05/ briefing《準備》
お ま た せ
「今回の訓練は、お前たち陸空軍ソーサレスのアビオフレーム実機による初の発艦、及び着艦訓練だ。
全員、座学とシミュレータ、ローパス、タッチアンドゴー、CLP訓練は問題ないな。ま、個人差はあるようだが…」
教卓に立った涼がそう切り出す。
エレオノールは、その最前列に座ってじっとその言葉に耳を傾けていた。
―――いよいよか。
実機での飛行は、陸上基地の滑走路、またアメリア軍の地上着艦訓練場を用いて散々行ってきた。
エレオノールのフレームは、故郷ガレリア製だ。
ガレリア空軍技術廠製 Proto《Meteore》TypeEアビオフレーム
突入電子戦概念実証機。
機体固有名『Roland』
陽ノ皇国の技官連中は『E型メテオール』『プロトメテオール』『メテオールE』って呼べって煩いけど、いいじゃないか、ロラン。
技術研究本部もたまにはセンスいいな。
塗装は、エレオノールの希望でフェライトブラックのスプリッタパターン。
これも陽ノ皇国の連中はロービジに塗れって煩いけど、この色のソルが一番墜とし難かった。
間違いない。
重攻撃型フレームを超える機体規模、高出力の主機と電子戦装備を満載し多数のアンテナが飛び出した波打つスマートスキンを持つ巨大な両脚ユニットと発電専用の小型エンジンを主機とは別に備えたジェネレーターブーム。
至近距離での強烈な攻勢電子戦と敵の電子解析を逆用するクラッキング能力、電子的に沈黙した敵を強襲して叩き潰す重武装のためのペイロード、自身の放つ苛烈なジャミング中に敵を叩くための非誘導近接火器として頭胸部内部に装架された50mm砲と右脚部内の20mm機関砲という狂った兵装
そして滑らかで鋭い前進角を持つカナードと小型な翼面で構成されたアームドターミナルの生み出す高速突撃特化の飛行特性とキネティックススラスターによる圧倒的な旋回率、これらを統制するのはフライトコンピュータ・インターセプトコントロール、フライトエンベロープを超える操作信号を検知したとしてもあらゆる局面でフレームライダーによる操作を優先するFBW制御より更に上位のレイヤーに位置する強制モードで機動性を増している。
端的に言って最高だった。
陽ノ皇国の連中、やれ重いせいでダッシュが悪いだとか、リヒート出力が立ち上がり時に低すぎるだとか、
すぐ操縦翼面気流が剥離するだとか、まぁ喧しいけど、要は高機動の前にサイドスリップで予備機動を掛ければいいだけだろ。
後は、位置エネルギーの管理に気を遣ってここぞでビビらずパワーダイブしてスロットル開ければいいんだよ、ガバッと。
ともかく、最高だった。
一度、低空で翼端失速して墜ちかけたけど。
キネティックススラスターを全開にして垂直上昇したせいで過負荷飛行の緊急整備で徹夜作業に掛かりきりだった整備班にはさすがに申し訳が立たないと思ったので侘び入れて手料理差し入れした。
…………お、おとこのひとに食べてもらうの、初めてだったけど(変な意味じゃない、料理を、だ)
何故かそれ以降整備班に限界領域飛行をそれとなく勧められるが、まぁそんなことはどうでもいい。
で、今回の訓練だ。
「今回お前たちには、INERT装備を用いて実際のコンバット・ロードで飛び立ってもらう。
訓練から本番に準じて行うのは当然のことだ」
まぁ、普通はまずクリーン形態でやるけどな。涼の出雲理論にかかっちゃ規則も形無しだ。
危ないったらないよ、ったく。
「MHIで試験中の我らが母艦、たいほうから電磁カタパルトで射出、250nmの洋上航法訓練を行った後、地上飛行場から飛来した空中給油機から補給を受け、再び艦に帰還し着艦の訓練を行う」
写真がスクリーンに表示される。空中給油機の画像と緒元、たいほう飛行甲板設備が表示される。
「これは貴様らの訓練であると同時にたいほうの艤装試験も兼ねる」
なるほどね、ランチタイム付きのピクニックだと思えってことか。
……試験を訓練兼ねさすとか無茶苦茶だけども。
周囲の連中が怪訝な顔をしてるのが多少気になるけど、兵装あり・兼ねて試験ってところが気になるのだろう。
「艦の航空統制空域、及び洋上での航法訓練では、まず私が曳く。早いところ覚えてくれ」
偉っそうに、涼の癖に…………。まぁ、偉いんだけどさ。家も、陽ノ皇国皇家にゆかりがあるとかなんとか。
あの時の「私が出雲で───」って台詞はそういう意味だったらしい。ガレリアの人間が知るかっちゅうの。
でもそんな高貴な血筋なら、何でこんなとこにいんだ?そういや。まあいいか。
それに僕だって一応由緒あるガレリア貴族、ベネックス家の嫡嗣なんだ
(別に富豪でもなくて、無駄に糞でかくて超古いボロい砦だか屋敷だかわからん感じの家にババァと執事のアランしか居ないけどけど)
その後、細かなプラン、手順が明示される。悔しいが、この辺の手並みは流石だ。
センパイより凄い。センパイほど優しくなくて、学者然としてないけど、これが正しいのだろう。
おおむね総ての網羅すべき事項が伝達され、そろそろかな、と思っていたとき。
「エレオノール」
「はい少佐」
「お前達エクスレイフライトの電子戦専任機はそもそも離陸速度が速い。そのうえ帰艦前に捨てる訳にもいかない爆装並に重量のある電子兵装が積まれてる。
なので離陸用ロケットモーターは他の倍使う。それと大型機離艦用装備の拘束用アンカーブーム四基。
ブームの遠隔操作の使い方を整備班と確認しておけ。離着艦衝撃で気絶するなよ」
「誰に言ってんだ、涼。戦車型に直撃弾貰ったってノックアウトしないよ」
「そうか、ならいい」
涼が華のある笑みを浮かべる。むかむかする。
「以上、解散」
ともあれ、ここから僕の空母乗りの道は本格的に始まるって訳だ。
いいな、この感覚。スクールでセンパイの尻追っかけてた頃みたいだ。
さぁ、行きますか。