どころでは無い、最早本望と言える。
体格に恵まれず、能力に恵まれず、出自に恵まれなかった彼女が生き残り、剣聖という頂点に至ったのは、強い生への執着でも完璧な師の教えでもない。
ーーーただ、死に場所を求め続けたからだ。
誰もが価値を見出さず切り捨てていきながら、自らの物だけは何があろうと手離すことは無いだろう、この世界でも特殊な形の価値を持つ〝己が命〟を使い潰し、消費し続けたのが私だ。
もとより、こんな過酷な環境で永く生きれるとは思っていなかったエネミアはただ今まで消費した自身の命に釣り合う結果を求めて戦い続けて来た。
結果、いつの間にか消費した命の価値に釣り合う結末が見つからないまま、命を消費し続けていつの間にか釣り合いが取れるものが無くなってしまった。
だって頂点にまで来てしまった。
それまでに積み上げて来た、命の価値がこの世界にいる者たちでは払えない高みに来てしまった。
だからこそ、エネミアはこの遥か昔に『魔神』によって穿たれたという逸話を持つ『世界の果て』と言われる大峡谷に来てまで身投げしようとした。
この世界にいる存在に払えないのなら、せめて過去にいる『魔神』と呼ばれた『究極』にこの命を捧げる位で無くては釣り合わない。
この星の断面にあけられた穴に身を投げ死ぬ事で星を砕いた『究極』の一片を見ることで自身の命に釣り合いを取ろうとした。
せめて、覇者としての深淵で死のうとした。
だが、目の前の女性から溢れる威圧感は何だ?
こんなたかが大峡谷程度、目じゃ無い位の濃密な殺意の深み。
多くを乗り越えて来た超越者への挑戦という極み。
どれをとっても私の命を使い潰すのに相応しい………いや、寧ろお釣りがくるのでは無いか。
「その目。………はぁ、これだから戦闘狂ってのは嫌だわ」
《バルシエル》
目の前の女性が口から何か力ある言葉を紡いだ。
見たことのない技術だ。
一体どんな攻撃なのかと身を固め、防御の姿勢をとるが、一向に何も起きない。
…………………一向に、何も起きない。
「……………」
「…………なんか、前にもこんな事があった気がするわ」
おい、失敗したのか。
よりにもよって失敗したのか、お前。
こっちは一体何が来るのかと身構えていたというのに、蓋を開けてみれば恥ずかしい事に何も無い。
バカにしているのだろうか?
いや、剣聖と呼ばれようが目の前の存在にしてみればちっぽけな者だろう。
だが、流石に戦闘でコケにされれば私だって怒るぞ?
『……ぷっ、あははははははは!!』
「なっ!?誰!?」
途端に何処からか笑い声が響き、目の前の魔女っ子(笑)エーナさんが驚いて辺りを見渡すが、慣れている私は特に驚いたりはしない。
「………この声は」
「心配しなくても、無害な魔神さんだよ。偶に地の底から声かけて来るけど」
「………?貴女の世界の常識なのかしら?」
「……………常識も何も、皆が生まれた時に聞く声だし」
そう、先ほどの声は『魔神』の声だ。
この星の果ての大峡谷の底に今も魔神は存在していると言われている。
しかも、魔神とは名ばかりで、私の後ろにある大峡谷を作り出した星を穿った逸話はあれど他には特に暴れたとかの話は無い。
魔神さんが暴れる程この星に価値あるモノなど無いだけかもしれないが…………その魔神さんが、この星に子供が生まれる度に祝福し、生まれた命の幸せを願う声を必ず生まれたばかりの人の耳元で囁くのだから、割とガチでこの世界では親しまれてる存在だ。
身近に感じる事も多いからか下手な宗教よりも魔神さんは信じられているし、信頼されている。
そんな事も知らないのかこの魔女っ子(笑)は?
