大阪へ…
昨夜の悲しい出来事から一夜開け、私はケンさん達と共に大阪に向かう新幹線に乗っていた。
『少しは眠れたかい?…沙也架?』
今朝の私の顔は自分でも驚くほど酷い状態だ…泣き続けて目を腫らし、睡眠不足で目の周りはくまで真っ暗だった……
『あまり眠れませんでした…………あの?ケンさん?………あれから観月さんはどうなったの?…』
『そうだな…もう沙也架には知る権利があるだろう…あの後、君を別の部屋に連れて行ってから私達は……………』
ケンさんの話しでは、観月さんは酔った暴漢により殺害された事になり、犯人は焼身自殺を図った事になったそうだ‥‥実際この事件の犯人はヴァンパイアだと世間に公表しても批判を買うだけだから当然の処置と言えるだろう‥。
『でも‥よくそんな嘘が警察に通りますよね…‥第一発見者の私には事情聴取すらなかったし‥‥何だか全然意味が解らないです‥‥』
日本の警察はかなり優秀なのは私だって理解している、それなのにこの事件については簡単に処理された事が私の中で釈然としなかった。
『沙也架が納得出来ない点の理由を見せてあげよう!‥‥‥これだ!』
ケンさんはスーツの内ポケットから、警察手帳のようなバッチを取り出し私に見せた。
『???何ですか‥その警察バッチみたいな物は???』
『沙也架、国際刑事警察機構というのは知っているかい?』
国際刑事………なんの事だろ?世界の刑事って意味かな?…
『いえ、聞いた事はありません…』
『では、呼び名を変えてみよう《インターポール》と言えば聞いた事があるかい?』
えっ!?それなら確か聞いた事があるわ、世界的大泥棒をずっと追いかける年中コート姿のおじさんが出ているアニメでよく言ってた!
『世界中の犯人を追いかける事が出来る刑事さんが所属している組織ですよね?』
『まぁ、ある意味では正解なんだが実際は提携加盟国に国際指名手配者の情報提供など調査データーを収集するのが主な仕事なんだ…』
何かアニメと全然違う気がする…いつも手錠を振り回しているイメージだったわ!…
『インターポールはフランスのリオン市に本部があってね、190カ国が加盟しているんだ、刑事警察機構と言うが実際には犯人逮捕などは出来ない、あくまで指名手配された犯人の情報を依頼国の警察に情報提供するのが役目だ…』
へぇ~…インターポールって、だんだんお役所仕事に思えてきたわ…あのおじさん刑事みたいな人は居ないんだ……
『ただ、全てがデスクワークかと言えばそうじゃない、国家中央事務局(NCB)に属している実働部局というチームがあって、そのチームは国際捜査をする事が出来るんだ』
なんだ、実際捜査する人も居るんだ…
『そこでこのバッチの秘密なんだが、すでにインターポールが設立された時からヴァンパイアの情報は入っていたんだ、当時はなかなかヴァンパイアの事件は解決が出来なくてね…この事態を重くみたヴァチカンの中枢機構は、水面下で働きかけ特別な能力を持つチームを作る事を提案した…それがヴァンパイアハンターなんだ…』
『そんな事が実際に起こっていたのですか?…』
『ヴァンパイアの被害は世界中に広がり始めていたからね…それでも全世界に公表するなんて事は出来ない…だから水面下で処理をする人間が必要になったんだ…ブラッドと私のようにね…』
ケンさんは物思いに耽るような眼差しでバッチを眺めていた。
『このバッチにはヴァンパイアに関する事件は全てヴァンパイアハンターに一任する意味が含まれている、銃の所持や武器購入も自由に出来る、入国審査もフリーパスだ!場合によっては地元の警察を動かす権限も与えられている…』
『そんな凄いバッチなんですか!…初めて見ました!…だからケンさん拳銃を所持していたんですね…納得しました!』
まるで人気のスパイ映画のような話しに私の頭の中は現実と映画の世界が混同していた。
『それだけこのバッチの所有者には責任が重くのしかかってくる…辛い事も沢山起こる……Mizukiのように…』
『ケンさん…ヴァンパイアハンターはインターポールの所属なんですか?…』
