04/ transfer 《離別》
Q:どう(次話)出そう?
───出そうと思えば
「べネックス中尉、中隊長に用件あり参りました」「どうぞ」
入ります、と室内へ入ると少し薄暗い執務室の中にベアトリスの他にもう一人、
執務机の横に人影が佇んでいた。
―――東洋の魔女。
「遅くに済まないわね、べネックス中尉。ご苦労様」
センパイが僕を呼ぶ声もどこか余所行きだ。
「いえ、用件は何でしょう」
「ええ……」センパイが口籠る。何だろう?
「べネックス中尉、貴方には225を降りてもらいます」
え?
「 どう いう、事でしょう」
そんな、まさか。うそ。
「あなたの機の損耗率が、無視できないレベルに達しつつあります」
「誰よりも敵を斃しています」
ぼく、ただセンパイの 役に
「五度の出撃に一度、中破以上の損傷を受けているわね」
「必ず生還しています」
センパイだけの役に たちたくて だから
「あなたの機体は、破損の度CP型のスペアパーツを組み込み続けた結果
オリジナルパーツの割合が30%以下になっているわ。稼働率はもう限界」
「アデライドさんがいます」
フレームライダーに、 ヴェトロソーサレスに
「全力運転でも、スペックの46%の出力も出ていないわ」
「エーテルを焚けば、58%の出力です」
声が遠い、足許が、ふわふわする。視界が ぼやける。
「もう運用試験は、10月で終わっているのよ」
「運用延長に関するレポートは出しました、耐用限界を……」見極めるために。
言葉が詰まる。 試作型であるあいつは、もともと寿命は短い。
限界なのだ、騎手である自分が一番良く解ってる。
「エリー………」
「………」
「アデライド中尉から報告を受けたわ、主脚ユニットのメインシャフトモジュールがクラックを起こす寸前なの。
あれは、もうただの風変わりでぼろぼろなメイルシュトロームでしかないわ。エンジンが双発な分、質量効率すら悪い」
「僕は、 もういらないんですね、 センパイ」
「ちがうわ」
あ、駄目だ、倒れ
「大丈夫か」
闇に尚眩しい、白色の衣にブルネットが映える東洋の魔女に
背中を抱き留められていた。いつの間に。
「離せ……放せ」
無言で立たせてくれた。カッと血が上る。
「センパイ!!どういう事なんですか!こいつは誰!?
『お空のお嬢様』がアビオフレームも持たず!このネストに何の用なの?!」
センパイが息を呑む。意を決したように。
「エレオノール、……貴女にはアビオソーサレスになってもらいます」
―――今日はやっぱり最悪についてない。
「225は、どうなります。セシールとクロエは」
「セシール軍曹とクロエ軍曹は中隊本部直掩として中隊長付きになるわ
225は、モスボール処理の上本国技術研究本部へ、今晩にでも輸送されるわ
この人は、今後貴方の直接の上官となる陽ノ―――」
堪えられなかった。
「僕が要らないならそう言ってよ!リズおねぇちゃん!!」
「あなたを喪いたくは無いのよ!エレオノール!!」
気付くと走り出していた。
飛行格納庫に整然と並べられた整備済みワンドブースターを一機引っ掴み、それに跨って飛ぶ。
猛烈な加速ですぐに時速180キロを超える。ゴーグルがないせいで目を開けられない。
更に加速、加速、もっと速く
気がつくと、滑走路脇の草地に転がっていた。
―――墜ちたのか。
骨折は無い、大出血も。
ジャケットと猟兵ツナギが無きゃ、大けがだったな。
擦り傷だらけの膝が染みる。
体を起こして、体育座りになる。
惨めだった。軍人のすることじゃない。
装備品の私的使用、破損、抗命。
免職かもな。泣けてくるよ。
すぐそばにワンドブースターが転がっている。
推進剤が尽きて芝生の上に軟着地したようだ。
見たところ破損はごくわずかだ。
無駄に運がいい。
……整備隊に渡さないと。
立ち上がり、整備格納庫へ行ってみた。
若い整備兵が、エレオノールの姿を見て酷くぎょっとし、
慌てて自分の油染みた整備ジャケットをエレオノールの肩に掛けつつアデライドを呼ぶ。
僕、分厚いジャケット着てるってば。
そりゃそうだ、普段男みたいに肩で風切ってる僕が杖を後生大事に抱いて、
悪党に虐められた可哀想な見習い魔女みたいに泣いてるのだ。
びっくりもするだろうな。
アデライドさんは、225コンセプトのモスボール処置を終え、
輸送用重機載パレットにワイヤーとバンドでラッシング固定しているところだった。
仕事速すぎだ、アデライドさん。
アデライドさんは全部知っているのだろう。
お別れを言ってやんな、と言い、肩を叩いて、それから整備班を全員連れて外に出て、
コイツとふたりきりにしてくれたくれた。
何度も命を救ってくれた、騎兵のランスみたいな長砲身砲、試作66口径80mm砲CN80-66X フレーム・ガンを構え、有機的でありながら攻撃的な、あちこちによく見るとえくぼのようになった被弾修復痕が残る
少しバランスが悪い、空っぽの首無し騎士と爬虫類の中間、全身鎧の首無しガーゴイルみたいなそいつにそっと触れた。
「元気でな………」
