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吸血鬼には白い百合の花を!  作者: 夕風清涼
5/20

◇4

♪ピリリリッ♪ピリリリッ♪ピリリリッ♪


耳元で大きく電子音がなり響く、聞き慣れない音に私の意識がうっすらと現実の世界に戻ってくる。


(あっ‥私‥眠ってた‥‥‥)


観月さんが部屋を出た後、私はベッドの感触を確かめながら横になっているいちにウトウトと眠ってしまったようだった。


『‥‥もしもし‥』


『フロントでございます、本日御注文されたお洋服が全て整いましたので、お部屋にお持ちさせていただいてよろしいでしょうか?』


えっ!?……そっか!……私…ホテルで寝てたんだ!……


『あっ!……はい……お願いします……』


電話を切り、寝室の開いた扉の奥から見える景色に私は目を 向けた、いつしか部屋の中は綺麗なオレンジ色の光に染まっている。


(かなり熟睡しちゃったみたい……今、何時かな?……)


枕元に転がっていた携帯電話を取り、寝ぼけ眼でディスプレイを見つめる。


(もうすぐ18時か……あまりのベッドの寝心地に熟睡しちゃったわ…毎日こんなベッドで起きられたら快適だろうな~…)


ベッドを降りてフラフラと客室に行き、窓からの景色を眺める、都会のビルはスポットを当てられたように夕陽の優しい光に包まれ、美しいシルエットの風景になっていた。


♪ピンポーン


優しく部屋に呼び出しチャイムが鳴る、ポツンと1人で広い景色を眺めていたからか、ホームシックのように心細くなっていた私にとっては救いのチャイムとなった。


『は~い!ただいま行きま~す!』


‥‥いやいや、自宅じゃないって!ここは高級ホテルだった!‥‥


慌てて扉を開けると大きなカート押した観月さんが部屋の中に入ってきた、私はケンさんが居ないこのホテルの中では、唯一観月さんだけが私の味方だと思っていた。


あぁ~!観月さんが来てくれて安心するぅ~~♪…出来れば今夜、ここに泊まってほしいわ~!こんな広い部屋で夜を1人で過ごすのやだしぃ~……私を守るようにギュッと腕枕をして寝てほしい!…………って、別に私、そっちの気はありませんので!‥それほど寂しいって意味ですのであしからず!‥‥


『大変お待たせいたしました、お洋服が揃いましたのでお届けにあがりました、どちらに置かせていただきましょうか?』


1…2…3……………わっ!全部で12箱!!……私、こんなに買ったっけ?………


『あの……観月さん?‥私‥こんなに買ったかな?……』


『うふふっ♪いいえ、十文字様が御注文された後、ハーバーランド様に詳細のお電話を入れさせていただきましたら、足元のコーディネートも頼まれましたもので、老婆心ながら当方でチョイスさせていただきました‥』


うぅっ!‥‥産まれてこの方、こんな凄いプレゼントしてもらったの初めてよ!‥今度から足長ケンさんて呼ばせてもらおうかな…


(ありがとう、ケンさん!こんなに嬉しいの初めてです‥)


『ぐすっ‥‥‥あっ!‥‥‥それじゃ、とりあえずテーブルにでも置いてもらえますか?』


『畏まりました、では早速‥』


観月さんが箱をテーブルに置こうとした時、私はふと閃いた。


『あっ!観月さん、ちょっと待って‥あの白の三点セットはどれですか?』


『はい、確かこれと、これと、これですが…』


私は観月さんが指差した箱をテーブルに置いて中身を取り出した。


『ねぇ?ちょっと試着してみますので、観月さん率直な感想を聞かしてくれますか?』


せっかく高級ブランドの服を着るんですから、1人で鏡の前に立つよりもやはり誰かに見て欲しい気がするんですよね~♪それに、観月さんならとっても誉めてくれそうだし~♪


『はい、喜んで!』


爽やかな笑顔で観月さんは頭を頷いてくれた。


『じゃ、ちょっと待っててね♪』


私はルンルン♪な気分で衣装を両手に抱えバスルームの脱衣場に向かった、初めてのブランド製品にちょっと緊張しながらも着替えを始める。


う~ん………今度の給料日にはもう少し高価な下着を買ったほうがいいわね…


ありきたりな白の水玉模様が染められたピンクのブラジャーに白のレースがサイド部分に施された同じ柄のパンティが安っぽく鏡に映し出されていた。


下着は三流!服一流!着ている本人超三流!‥‥なんか初詣のお詣りの作法みたいだけど、別にいいんです!いつかは一流を目指して頑張れば!


