プリンセスアラモード。
エルドラドに四回乗たところで、名残りを惜しみつつ昼来た道を帰る。
途中でサチが、あっと声をあげると、
「ちょっと寄り道していこう」と園の外を指差した。
来た時とは別のゲートから外に出ると、
そこには子供玩具と育児用品を扱っている大型チェーン店があった。
今まで友人の出産祝いなどでこういう店には何度か来たことはあったが、
いざ自分の番になると全ての棚が興味の対象になる。
生後七か月からの離乳食、と書かれてあるのを見ては、
七か月ですでにこんなものまで食べられるのかと感心したり、
逆に一歳からのソースやお好み焼き粉なんかには、
そんなにシビアに分けなければならないものなのかと首を傾げたり。
靴売り場に至ってはもう小人の世界だった。
こんなにも小さいものなのかと思わず頬が緩む。
傘なんかも、こんなので雨を防げるのかと思うほどに小さい。
そんなのをぷらぷら見ていると小夏が、
もしかしてお姉ちゃん赤ちゃん産まれるの? と訊いてくる。
確かにサチのお腹はまだ下腹が少し膨らんだ程度で、
服を着て出歩いてる分には妊婦だと気付かない。
姉ちゃんから話を聞いていなかったのなら、
昨日一緒に風呂に入った時もそんなに気にならなかったのだろう。
「そだよー」とサチが軽く答える。
「おぉー……」と小夏は声をあげると、
「いつ? お腹触っていい?」と興奮気味に食いついてくる。
「来年の春。触っていいけど、まだ動いたりしないよ」
お腹を触りながら、「でも心配だよねぇ」と呟く小夏に、
サチが「何が?」と訊き返す。
「いや、お姉ちゃん昨日お風呂で見たら胸小さかったからさ、おっぱい出ないんじゃないかなって」
この発言にサチは顔を赤くしたが、俺は大いに吹き出して笑う。
涙が出るほどに腹を抱えて蹲っていたら脛を蹴られたが、それでも止まらなかった。
「こなちゃん! 胸の大きさとおっぱいの出る出ないは関係ないからね?」
「え、そうなの?」
「そうなのだよ!」
「でも大きい方が安心するよな」
「雅也君、今日からソファで寝てね」
「でも俺は小さい方が好きです」
「それも微妙に嬉しくないのは何でだろね?」
その後、ベビーカーコーナーで真剣になっているサチに一言残し、
小夏と先へと進んで歩いていくと、
いつの間にかおもちゃが並ぶ子供玩具のフロアに移っていた。
育児用品を見た流れでミニピアノなんかを見つけると、
どうしても子供が触っているところを想像してしまい、
それだけでたまらなくかわいい代物に思えてくる。
これが店側の戦略だとしたらかなり狡猾だ。
そんなことを思いながらきょろきょろしていると、
とあるコーナーで息を止める。
「小夏!」
隣の棚を見ていた小夏を慌てて呼びつけると、
「ええ……」とめんどくさそうにチンタラとこちらにやってくる。
「早く! こっち! これ!」
「へ? それがなに?」
「プリンセスドレスアップセットだ」
「で?」
「着てみないか?」
「やだ」
「キテミナイカ?」
「何で片言? ちょっと見せて」
小夏にドレスの入った箱を渡すと裏返して何かを確認する。
「ほら、ここ。対象年齢四歳以上」
「小夏、四歳以上じゃないか」
「いやいや、いくら何でも入んないし」
「小夏小さいから入るよ。ってか入れるよ」
「入れるて。いや、私もう四年生だからさ」
「四歳も四年生も同じようなもんだろ」
「どんな理屈よそれ!」
「見てみろ。ドレスにチュチュにバッグにティアラにペンダント、イヤリング、バングル、靴、スティックが入ってるんだって! すごいな! 着ようこれ!」
「必死過ぎてちょっと怖いんだけど……。ってか、スティックってなに?」
「雰囲気だろ。なんだかお姫様っぽいだろ」
「わかったよ。今日は楽しかったし少し着るだけなら……って、ちょっとなにしてんの!?」
「見りゃわかるだろ。他のドレスも全部買ってやるからな。帰ったら着せ替えしような」
「今、大人の人呼んでくるからそこでちょっと待ってて」
「おい」
結局、レジに持っていく前にサチに見つかり、ドレスアップセットしか買えなかった。
駅まで向かう道すがら、
手を繋いで楽しそうに先を歩く二人の後ろ姿は親子にしか見えず、
その姿にまだ見ぬ自分の娘を重ねる。
大丈夫。
この未来は十分にあり得る未来だと自分に言い聞かせるように胸を叩く。