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吸血鬼には白い百合の花を!  作者: 夕風清涼
9/20

大阪の熱い風

《大阪府警内会議室》


私達は直接地下駐車場からそのままエレベーターに乗り込み、人目を避けるように施設のどこかにある会議室に案内された、ロバートさん達は別の要件があるらしく途中の階で私達と別れ、この広い会議室で私とケンさんだけがポツンと座っていた。


(何だか本当に密談みたいな雰囲気だな‥)


♪コンコン!‥‥ガチャッ!


会議室のドアが開き、いかにも刑事さんらしい男性2人が分厚いファイルを持って入って来た。


『どうも、久しぶりですな~ケンさん!元気にしてはりましたか?』


短髪で年齢は50代くらい、筋肉質のゴツゴツした身体にスーツ姿の男性が声をかけてくる。


『まだまだ仕事が山積みでね…引退は出来ないよ…』


『そうかいな、でもケンさんに引退されたらワシらが一番困るよってに、元気でいてもらわな!ガハハハハッ!』


わぁ~コテコテの大阪弁!本当にこのおじさん刑事なの?


私はキョトンとおじさんを見つめていた。


『あぁ!沙也架…紹介しよう!この方が大阪府警本部長の松本さんだ!…いつも私をサポートしてくれている、良きfriendだ!』


『じゅ…十文字沙也架です…よ……よろしくお願いします…』


警察の偉いさんと聞き、私はカチンコチンになりながら頭を下げた、なぜか警察と言う言葉で緊張するのは私だけじゃないと思う……


『これは、これは!えらいベッピンさんですな~!松本ですぅ!よろしく頼むねっ!お姉ちゃん!』


お………お姉ちゃん!……このおじさん本当に偉いさん?…もっとクールなイメージを持ってた私って……


『ほんでな、ケンさん!ワシの隣りに居るのが今回一緒に調査に加わる折野警部補や、なかなかの切れもんやから頼りになるで~!』


『折野です、今回はハーバーランドさんの捜査に協力出来る事を光栄に思います、よろしくお願いします』


あらっ!ちょっとイケメンねっ♪細身で背が高くて、顔立ちもクールだし、少しパーマがかった髪もイケてる♪こりゃ、私も毎日しっかりとお化粧しなくちゃ!


『さて、お姉ちゃん!…本題に入る前にちょっと聞きたい事があるねん!ええか?…』


全員が席に着くと松本さんは鋭い刑事の眼差しで私を睨みつけた。


えっ!?と…取り調べかな?………観月さんの事件の事かな…うぅっ……何だか怖くなってきた……


『あんな…お姉ちゃん!……』


『……はい………』


ゴクリと私は生唾を飲み込む…


『好きな球団どこや?…』


『…………………………………………………はい?……………………』


『せやから好きな球団どこや?と聞いとるんや~…』


球団!…球団が何か関係あるの?…捜査に重要な手掛かりでもあるの???……えっ!?どう答えたら…………


私は何がなんだか解らず、松本さんの机をふと見つめた…机にさりげなく置かれたペン入れのデザインが黒と黄色の縞模様だった。


『じ…実は、お恥ずかしいですが…関東の私が言うのも何ですが…私……肩身を狭くして虎を応援しています……』


『♪ほんまかっ!…そらええわ♪それやったら、今度甲子園に連れったる!遠慮のう応援したらええわ♪お姉ちゃん!あんたええ子やで~!ガハハハハッ!』


本当はサッカーの方が好きなんです…なんて絶対言えないわ!とりあえず後で野球の雑誌とスポーツ新聞買っとこ…


『ケンさん!なかなかこのお姉ちゃん、見所あるで~!…気に入ったで!ガハハハハッ!』


『YES!すでに彼女は1人でヴァンパイアを退治した…』


『!!!!な!!!なんやて!!!1人でか!!…』


室内が一瞬で緊張感に包まれる、折野警部補はすぐにファイルを開きページをめくり始めた。


『本部長‥これが昨夜のホテルでの詳細資料です!』


松本さんはスーツの内ポケットから眼鏡を取り出し書類に目を通す。


『‥‥‥なるほどな~‥‥‥警視庁は犯人を燃やしてもうたんか‥‥被害者もまだ若いやないか‥‥‥‥気のどくに‥‥ケンさん!‥ここ三年、大阪でもこんな事件が100件ほど出とるんや!‥正直、マスコミの事もあるさかい‥そんな長い事はごまかし出来んで‥‥何とかせな!』


