interval-02-2 《幕間》
すかさず、空戦パート
冷徹な瞳で敵を観測する。
虚空に浮かぶダイヤモンドフォーメーション。
たった4機では零式の敵ではない。
敵を右方向に見ながらクイックハーフロール、やや斜めに機を背面降下させ姿勢を緩バンク、充分速度を得た後ハイGヨーヨー気味に敵へ。
敵機が呼応して死角からの近接を嫌がるように間隔を広げつつ緩上昇、戦闘爆撃機から離れる。
マスターアーム、オン、ファイアポジション。オグメンタに点火し速度エネルギを猛烈に増加しつつ上昇接近。
増槽を抱いて尚軽量な機体は8Gの引き起こし中にもかかわらずAOAを保ったまま急加速し続ける。
敵がこちらの異常な速度に反応するのが遅れ、突入を許す。
シーカーアンケージ、冷却開始。
AAM-7の赤外線画像センサが敵の形状を捉え、記憶完了を視覚に表示して知らせてくる。
「FOX」
二発射出。
アームドターミナルに懸架されていた多目的兵装コンテナが一瞬扉を開き、ウェポンベイからランチャーが40Gを超える加速度でミサイルを蹴り出す。
安全距離を取った瞬間、ロケットモーター点火、AAM-7が光学兵器かと思えるほどの光芒と加速度で敵に突入する。
回避すらできずに貫かれ、徹甲榴弾化された弾頭の破裂で粉砕される敵機。
止めていた呼吸を意識して再開する。即座に機体が吸気を補助、肺が無理矢理膨らむ。
「っふ…ッ!スプラッシュ1!スプラッシュ2!」
『確認、残りが上下に別れたぞ。注意しろ』
猛烈極まるGの中、続いて鋭く旋回、一旦切ったオグメンタをまた点火、加速度計が20Gを軽々と超える。
悲鳴を上げる肉体を装甲骨格の倍力機構とナノマシンが無理矢理保持し過大な苦痛の中で意識を手放すことを許さない。
───発射の派手な発光とこの有刺鉄線の中で藻掻くような苦痛だけは頂けないですね。
やや余裕が戻りつつあった思考でそんな感想を持ちながら、後方から飛来した火線に再び余裕もなく回避運動を取る。
「っン゛っく……!」
AOA計が90度を超え、完全な非空力旋回領域へ。
警報がけたたましく繰り返される中、必死に機体を振り回して火線を躱す。
ベクタリングベーンとコールドエア・スラスター、カナード、オグメントの併用で回避しつつ感覚的に頭上の敵、つまり真下の敵機へ照準。
バランスの悪い長い脚肢と翼のような腕と一体化されたボディ、懸架される兵装。
───アビオフレーム?!
『躊躇するな!敵だ!!』
あまり耳慣れない声の警告にハッとしてトリガを絞る。
20mmタングステンカーバイトAPDS-TとHEI-Tのコンバットミックスが機影に吸い込まれズタズタに食い散らかす。もがれる手足、空中に咲く紅い花。
「………ッ!」
ほんの一瞬、同族殺しをしてしまったような感覚に指先が凍りつく。
『上!来るぞ!7オクロック・ハイ!フレア!フレア!』
身体が勝手に対抗手段を放出、画像認識を狂わせる散布パターンでマグネシウム熱源を高速射出する。
直後に擦過する対空誘導弾。
全身が泡立つ。
『EA展開!対電子防御!』
「電子防御!」
電子攻撃に備え機体をスタンドアロンモードにしつつアンテナを絶縁状態へ。
本来核兵器の影響下での防御動作だがそんなことはいい。
『魔導加速、最大出力……ッ!』
高空にいて尚機が煽られる暴力的なソニックウェーブ、全帯域に干渉する強烈な電磁パルスバーストを纏った弾丸が敵機との間に射撃され、防御処置を取っていた電子視界すら一瞬ホワイトアウトする。
「ンッ……!?」
『惚けるな、Now!』
「ッFOX!」
AAMを真上で完全に視界を失いフラつく敵に叩き込み、破砕する。
「ッ………………全機、撃墜」
クルビットから緩降下、機体のチェック。
落ち着いた涼の声がやや遠く聞こえる。
