どうして?
都営大江戸線に乗り込むと、
空いている三人掛けの座席に小夏を間に挟んで座る。
「こなちゃん今日は楽しかった?」
「うん。正直最初は思ったよりさびれててガッカリしたけど、色々楽しかったよ」
「そっか、良かった。じゃぁ、今度は充君とデートで遊びに来たらいいよ」
小夏は電車の中で好きな男の子の名前を出されたことが恥ずかしかったらしく、
パンパンとサチの体を叩く。
笑いながら背中でそれを受けていたサチが、
あっ、という声と共にお腹を押さえる。
俺が思わず身を乗り出すと、
小夏も「た、叩きすぎた? ごめん」と慌てた声をあげる。
しかし当のサチは口の前に指を立てると、
小夏の手を掴んでそっと自分の腹に持ってくる。
わかる? とサチに訊かれ、
涙目で戸惑っていた小夏がこくこくと頷く。
それを見て俺もサチの腹に手を当てる。
動いてる。
今までエコー検査や何かでしか確認できなかったものが、
感触としてその命を感じる。
なんて言うか、嬉しいんだけど、
なにかそれだけじゃ説明がつかないものが込み上げてくる。
……何だろ……止められない。
「ちょ、ちょっと雅也君、電車の中で泣かないでよ」
「ごめん……ちょっと……すぐ持ち直す」
「こなちゃん、雅也君なぐさめてあげて」
急にサチに振られた小夏はとまどいながら、
とりあえずといった感じで俺の頭を撫でる。
小学生になぐさめられると、それはまた別で泣けてくる。
一時間と少しかけて家に帰りつくと、
さっそくプリンセスドレスアップセットの箱を開ける。
ポリエステル生地の安っぽいテロテロ感がたまらない。
「さぁ、小夏着よう!」
「今帰ったとこじゃない。少し休もうよ」
「小夏が帰りに着てくれないから家まで我慢してたんだぞ」
「当たり前でしょ。そんなの着て電車に乗れるわけないじゃない!」
「大丈夫だ。小夏なら全然大丈夫だ」
「根拠のない大丈夫って大丈夫じゃないから」
「四の五の言わずに脱げよ」
「……お姉ちゃん」
「離れなさいロリおじさん!」
「その呼び方やめて」
「こなちゃんは私のものだ。誰にも渡さん」
そう言ってサチが小夏を背中から抱き寄せる。
「お姉ちゃん……」
「うん。大丈夫だから」
「いや、あの……なんで私のお尻揉んでるの?」
「それはね、こなちゃんのお尻がかわいいからだよ」
「どうして私のほっぺたに顔をすりつけるの?」
「それはね、こなちゃんのほっぺたがフニフニサラサラだからだよ」
「じゃあ、どうしてそんなにはぁはぁ言ってるの?」
「それはね……こなちゃんを食べちゃいたいからさぁー!」
そう言って、とうとうサチは小夏の頬に吸いついた。
「ぎゃー!」
「どうだうらやましいだろロリおじさん。女の子同士ならこんなことまでできるんだぞ」
「嫌がってるだろ」
「嫌よ嫌よも好き放題だよ」
そう言って小夏を両手で抱えるとリビングから出て行こうとする。
「どこ行くんだ?」
「二階。ドレス持ってきな。剥いて着せるよ!」
「ラジャ!」
「うわぁーん。この家、悪い大人しかいないよー!」