『YES!‥私はその為に沙也架を見つけた‥彼女には申し訳ないが、ヤツらと対抗するにはヴァンパイアハンターの血統を受け継いでいる者の力が必要だ‥‥松本さん!例の物は届きましたか?』


『あ‥‥あぁ!今朝特別便で空輸されて来たわ!‥それにしても、えらい今回はたいそうですな~‥』


松本さんは何やら入荷リストの書類を眺めていた。


『沙也架を守る為と沙也架自身、自分を守る術を知らなくてはならないからね!…すまないが約束通りここに私達の本部を設置させてもらうよ!』


『あぁ!よろしいで!上からも許可をもろてるよってに、好きに使うたらええ!ガハハハハッ!』


えっ!?ここが私達の本部?…捜査本部って事?…ま…まさか宿泊もここなんじゃ…寝場所は柵の中だったりして…はは…


『沙也架、しばらくはここが私達のofficeになる!宿泊先は近くのホテルをreserveしてあるからそこから通う事になる、まず君はこれから一階に行き、顔写真を撮ってもらいまたここに戻って来てくれ、その後の事は戻ってから話す!』


『…はい!…』


私は折野警部補の案内で一階に行き、証明写真を撮られる羽目になったが免許証とは違い、奇跡の一枚が撮れるまで何度も撮り直してくれた。


『とてもいい顔で撮れてますよ!十文字さん!これがいいのでは?』


うんっ♪自分でも感心するほどの奇跡の一枚が撮れた♪


『それじゃ、これでお願いします!』


たぶん通行証みたいなのに使用するだけだと思うけど、変な顔写真を首からブラブラと下げるのは嫌だしねっ…


写真を撮り終えて、私と折野警部補はケンさんらの待つ会議室に戻る。


『お帰りっ!ちゃんとベッピンさんに撮ってもろたか?ガハハハハッ!』


…本当にこのおじさん、本部長なのかな?…全くそうは見えないわ…


『OK!沙也架も帰って来た事だし、これからの事を説明しよう!…まずは沙也架、君は捜査の空き時間を利用して警官の皆さんと共に柔剣道を学んでもらう!もちろんGUNの扱いもだ!…GUNについては元デルタフォースのロバートが教官を務める!いいね?君自身を守る為だ…頑張ってくれ!』


……はい?…それっていわゆる…私を鍛えるって事ですか?…柔道に…剣道…銃の扱い…………私、ソルジャーにされるの?…確か…私はハンターですよね!!


マッチョになったビキニ姿の私を想像してしまった…。


『あの……ケンさん………私………………』


『いや~♪最近の女の子は強いからな~♪強い女の子はモテモテやで~!オマケにお姉ちゃんはベッピンさんやし!こりゃ、やるしかないで!!ガハハハハッ!』


こらっ!オッサン!人事だと思って勝手に話しを進めないでよ!汗臭い女の子なんて誰も近寄ってくるか!!


『OK!では沙也架はこのスケジュールでいこう!』


ちょっとケンさん!私まだ承諾してないですけど~!!


『では、松本さん!今からこの部屋をレイアウトさせてもらいます、沙也架‥頑張るんだよ…』


はは‥‥はははっ‥‥‥私の意見は無視ですか‥‥‥‥


『よっしゃっ!ほな折野っ!早川君を呼んできてくれ!まずはお姉ちゃんの基礎体力を付けなあかんからな!ガハハハハッ!』


『はい!』


周りは慌ただしく動き始める中、私だけがポツンと机に座ったままだった。


『お姉ちゃん!もうすぐ早川っていう婦警さんが来るよってに、廊下で待っとり!しっかり仕込まれといでや!ガハハハハッ!』


このオッサン‥‥‥‥‥


私はバッグを両手にぶら下げて廊下に佇んだ、ケンさんは何やら松本さんと会議室の見取り図を開いて忙しそうに打ち合わせをしている。


(はぁ~~~‥今日から肉体労働か‥‥‥)


壁にもたれ私は溜め息混じりに天井を見つめていた。


『失礼ですが、十文字沙也架さんですか?』


ぼんやりしていた私の右側から美少女アニメのような可愛い声が聞こえた。


『えっ!?…あっ!…はい!そうですが…』


おぉっ!声と同じように小柄で可愛い婦警さんだ!もっと怖そうな人が来ると思ってた~!…


『失礼しました!私、早川京子巡査部長です!本日より十文字様のパートナーを拝命いたしました、よろしくお願いします!』


『はい、よろしくお願いします‥』


『では、参りましょう!こちらに…』


ぎこちない挨拶を済ませると、私は早川さんに案内され柔道場にやって来た。


(うっわ!スポーツ番組でよく柔道選手が練習している場所とおんなじだ!)


