07/ refuel hurd landing 《吊床》
じゃけんキリの良いとこまでは投稿しましょうね
派手な色に塗り分けられた筒の先端を視界の中に収め、太い胴体の下にある指示灯を見ながら機を操る。
『ノーム、機速がやや速い。ゆっくり絞れ……ゆっくり』
「……ya、……」
『そうだ……いいぞ、上手だ。それでいい。そのまま……そのまま……………』
「………」
微妙に横に流れようとする機を当て舵で抑え込み、一見直進にしか見えないほど極大きなRに沿って僅かにバンクした給油機に追随する。
『よし、ここだ。コネクテッド・ブーム、スタート・リフュエリング。機位を保て』
ブームの先端がフレームの右にある給油口に頭越しに接続され、機の恒常振動とは別な高圧ポンプによる低い流体振動が体を揺らす。
フレームの右肩部後方、自分では視認できない位置にある給油口に緑色の帯の位置まで伸びたブーム先端が燃料を送り込む。
現に飛んでるのに燃料は増えてくなんて、わかってても何だか不思議な感じだ。
『コンプリート・リフュエリング、リトラクツ・ブーム』
「rog」
と、考える間に補給が終わる。機内燃料は満タン、増漕は半分ほど。
ブームが機から引き抜かれ、ゆっくりと待機位置まで戻っていく。
『グッドラック・ノーム』
「サンクス、ジャックポッド」
滑るように離脱してエクスレイフライトのダイヤモンドへ。
『エリーさん、中々見事でしたわ』
エレメントを組むバディのモリー、
同じガレリアン・ソーサレス・オフィサースクール出身のモルガン・ベアールが
澄ました声で控え目に褒めてくる。
「茶化すな、モリー。お前の倍かかったよ」
人に厳しく、己にはもっと厳しいこいつが素直に褒めるってことは何も問題は無かったって事だろう。
というのも、先に給油したもともと生粋のメテオール・ライダーで空母乗りの正真正銘のネイバルソーサレスである彼女の動きを盗んでやったのだから、素直に喜べない複雑な気分である。
『あら、賞賛は素直に受けるべきですよ?エ・リー・さ・ん?』
「ふん、わかってて言ってるな?」
『勿論ですわ?そのためにわざわざ私がお手本を見せて差し上げたんですもの、そのくらいやっていただきませんと。ね、フライトリーダーさん♪』
「いい性格してるよ、おまえ………」
『うふふっ』
話しているうちに全機終わったようだ。
『感謝する、ジャックポッド。よし、オールソーサレス、帰艦するぞ』
『「ウィルコ」』
『こちらジャックポッド、ガスは空っぽだが可愛いお嬢さんたちと遊べて心は満タンってやつだ。迷わず帰れよ、ジャックポッド、アウト』
ランチタイムは終わり。ピクニックは帰るまでがピクニック、だね。
機位を巡らし、艦の方向へ。
やばい。
これはやばいよ。
「よし、まぁ何とかここまで誰も落ちなかったな。先は長そうだが」
「…………」
「さぁ、お前の番だぞエリー」
「……………」
「どうした、緊張しているのか」
「………………………僕……無理」
「…………ん?」
涼が僕の様子に気付く。ああ、死にたい。何でここには掩体が無いんだよ。
くっそ、ニヤニヤしやがって。
「行かんのか」
「だってあれ小さいよ小さすぎだよ!
何だよあれ飛ぶまで気付かなかったけど上から見たらランディングゾーンがテニスコートみたいじゃねぇか!大体何だよハイスピード・キャッチブームって!普通空母はアレスティング・ワイヤだろ!!てめぇブリーフィリングのアレはそういうわけかクッソクッソ!MERDE!ってかやっぱり僕海軍なんて無理だぁあああああああああ!!」
ちなみに艦上では、艦橋に被らないだけでほぼアングル角のない、着艦ゾーンとは名ばかりの猫の額のような艦の背にやたらとデカいロボットアームというか、エイみたいなドッキング用拘束アームの付いた輸送機の垂直尾翼と給油機のブームの中間みたいな形状の流線型ながらいかついブームが、高度を下げたアビオフレームを、自らも甲板上を高速で機と並走しつつ器用に空中で拘束して減速、自走式ハンガードーリーに手際よく受け渡していた。
確かにアビオフレームは構造強度的に、タイヤによる主脚着艦は骨格に悪いさ!素晴らしい新装備だ!
だがな! 僕は! そんな装備は 知らん!