まずはフリルブラウスに袖を通し、レザーのホットパンツを履く。


(おっ!ブラウスもパンツもサイズバッチリじゃん♪)


そしていよいよ正義の味方がマントを着けるように、アシンメトリーのコートを羽織り首から十字架をかける。


(わっ!私じゃないみたい!!この姿でエレキギター持ったら、格好いい♪でもギター弾けないけど……エアギターならいけるかな?)


へそ下辺りにあるコートのボタンを3つとめて変身完了!


『ねぇ!ねぇ!観月さん!どうかな?』


嬉しくなった私はすぐに浴室から飛び出して白で統一された衣装を観月さんに披露した。


『まぁ!白のブラウスから輝く十字架もワンポイントになっていて大変よくお似合いです!やはり、このコーディネートですと足元はこちらがよろしいかと!』


観月さんはある程度、私の姿を想像していたのか革製の白いウェスタンブーツを取り出していた。


おぉ!かっこいい~♪サイド側に百合の花の刻印柄がされてある~♪うん!見た目だけは一流になりそう!


早速!シューズから履き替える、さすがに本革製だ!見た目よりも軽くて機敏な動きをしても違和感は感じられなかった、再度完成品の私を観月さんに見てもらった。


『どう?…ですか?観月さん?…』


『実に素敵でございます、十文字様!‥とてもキュートですよ』


洋服を着て誉められたのって、幼稚園の入園式の時に隣りのおばさんが誉めてくれた以来だ‥‥でも、やっぱり女の子としては洋服姿を誉められると幾つになっても嬉しい♪


『では、十文字様‥一階のロビーでハーバーランド様がお待ちです、一緒に参りましょう』


『えっ!?ケンさんが待ってるんですか!‥わっ!じゃすぐ着替え直してきます!』


私はすぐに浴室に戻ろうとした。


『お待ち下さい、十文字様!このままの姿で良いのではありませんか?ハーバーランド様もキュートな十文字様を心待ちにされていると思いますよ』


そりゃそうだわ!‥せっかくケンさんがプレゼントしてくれたんだから、この姿を見せないと失礼だわ‥‥


『ははっ‥それもそうですね…じゃ‥行きましょうか!』


何だろ?一流の洋服を初めて着て人前に出るから超~緊張してきたじゃない!‥‥自慢じゃないけど成人式の振り袖も上から全部レンタルだったのよ~‥‥‥どうだ!参ったか!


自分で言って‥‥‥悲し過ぎる‥


私達は部屋を後にしエレベーターに乗り込んだ、素敵な香りが緊張する私をほぐしてくれていく。


♪ピンポーン


一階ロビーに到着した合図がエレベーター内響き、扉が静かに開いていく。


『さぁ、どうぞ』


観月さんが先に私を見送るようにエレベーターから出してくれた。


あれ?何だか周りの人が私を見てるような…


そろそろチェックインの時間も佳境になっているのかロビーには大勢の宿泊客が溢れており、受け付け待ちの人々の視線がエレベーターから現れた私に向けれられていた。


『観月さん……私、注目されてるみたい……』


『十文字様がとてもキュートに見えるからですよ』


やはり衣装というのは女の子にとっては大切だ!ほんの数時間前、ここにジーンズ姿で立っていた時は非常に孤独感に襲われたのだが、今は恥ずかしいほど注目を浴びている。


『そっ…そんな事ないですよ…』


とりあえず謙遜しちゃったけど、こんなに視線を感じたの幼稚園の時の学芸会以来だわ~♪確か私は飼い犬の役でずっと座らされていたわね……セリフは『ワンッ!ワンッ!』だけだから、ずっと客席を見つめてたっけ?……いかん!またネガティブになってくる…………


