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プロローグ

 月明かりはか弱く、むっとした空気があたりを漂っている。今にも雨が降りそうだ、と思いながら青年は森を進んだ。日はとうに落ちた。あまり目が利かない環境の中、彼は聴覚を駆使して歩く。

 ふと、水滴が頬をなぞる。どうやら降り始めたらしい。まばらに聞こえていた音が、だんだんと早足になり、大きくなっていく。代わりにそれ以外の音が聞こえにくくなったが、それと同時に標的は彼の足音が聞こえにくくなったはずだ。

 目がようやく慣れてきた。雨が降っているうちがチャンスかもしれない、と青年は先を急いだ。




「…っえ……なんっでぇ………。」

 人間の声だろうか。すすり泣くような声が聞こえた。大人…ではないように思える。少なくとも女性だろう。しかし油断は出来ない。声の主を視認するまでは、標的ではないと断定出来ないからだ。青年は声のする方へと近づいていく。

 姿が見えた。少女だ。それと同時に腐臭が鼻についた。これは、血だ。近づくまで、雨の臭いで気づかなかった。

 目を凝らしてもう一度少女を見る。

 小さく肩を揺らしてへたりこむその足元に、人間の死体とおぼしきものが転がっていた。

 この少女は魔物に襲われた被害者なのか、それとも死体の知り合いか、はたまた人の皮を被った化け物か…。それを確かめるべく、一歩一歩近づいていく。

 傷がついていない。血さえも。一つ目の線はほぼ消えるか…?仕入れた情報と照らし合わせる。するとどうしたものか、ピタリと合わさる。

 そして今、青年はこの少女こそが、追っていた魔物だと判断した。

 敵はまだこちらに気づいていない。すぐさまナイフを取り出し握る。そして素早く敵の背中側から腕をからめとると、切っ先を喉に向けた。

「……っ?!」

 敵の息が詰まる。その鼓動は煩いものだった。殺さねば。見た目とは関係なく、人を何人も殺している。危険なのだ。自然と手に力がこもる。

 …それにしてもここまで精密な擬態もなかなかない。仕事が仕事な故に興味深いものだった。おもむろに顔を見ようとすると、そこには、


 長年探し求めた、自分とよく似た不思議な模様が、彼女の顔にはあったのだ。

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