ああ理解したさ、涼のやつ、僕のリアクションが見たくてブリーフィリングの資料を差し替えてやがったんだ!
みんなの怪訝な顔はそういうわけだったんだ!
ほらみろ、僕と同じ元陸軍所属の同僚が危なげなくブームとドッキングしてる!
僕はといえばさっきまでのローパス、タッチアンドゴーの段で既に精神がどこかへ旅立ちかけてるってぇのに、
この上着艦?!
ハッ!ナイスジョーク!!アメリアンなら爆笑で真っ直ぐ飛べないだろうな!
MERDE!!
「F/B-3の中で言わなかったか?完全新機軸を満載した実験艦、たいほうと」
「いってねぇよ?!よしんば言ってても着艦装備が完全な新装備って説明必須だよなおい?!」
上から見ると一目瞭然だがあの艦、やたらめったら巨大でわからなかったが黒い塗装といい、ヌメッとしたステルス形状と言い、ヴルシュ連邦製のシャチっぽい潜水空母にそっくりだ!
ああそういうね!?ゲテモノといえば東側だよね?!
畜生!MERDE!JESUS・FUCK'N・PEANUTSBUTTER!!!
「そうか、まぁ些細な問題だ。空母には違いないんだから」
「いや空母と、ってなんだこのデジャヴュ!」
「む、陽ノ皇国の誇る新鋭艦を莫迦にするな!!」
「続けんなばか!!」
「ほら、どうしたんだ猟兵中尉、ガレリア機甲猟兵は腰抜けなのか?」
「くううぅ……!!」
あ、アプローチを変えやがったッ………!
えい、ままよ!ガレリア機甲猟兵は退かない!!
「ふー、はー、ふぅうう~~~~~はぁああああああ~~~~~……!」
「産気付いたのか」「死ねばか!」
無情に艦との距離は近付く、ああ、あああああやだなになにこれなにこれ
小指が自動且つ機械的にプレストーク・スイッチを圧し込み、たいほうとの交信が開始される。
「タイホウ・コントロール、ノーム、インボウンズ・マザーズ137、9マイルス、エンジェル9.5、ステート16.0」
『ノーム、タイホウ・コントロール、クリアード・インボウンズ』
あ、あ、あああ…接近許可降りちゃったよ? え……う あ……あ…!
『ノーム、タイホウ・コントロール、スイッチ・マーシャル』
「マーシャル、ノーム、インボウンズ・マザーズ134、7マイルス、エンジェル9.5、ステート15.8」
え、……何で僕すらすら喋ってん………の?
管制官もこっちが冷静だと思っちゃってるよ?!や、まって!まだだめだって!!
『ノーム、マーシャル、マザーズウェザー、シェリング・スケトリド 8500、 ヴィジビリティ23マイルス』
えー曇ってんのー……? やめてよ嘘でしょさっきまで晴れてたじゃん………………?
『ケース2リカバリース、 マーシャル・オン・ザ230ラディアル、19マイルス、エンジェル5』
もうずっと待機でいいって……!
『エクスペクテッド・タイム・24、タイム・ナウ・16』
「ノーム、ウィルコ」
…………あうぅ
燃料捨てなきゃ………
投棄完了…
『ノーム、カモンス・ナウ』
AHAH!来いってか?来いってか!?
「ノーム、10マイルス、ステート9.0」
『ノーム、5マイルス、ACLSロックオン、コール・ユア・ニードルス』
じわじわと甲板が近付く
『ノーム、コンカー』
『ノーム、3/4マイルス、コール・ジ・ボール』
「ノーム、ラジャー、ボール」
着艦誘導装置を目視で捉える。
あああ、ぁぁぁぁあああ…………!
低いよ怖いよひくいよ!
『ユア・ハイ』
低いよ低すぎだよヴァカ!お前が飛んでみろこのッ!ばか!ばか!!ぶゎあ~~か!!
こうなったら……!
「MERDE!Aaaaahhhhhhhhhhhhhhhhhh!」
フラッペロンフルダウン、急上昇、速度を位置エネルギ変換して減速、即座に動翼をブレーキング位置にしてダイブ。
みるみる艦が近づく。
高度が『墜ちる』
『の、ノーム!グライドスロープに、糞!!スタンチョン出せッ!バリア展開だ急げ!
おい!レスキューとファイアステーション、それとSRをすぐ向かえるようにしろ急げ!』
コントロールも大混乱だろう、ごめん!
