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雪中梅
なし
「席を作ってあげなさい」
威厳のある一言
神の声
波が引くように
黒服が
壁際に下がっていく
どれだけの権化か
唖然としながらも
数日前
大学の寮で
同室の奴が
ルパン3世でパチンコ
大当たり
調子にのって
ビールやらつまみやら
乱痴気騒ぎ
みなが寝静まって
奴が
蔦屋で借りてきた
ビデオ
「ルパン3世
カリオストロの城」
パチンコで大当たりだからかと
苦笑しつつ
光景がまざまざと
目の前には
カリオストロ伯爵
何をされるのか
あっという間に
私の席ができる
が
他には
誰もいない
ご老体と二人
刺されるのか。
試されるのか。
「今日は
こちらにどんな
ご用件が
あったのかな」
咎めるような視線
刺客と
思われているか
「まあ、飲みなさい」
無色透明のもの。
美術館に
飾られているような
パッチワークの素敵な
ガラス細工の
デカンタから
注がれる
思わず手に取ってしまった
おちょこ
いつのまにか
日本酒か
だめなんだよなあ
いい記憶がない
と思いつつ
ここでことわれば
どうなるか
車があったがどうでも
いいか
「そんなあなたに
ぴったりの
なかなかおもしろい
お酒です」
なし