50坪ほどの広さにビッシリと敷かれた柔道専用の畳が威圧的に私を迎えていた。


『十文字さん、こちらに…』


早川さんは柔道場に一礼をして中に入る、私も早川さんの真似をして場内に恐る恐る足を踏み入れた。


『ここで十文字さんには基礎体力と護身術、柔道の基礎を学んでもらいます!剣道場はこの隣になっていますので、また時間があれば見ておいて下さい…』


柔道に剣道……今日から私は武術ガールになるのね………


『それでは、柔道着のサイズを確認しますので更衣室に行きましょうか…』


えっ!?サイズ……サイズ……更衣室…………………


『あっ!!私!………』


ヤバい!ヤバい!ヤバい!そういえば私…バイト先からずっとケンさんに同行していたから、下着の換えとか無かったんだ!今日着けてるのは昨日のだし…その前のは、まだ洗って無かった……


『は…早川さん…………実は……』


私はヴァンパイアの話しは隠し、バイト先からこのままケンさん達と同行した事を伝えた。


『そうなんですか…男性は本当に気が利かないですね~…』


『それで、銀行とかショッピングセンターとかあれば教えて欲しいんですが……』


『いいですよ!あまり遠くに行かなければ大丈夫やし…うふふっ♪私も警護として同行しよかな?♪ちょっと許可もらってくるから、十文字さんは一階の総合案内で待ってて~!』


あれ?早川さんいきなり大阪弁になったような‥それにちょっと嬉しそう‥‥


エレベーター前で私と早川さんは一旦別れ、私は一階の総合案内の前で15分程時間を潰していた。


『十文字さん!遅くなってごめんなさい!やっと許可がおりたから、今からうちが案内してあげるわぁ~♪』


……あれ?…早川さん?………


アニメ声と小柄な体型ですぐ早川さんと解ったが髪をポニーテールにし、黒のタンクトップに白いジャケット、オマケにヒラヒラのミニスカートを着こなした女の子が私の目の前に立った。


『あの?……早川さんですよね?………』


『せやよ!…うち、なんかオカシイかな?………』


制服姿と今の姿!ギャップがありすぎます!凛々しい巡査部長からコテコテの大阪姉ちゃんに変身してますが……


『ははっ…さっきと全然雰囲気が……あははっ………』


『そらそやわ!普段もあんな態度しとったら、身が持たんよ~!制服脱いだら、うちかて普通の女の子や!』


あららっ!このノリの良さ!さすが関西の人だわ♪私と相性いいかも~♪


『それに、いつもやったらまだ制服着とかなあかん時間やけど、こうして私服に着替えられるのメッチャ嬉しいねん~♪』


早川さん合格!私の性格とジャストフィットしました~~!!!!


『それは何よりです!あの‥ところでこれから‥‥』


『あぁ‥とりあえず谷町筋に出よか?あの通りやったらいくらでも銀行並んでるから、心配ないで!で‥そやな~‥こっからやったら‥長堀がええかな!‥地下鉄ですぐやし!』


地下鉄!!‥‥トンネル!!!暗闇!‥


『あ!‥‥‥あの‥早川さん‥出来ればタクシーを使いたいんですが‥‥』


『えっ!?いいの?‥料金高いよ!‥地下鉄嫌いなん?‥‥』


『そうじゃなくて‥‥その‥‥‥ちょっと‥‥』


さすがにまだ初対面の早川さんにはヴァンパイアの話しは出来ずに、私は言葉を詰まらせた。


『…もう、十文字さん!何で早く言わないの!…ほら、はよこっちに来て!』


早川さんは私の手を掴んで総合案内のブースから更に奥にある女子トイレに私を連れ込んだ。


『もう、女同士やねんからもっと早く言うたらええのに!…………確か、予備が………』


早川さん……何か凄く勘違いしてるような………


『男はこういうの、どんくさいからね!…はい!……これ使い!』


早川さんは完璧に私の予想通りの物を手渡した…


『はぁ………はぁ~~…ありがとうございます…』


『ええねん!ええねん!…ほな、帰りに薬局も寄ろな~』


まぁ、緊張の糸も途切れたのでちょうどトイレにも行きたくなってたから、良しとしますか……


とりあえずトイレでの用件を済ました私達は表通りに出てタクシーを待つことにした。


『ねぇ?十文字さん、ちょっと聞いていい?…』


『何ですか?』


通りに出てキョロキョロとタクシーを探しながら早川さんは何やら聞きたそうにしている。


『十文字さんらって、何者なん?ひょっとしてCIAとか?FBIとかなん?…もう昨日から本部長はピリピリしとったし、今朝かてSPみたいな人ゾロゾロ連れてたやん?…なぁ、なぁ!…何しに大阪に来たん?…』


