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01/ Contact 《戦域後方にて》

「エリー!」

 声が聞こえる。

 押し寄せる猛烈な熱。


「エリー!助けて!」

 グシャグシャに潰れ、紅蓮の炎を上げる彼女の専用機。

 その残骸の内から悲鳴が響く。


「  !」

 声が出ない。


 否、自分は叫ぼうとしているのにその声が認識できない。

「あつい  やだ!助けて!   エリー!エレオノール!!」

 彼女が自分を呼ぶ声だけが異様に鮮明だった。


 姿勢制御モーター燃料に引火したのか、フレームの損傷制御装置による自動消火が全く追い着いていない。

 このままでは弾薬に引火してしまう。

「あついよ………」

「  」

 このままじゃ  が。



 ――――ある欧州の片田舎の街道、11月末――――


 ――――振動、エンジンの駆動音。

 直下の車輪が路面のギャップ(段差)を拾い車体が跳ねる。


 目が覚める。

 瞼を開ける。

 エレオノールは自分が薄暗いトランスポーターの操縦兵員室にいることを知覚した。

 トランスポーターの操縦手が気を利かせて照明を落としてくれたのだろう。

 ―――夢か。


 闇に慣れた目で辺りを見回す。

 ヴルシュ条約連邦が開発したトーポリM弾道ミサイルTELを改造した16輪の巨大なトランスポーターの装甲兵員室の中だ。

 エレオノールの右側の窓から見えるカーゴデッキには、ガレリア陸軍技術研究本部先進技術廠から供与されたプラン225コンセプト試作ヴェトロフレーム、固有名『calamite』が異形の体躯を屈め2機のメイルシュトロームと共にワイヤーでタイダウンされ駐機されている。その黒い巨躯は機械であるにもかかわらず生物的な獰猛な力を内包することを伺わせる。