涙が溢れた。僕はこんなに弱かったかな。
何となく、
こいつに歌を聴かせてやれるのは今日で最後だから
そんな気分だったから、せめて明るい歌でも聴かせてやろうと思って
哀切に掠れるような声で
Mon petit oiseau
A pris sa vole
Mon petit oiseau
A pris sa vole
A pris sa, a la volette
A pris sa, a la volette
A pris sa vole
二人きりには広すぎる格納庫に声が響く、別れを惜しむ声が。
本当は明るい童謡なのに、楽しく歌えない。
「いい歌だな」
振り返る、同時にG11Kに遠隔信号で徹甲焼夷弾と対人榴弾を交互装填しつつ個人可変兵装架腰部パイロンを展開、右大腿部の位置へ。右手で握把を保持し即座に抜ける位置。完璧なスタンス。マスターアームはまだセーフのまま。
魔導加速、最大出力。
「何だよあんた、誰なんだ」
「出雲 涼という。陽ノ皇国で少佐をやってる。ま、正式には3等海佐だがな。名を聞くなら自分から名乗れ」
そこには先ほど部屋にいた白い魔女。そして彼女の前に盾のように立つ少女。
少女の瞳は紫炎の輝きを湛え、PDWを両手で保持している。
銃口こそこちらに向けてはいないが、僕を撃ちぬくのに刹那すら使うまい。
「エレオノール…………べネックス、ガレリア共和国陸軍、オルレアン独立試験猟兵連隊、第3機械化機甲歩兵中隊第3小隊長、猟兵中尉だ」
「そうか、よろしく頼む。エリー」
エリー呼ばわりかよ、上等だ。
「よろしく涼」
言われて、涼は笑ったようだ。
対照的に少女の目が鋭くなる。
安全装置に添えた親指が震えている。
「ところで、そろそろそれを下げてもらえないか?鯉口を切る前に鍔に親指が張り付いてしまう」
見ると、涼は超高圧な魔力が篭ったやけに機械的なヒノ・ブレードのシースとガードに左掌と親指を添えていた。
今どきブレードかよ。
剣気だけで僕を十回は殺せそうだな。覚めた目で観る。
まぁ僕も、装甲車くらいなら一撃で頭から尻尾まで撃ち貫けるけど。
握把から手を離す。同時にG11Kの初弾をアンロード。パイロンが神経パルスを拾い腰の後ろへ折り畳まれた格納状態に戻る。
全く同時、涼もブレードから手を離す。兵装架みたいなガンベルト、というより実際そうなのだろう。
よく見ると拳銃も吊っているが使う気なさそうな感じだ。腰の後ろにはスローイングダガーにしてはやけに大振りなナイフがたくさん。
「ちなみにこの子は絢瀬望軍曹だ。かわいかろう」
「涼様、その説明は……」
抗議しつつPDWをショルダーホルスターに仕舞う少女───絢瀬軍曹
「ん?」
「…………なんでもありません。……絢瀬と申します、中尉」
「…………ああ」
サムライか、これが。おっかねぇ。
胸の裡で呟きつつ、このまま全力の抜き撃ちでこいつらと死合ってみたい欲望が、
抗い難い本能が沸き起こりかけ、涼が目を細め、絢瀬が反応して体重を低くしかけ、
「ベアトリス少佐が落ち込んでいたぞ」
すべて押さえ込む。
「わかってる。命令なんだろ」
「そうだ、お前は私の部下になる、エリー」
「気安く呼ぶな、涼。それと、さっきは醜態を晒してしまって申し訳ない。少佐」
涼が華やかに笑う。
「かわいいじゃないか、あのくらい」
「かわいいとか言うな、笑うな、柘榴になりたいのか」
お別れはすんだか。さあ、往ってやれ。
涼はそう囁き、見たことのない高運動仕様のワンドブースターを放って寄越した。
―――リズおねえちゃん。
◆
エレオノールは、いつものようにはノックせずにそのまま執務室に入った。
ベアトリス少佐、センパイ、リズおねえちゃん
彼女はらしくも無く泣いていたようだ。
尤も、エレオノールが部屋に入った時点では既に泣き止んでいたが。
涙の跡は消せないようだ。
「……申告、しに来ました」
「ええ……」
そのまま執務机の前、約3メートルの位置に立ち、姿勢を正し、敬礼。
「ガレリア共和国陸軍、オルレアン独立試験猟兵連隊、第3機械化機甲歩兵中隊第3小隊長、エレオノール・べネックス猟兵中尉は、統合軍麾下、陽ノ皇国軍へ出向を命ぜられました」
儀式、これは紛れも無く儀式だった。永遠か、一時かはわからない、別れの。
「休め」
一部の隙も無く、休めの姿勢を執る。
「……べネックス中尉、本日までご苦労であった。出雲少佐のもとで戦いなさい。武運長久を祈る」
「ありがとうございます。オリヴィエ少佐こそ、御武運を」
「現刻を以って貴官の指揮を解く。以上」
再び不動の姿勢、敬礼。
踵を返す。力強く、一歩、前へ。
扉を、「エリー……元気で―――」閉めた。
扉の外で、涼が待っていた。
「もういいのか」
「うん、もういい」
「すぐに発つ。3時間後、エプロンに来い。」
「了解、涼」
◆
エレオノールはセシールとクロエを叩き起こし、ワンドブースターで飛ぶ訓練をしてやった後、
転属の事を打ち明けた。
「杖に乗るんじゃない!全身の感覚をワンドと一体化させるんだ!!
