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『狙撃手の正体』

ヒュウウウ…。

夜風に煽られながら昨日の者を待っていた。本来ならば漆黒であるはずの闇夜を街の明かりが焦がしていく。

深夜だというのに少し入り組んだ居酒屋などでは未だ陽気な雰囲気が漂っており、その雰囲気がこちらにもひしひしと感じられるような気さえした。

満月と呼ぶには少し欠けた月を仰ぎ見る。この都会では星を見ることはできないが月なら見ることができる。

月は金色の輝きを放ち、柔らかく月明かりで地上を照らしている。

それにしても、と思う。

軽くアーティファクトと言うものに対してグーグル先生に聞いたところ、よくわからないということだけがわかった。

だがそんなラノベみたいなものがあるか!と思ってしまえばそれまでなのだが俺が今身を置いている状況も大概だろう。

「早く来ねえかなぁ…。」

「ん?僕を探していたのかい?」

建物の上の部分からぶら下がるようにして突如目の前に狐面が現れる。

昨日と同じ外套を見に纏い、もう一度見てもやはり素性は窺い知れない。

こっそり指紋を採取して京谷に鑑定してもらおうとも考えたが白手袋を両手にしており、とてもじゃないが入手できなさそうだ。

大人しくそのような魂胆は諦め、一つ呼吸を置いてから質問を行う。

「アーティファクトと言うのはどういうものなんだ?それに君が命を狙われてるって…」

「おっと、そこから先は僕が話すよ。」

俺の発言を手で制し、こほんと一つ狐面の向こう側で咳払いし、話を始める。

「僕は言うなれば商人みたいなものさ。君たちが使っている武器があるだろう?あれは僕のような商人たちと取引して収めてあるものだ。

無論自らが作ったものを売るやつもいるし、どこからか仕入れてきたものを売るやつもいる。

僕は自ら作るタイプ・・・いや、ちょっと違うかな。ここで失われし遺産(アーティファクト)の話をしよう。」

「ア―ティファクト・・・。」

「そう、アーティファクト。君たちは知らないだろうけれど過去の時代はもっと今より文明が発達していてね。

例えば宇宙へ行き来するエレベーターだったり人体蘇生だったりすでに完成していたんだよ。

無論その文明の発達の方向は医療や移動手段だけじゃない、兵器なんかにもそれは見られる。

例えば触れた相手を数秒石化させたりね。

そう言った類のものを失われし遺産(アーティファクト)って呼ぶ。

まぁ君が初の取引相手だからさ。でも僕は商人。戦力は無いのさ。」

商人であるこいつは俺にそれを渡し、俺はその代りにこいつを護る。

「お前の命を護ればいいんだろう?」

手袋の上から器用にぱちんと指を鳴らしながらご明察、と小さく呟く。

その声は相変わらず少女のようにも感じられ、少年のようにも感じられる。背格好からして老人や屈強な大男ではないことは分かるが、

それ以外は詳しく分からない。

ただ一つここで疑問が浮かんだ。

「なんでそんな文明が発達しているなら今この時代はそれよりも前の段階にあるんだ?」

そこが疑問だ。本来今よりはるか発達しているというならその上を行くほどの技術が存在しているはずだ。

例えば月だけではなくそのはるか向こうへと延びるエレベーターなんてものもあるかもしれない。

でも現実はそんなもの風のうわさですら聞きやしない。どうなっているんだ。

「そもそもそんな技術があるなら過去からやってきた人間だっているはずだろ?」

俺が苦言を呈すとおっ、と顔を上げてまた一つ俺を驚かす発言をした。

「おっ、正解。僕は過去からやってきたのさ。」

一瞬こいつの言ってることが理解できない。

普段なら冗談はよせ、といって払いのけることも可能なはずなのだがなぜか今は雰囲気にのまれ、

その発言にやけに信憑性を持てるようなる響を孕んでいるようにさえ感じられる。果たしてこれは夢なのか現実なのかすら分からなくなる。

深く息を呑み、その言葉の意味を深く考える。

ふと顔を上げると月明かりに晒されて逆光になっているその狐面の奥に怪しげな笑みが灯っているように思えた。

「まぁ厳密に言えば僕を生んだ父が過去の人間なんだ。つまり僕は過去と現在のハーフってことさ。

だから失われし遺産(アーティファクト)も手に入れられたってわけ。

・・・で、どうかな。他にも電子系の物には強いんだよ?」

どうかな、とは手を組む組まないの話だろう。

でも簡単には言葉は出せない。アリスに黙ってそんなの決められない。

「君・・・名前は?」

ふと今まで名前を聞いていなかったことに気が付き、俺がそう問いかけるとそいつは夜風にその外套のフードをなびかせ、

