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ミルキーナイト。


「はぁ? プリキュアなんか見ないし」

 朝食を終えてひと息付いたところで、プリキュア観賞会を提示したら一蹴される。


「え、だって、こないだまでプリキュアプリキュアって言ってたろ」


「こないだっていつ?」


「去年?」


「小三じゃん」


「いや、あれから一年も経ってないぞ」


 前に会ったときはプリキュアの歴史についてたっぷり語って聞かせてもらっている。


「じゃあ、学校では今何が流行ってんの?」


 サチが訊くと、小夏の口からジャニーズグループの名前が挙がったことに、

 年齢ひとケタのくせに、と内心鼻で笑う。


 出鼻を挫かれたものの、なにか小夏と遊べるものはと考え、

 押入れで眠らせたままになっていたフィットネスゲームを引っ張り出す。


 サチと話し合って、楽しく運動不足を解消しようと買ったものだが、

 実際三ヵ月も遊ばなかった。


 そんなひと昔前のゲームに最初はブー垂れていた小夏だったが、

 いざ始まると体を動かすのに夢中になった。


 三人で大いに盛り上がり、昼食は宅配ピザを注文し、各々ゲームの合間につまんだ。


 これほど汗を流したのはいつ振りだろうかと、清々しい気持ちになったが、

 そう遠くない昔にベッドの上で流したことをすぐに思い出し、

 目の前ではぁはぁと息を切らしているサチに、清々しくない感情を抱く。


 ひと仕切り遊んだところで、


「こなちゃん。お姉ちゃんと一緒にシャワー浴びよっか?」


「いいよ!」


ご機嫌の小夏の返事に、サチがニヤリと笑った。


「あの、さっちゃん。大丈夫だよね?」


「大丈夫だよ。お風呂では何しても合法だから」


 どこまで本気なのかわからない発言に姪っ子の安否が気遣われる。


 夜になり、おやすみと小夏の部屋の電気を消して、自分達もベッドに潜る。


 間接照明が静かに部屋を照らす中、

「やっぱり女の子がいい?」前触れのない質問が飛んでくる。


「どっちでもいいよ」


「もし、お前に好きな方を選ばせてあげようって言われたら?」


「誰に?」


「神様とか?」


「じゃあ女の子」


「全然どっちでもよくないじゃん」


「いや、選べるならって話だろ?」


「選べるわけないじゃん」


「じゃあ言うなよ」


「男の子だったら野球させる?」


「別に。やりたいようにさせる。野球でもサッカーでもバスケでも」


「柔道でも剣道でも空手でも」


「囲碁でも将棋でもチェスでも」


「ニートでヲタでムッツリでも」


「それはどうだろ?」


「でもすごいね。色々考えちゃうね」


「まさに無限の可能性ってやつですな」


「じゃあ次は、もし女の子だったら」


「箱にいれてしまう」


「おい、クソ親父」


「ドレス着せてシンデレラ城で写真撮りたい」


「いきなり欲望むき出しだな」


「さっちゃんみたいな女の子に育って欲しい」


「いきなり照れる」


 ここで一間空き、まだ他に喋ることはないかと言葉を探っているサチに、ふとした提案をしてみる。


「なあ」


「なになに?」


「しよっか?」


「……今の話の流れでどうなったらそうなるの?」


「楽しい話してると興奮してくる。興奮してくるとしたくなる。吊り橋効果みたいなもんだよ」


「脳の血管に異常が見られますね」


「いやならいいよ」


「いやとは言ってないよ」


 その返事を聞くなり布団の中でサチの方へ体を向けると、

 パジャマの裾を探り当て、そこから手を滑りこませる。


「でも、こなちゃん……が」


 そう言った声はすでに甘く、欲望が一気に掻き立てられる。


「声我慢して。そういうのも興奮するし」


「ムリだよぉ。こなちゃん起きちゃうって」


「起きてるよ?」


「ほら起きてるって言ってるし、大丈……」


 会話にやや不自然な点を感じ、

 寝室の入口を見ると枕を抱えた小夏が立っていた。


「こ、ここ、こなちゃん、どうしたの?」


「眠れなくて」


「な、何だ、また腹減ったのか?」


 ふるふると首を横に振る小夏。


「その……部屋が暗いとなんだか眠れないから……こっちの部屋で」


「もっちろんさ! おいでよ!」


 小夏の言葉を聞くや、夏掛けを勢いよくめくって小夏を呼びこむサチ。

 パジャマに突っ込んだままだった手を俺は慌てて引っ込める。


「一緒に寝るのはいいけどな、おねし――痛っ!」


 顔はニコニコの人の小さな爪が、脇腹にくいこんだ。



 間に小夏を挟むと、必然的に大人二人のテンションはあがってくる。


「小夏ってちっちゃいよな」


「うっ」


「100センチぐらい?」


「んなわけないじゃない! 125センチよ!」


「小さいの嫌なのか?」


「嫌に決まってんでしょ」


「えぇー、絶対小さい方がいいって」


「それは雅也君の好みでしょ?」


 小さい妻にそう言われると、その通りとしか言えない。


「わかるなぁ。私もあと五センチは欲しい」


「学校でも背の高いきれいめな女子の方がモテるし……」


 この言葉にサチが、ふふんと鼻を鳴らした。


「こなちゃんって好きな男子っているの?」


「い、いない」


 あからさまに上ずった声が、否定の言葉を裏返す。


「そういうのいいから。どうせここだけの話なんだし、コイバナしようよ」


「……やっぱり私あっちの部屋帰る」


「逃がさないぜ」


 ベッドから這い出ようとする小夏をガッチリ抱きしめてホールドするサチ。


「お姉ちゃん、何かキャラ変わってる?」


「お姉ちゃんはベッドの中じゃケダモノになるんだよ」


「さっちゃん、言葉選んで」


 その後、聞いたところでわからないのに『ミツルくん』という男の子の名前を、

 漢字だと『充くん』と書くというところまで小夏の口から吐かせ、

 どこが好きかをなどを根ほり葉ほり聞き出す。


 最初は嫌がっていた小夏も、だんだんとサチに心を開き始め恋愛相談をし始めた。


 すっかり始まったガールズトークにたまに口を挟むと、

 わかってない。黙れ。ガキは早く寝ろ。と言われる始末だった。


 それでも昼間に目一杯遊んだせいで、

 会話の合間にこっくりこっくり舟を漕ぎだした小夏はそのまま夢の世界へと落ちて行った。


「この寝顔は狙ってやってんのか?」


 ベッドサイドの間接照明に照らし出された小夏の寝顔は相変わらず天使のそれだった。

 携帯で写真に収めたものを、そのまま引き伸ばしてどこかのコンクールに出品しても賞が取れるんじゃないかってぐらいにかわいい。

 小生意気なところを差し引いてもお釣りがくる。

 いや、もうそれすらプラスの材料に思えてくる。


 わかってる。叔父バカだ。


「何かミルクキャンディの味しそうだよね」


 そう言いながらサチは小夏の頭に鼻を潜り込ませる。


「……ちょっと舐めてみようかな」


「やめなさい」


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