『さぁ、こちらに…』


観月さんはロビーの奥へと私を先導して案内してくれる、受付前を通過する時には更に私に向ける宿泊客の視線が感じられた。


(恥ずかしいけど…有名人になった気分だわ♪)


もしかして私もセレブに見られてるのかな?…ふっ、ふっ、ふっ♪その実体は家賃五万円のワンルームマンションに住んでいる貧乏女子大生なのだ~♪


私達はロビーの奥に進むと一番奥のソファーでケンさんがコーヒーを飲んでいる後ろ姿が目に映る、やはりケンさんの周りにはさっきのいかついボディーガードがケンさんを取り囲んでいた。


(やっぱりケンさんって大物なんだ…)


私は内心ケンさんよりも取り巻きのボディーガードにビビっていた、だって黒サングラスにグレーのスーツ姿の男が4人も居るんだから、誰だってビビるでしょ!!


『お待たせいたしました、ハーバーランド様、十文字様をお連れいたしました』


『Thank you!Mizuki!』


観月さんはケンさんに挨拶すると、颯爽とその場から離れて行った。


ケンさんはコーヒーをテーブルに置き、座席から立ち上がり私に振り向いた、その瞬間ボディーガードも私の方に視線を向けた。


『Ohーー!very cute!沙也架とても似合いますよ!』


ケンさんはまるで着飾った孫娘を見つめるような眼差しで私を誉めてくれた。


『YES!very nice!沙也架』


ボディーガードの1人が笑顔で私に声をかけてくれた。


『あ…ありがとうございます…』


すると他の三人のボディーガードさんも笑顔で私の姿を誉めてくれた。


(良かった~みんな優しくて…)


『沙也架?その素敵な衣装はパーティー用かな?それとも?………』


ケンさんは何となく気が付いているような眼差しで私の衣装を眺めている。


『はい!……そうです……その為の衣装です…』


ちょっと派手すぎる?白の衣装だし目立ちすぎるっ!ってケンさんに怒られるかな……


『……聖女のような君から冥界へ送られるヤツらが羨ましいねっ♪さっ食事に行こう!』


軽く私にウインクをしてケンさんは微笑んでくれた。


良かった~♪ケンさん怒ってなかった♪…はぁぁ~安心したら、すっごくお腹空いてきちゃったわ!…


ケンさんはホテルの地階にある高級フランス料理のお店に私を案内してくれた、生まれて初めてのフルコースに驚きはしたが、とりあえずは高校三年生の時に教わったテーブルマナーが大変役に立った。


『あの…ケンさん?…言うのが遅くなってごめんなさい…こんな私の為に、色々としてくれて…何とお礼を言っていいか……本当にありがとうございます』


食事を済まし、最後のデザートとコーヒーが運ばれる合間に私はケンさんに頭を下げた。


『沙也架、あまり気にしないでほしい‥私のほうこそ君を巻き込んだ事に申し訳ないと思っているんだ‥これからは君が経験した事の無い事態が次々と起こるだろう‥私は出来る限り君をbackupさせてもらうよ!』


経験した事の無い事態‥‥すみませんがものすごくビビってしまうんですが‥‥


ケンさんは前に置かれたコーヒーを静かに口にしている。


『ケンさん…まだ私が何を出来るのか解らないんです…力も無いし、不器用だし…それにあんなのと対抗するなんて、本当に私がやれるのか……』


あぁ~!また怖くなってきた~!せっかく目の前にコーヒーと苺のフロマージュがあるってのに、手が震えだして伸ばせな~い!


