愛人。
ここに来ての濃すぎる人生にとまどうばかりだが、
それでも以前と変わらないリズムで生きる。
それ自体はそんなに難しいことじゃない。
小学生のときにやった長縄とびのように、
回ってくる毎日をぴょんととび越えると一日が終わる。
それだけのことだ。
九月の真ん中。
週末を前に俺は久し振りに明るい気持ちで仕事に向かっていた。
もちろん、仕事にその要因があるわけではない。
むしろ一刻も早く家に帰るために、定時きっかりに退社してやろうと仕事をまとめにかかっているところだった。
そんな空気に聡く気付いた後輩女子が、横からぬっと顔を覗かせる。
「何か槙村さん、今日は一日中そわそわしてますね。愛人でもできましたか?」
「そうね。実は今晩から自宅で九歳の愛人と二泊三日なんだよ」
「…………」
「ごめん、急に黙らないでくれる?」
「いやぁ、奥さんもなかなかのミニッ子童顔だとは思ってましたけど、そうですか。そっちですか」
「どっち? 姪っ子が泊まりに来るってだけの話なんだけど」
「しかも姪っ子ですか」
「しかもってなに? あと何度も言うようだけどサキちゃん顔近いわ。これ、俺が横向いたら事故が起こるよね」
サキちゃんとはパソコンのモニターを見ながらの会話がほとんどだ。
「起こしてみます? 事故」
「みません」
「はぁ……相手がロリコンじゃさすがの私も無理ですね」
「それ冗談でも言いふらさないでね」
「じゃあ、サキちゃんかわいいねって言ってください」
「ごめん俺、自分の奥さんと十八歳未満を除いた女子には、冗談でもそれ言わないことにしてんの」
「槙村さんって、つまんない男ですね」
「俺もそう思う」
「ロリ村さんって、つまんない男ですね」
「もう好きにしてくれ」
「…………」
「そういう意味じゃないからね」
ぺろりと舌舐めずりをする後輩に突っ込んだところでちょうど定時となった。