Prologue 死神の転校生
主人公のかっこいい作品を書きたかった。
可愛いヒロインの作品を書きたかった。
中二病思考を生かした作品を書きたかった。
その結果がこれだよ!
ふぎゅう。
机に顔を突っ伏して半眼で周りを眺める。今現在教室にて朝のHRを待つわけだが。
夏休み明けと言うこともあって「元気だったー?」だとか「お前痩せた?」とかそんなしょうもない会話が流れてくる。
まぁ俺には関係ない話だがな。一応仲の良い人間はいるがそいつらも他のやつらと話をしに行っているようだし俺は何もせずチャイムをなるのを待つことにする。
ただ夏休みは結構ネットや図書館で武器の類や護身術の類を調べることができたので俺としては有意義に過ごせたかな。
この知識をどこかで生かす日が来るのだろうかと問われれば首を縦に振ることはできないが。
ふと隣を見れば何もなかったはずの空間に席が増えている。どういうことだ?
そこまで考えているとHRの始まりを告げるチャイムが放送用のスピーカーから流れてくる。
やっと始まったか。特にすることもなくただひたすらに時間を食いつぶしてる身としてはもっと早く始まってくれてもいいんだが。
「おーいお前らー席につけ―」
担任のやる気のない発言が教室を鎮めさせる。この先生、やる気なさそうではあるが実は怒らせると本気で怖い先生である。恐らくそのことが全員が沈まれた要因だろう。
だが一瞬鎮まった空気もそのあとをついていくように入ってくる美少女を見たクラスの中の人間(主に男子)が騒めきだし、一気に崩れた。
まぁ俺もその一人な訳だが。まずパッと見の印象としては『可愛い』が一言目に出てくる。
この日本と言う国では珍しい金糸のような滑らかな髪。空のように吸い込まれそうなほど碧いその双眸。
胸は…うん。壁とまではいかない程度ではあるがむしろそっちの方が個人的には好みだったりする。
透き通るように白い肌は染み一つなく、美しい造形品のようにさえ思えてくる。
この学校の制服もすらっとした体型の彼女には非常に似合っており、彼女のために仕立てられた服のようにさえ思えてくる。
その少女はチョークを小さなその手で掴み、綺麗な文字で黒板に自らの名前を英語で書いていく。クラスの人間は全員息を呑んで黒板を見つめている。
英語だが…読めるな。趣味や嗜好なども相まって英語と言うものに若干ロマンを抱きさえしている程興味はある。
(・・・アリス=アルフォード、か。なんだなんだ、かっこいい名前じゃないか。)
内側から沸々とぞくぞくするような感情が湧き上がってくる。実に中二心をくすぐられる名前じゃないか。
「・・・アリス=アルフォードです。えっと・・・死神です。」
少女の凛とした声に一瞬心を奪われる。若干困ったようなその声音もすごく素敵である。
そんな静まり返った教室のなかでクスクスと笑い声が響き始める。
「オイオイ、可愛い娘が来たと思ったら脳内イカレ野郎かよ。期待外れか?それともあれか?冗談のつもりか?
それはそれでつまんねえってことには変わりねえけどよぉ!」
キャハハハと愉快そうに笑い声をあげる三人の男子。
正直内心ムカッとくる。自分自身のことを言っているわけではないというのもわかっているがそれでも人間として最低限のレベルまで仕上がっていない。
だが当の本人は涼しい顔をして自己紹介を続ける。煽り耐性が強いのだろうか。
基本的に自らに自信を抱いていない身としては何を言われても気にはしないが正しく評価されるべき人間は評価されるべきだと俺は思っている。
なので俺は自分と言うより自分の周りの人間への侮辱などの煽りに弱い傾向があるようだ。
その為先ほどのように心無い発言をする人間は嫌いだ。対象が俺なら別だが。
ただこういう人間は社会に出ても強いんだろうなぁ。
淡々と自己紹介を続ける彼女に対し煽りを続けていたのだが、先生に睨まれ、蛇に睨まれた蛙のように縮こまってしまった。あの目は見るだけで寒気がする。
ふと先ほどの発言を思い出して少し考える。あの死神発言だが…。
(・・・俺にはわかる。この娘嘘を吐いてる顔じゃない。)
その時の彼女の顔は鋭い真剣さを帯びていてとても嘘を吐いているようには思えない。
少なくとも俺はそう確信できる。伊達に人の顔色伺って生きてきたわけじゃない。この俺を騙せたら役者の道に行った方がいいような気もする。
「えーと・・・席は昨日のうちに左後ろの舞薗の隣に運んでおいた。そこに座ってくれ。」
・・・!?俺!?
