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ライト文芸・童話

ふゆのつどい

作者: ノマズ

 はらはらと雪が降りました。

 人間の町にも、草原にも、木々生い茂る森々にも、雪はずんずん積もってゆきました。


 森の雪の下、そのまた土の下に、ハリネズミは眠っていました。

 雪の布団に土の毛布にくるまれて、ぬくぬくと、幸せな夢を見ていました。

 ところが――。


 グラグラ、バタバタ。


 ハリネズミは、地面が揺れるので、目を覚ましてしまいました。

 グラグラ、バタバタ――。


「一体誰だ、もう春が来たのか?」


 ハリネズミは、寝ぼけまなこで、雪の上にひょいと顔を覗かせました。

 そこには、シマリスがいました。


「シマリスさんじゃないか。なんだ、もう春かい?」


「まだ春なんかじゃないんだよ」


 シマリスも、眠そうな目をこすりながら言いました。


「人間が来たんだ。季節の塔に向かってる。なんでも、冬の女王様に、もう冬を終わらせてくれって頼みに来たらしい」


 雪の上には、冬眠から起こされたヤマネやヘビやカエル、石の洞穴からはコウモリまでもが、眠たそうにしながら、出てきました。


「冗談じゃない!」


 皆、声をそろえました。

 動物たちは、まだまだ眠っていたいのでした。


「冗談じゃないぞぉ!」


 ぼこっと、雪が盛り上がり、クマも出てきました。

 皆、クマの恐ろしさを知っていたので、さっとそれぞれの穴に身を隠しました。


「おい、シマリス」


 クマの大きな声に呼ばれて、シマリスは震えながら、穴から顔を出しました。


「人間が来たというのは本当か」


「ほ、本当だよ」


「冬の女王様のところに、冬を終わらせるよう頼みに行ったというのも、本当か」


「本当だよ」


 クマは、駄々っ子のように、すりすりと雪の上に乗せた顔をこすりました。


「俺はまだ寝ていたいんだよぉ、皆だってそうだろう?」


 クマが言うと、小さい動物たちは、再び雪の上に顔を出し始めました。


「女王様に会いに行こう! こんなに早く冬が終わってたまるものか!」


「クマさん、今は、お腹すいてないの?」


 シマリスが、こわごわとたずねました。

 クマがお腹を空かせていたら、皆、食べられてしまうからです。


「そんなのは、春になれば食べられるじゃないか。俺はもっと眠っていたいんだ!」


 それをきいて、動物たちは雪の上に出てきました。


「よし、皆で女王様に伝えに行こう。もっと冬を長くしてもらうんだ!」


 動物たちは、今は冬の女王様が住まう季節の塔に、行進を始めました。


 冬の女王様は、季節の塔の外で、人間の王様たちが来るのを待っていました。

 氷の椅子に座っていると、やがて、森の中から、兵隊たちをともなって、王様が現れました。


 王様は、冬の女王様に、季節の塔から出てゆくよう頼みました。

 王様は、冬の寒さと雪のせいで、国民がどれほど迷惑しているかを、冬の女王様に話しました。農作物がとれず、薪もたくさん必要になる、寒くて、お腹がすいて、苦しいのだと、王様は言いました。


 そこへ、森から動物たちがやってきました。

 動物たちは冬の女王様に、もっと冬を長くしてほしいと頼みました。食べ物は、春になればたくさん食べられるのだから、今はぐっすり眠っていたい、ずっと起きているのでは疲れてしまう。