 しかし無傷というわけではなく、現在この機はエンジンの過熱による著しい出力減衰、右前面へ多数の被弾等により装甲板が小破の状態となっていた。

 ガレリア製量産複合装甲は、高性能だが連続被弾耐性に難がある。


 ―――今日はやっぱり運が良かった。


 一人感慨に耽り、続いてその更に右で自分の部下達が戦闘の疲れからかこの轟音の中で

 安らかな寝息を立てているのを認識してふっ、と笑みを浮かべた。

 それから、PDAを取り出しつつこの後に控えるデブリフィリングで状況をより精確に発表し、

 姉妹たちの役に立つレポートを作成するためエレオノールは今日の戦闘を可能な限り正確に思い出すことに意識を集中した――



 ◆



『今日の第9位は、いて座のあなた!ささいな口論から友人との溝ができてしまうかも!?』

 うわ、微妙……。

 まぁ、信じてないし。

 別に気にしてませんよ。

 占いなんて。


「ちゅーうい、ナニ聴いてるんですか?」

 セシールが左の掩体から声を掛けてくる

「ああ、いや今日も空電が多いなぁと思って」

「またまた、エロいのでも聞いてたんでしょ?このこの♪」

 そこへ嗜めるようにおっとりした無線音声が被さる

『セシールちゃん、中尉はきっと占い聞いてただけだよ』

 図星だった。軍用無線の周波数を民間帯域に合わせ7時の占いを聞いていたのだ。

 少し気まずい思いをしつつもエレオノールは自分の後ろにいる声の主へ答える。

「クロエ、憶測でものを言うんじゃない、それと私語を無線で出すな。……ま、正解なんだけどさ」


 彼女達はエレオノールが指揮する小隊の隊員で、エレオノールと同じヴェトロソーサレス(機械化機甲歩兵)の一種、降下猟兵だ。

 セシールはセミロングにした金髪が目立つ派手な見た目で歩兵科の男性諸氏に人気があるタイプ。

 クロエはおっとりしているロングの赤毛をひっつめにした娘。

 ただ、非常にイイ体をしているので随伴歩兵諸氏の中には隠れたファンも多い。


「それにしても今日は暇だなぁ、何だよ後方で待機って」

 はるか前方、目視できない遠方から響く遠雷のような砲爆撃と小気味良い機関銃の銃声に耳を傾け、

 HMDのタクティカル・ディスプレイをマクロ・ピクチャー中隊指揮官権限領域に切り替え、現在の作戦進行度を確認した。

 どうやら今日の戦闘は今現在極めて人類側が優位に推移しているようだ。

「データが取れなきゃ試験中隊の意味がないよ」

「でも中尉、やっぱりわたしは戦わなくて済むに越したことはないと思います」

「クロエ~?それはそうだけど、それ言っちゃおしまいじゃん」

「それでもやっぱりわたし、怖いな」

「まぁ、それが正常な感覚だよクロエ。僕なんかはあんまり恐怖心ないから、

 きっと早死にだな。今の感覚を大事にしな」

「エリーちゅうい、アタシは~?」

「お前は殺しても死にそうにないしなぁ」

「えぇ?!ちゅういひどっ!!」

 そのやり取りを聞いて、クロエがくすくすと笑った。


 エレオノールはため息をつきつつ周囲の警戒に戻る。

 ここは現在エレオノール達が駐屯する村から8時間ほどの距離にある平原だ、

 まだらな森と軟弱な草地以外には何もない。低く雲がたちこめ、朝なのにかなり薄暗い。

 エレオノール小隊はその草原に軽易な掩体を構築し、味方の後ろで待機していた。

 数キロ先には針葉樹の森。梢から烏の群れが飛び立った。


 ―――?


「中尉?」

 エレオノールの様子に気付いたクロエが問いかけてくるが、答えずにヴェトロニクス制御モードを呼び出し操作。

 途端にレシーバーからは猛烈なホワイトノイズが炸裂する。

 その轟音を無視してフレームの砲身を森に向けた。

 電子戦システム、ホット。

 モード、指向性分解能特化。検知角12オクロック0.1ミル。全領域受動検知。

 センサーをスイープさせつつフェイズドアレイ素子のスラント検出を補助。

 自動的に3次元画像化された電子的有視界図が網膜に投影される。

 ――――ザ――ザザ―

 併せて聴覚にも頼るべく耳を澄ませていた『電子の音』ホワイトノイズに甲高いスパイク(感)が混ざる。

 パターン記憶、方位を確認。

 続いてエレオノールは掩体から出て100メートルほどゆっくりと後退、

 そうしつつ今度は森の方向へ撫でるように砲身をゆっくり旋回させた。


 ――ザ

 スパイク。方位を確認。捕捉しつつパターン照合。


 エレオノールは掩体まで戻り、マクロピクチャーマップにスタイラスペンで

 複合検知による放射源のあった方角へ自動記憶された二本直線をアップロード。

 その交点の座標を確かめつつ、無線で統制系をコールする。

 センシング情報を見た限り当該座標に我のIFF情報は統合戦術衛星と空中戦域統制機のセンサーには無いようだ。

「イーグルアイ(統制)、ノーム31(エレオノールのコールサイン)、

 座標257 646付近に我の部隊は展開しているか?」

『ノーム31、イーグルアイ、その座標には我の部隊は存在しない。…何か見つけたか』

 ソルが意思疎通にある種の電波通信を用いる事はよく知られていた。

 適切な操作を行えば、最悪解読はできなくとも人類の無線機やセンサで拾うことはできる。

 エレオノールのフレームは、計5本のインテグラルアンテナマストによって通信、

 及び索敵に任意の方向へ指向性を持たせられる高度な電子戦能力がある。

 先程やったのはこれを併せて利用するエレオノールの得意とする疑似合成開口索敵法だ。

「ソルと思われる兆候を多数確認、規模不明。最低限増強小隊規模」

『イーグルアイ、了解』

 即時マップに規模不明敵性勢力のアイコンが追加される。

 管制官の腕は確かだ。

 続いて中隊指揮系、

「ノーム00、ノーム31、新たに確認したソルらしき兆候に対する威力偵察、

 可能であれば交戦、撃破を具申する」

『ノーム31、許可する。支援は必要か?』

 レシーバーに第3試験機械化機甲歩兵中隊長のベアトリス少佐の声が入る。

「1個魔導砲兵小隊の火力単位使用を申請する」

『許可する。……気をつけてね』

「誰に言ってるんです?センパイ」

 エレオノールは闘争の予感に爛々と眼を輝かせ、不敵な笑みを浮かべて振り返った。

「聞いたなお前ら、……エサが来たぜ」

「りょ~おかい」「了解です」


 ―――やっぱ今日はツイてる!

 占いなんざクソだ。

「ノーム00、ノーム30(小隊コールサイン)はこれより威力偵察、敵勢力の解明後可能であればこれを撃破する」

 エレオノールの神経伝達に反応しソーサリーアンプが重低音を上げて目を覚ます。

 マギウムが十分に励起された神経制御系は起動操作スイッチに触れなくとも機体をたたき起こす。

 スタート、ミリタリー、アイドル、JFSの甲高い唸りとともに野太く唸りエンジンに火が入る。

 マスターアーム、チェック、オールグリーン、セイフティ。

 能動型電磁筋が獰猛なきしみを上げ三機の陸戦型フレームがその身を震わせて目を覚ます。

「躍進用意 前へッ!」

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