はい!ヴァンパイア退治です!何て言えるわけない…ましてや観月さんの例もある…とりあえず私はこの場を上手く流す事にした。


『えっ!?FBI?…全然違いますよ!…私はたまたま祖父がお世話になった人と久しぶりの再会をして、その人がどんな仕事してるのか夏休みを利用してくっ付いているだけですよ~!…ほら、あの人セレブでしょ?毎日が驚きだし、服なんかも好きなのをポンと買ってくれるの~♪』


ははっ……信じます?警察官に嘘つくのは気が引けるけど…。


『ふぅ~~~~ん‥』


ヤバい‥やはり警察官は騙せないかな!


早川さんはマジマジと私の顔を眺めている、何だか職質されてるみたいに感じる。


『‥え……えぇなーーー!!!十文字さん!…うちもあやかりたいわ~~~!あのオジサマかなりの国家的なセレブなんやね~!どおりで本部長もピリピリするわけやわ~!……でもね、十文字さん!…自分の身体だけはしっかり守らなあかんよ!タダほど怖いもんは無いからね!…欲しいもん買うだけ買うてもろたら上手く交わすんやで!』


……何か愛人にさせられそうな私を止める友人みたいな会話に聞こえるけど…


『ご忠告ありがとうございます…気を付けます……』


『ええねん!ええねん!…あっ、タクシー来たわ!』


私達はタクシーを止め乗り込んだ。


『すんません!堺筋線の長堀駅まで!』


早川さんは気さくに運転手に声をかける。


『あの、早川さんはずっと大阪ですか?』


『えっ!?…そうやよ、大阪の藤井寺出身って言うても十文字さんには解らんやろな…』


『まぁ…はい…解りません…』


『ははっ、正直でよろしい!…でも1つ腑に落ちないのが、付き添いの十文字さんが何故鍛えないといけないのか、それがどうしても引っかかるのよね~…』


うぅっ!さすが警察官!やはりそう来たか…


『私、あのサングラスの人達に憧れてまして、いつかロバートさんのようになりたい!って言ったらこんな羽目になってしまったんです…』


『十文字さん可愛いのに、あんなサングラスしてスーツ着たいの?…でも女性SPは重宝されるもんね…ヨッシャ!うちがしっかり鍛えたるわ!』


へっ!……今、何か言いました?


『えっ!?…あの?…早川さん?…』


『うちな、こんなに可愛いけど柔道三段で剣道二段やねん!…帰ったら早速稽古しよね!…あっ!…そっか‥今日は…十文字さん……筋トレのほうがいいわね…』


結局、私は大阪に滞在する期間、鍛えられる事から逃げられないようだ…


♪ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!


どこかで携帯が鳴っている、私の携帯の音色ではなさそうだ。


『あっ!!うちの携帯や……………折野警部補から………何やろ?…………もしもし!お疲れ様です!早川です!』


わっ!いきなり早川さんビシッとなった!


『…はい!…はい!…所持しています!……はい!‥…本部長からですか!……構いません!………確かに拝命しました!……では、失礼致します!』


おぉ~!早川さん、まるで女刑事みたいでカッコいいじゃない!


『うっひょ~~!!今朝の星占い当たったわ~♪めっちゃ嬉しい~♪もうたまらんわ~!!‥運転手さん!ごめんやけど長堀やなくて西長堀にして~♪』


は…はは…何…このギャップ………


『なぁ!なぁ!聞いて♪聞いて♪さっき命令あって、うち任務が解かれるまで24時間十文字さんの付き添いになってん♪泊まるとこも一緒のホテルやし、それにな!……キャーッ♪あのオジサマの計らいでそれに見合う衣装を経費を気にせず用意しろやて~♪…なぁ、なぁ?うち十文字さんの後釜狙ってええかな?…あぁ~!夢みたいやわ~♪セレブ最高~♪♪あっ、そうそう!銀行やったら西長堀にもぎょうさんあるから~!着いたら行こね♪』


…もしもし?…早川さん?……タクシー乗る前のセリフ覚えてます?…


『あの?…早川さん?…西長堀って?…』


『あんな、西長堀にはメッチャ高級ブランドの店が目白押しやねん~♪…ハリウッドスターが大阪に来た時に寄るくらいなんやで♪いつも店の前しか通った事ないけど、今日は堂々と入れるんやね~♪あかん!ちゃんと化粧直しとこ…』


あの?………早川巡査部長………

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