 王様は動物たちに言いました。


「お前たちはもうじゅうぶん冬眠しただろう。女王様、動物はわがままを言ってなまけたいだけです。どうか季節の塔から出て行ってもらいたい」


 そこへ、今度は虫たちがやってきました。


「もう冬が終わりなんて、冗談じゃない!」


 虫たちは言いました。

 カマキリやチョウ、ガの母親たちは子供たちの詰まった卵を抱いています。卵を抱いた母親たちは言いました。


「こんなに早く春になってしまったら、固い嘴を持った鳥たちがやってきて、子供たちが食べられてしまう。女王様、もう少しだけ、この子たちに夢を見させてあげてください」


「その通り! モグラなんかが起き出して、子供たちが寝ている土の中をほじくり返されるのは、たまったものじゃない!」


 カブトムシやクワガタ、カナブンの親たちが言いました。


「虫のクセに生意気だぞ!」


 王様が言いました。

 しかし虫たちは、一歩も引きませんでした。

 アリの女王が言いました。


「私の子供たちは、春、夏、秋の間、一生懸命、真面目に働いてくれます。そのうえ冬までこんなに早く終わってしまったら、子供たちはいつ休めばいいのでしょうか。子供たちは、今は秋に採ってきたごちそうを食べて幸せに過ごしています。働き者には、それくらいのご褒美があっても良いと思います。女王様、私の働きアリのためにも、もうしばらく塔にとどまってくださいませ」


「ダメだ、ダメだ、そんなことをされたら、私の国が困るではないか。皆、腹をすかせているのだ。雪が解けなくては、農民も畑を耕せないではないか」


「恐れながら、王様――」


 王様に意見を言ったのは、ミミズでした。


「わたしゃ土の中で、ずうっと働いてきただよ。冬くらい休ませてくれねぇだか。春になったらよぉ、わたしゃまた、一生懸命働くでな」


「黙れミミズ! ミミズの分際で!」


「ミミズが可哀そうじゃないか!」


 クマが言った。


「じゃあ聞くが、人間は休まないのか。俺から見たら、人間の方がよっぽどなまけ者だ。毎日酒を飲んで、猟師に追われることもない。ミミズときたら、土の中で一生懸命、じゃがいもやら野菜やらに良い土を作ってくれてるんじゃないか」


 そうだ、そうだと、動物や、虫たちが一斉に、クマの意見に賛成の声を上げました。


「一年中冬でもいいわよ!」


 そう言ったのは、イチゴの妖精でした。

 イチゴ妖精は、隣に内気なミカンの妖精を引き連れています。


「食べ物がないなら、私たちの実を食べればいいわ。甘くて、美味しいの、知ってるでしょ?」


 雪男もやってきました。

 雪男は、もさもさした長くて白い毛を持っていて、めったに、人前に姿を現しません。恥ずかしがり屋なのです。


「冬は人間も森に来ないから、鬼ごっこだの、かくれんぼだので遊べるんだ。まだオラたち、遊び足りないだ。女王様、もうちょっとだけ、いてください」


 ぎしぎし、ぎしぎしと、森がざわつき始めました。

 ずしん、ずしんと、地面を揺らして、雪男でも抱えきれない、大きな大きな木が、長くて太い根っこを足にして、やってきたのです。


「わしらは、森の長老じゃ。女王様、お会いできて光栄です」


 大きくて古い、森の長老は、全ての枝を垂れて、冬の女王様に挨拶をしました。


「ご存じのとおり、わしらはよく、どの森が一番美しいかを競いあっています。この間は、紅葉の一番きれいな森を決めました。その前は、どれだけ茂れるかを競いました。春のコンテストでは、となり山の桜と桃の森が素晴らしく、いつもわしらは負けておるのですが――冬も冬で、わしらは今まさに、競っているのです」


「何を競っているのですか?」


 冬の女王様は、長老にたずねました。


「雪化粧コンテストです。女王様、わが森は、この数百年、ずっとこのコンテストで優勝を逃してきました。しかし今回は、もうちょっとで優勝できるところまできておるのです。女王様、どうかもう少しだけ塔にお留まりになり、仕上げのために、もう少しだけ雪を降らせてもらえないでしょうか」


 うわさを聞きつけて、人間の子供たちまでやってきました。

 子供たちは、暖かそうな服を着、頬を赤く染めていました。


「女王様、もうちょっと長くいてください。かまくらに雪合戦もやって、雪だるま、雪うさぎも作ったんですけど、ソリ滑りがまだなんです!」


 王様は、自分たちがいつのまにか、動物やら虫やら妖精やら木々やらに囲まれているのに気が付きました。兵隊たちは、ぽかんと口を開いているばかりでした。


「どういたしましょう?」


 冬の女王様は、王様にたずねました。

 王様は白い溜息を吐き、しぶしぶ言いました。


「もうちょっとだけおとどまり下さい……」


 この年の冬は、少しだけ長く続きました。

 冬が長かった分、その年の春は、とても良い風が吹いたそうです。


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