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interval-01 《幕間》 

ある人物とその付き添い。


基本的に幕間は本筋とはやや外しているので、後で読んでもいいかもです。

 豊かな自然。

 霧のように低く立ち込める雲の切れ目から覗くのは広い草原とまばらな森。

 時折見える建造物はぼろぼろで、人の営みの気配は見ることができない。


 霞むような高層雲に遮られて薄暗い風景。

 窓から眺める欧州の大地はかつて訪れた時とそう変わりなく見えた。


 視界の端の方、

 かなり遠い位置で流れ星のように赤い光が雲の中から飛び上がり、また落ちる。

 続いて逆さに登る流星雨のように光の群れが後を追い、雲の中に消える。


 ───いや、変わりはある。


 今まさに、この地を人類は取り戻さんと奮闘しているのだ。


 小さく呟く

「……統合戦術リンク、秘匿区分なしの開示情報、半径50キロの範囲を表示」

 統合端末腕輪とそれに連接したナノマシンが言葉に応え、

 視界に戦術図がARにより重複表示される。


 雲に隠されていた地形とわかっている範囲の彼我の現在地が緑の画像として透視された。

 雲の下では統合軍ガレリア方面隊ガレリア共和国陸軍の部隊がライヒスベルグ陸軍機甲部隊と統合作戦を行っている。

 戦局は極めて優位、このまま行けば死者も出ないだろう。


 彼女は満足し、目線を正面に戻そうとし───


 戦場の一角で局所的にやや切迫した機動打撃が開始されたのを発見した。

 興味を惹かれて視線を向けるとその意を汲んだ統合情報システムがその一角を拡大する。

 開示情報の範囲では一個ヴェトロフレーム小隊が敵中対規模の浸透部隊に突撃したところ。

 細かい編成や人員装備は表示されない。


 だがその異常な戦場機動の速度と的確な占位を見て彼女は深い納得と安堵を覚えた。


「・・・そうか、ちゃんと頑張っていたようだな」

 自然と口元に柔らかな笑みが浮かぶ。


 高層雲が途切れ、機内に強い陽光が差し込み、

 彼女の纏う純白の軍服が眩く照らし出される。

 少し眩しげに連絡機の機内に視線を戻す。


 もはや(・ ・ ・)地上を(・ ・ ・)見る(・ ・)必要など(・ ・ ・ ・)全く(・ ・)無かった(・ ・ ・ ・)


 鈴のような心地良い声

「少佐殿、何かございましたか?」

 向かい合う席から彼女の副官として同行してもらった部下が問い掛けてくる。

「………いいや?案外、私も心配性が過ぎたなと反省しただけさ」

「……、………そうですか」

 純白の、しかし意匠が異なるセーラーの軍服に統合軍の指揮下部隊を示す徽章を佩用した

 副官の小柄な少女はその大きめで静かな、しかしころころと移ろい

 色合いの変化してゆく幼い瞳に心の動きを浮かべながらやや考え、

『上官がはぐらかすのならば、知る立場にないのだから沈黙しよう』

 と判断したのが手に取るように判る表情で再び黙りこむ。


 こういうところは、少しあの子に似ているな、と彼女は感じた。

 彼女はそんな少女の反応が面白くて、すこし話すことにする。

「望」

「はい、少佐殿」

「私の事は涼でいい。で、お前の方こそなにか気になるのか」

「はい、いいえ、少佐殿。そんな無礼なことは出来ません」

「ふむん、つれないな」

 それで?と促すように少し首を傾げて目線で促す。


 観念したように望───絢瀬望軍曹が話し出す。

「少佐殿がわざわざ地球を半周してまで迎えに来ている途中の、中尉のことなのですけれども」

「うむ」

 とはいえ、もともと喉までつっかえてはいたのか、やや勢い込んで歳相応な話しぶりになる望。

「その中尉殿は、そんなに優秀なのでしょうか?

 少佐殿は今や皇国海軍に無くてはならないお方です。

 新編中の部隊の人員のためとはいえ、こんな地球の裏の最前線まで、

 しかもあの条約連邦経由で足をお運びになられるなんて」

「うん」

「お命じになられれば、私と南坂さんだけで───」


 軽く興奮気味にまくし立てる望を軽く手で制する。

「うん。お前の熱意はよくわかった」

「では」

 少し苦笑しつつ制して先を続ける。

「まぁ聞くのだ。お前と希実香ではあいつは抑えられんよ」

 望の大きな瞳に困惑が浮かぶ。

 というか、もうガレリアに着くのだ。

 よしんば『そうすべきだ』と具申されて応と答えようにも、

 もう着くのなら後の祭りである。

 しかしそんなことはまぁいい、と涼は

 目の前の少女の反応を楽しむことにする。


 人の悪い笑みを浮かべて悪巧みを話すように身体を前傾させて話す。

 望も釣られて身体を寄せ、内緒話のような姿勢になる。

「これは私の一存でな、実はそいつは親友の部下なのだ」

「はぁ」

「うむ。それでな、横車を押し切って無理矢理引きぬくのだ」

「………一介の中尉ではないのですか?」

「涼と呼んでくれたら教えよう」

「……………涼様、これでよろしいですか」

「うんうん、実に良い」

 とりあえず満足し、


 そこで彼女───陽ノ皇国海軍少佐、出雲涼は

 とっておきのイタズラを打ち明けるようにニンマリと笑み、声を潜めてその名を告げる。


「これから迎えに行くのはな、災禍のベネックスさ」


 きっかり5秒、望は停止した。


「へぇッ?!」

 溢れんばかりに見開いた瞳と、

 負けないくらい大きく開けた口から悲鳴のような声が出る。

 すぐにその大声を恥じるように手を当て、しかしすぐにどういうことかと瞳で問うてくる。

 目は口ほどに何とやらというが、この子の場合は逆だなと感じる涼。

「なに、私は出雲だからな」

 自慢気に言い放つ涼に向けて望がそれでも抑えきれない疑念を絞りだすように問う。

「え、………ですがその、エレオノール・ベネックス猟兵中尉といえば欧州方面軍の切り札ですし、

 そもそも彼女はヴェトロソーサレス(陸戦魔女)では………?」


「うん、それがどうかしたのか?」


 絶句した後、望が勢い込んで悲鳴を上げる。


「彼女は陸軍ですよ?!

 少佐殿が新編される部隊は新艦種の強襲突撃空母に所属する

 艦載アビオフレーム航空団ですッ!

 それも、人類の反攻の最重要なエースオブエース・ヴェトロを、

 海軍麾下部隊に…………!」

 我が意を得たりと大いにふんぞり返る涼。

「ああ。おもしろいだろ?それと涼だ」


「……………………わたしにはたまに涼様がわかりません」


「ふふ、いや、そのうちわかるさ」

 愉しげに艶然と微笑む涼。


 窓の外を眺め、旋回しつつ飛行場へ向けて降下し始めた機の進路をまんじりと睨む。


「………………………そう、そのうちな…」

 小声で、しかしそれまでと違い鋭い瞳で決然と呟く。



 ───そして二人はガレリアの地に到着する。


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