少し考え込んだ後俺の問いに答える。

「普段なら人に名を聞く時は自分の名前から名乗れと言われているだろう?なんていうところなんだけど生憎今日はそうも言ってられない。

なんせ僕の命がかかってるんだからな。僕の名前は折笠おりかさけいだ。取引相手の名前も知らないんじゃ大変だと思うし。慧でいい。

おっと、君の名前は分かるから言わなくて――」

そこまで言葉を紡いだ瞬間、僅かに体を逸らした慧の脇腹を裂いて何か(・・)が飛来した。それは俺の頬を掠めて後方の建物の壁に埋まるようにしてその勢いを止める。

ぴしゃりと左頬に生暖かい水滴のようなものが飛び散る。苦悶の声を漏らす慧を見るに、何かが起こったのだろうと認識する。

一瞬だけだがあの遠くのビルで何か光ったような…?それははるか遠く、取り壊し予定の廃ビルの屋上だっただろうか。

「慧っ!?」

ぐらりと体を傾かせて落下しそうになった慧を寸でのところで抱きかかえて部屋の中に運び込む。

危ない、もう少し考え事をしていれば危うくこの高さから落下させるところだった。

抱きかかえた慧をそのままに病室に飛び込む寸前、またもや俺の手の甲を掠るように何かがまたもや飛来する。

ぬるりとした感触の正体が溢れ出た夥しい量の血液であることを理解するのに暗い月明かりの中でも時間はかからなかった。

ベッドに横たわらせ、ナースコールですぐに人を呼ぶ。それと同時に慌てて落としそうになりながらもスマホで京谷に連絡する。

右手の甲が灼ける様な痛みを伴っているがそんなことは小指を引きちぎられた時よりはましだ。

あの小指は切断面が綺麗すぎてぴったりとつながったらしいが。

こういう時に限って上手く手が動いてくれない、幸い友人はそれほど多くないため京谷に連絡するのにさほど時間はかからないが。

「もしもし…?どなたですかこのような時間に…」

けだるげな声が携帯の向こうから聞こえてきた。本来寝鎮まって居る時間だけに、不機嫌になるのも頷ける。

だが今回ばかりは時間帯を気にしていられる状況ではないのだ。

「舞薗です!えっと、俺の病室で一人けが人がいます!説明はあとでするので早く…っ!」

必死に伝えると俺の声音にただならぬ何かを感じたのか小さく、分かった、と言う声だけが聞こえ、そのまま通話が切れる。

その間にも俺のベッドに横たわる慧の身体からは血が流れ、真っ白なシーツを紅蓮のように紅く染めていく。

とっさに部屋の隅にある洗面台の替えられたばかりのタオルを持ってきて必死に圧迫する。

少し昔、ネットを漁っていた時、応急手当のページで見たことがある。

大量出血した際、圧迫して血を押さえる方法がいいと。

更にタオルは交換してはならない。その分余計に血を吸ってしまうとかなんとか。

隅々まで真っ赤になるタオルも気にせず必死に押さえ続けた。手はもうとっくに血で塗れ、服にも血が拭いきれないほどに付着している。

少々躊躇われたが、外套とその内側の服を何かが通った痕跡の部分から引き裂き、患部を露わにさせる。

そうすると一層むせかえるような鉄くさい臭いが辺りに充満する。患部は血で真っ赤に染まっており、肉が姿を覗かせている。

患部に直接タオルを押し当て、血流を圧迫する。どれくらいの時間だっただろうか。

早く来なければ死んでしまう。その事実は火を見るよりも明らかだ。その最悪の展開を考えてしまうほど更に焦燥感が胸に募る。

「大丈夫か!?」

その焦燥を断ち切ったのはこの叫び声だった。

あぁ、やっと京谷が来てくれた。後ろには医者やけが人を運ぶストレッチャーも見える。これで後は任せられる。

「ビルの上で何かが光ったと思ったら突然…」

そう安堵したのもつかの間、言葉を紡ぐことを途中で断念し、ぐらりと世界が揺れる。

ふっと糸が切れた人形のように崩れ落ちながら俺は気絶するのだった。







「・・・対象、仕留め損ないました。脇腹に一発、揺らいだところを狙ってもう一発狙撃しましたが例の青年によって弾は回避されました。

今夜の狙撃は困難と判断いたします。どうぞ」

「・・・帰還しろ。証拠を残すなよ。」

その時、二キロ先のビルの屋上から愛用の狙撃銃を収納し、屋上から影に溶けるように飛び込んだ女性の目は、迷いに満ちていた。

(どうして…どうして当たらない?)

その考えだけで眩暈がしてくる。視界がぐるぐると渦を巻く錯覚さえ覚え、通信を切断してその場にへたり込んでしまった。

死神時代も狙撃の腕は完璧だった。唯一当たらないことがあったのはその近くにきょうちゃんが居たときだけだ。

ふと、自らの脳内であり得ない考えが渦巻く。

(もしかしてあの近くにきょうちゃんが…?)