前方に甲板。だがエレオノールはそこを全く見ていなかった。
「おううううううりゃああああああああああああああああ!!」
身構える。みるみる墜ちる速度、高度!
今だ!「エアフレームエンチャント!マキシマムッ!」
音声認識と神経制御をナノマシンが検知してフレームの骨格に膨大なマギウムが流れ込む。
ヴヴヴヴヴンンンンッ…………!
全力全開のエンチャントに黑い光のような余剰エネルギーが球状に広がり、大気が唸る。
構造強度が『理論上の理想的強度』に上昇する。
もう引けない!
「キネティックスモーターオーバライド!後進一杯ッ!」
液化火薬を燃料にした運動エネルギースラスターが咆哮し、機体がまるごと爆発したような有り様の火球を機体全体が吐き出して蹴飛ばしたような減速上昇加速度を得る。
エンジンが空圧衝撃の余波でフレームアウト。
―――あ、このスラスタ爆風、攻撃に使える。
敢えて現実逃避してみた。
けたたましい衝突音と金属が上げる悲鳴。
「えげぁああアアッぶふっっ!?!」
うら若き乙女の出す声ではなかった。
知ったことか。
体に何かが絡みつく。
言うまでも無く、バリア(クラッシュバリア)だ。
ミツビシ・ヘヴィ・インダストリー製の最新技術、得体の知れない素材の。
多分化学繊維。カーボンを縒ってエステル基の組成で固めた強靭な三次元織り化学繊維だと思う。
気になるなぁ。材料段階から製造見学してみてぇ。
また現実逃避してみた。
だって、その…………アメコミのヒーローの蜘蛛男に捕まった小悪党みたいなんだもん、僕。
ああ、でも、
足が付くって素晴らしい!
ラヴ・グラウンド!いやガイア!船だけどなッ!!
テンション上がってきた。後で下がるのは日が昇り沈むより明らかだが、敢えて勝ち誇ってみる。
家畜以下の物体を視る眼でこちらを見下す、出雲涼に。
「見たかゴルゥア!これがガレリア機甲猟兵だ!不退転だ!!
バーカバーカ!オーガ!!う゛あぁ~~~~~かッ!黒魔女!鬼!妖怪!バーカ!サムライガール(笑)!!ば~~~~か!」
―――――――――虚しかった…。
「あの、……ほおって置いて良いんですか?出雲少佐」
おずおずと、土居少尉が声を掛けてくる。
「構わん、捨て置け」
冷たく言い放つ。
地上では、まだネットに絡まったままのエレオノールがキャンキャンとオープン回線で喚きつつウゴウゴと蠢いていた。
ここまで届かないが、何やらF言葉を喚いている。
―――全く、その勇気があれば後は冷静になれば訳無いだろうに……。
涼は呆れと感嘆が入り混じった複雑な胸中であった。
事実、彼女は普通の滑走路ならば素晴らしい短距離着陸を決める。
あとは場数なのだ。
見ていて飽きないな、あいつは。
「暫くああして、頭を冷やせばよいのだ」
「本当にブレませんね、あのひと……」
「の、のぞみちゃん?」
望も冷ややかだけどどこか温かみのある不思議な視線…………平たくいうとなまあったかい目で見下ろしている。
「は、はぁ………」
「しおらしくなったら、助けてやろう」
「ええぇ……べネックス中尉に限ってそれはないですよぉ………」
そうして涼は、くつくつと本当に愉しそうに、サディスティックに嗤った。
「まぁ、見ていればわかるさ、……かわいい奴なんだぞ」
土井少尉は空であることを抜きにしても、背中に怖気が走るのを感じた。
余談だが、件の新型制動ネットはこれ以降『ベネックス・ネット』の通称で呼ばれることとなり、
後の統合軍空母建造ラッシュの際、どのような状況下でもアビオフレームを安全に回収可能な当装置は新造空母のグローバルスタンダード装備となり、
国外輸出版、ライセンス生産版の商品名もまた『ベネックス・ネット』であった。
とりあえずキリの良い所で。
なお、キネティックススラスターはクイックブーストというかハイブーストを想像するとそれで正解です。
旋回半径の大きいプロトメテオールの機敏性を確保する装備ですがあまりの劣悪燃費と高衝撃によるライダーとフレームへの負荷、扱いづらさから通常型メテオールには搭載されていません。
有り体に云えばボツ装備です。
零式ではエンジンから抽気した高圧エアをカナード表面に流して表層流効果で『超巨大な動翼』とする機能で対応しています。
火薬でカッ飛ぶよりよほどスマートで効率的。