男子からは羨ましげな視線(一部を除く)が注がれる中その少女は躊躇することなく俺の席の隣に座り、
「よろしく。えと・・・?」
そう言って挨拶をしてくる。
どうやら俺の名前を知らないみたいだな。まぁ当然か。今日来たばかりなんだからな。
「あぁ、俺は舞薗駆だ。好きに呼んでくれて構わない。俺はなんと呼べば?」
「わかった。ではまいぞのくんと呼ぶことにする。アルフォードって呼んで。」
そのあと担任の先生が簡単に話をしてHRが終わる。
話の内容は休みの間元気だったかー?とかこういう事件があったなーとか言っていたが完璧にスルーしていて何も覚えていない。
これはクラスメイトにも言えることで、しょうもない話しかしないので基本的にみんな話を聞いていない。
トークスキルがないと教師と言うものは務まらないらしい。まったくもって嫌な世の中である。
アルフォードが可愛いすぎてそこに思考が行ってる面もあるのだろう。
HRが終わると雪崩のように俺の机には先ほどの三人組を除いた男子が、アルフォードの机の周りにはクラスの女子がそれぞれ集まってくる。
「なんだよお前!こんな可愛い娘と隣とか羨ましすぎるだろ!?代われ!」
「ひとりだけ抜け駆けしてこの娘と仲良くなるとか許さないからな!」
なんかごちゃごちゃ言ってるぜうわぁ。確かにお近づきにはなりたいと思うけども。
こんな可愛い娘が俺のことを好いてくれるわけでもあるまいし。
「いやいや・・・この娘がそんな・・・ねぇ?」
自嘲気味に洩らした乾いた声がそっと空気に溶ける。
どうせ思考も中二病、見た目も特別すぐれている事は無―――
「そうですか?まいぞのくんは普通にかっこいいと思います。少なくとも私が生きてきた今までの中ではトップです。」
おっと爆弾発言が聞こえたけど気にしないぜHAHAHA☆
「「「「「ええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」」」」」
ふむ。現実はそうも都合よく事は運んでくれないらしい。確実にみんなに声は届いたらしくクラス一同は同時に叫び声をあげた。
だがそれより気になるのは・・・俺がかっこいい?そんなに優れている部分は無いはずだが。
しかし嘘を吐いているようにも見えないときた。これは困惑せざるを得ないな。
「おいてめぇら!うっせえんだよ静かにしろよ!」
苛立ちを帯びた声で先ほど叫んだ男子生徒がまたもや叫び始める。こういうのは放置しておくに限る。
その時またもや機械からよくあるリズムの鐘の音が弾きだされる。
始業式の始まりを告げるチャイムだ。
始業式かぁ。校長の話長いんだよなぁ。まぁ皆寝てるからそれはそれで問題だが。
「はーいお前らー。始業式にいくので並べー。席順だからな。」
先生がまたもややる気なさげに言うとぞろぞろと列になって並びだす。
ぞろぞろと死刑執行されるような死人のような顔つきで体育館に入っていく。如何に眠いか分かる。
というか話が長すぎるので丸一時間多くとってあるくらいだ。しかも内容はよくある校長先生のお話。これじゃ寝ても仕方ねえよな。
全クラスが並び終えて校長先生がステージにあがる。さぁ我々の睡眠時間・・・と言いたいがせっかくの機会だ。
アルフォードに話を聞いておくか。隣の椅子に座ったアルフォードを指でつつく。
「なんでしょう・・・?」
「死神・・・って言ったよな?」
俺がそう聞くと短く目を閉じて嘆息した。
「またあなたも私をからかいに―――」
「いやそうじゃない。むしろ逆だ。嘘を吐いてる顔じゃなかったからな。どういうことかと思って聞いてみただけさ。
言いたくないことなら言わなくていい。俺の興味の範囲内での出来事だ。君が質問に答える義務はない。」
弁解するように己の考えを言うと鳩が豆鉄砲を食ったようにその綺麗な空色の瞳を大きく見開く。
何かそんなに驚かれるようなことを言っただろうか。
「私のことを信じてくれるの?」
「正直そこまで驚かれるとは思ってなかったけどな。まぁ個人的に気になるんだ。先ほども言ったように答える義務はないけどな。」
同じことを文末に付け加えて信じる旨を伝えるとアルフォードは一つ提案をしてくる。
「放課後、一緒に帰ってもいい?その時説明する。」
どうやら最近引っ越しがあったようだがそれは俺の隣の部屋だったらしい。
マンションの前にトラックが先週あたりに止まっていたから間違いないと思う。
そのときに彼女は引っ越してきたのだろう。何やら人付き合いの少ないマンションという環境でも彼女のことは噂になっている。
まぁ何はともあれ面白そうな話ができそうでよかった。
「ごめ、私・・・もう・・・」
そのままアルフォードはこくん、と俺の肩に頭を預けて眠ってしまった。
どうやら外国人には限界が来たらしい。仕方ないな。俺も眠くなるぐらいだし。
今日は昼までで学校は終了する。そのあとは結構話をする時間もあるだろうしこいつとも仲良くなれたらいいと思う。
・・・仲良くなれたらいい・・・?ふと自らの思考に疑念を抱く。
(どうしたんだ俺。いつもなら微塵も考えないのにそんなこと。)
どうやら彼女は俺の中に小さな変化をもたらしているようだ。
とりあえず話は学校が終わってからするとしよう。アルフォードも寝ちまったことだしな。
何と言うか…改めて思うのだがほんとに可愛いなこいつ。細い華奢な体とすらっとした手足、それに綺麗に整った小さな顔ははそれだけで魅力を感じるのにこんな近くで俺にくっついて寝てると来た。
やっべぇ。なんだが変な感情が湧き上がってきそうだな。これ以上考えるのはやめよう。
そう考えても思考を止められるわけもなく。
ただでさえ長い校長の話はいつもよりさらに長く感じられるのであった。
―――この時はまだ知らなかった。
彼女の与えた変化が俺の中で徐々に大きくなっていくことを。
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