『沙也架、あれを君に渡しておこう‥ロバート!』


ケンさんは後ろの席で控えていた金髪のボディーガードさんに声をかけた。


『はい!』


(へぇ~‥この金髪さんロバートって名前なんだ~)


『沙也架様、これを‥‥』


ロバートさんは車のドアリモコンのような機械を私の前に置いた。


『沙也架、これは緊急な時に使用してくれ!この先、私と君が別行動をする事も多々あるだろう‥もし!何かあった場合はこの赤いボタンを押すといい、そうすればすぐに衛星から君の居る場所が私の受信機に連絡が入るからね‥』


ヴァンパイアと戦う時は杭や聖水などアナログ使用で、その他はハイテクを利用する‥ちょっと頭が三世紀ほどごちゃ混ぜになった気がした。


『さて、沙也架‥明日は朝一番で大阪に向かうからね、今夜はゆっくりと休んでくれ‥念の為に君の部屋の前にはこの4人を交代でガードさせておくから、安心して休みなさい』


うぅっ‥さすがにケンさん、私の気持ち解ってくれてる♪嬉し過ぎる~!だって夜は怖いもん!


『ありがとうございますケンさん、凄く安心しました…』


『それは良かった、では後で彼らを部屋に向かわせるからね…』


ここでようやく私はコーヒーとケーキを口にする事が出来た、これでもし私が天国に行ったとしても最後の晩餐は、たこ焼きじゃなくてフランス料理だと神様に言えるわね!……というか……なんでいつもネガティブな事ばかり考えるのよ…もっとしっかりしなきゃ!


『それじゃケンさん、私はこれで…』


口元をナプキンで拭き取り私は席を立った。


『沙也架、明日は午前6時に出発するからロビーで待ち合わせしよう…』


私はケンさんに頭を下げて店を出た、静かなストリングス音楽が流れる廊下を真っ直ぐ歩くとエレベーターホールに突き当たる、エレベーターはすぐに私の待つ地階に到着し乗り込んだ私を貴賓室まで送り届けてくれる。


『!!!あのいい香りがしない!!』


何度もエレベーター内で鼻をクンクンしても、香水の香りがしてこない…いや、それよりもエレベーターが貴賓室の階に近づいて行くにつれて、またモヤモヤとした胸騒ぎが現れてくる。


『また…あの地下室と同じ気分だわ!……』


階を表すディスプレイが上へ上へとカウントしていく、階が上がるにつれて益々不快感に襲われていく。


『はぁ、はぁ…気持ち悪い…まさか…こんな場所に……嘘でしょ?…』


また足の踵がビリビリと震えだしていく、得体の知れない恐怖感が私を包み込んでいく。


(どうしよ!どうしよ!…そういえば優香とゾンビの映画を観た時にエレベーターの扉が開いた瞬間にゾンビが押し寄せて来たシーンあったっけ!!)


恐怖心がある時は、自然と恐怖心を増長させる事を考えるものである。


ヤバい、ヤバすぎる…せっかくのフランス料理が胃から口元にWelcomeしそう!…

貴賓室の階が近づくにつれて胃の奥がムカムカしてくる、私はエレベーターの操作盤に身を隠し十字架を握り締めた。


(はぁ~…はぁ~…はぁ~…)


エレベーターの上昇速度がゆっくりとなった感覚が足元から伝わる。


(あぁん!もうすぐ到着しちゃう!!!やだ、やだ、やだ~!怖いよ~‥)


♪ピンポーン


とうとうエレベーターは貴賓室の階に到着した‥‥。


(止まった‥‥大丈夫だよね‥‥)


生唾をゴクリと飲むとさっきの苺フロマージュの味がした。


♪ガチャン‥‥


エレベーターの扉が私を恐怖の世界に誘うように開いていく。


(そっとよ‥そぉ~っと覗くのよ!‥)


何度も頭の中にゾンビ映画が現れては消える、私はゆっくりと操作盤から顔を出した。


(良かった~‥真っ黒じゃなかった‥)


貴賓室とエレベーターの間の廊下は煌々と照明が照らしていた。


私は廊下の隅々を確認すると急いで部屋の扉の鍵を開けようとした。


(あれ?‥‥‥鍵が‥‥開いてる‥‥)