考えれば考えるほど、落ちつけと命令すればするほど脈拍とその呼吸は浅く速いものへと変貌していく。

額にはべっとりと脂汗をが張り付き、吐き気さえも催してくる。

(万が一この手できょうちゃんの命を絶ってしまったのなら。)

考えた瞬間こらえきれなかった胃液と先ほど食べた栄養食がむせかえるような臭いとともに口から溢れ出した。

鞄から取り出したミネラルウォーターで口をゆすぐ。

深呼吸を数度繰り返すと暴れ狂っていた心臓は静かになり、ようやく平静さを取り戻した。

銃を支えにして立ち上がり、フラフラと重い足取りで屋上のドアを蹴破る。

そこまでして限界だった。謎の体の異常によって蝕まれた体はもう虫の息だ。

目を開けているのか閉じているのかわからない状態で視界が暗転する。

廃屋となったビルの屋上で崩れ落ちる影が一つ。そしてそれを狙撃用のスコープで目撃し、そこへと走り出す影があった。






(あれは…?)

舞薗君が気を失う直前、彼は確かにビルの屋上に何かが見えた、そう言った。

ならば今ならまだ何か証拠が残っているはずだ。

手当たり次第に遠くに見えるビルの屋上を暗視用のスコープで調べていく。

何もない、何もない・・・ふとそこで俺の瞳が何かの影を捉える。

その影を拡大するようにスコープをいじる。倒れているのは人型のシルエットを持っており、十中八九人間であることが予測される。

だが京谷がここまで必死に探すのにはわけがあった。

(あれは間違いなく狙撃された痕跡…。遥か彼方から狙撃する技術を持ってるってことはもしかして・・・。)

先刻のけが人の脇腹をざっと見たときのことを思い出しながら思考を加速させる。

俺にはあの狙撃技術の持ち主に心当たりがある。

最後にあったのは何年前だっただろうか。確かあの時は俺が一度やらかして死にかけたとき。

瀕死の俺は駆けつけた医療員によって事なきを得たが、サポートに回っていた俺の相棒が忽然と姿を消した。

何年たっても音信不通。探しても探しても見つからなかった。

でもこの狙撃技術なら…

そんな期待が胸の中でぐるぐると渦巻く。再び大好きなアイツに会えるかもしれないという期待と

拒絶されるかもしれない、人違いかもしれない、殺されるかもしれない。

そんな感情が入り混じった感覚。

(迷っててもどうしようもない。確認なら急がなきゃ。)

迷いを断ち切るように頬の肉を軽く噛む。勢いよく窓を開け、スーツを纏っていることも気にせず、凄まじい速度で闇夜を疾駆する。

カツカツと革靴の打ち鳴らす足音を頼りに過去の戦闘の中で鍛えられた脚力を存分に押し出す。

屋上の床を一蹴りし、加速しながら上昇する。息を吐く間もなくまた踏み切る。

そこらじゅうのビルを飛び回り、あの人影があったところを目指して迷いなく一歩一歩踏みしめる。

焦燥感を強引に抑え込んで駆け抜ける。風を体中に受けるため、バランスを崩しそうになる。いや、理由はかつての相棒の事を考えすぎていたからなのか…。

(…っと。あっぶね)

何とか体勢を立て直したところでまたもやビルの屋上にあった何かに躓いて転んでしまう。

硬質な感触、ギリギリのところで受け身をとり、その引っかかったものの正体を確認する。

何かの入れ物に入っていたのだろうか。

その入れ物はチャックが閉められておらず、立てかけてあった状態だったらしく、倒れた衝撃で中にしまわれていた物体がその切れ目から顔を覗かせている。

刹那、ドクンと血管が一際大きく脈打つ。忘れるわけがない。

月明かりも当たらない暗闇でも、それが一部しか見えなくても。

喰絽くうろ・・・。」

その持ち主がドアの陰に隠れるようにして倒れ込んでいる女性出るということも、その女性が己が探し求めていた女性であるということも。

急いで喰絽に駆け寄り、肩を抱えるようにして抱き起す。手首に指を当てると弱弱しくはあるが、確かに息があることが確認できる。

それにしても、だ。

元は俺と一位二位の座を独占していた此奴が何処に行っていたのかはとても気になる。

裏切ったと考えれば一番可能性が高く、信憑性も高いのだろうが、俺は絶対に違う。そう思う。

喰絽はこういう事をするやつじゃない。

俺が死にそうになっても何とかして助けてくれる。それは俺だけにじゃない。

他の同僚だって放っておけないお人よしだった。そのあいつがこんなことをするわけがない。

したとしても何か理由があるはずだ。

かつての相棒とその愛銃を担ぎ上げると、自らが管理するビルの中へとビルの上を飛び回りながら向かうのだった。


話を追うごとに雑になってる感が否めない

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