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吸血鬼には白い百合の花を!  作者: 夕風清涼
6/20

◇5

静かな部屋の中、私が歩く足音と十字架が揺れて擦れるチェーンの音だけが響いていた。


(ヤツは息を殺して天井にくっ付いている‥‥どうするの?沙也架?)


少しずつ寝室の入口へと近づいて行く、頭の中で戦闘のイメージを浮かべてはリセットを繰り返して最良の作戦を考案する。


(やはり私の頭上から襲ってくるのが濃厚ね‥‥お祖父ちゃん‥私に力を貸して‥‥‥観月さんの敵討ちをさせて!‥‥お願い!お祖父ちゃん!)


十字架を握る左手が徐々に熱くなっていき、不思議な力が全身を包み始めた。


(!!!怖くない!!ヤツの姿が見えるのに、怖くない!‥これが十字架の力‥‥‥)


私の身体が寝室へと入っていく、すでに目線の斜め上にヤツの姿がはっきりと見えていた。


(日本人じゃない!…外国人!……それに普通のスーツを着ている……これじゃ、一般の人に紛れたらヴァンパイアだと解らないじゃない!…)


ゆっくりと私はヤツの下を通り過ぎようとした……。


(さぁ!来なさい!やってやるわ!!!)


聖水をいつでもかけられる準備をして待ち構えるヤツの下に入った。


直射日光に当てられた魚のような臭いがした瞬間、ヤツの身体がふわりと天井から離れる。


『グワッッッーー!!』


私を押し倒すようにヤツは上から迫ってきた、赤い目と長く鋭い犬歯を輝かせ‥‥


私は缶コーヒーを振るように、聖水が入った瓶を上下に大きく揺らしヤツ顔にめがけて聖水を浴びせた。


『フグァァァォ!!!!!』


ヤツは聖水で焼けた顔面を両手で押さえ床に転げ回る。


『観月さんをあんな目にあわせたお前だけは絶対に許さない!!』


もがき苦しむヤツの全身に聖水をかけようと右腕を伸ばした。


『グワッッッ!!!』


ヤツはいきなり右足で聖水の持つ手を弾いた!


(しまった!!聖水が!!!)


聖水の入った小瓶はベッドの上に飛ばされ、チョロチョロとシーツに水滴を染み込ましていく。


『グワッッッ!ガーーーーッ!!』


ヤツは聖水を取りに行こうとする私を威嚇し、通せん坊をするように両手を大きく広げベッドに行かせようとしない。


(このままじゃ聖水が全部シーツに零れてしまう!…どうすれば……)


ヤツは顔を右手で押さえながら鋭い牙を剥き出して一歩ずつ私に近づいてくる。


(くっ………どうしたらいいの?……お祖父ちゃん!…)


私は胸元にかけている十字架を手にし前に差し出した。


『ガーーーッ!ハァァァァーーッ!』


十字架をヤツの前にかざしたが臆せずに威嚇しながら私に近づいてくる。


(十字架が‥‥効かない!‥‥‥どうして!‥‥‥)


次第に私はヤツの威圧的な黒いオーラに飲み込まれそうな焦りを感じていた。


(どうしたらいいの?……お祖父ちゃん!…お母さん!………………お母さん…………)


私は母から教わった言葉を思い出した。


《一眼は夜の闇を…もう一眼は空の青を抱く…》


(空の青……青い空…晴れ…日差し…光!…光!!)


後ずさりしながら首から十字架を抜き取り、右目と平行になるように十字架を掲げた。


『一眼は夜の闇を!もう一眼は空の青を抱く!』


左目を瞑り右目を大きく開き十字架を見つめた、急に右目が熱くなる感じがしたと同時に黄金の十字架は眩い光を放った!


『ギィヤヤヤヤヤヤーーー!!!』


眩い光を顔から避けるようにヤツは床にうずくまった。


(今だわ!!!)


一瞬の隙をつき私はうずくまるヤツを飛び越えベッドに転がっていた聖水の瓶を掴む。


(良かった!まだ残ってる!)


『魔の力に捕らわれし者よ!私が黄泉の国に送ります!神の裁きを受けよ!!』


(しっかり見ててね…観月さん……)


両方の瞳から止め処もなく涙が頬を伝う、私は聖水をうずくまるヤツの背中にかけていく。


ビシャッ!ビシャッ!ビシャッ!ビシャッ!