その瞬間、心臓の鼓動がドラムのように激しいリズムを奏で始めていく。


どうする?沙也架!逃げるの?ケンさんを呼びに戻る?それとも早速リモコンを使うの?どうするの?沙也架‥‥


扉の前で恐怖心を感じながら私はパニックになった頭で考える。


(ダメよ!すぐにケンさんを頼っちゃ‥私はヴァンパイアハンターになるって決めたんだから、出来る限りの事はしなきゃ‥)


格好いい事を心の中で言っても身体は正直だ、足からの震えが手の指先まで伝わっている。


(はぁ~…はぁ~…い…行くわよ…沙也架…勇気を出すのよ!…)


扉のドアをゆっくりと開けて私は隙間から中の様子を伺った。


(電気は……消えている……!!誰!?…)


扉の開いた隙間から入る廊下の明かりが少しだけ部屋の中を照らした、廊下の淡い明かりは扉の少し奥で誰かが倒れているの姿を照らしていた。


(嘘………嘘でしょ?……)


私は倒れている人に吸い寄せられるように部屋の中に入る、右手を扉横の壁に伸ばし室内灯を点けるスイッチを押したが反応しなかった。


(電気が点かないなんて有りなの!…)


今にも破裂しそうな心臓の鼓動を聞きながら、私はうつ伏せに倒れている人に近づいた。


『!!!観月さん!!』


私は観月さんに駆け寄り彼女の身体を仰向けにして起こそとした。


『!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!観月さん……』


扉の間から漏れる廊下の光が観月さんを照らす、制服のブレザーとブラウスは破られ清純そうな白のブラジャーを露わにしたまま観月さんの身体は冷たくなっていた。


『そ……そんな…そんな事って………嘘!…嘘よ!!!!』


倒れた観月さんの先に私の為に用意していてくれたのか、夜食のサンドイッチが床にココアと共に散乱していた。


『グスッ……観月さん!……ねぇ、返事してよ!…観月さんてば~……グスッ…ねぇ!……起きてよ~……お願いだから!………ねぇ!…私が守ってあげるから……起きてよ~!』


出会ってまだ1日も経ってなかったけど、こんなにも優しくしてくれた観月さんは、まるでお姉さんのように私は慕っていた…そんな暖かく優しい心の観月さんの身体が女としては一番恥ずかしい姿にされ、固く…そして冷たくなっている。


(何でよ!……観月さんは関係ないでしょ!!…どうせ狙うなら私を狙ってきなさいよ!!)


いつしか心臓の鼓動は恐怖の鼓動から怒りの鼓動へと変わっていく。


(感じる!‥‥‥まだ‥ここに居る!)


私はそっと観月さんを床に寝かし、暗闇の部屋を探り始める。


(許せない!許せない!許せない!‥‥絶対に見つけてやる!)


十字架を強く握り締め私は右目を瞑り、左目に神経を集中させた。


(どこ?‥‥どこに潜んでいるの?)


次第に部屋の様子が左目に映し出されていく、リビングのテーブルの上に私が着替えたパーカーとジーンズが折り畳められて置かれていた。


(観月さんがしてくれたんだ‥‥)


自分の人生の中でこれほど怒りを覚えたのは両親が殺された事実を警察から聞かされた以来だったが、それ以上の怒りが今、私の中に噴き出していた。


(パーカー……まだポケットに残ってるかな?…)


辺りを注意深く見つめながらテーブルに近づきパーカーのポケットから聖水の小瓶を手にした。


(良かった…まだ聖水が半分残っている……)


まだ相手の正体が解らないまま、私は聖水の瓶の蓋を開けてゆっくりと奥の部屋へと足を進める。


(向こうはこの暗闇で私が見えないと思って油断しているはず……)


『どこに居るの!出て来なさい!…』


浴室・寝室と目を凝らし辺りを確認する。


(どこに隠れているの……!!!!)


私の目線がまるで忍者のように寝室の天井へ大の字でへばり付いている男の姿を捉えた。


(私が寝室に入った時に上から襲うつもりね…)


『隠れてないで、出てきなさい!…もうここからは逃げられないわよ!』


一歩、一歩…私は寝室に向かっていく、冷める事の無い怒りと共に……。

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