『ドーモドーモ、星脈の奴隷さん。私は魔神だよ。先ほどそこの子が言った通りこの世界に根付いて、観察しては偶にちょっかい出したりしているよ』
「魔神……?まさか世界に寄生している!?」
『寄生とは人聞きの悪い。…………まぁ、二回も同じミスでフェバルを逃したその滑稽さに免じて許してあげるけど』
「ちょっ!?いつから………!!」
なんか魔神さんと魔女っ子(笑)が楽しげに話してる。魔神さんがここまで介入するのは珍しい。
『んー、ウィルの気配が変な所にあったからさ、ちょっと観察してたんだけど………。いやー、流石は新人教育係!まるでコントかと思ったよ!!まさか先程も失敗したのに魔力許容値の確認すらせずに魔法発動を行使できるとは!』
「…ぬぐぐ〜!!……あなた何者よ!」
『だから無害な魔神さんだって。……まぁ、君たち風に言うなら異常生命体?まぁ、肉体とか既に無いけどー』
「まさか!?星と同化する程のキャパシティを持つなんて!?」
『そんな事もあるんじゃ無いですかねー?異常だから異常生命体なんて呼ばれてるんだし。…………と、そろそろ巣立ちの時間だ』
「……………すだち?」
暫く呆然と目の前で交わされる会話の応酬を眺めていたが、最後の魔神さんの呟きは明らかに私に向けられた物だった。
『そ、巣立ちー。そろそろ君はこの星から離れる事になるのさ』
「え、まさか!?まだ早い!」
『新人教育係が何のこと言ってるのか知らないけど、星脈に介入するくらいわけないさー』
「そんな軽い口調でスケールのデカい事してんじゃないわよ!!」
色々、論争(?)している2人だが、私にとっては見過ごせない疑問が一つあった。
「…………えっと、死ねないの?」
『そだねー。君の求める死はちょっと許容できないからねー』
「………じゃあ」
『だからって拒否権もありませんわ〜、ってねー。
折角見守ってきた我が子の巣立ちだもの。おねーさん奮発しちゃうからね!』
凄く嫌な予感はしていたが、残念、拒否権は無かった。
魔神さんは本気でその『巣立ち』とやらを私にさせる気のようだ。あと、魔神さんって女の人だったのね…。
「え?ちょっと、貴女、死のうとしてたの?じゃあ私のやった事って?」
『その子、巣立ち前に身投げしそうになってハラハラしてたから助かったよ〜』
「ーーーーーー」
そして、衝撃の事実に言葉を失う魔女っ子(笑)エーナさん。
話の流れからしてどうやらエーナさんは、この〝巣立ち〟とやらを阻止しようとしてたみたいだ。
…………変な欲張らずにそのまま死んどけばよかったかも。
エーナさん言うこと聞かなくてゴメン。『やらなきゃわからない(キリッ』とか言っときながら、やったらもう後が無い類の物だったら意味ないじゃんね。
魔神さんが介入して来たってことはもう何もかも遅いんだろうな。
この人はそう言う人だ。
生まれた頃からこの世界の人たちはよく知ってる。
『いやー、私の世界から超越者が出てくるのは凄く久し振りだからね〜。星脈の奴隷なのが少し不満だけれど、巣立ちに変わりは無い。おねーさんがんばって応援してるからね〜!』
「…えっ、ちょっ、まっ!」
魔神さんが話を切り上げると同時に私の体が光始める。
エーナさんの慌てた声が聞こえる。
………そうか、これが魔神さん曰く〝巣立ち〟か。
『いってらっしゃ〜い』
………これは、巣立ちした後で死ねばいいとか、そう言う問題じゃ無いんだろうなー。
私は自分の体が何か別の物に変わって行く様な不思議な感覚の中で、何処か憎めない魔神さんの声を聞きながら〝巣立ち〟を終えたのだった。
「………………私って、一体」
その時聞こえたエーナさんの言葉にめっちゃ申し訳なくなる。
いや、貴女のいった通りでしたわ。私、今もの凄く後悔してます。
……………今度エーナさんに会えたら何かお詫びしよう。
ーーーーー私はそう硬く誓ったのだった。
書いてたら筆が勝手にエーナさん登場させてた……。
やはり新人教育係は格が違ったw
後、魔神さんは異常生命体ですがキャパシティに関してはフェバル以上です。元人間、現神様みたいな人。
二千年以上前から主人公の故郷の星に居着いてます。因みに実力派で文句無しの星消滅級です。
異常生命体としては最上級以上の武闘派。
まぁ、やるのは観察位で自由に動く事は無いと言うかできないんですけどね。
設定的にも作者の事情的にも。………強いキャラって何となく動かし難くありません?