風と大気を掴めば飛べる。つまり同時に、卓越した機動と攻撃の両立を意味するんだ!」
「はい!!」「は、はい!!」
それから、宿舎に戻って三人仲良く身を寄せ合って毛布に包まりすこしだけ眠った。
「クロエは整備班のジャンが好きなんだろ?なら押し倒しちゃえよ」
「ちゅ、ちゅうい?」
「お、おおおおしたおすなんて、わたた、わたし……!!」
「バッタは死んじゃうけど、その点アデライドさんの部下なら安心だしね…………っていうかその凶器があれば大概の男は一発だっつ~~~~のッ!」
「うわわわわちゅういどうどう!」
「ひあっああぁ~~~揉んじゃ駄目です~~~~~!!」
「がるるるるるる………っく、くふふっははははは!」
二人とも、平気そうにしてくれたけれどもその心中はどうだろう。
分かり切ってる。やさしいこの子たちは、僕に心配を掛けさせたくないのだ。
可愛い僕の妹達。ありがとう。
また、逢おうね。
じゃあね。
どんなときでも
さよならは、いわない。
それが僕達魔女の約束。
◆
空が白み始めた夜半、四輪駆動車の車上、エレオノールは今後の行く末に思いを馳せて遠くを見ていた。
「さ、着いたぞ。乗れ」
「えっ」
エプロンで待機していたのはMAdブームを備えた長距離侵攻用の大型戦闘爆撃機と増槽を満載した見たことのない軽量型高機動アビオフレーム。問題は両機共に鮮烈な群青色の海洋強襲突撃迷彩なことだ。
「こ……これ、この機体海洋迷彩じゃないか!それにあのテイルブーム、可変翼!嘘ッまさかッ!?」
「ん、ああ。我が陽ノ皇国海軍が誇る三菱重工製超音速対潜対艦攻撃機、F/B-3と強襲突撃アビオフレームSEF-2『零式』だ。本来遠乗りには向かんのだが、護衛としてな」
「かいぐんッ?!」
「そうだ、言わなかったか?陽ノ皇国海軍3等海佐、出雲涼だ、と」
「いってねぇよ?!」『涼様、統合軍規定では少佐扱いです』
細身の鋭角的なカナードを持つアビオフレームから機外スピーカーを通じ絢瀬の声が聞こえる。
「ってそこじゃねえよ僕が聞いてんのはッ!」
「望、そこはいい。それとエリー、間違いなく言ったぞ?」
「あっ………確かに海佐、とは言った……それにあいつセーラー服だったし……でも制服だと思わんだろ…………」
「うむそうだろう、まぁ些細な問題だ。私は出雲で、皇国軍人であることは変わらん訳だし」
「いやいや僕陸軍だし海って畑がぜんぜん違うし、そもそもアビオソーサレスは空軍だろ普通!!」
「むッ、海軍航空隊を莫迦にするな!!」
「あ、そのごめん……って違う!僕は空母になんて乗らないぞ!!」
「ちゅ~ういってうわっ?!何してんの?!」「中尉、見送りに……えぇ?!」
エプロンに何とか飛べるようになった杖でへろへろと到着したセシールとクロエが見たのは、おっかないサムライに強制連行される子犬の如き有様の、哀れに怯えきったエレオノール・べネックス猟兵中尉の姿だった。
「よッよせぇええええええ!このオーガ!!黒魔女!!妖怪サムライ!!
僕は船なんて乗らな~~~~~~~~~~~い!!」
―――時は12月―――
良く晴れ渡った黎明の空が徐々に紫に燃え上がるエプロンで、
エレオノールの悲鳴が澄んだ空気に良く響いた――――――
遅れて申し訳なのぜ。望くん、前倒しで登場です。
さすがに佐官一人旅もアレですもんね。
ちなみに到着が連絡機で帰りが皇国軍機なのは一応ガレリア側への配慮とナシ付けてから乗り入れたという感じです。
帰路はある程度の強行も考慮してフレームと戦闘爆撃機の編成です。
ガレリア領内のサッと行って帰ってこれる位置に器材を待機していました。