『いや、インターポールはあくまで我々の協力組織だ、ヴァチカンもそうだ!……解りやすく言えばインターポール加盟国公認のヴァンパイアハンターとだけ覚えておくといい』
う~ん、やはりケンさん頭がチンプンカンプンな私に気を使ってくれたのね…
『沙也架…Mizukiの事は本当に残念だった…君にとっては辛い言葉になるかも知れないがヴァンパイアハンターとしては聞かなければならないので、敢えて話そう…』
ケンさんは深い溜め息をしてまた口を開く。
『Mizukiはヴァンパイアの被害者だ、遺体をそのままにしておけば、Mizukiもヴァンパイアになってしまう…私はロバートに命じたのは彼女の遺体に聖水をかけ、心臓の位置に杭を打ち付けさせた…』
『………………』
『今日、彼女は火葬される…彼女の遺族にはホテルからのお悔やみと称して、私の財団より義援金を渡してもらう……こんな事をしてもMizukiは戻って来ないが、私達の力不足で招いた惨事のせめてものお詫びとして……』
『…………………』
観月さんを含めヴァンパイアの犠牲になった人は国家間同士の水面下での取り決めに従い架空の事件の被害者として公表される…ケンさんは犠牲になった人達の残された遺族の悲しい気持ちを察し、いつも義援金を自らの財団から寄付しているそうだ。
『…ケンさん……』
新幹線は新横浜を通過し、右側の窓から富士山が綺麗に姿を表していた。
『沙也架…君の辛い気持ちは良く解っている…しかし、これからもヴァンパイアハンターとして辛い決断に遭遇する事もあるだろう…強くなってこの試練を乗り越えてほしい!Mizukiの為にも…』
ケンさんの視線は私と同じく青空から飛び出したように美しい富士山を静かに眺望していた。
『ケンさん‥私‥本当に自分が情けないです‥こんな私がヴァンパイアから人を助ける事が出来るのかな?‥』
また私の脳裏に昨夜の無惨な姿になった観月さんが浮かんだ。
『君はたった1人でヴァンパイアと戦う事が出来た…君のお祖父さん、そう‥ブラッドでも初めての時は上手くいかなかったのに、君は見事にやり遂げたんだ!後は君のmentalだけだ…』
そこが大問題なんですよ…私…自分でも自信があるほどネガティブ思考になりやすいので…まぁ、立ち上がるのも早いですけど……
『沙也架、これから向かう大阪は君のお母さんとお祖母さんが住んでいた場所だ、すなわちヴァンパイアハンターの痕跡が残っている場所とも言える…今もなお君達の足取りを探しているヴァンパイアも存在しているはずだ…気を引き締めて行こう!』
大阪か……何だか大阪のヴァンパイアって怖そうな感じがするな~…『こらっ!シバくぞ!』とか『どアホ!ワレ、殺したろか!』とか言われたら絶対に泣いちゃうわ……
『あの…ケンさん?…私達、大阪に行くって事ですけど…大阪のどこですか?……あの有名なテーマパークだったら、かなり嬉しいな~…本物じゃないけどドラキュラも居てるし……あっ、フランケンシュタインも!…』
『sorry‥残念ながら、そこには行かないよ!‥まずは大阪府警に向かい、私達の行動の認証をしてもらう‥そして隣りの府庁に赴き、下水道や地下鉄‥地下に関する事の全てに調査協力の要請をかける、当然大阪市にもね!その意味はもう沙也架には解るだろ?』
『はい、ヴァンパイアの巣を見つけるんですよね…』
『YES!沙也架!…その打ち合わせが終わったら、お母さん達が住んでいた場所を案内してあげよう!‥以上が今日のスケジュールだ‥ではロバート!‥』
ケンさんは通路側に座っていたロバートさんに、朝食のサンドイッチを購入してくるよう指示を出した。
『さぁ、沙也架まずは腹ごしらえだ!今日は忙しい1日になるからね!』
『はい!‥』
トンネルを通過している轟音が耳に入りながら私は車内の電光掲示板を見つめた。
(もう次は名古屋なんだ……)
…お母さんとおばあちゃんが住んでいた街…大阪…これから私は一体どうなっていくのか不安に思いながらも、新幹線は高速で大阪に向かっていた。