『こちらでも確認、状況は終了だ』
「了解しました、涼様。異常ありません、オールグリーン」
『会合地点は予定航路上WP16とする。よくやったぞ、望』
「……………………はい」
センサを振り回して先ほどの敵のいた辺りを見渡す。
まだ空中に紅い飛沫が漂っている。
落ち着いて魔眼による強化でセンサを補正し光学分光分析を試みたところ確かにヒトの血液ではない組成だった。
「…………………はぁー…………………」
安堵とも、呆けたともつかない息が勝手に漏れる。
『初見のイミテーター相手に4対1で完封か、やるじゃねぇか』
先ほどの声、そうだ。
この声、エレオノール・ベネックス中尉の声だ。
振り返ると会合地点にゆっくり近付いてくるF/B-3の後部ランプ(F/B-3は特殊作戦団からの要望で後部ランプとカーゴルームを持っている気持ち悪い構造の戦闘爆撃機である)から外部駆動型電磁化学複合質量投射機に延長レールと外部電源ケーブルを取り付けた中尉がハーネスで身体を固定しつつこちらを見ていた。
「いいえ、危なかったです。まぁあなたの射撃で私も墜ちそうではありましたし、色んな意味で危なかったんですけど」
『ああン……?このガキャあ、助けてやんなきゃ墜ちてただろうが!』
『まぁまてエリー、望は今日が初陣だぞ?』
『マジかすげぇ』
『それとあの機は新型試作エンジン換装から今日で4日目だ』
『えっなにそれこわい……』
妖怪を見る目でこちらを見る中尉。
「怖いのはこっちです、なんですかその非常識な大砲は。なんで飛んでるフレームがそんなので墜ちかけるんですか、ドン引きです」
『ああこれ?G11Kってんだ。あげないぞ』
言いつつ、完全に灼けた追加レールをバシャッ!と外してランプからぺいっと捨てる中尉。
………捨てるんですね。
「いりません、腕がもげます…………ってG11?11式小銃ですか?皇国陸軍でも採用してますけどそれどう見ても制式名詐欺ですよね………?」
『え、知らないよそんなん。これ貰い物だし』
「………………意味が……………分からない………」
頭痛がしてくる。
何だろうこの疲労感は。
分かったのはあの中尉の滅茶苦茶さとあんなもの───察するに、G11のサブタイプの開発と称して開発予算を承認させた上で流用したのだろう。たぶん、ライヒスベルグの兵器廠で───をガレリアの軍人に気軽に持たせる何者かの存在だけ。
『まぁまぁ、望もエリーと打ち解けられたようで嬉しいぞ、私は』
「打ち解けてません涼様」『これで打ち解けたとかどういう脳してやがるこのオーガ』
『はっはっは!これは歓迎会の時の案内は望に頼んでいいかもしれんなぁ』
「ちょ」『おま、話き』
『うん、そうしよう。まぁそんなわけで連邦に空中給油を頼んでおいたからさっさと帰るぞお前たち』
「……………私には涼様がわかりません」
『……同意だぜ……』
『くふふ、まぁそのうちわかる、そのうちな』
実に愉しげな少佐の笑い声を聞いてどうでも良くなってくる。
これも人徳なのだろうか。
そう想いつつ、成り行きに身を任せ彼女に付いて行くことの大変さを噛みしめる3等海曹、統合軍では軍曹、絢瀬望12歳であった。
───12時間後、夕陽に染まる空を征く2機の機影はヴルシュ条約連邦を抜け、オホーツク海経由で陽ノ皇国へと帰還を果たしたのであった。一人の姉妹を連れて。
望の固有能力は機械補助とともに遠距離を手に取るように観察する力。
これと本人の抜群の空戦センスの相乗効果で普通の相手ではカスりもしません。
本パートでもガンを撃たれた時に普通なら墜ちてます。
そもそも四日で新型エンジン積んだ機体に慣熟しています。
というかエリーの魔砲少女っぷりのほうが非常識だが望も大概妖怪変化である。