『ギィヤヤヤヤヤヤーー!!!!!……………グァァァァーー!!!……』


身体中から煙りが漂い始め、次第にヤツの身体は灰になっていく。


『グァァァァ!!!………アァァァァ!!!……グゥゥゥッ……………………サ……サ………………Thank you………………sacred lady(聖なる女性よ)……Thank you……………………』


(えっ!?…今…ありがとうって聞こえたけど………)


寝室内に焼け焦げた香りが充満する中、私はベッドに座り込んだ…初めて1人でヴァンパイアを倒したが、その代償は大きすぎた……私はポケットから発信機を取り出し、ボタンを押してから両手で顔をふざき泣いた…。


……………………

………………

…………


『沙也架!!どうしましたか?……………!!!!!!!……shit!!………Oh!…Mizuki……NO~……』


五分程でケンさん達は貴賓室に急いで現れたが、横たわり無残な姿になった観月さんに絶句していた。


『大丈夫か?………沙也架………sorry……私がもっと注意していれば………』


ケンさんはベッドでうなだれている私の横に座り肩をしっかりと抱いてくれた。


『どうして………どうして観月さんが…………うっ!……うっ!…………うわぁーーーーん!!!あぁぁぁぁーーー!!!!!』


私はケンさんにしがみついて大声で泣いた…両親が亡くなった時とは違う感情が爆発し、自分を責めながら泣き続けた。


『沙也架…これがヤツらのやり方だ……よく覚えておくといい……乗り越えるんだ…沙也架‥人間は辛さと悲しみを乗り越えて強くなっていく……君のお祖父様のように多くの人々を悲しみから守って欲しい…Mizukiもきっとそう願っているはずだ…』


ケンさんは泣き続ける私をしっかりと抱き締めていてくれた、暖かい温もりと安心感が私を包んでくれる。


『ロバート、残念ながらMizukiはヴァンパイアの犠牲者だ………例の手配を………後の処理は任せる……』


『畏まりました、ではそのようにいたします…』


ロバートは上着を脱ぎ静かに観月さんの遺体に被せるとボデーガードさん全員で黙祷を捧げていた。


『…沙也架…少しは落ち着いたかい?…』


『……グスッ…………………はい……………』


一体、どれだけの時間泣き続けていたのだろう…頭の中が真っ白になっている私には時間の経過すら解らない状態だった。


『OK!…では、深く深呼吸をして静かに立ち上がるんだ‥』


ケンさんに言われたように深く深呼吸をして私はベッドから立ち上がる。


『沙也架‥Mizukiの事は本当に無念だが、君はヴァンパイアハンターだ…この悲しみをPowerに変えて立ち向かえ!これからもこのような悲惨な現実を目の当たりにするかも知れない…しかし、私は沙也架を信じている!君の勇気と信念を!』


『…はい………観月さんの為にも……私………頑張ります…………』


手の甲で涙を拭い私とケンさんは灰になったヴァンパイアの残骸を見つめていた。


『沙也架…このヴァンパイアはどのような姿だった?』


『年齢は40代くらいで、外国人…スーツを着用していました』


『恐らく、正統ヴァンパイアの犠牲になり強制的にヴァンパイアにされた者だろう……こんなにも早く沙也架の事が知れ渡るとは…まずは沙也架の実力を試しに来た……という事か……』


『……ケンさん?………このヴァンパイア、最後に変な事を言っていました…………Thank you‥って……』


私はヴァンパイアの最後の言葉が頭から離れずにいた。


『ふぅ~………そうか‥強制的にヴァンパイアにされた人間は、更に新しい血を補充しなくてはならない…自らの血が澱んでくると、身体中が焼けただれるような痛みに苦しみ続ける事になるんだ…ヴァンパイアの命が続く限り…正に地獄の苦しみだ……それを沙也架は救ったのだ……だから、彼はThank youと告げた…彼は地獄から解放されたんだよ…』


ケンさんは静かにヴァンパイアの残骸に祈りを捧げる、私はリビングのテーブルに飾られていた白のカサブランカを花瓶から抜き取り、残骸に添え祈りを捧げた。


『沙也架…よく1人でヴァンパイアと闘えたね…まだ戦術すらも君には教えていなかったのに……たいしたものだ……』


『あの時は……怒りで我を忘れていました……どうしても許せなかった………』


『そうか……ヴァンパイアの為に人生を変えられ悲しむ人は多い……沙也架……その為にヴァンパイアハンターが必要なんだ……恐怖と悲しみから人々を救う為に……』


ケンさんは私の肩に手を添えて二回ポンポンと軽く叩いた。


『はい………』


『君は正真正銘ブラッドの孫、正統なるヴァンパイアハンターだ!辛く険しい道のりだが、人々の為に前に歩いて行こう…』


私はカサブランカが観月さんにも届くよう祈りながら白い花びらを見つめていた………。

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