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吸血鬼には白い百合の花を!  作者: 夕風清涼
17/20

◇9追われる側から追う側へ!

『ええか?被害者はこの淀屋橋と本町間にある南北に続く下水道で殺害された!…この下水道は本町にある中央大通りに沿って左右にTの字になって別れる、それまでは淀屋橋から真っ直ぐ一本や!…したがって折野警部補とロバートのチームは西の下水道から、お姉ちゃんと早川警部補は淀屋橋から南へ、東からは……………………えっと……ケンさん?………東からのチームはどうするねん?…』


『心配ない!…マイクのチームがサポートする!』


(マイク?……あぁ、あのちょっと無口な黒人の人ね!…あの人がマイクって名前なんだ!)


一見恐そうに見えるロバートさんだけど、本当は優しくてサングラスの奥から見える笑顔はとても頼り甲斐があり私を安心させてくれる、でもマイクさんは一切感情を出さないで私が挨拶をしてもただ顔を向けるだけなので、ちょっと苦手なのよ。


『…ほな、ケンさんはどうしはるんですか?…』


『私は京子と沙也架に同行するよ、彼女達の能力を知りたいからね!…それに二人ともまだヴァンパイアの戦いに慣れていないからね!…マイクの事は心配無用、彼も元ネイビーシールズだ!特に集団行動よりもゲリラ戦を得意としている、それにブービートラップのexpertだ!…彼のトラップで地獄に堕ちたヴァンパイアは両手両足の数ではきかない!』


『…!!!元シールズですかいな!!…ほんまケンさんはその気になったら大阪なんて簡単に制圧するかも知れまへんな!!ロバート君はデルタフォースやしマイク君はシールズ、あとグリーンベレーとロイヤルネイビーがおれば最強のチームやで!』


『ははは!…年齢は若いがミッキーが元グリーンベレーだよ、それにワトソンは英国出身でロイヤルネイビーに所属していた!…どうだい松本さん?これでも心配かね?…』


折野さんと京子ちゃんはあまりの驚きに表情を固まらせている、私はケンさんと松本さんが何を話してるのかちんぷんかんぷんでございます。


『…ねぇ?……京子ちゃん?……ケンさん達、元、元って、何の話をしてるの?…』


『はぁ???…沙也架ちゃん、今ケンさんメッチャ凄い事を言ってるのに解らんの?…』


『…………解んない…………』


『沙也架ちゃん!…戦争映画観た事ある?…』


『………人気のあるのはテレビで………』


『そこにメチャメチャ強くて一人で何人もの敵兵を倒していく映画知ってる?』


『………確か、特殊部隊だったとかの………』


『そうや!兵士の中でもエリート中のエリート!…信じられない訓練を乗り越えた者しか入隊出来ない部隊!…知力、精神力、当然体力に語学力、重火器の知識に乗り物の操縦知識、簡単な医療までも学んでいき、最後までその難関をクリアした者しか特殊部隊には入れないんよ!…合格率も30人の志願者のうち一人か二人しかなれないんやて!そんな人達をケンさんはボディガードに雇ってるなんて……あわよくばうちも警官の職を失ったら年1000万位で雇ってもらおと考えてたけど……はは……絶対にあかんわ……』


へぇ~~~!!!そんなに凄い人達だったんだ!京子ちゃんの夢物語はほっといてロバートさん達の経歴に私は尊敬してしまった。


(私…兵隊さんってただ身体を鍛えていたら強くなれると思ってた、ロバートさん達が歩んできた道のりを想像したら、大学受験で泣きそうになってた私って何だったのかしら?……)


そんなスーパーソルジャーの中にひ弱な女子大生の私と能天気な婦警さんが居ていいのだろうか?私達抜きでも十分ヴァンパイアに勝てると思うんですけど……


『あの………ケンさん?……ロバートさん達がそんなに凄い人達なら、私の力なんて必要無いんじゃ……』


出ました!私の得意技!《泣き言》!!


『No! それは違うよ、沙也架!…確かにロバート達は選りすぐりのスーパーソルジャーだ!…しかしそれはあくまで人間がヴァンパイアに変わってしまった時に対してのみだ!…ヴァンパイアの数を減らす事が出来てもその魂を冥界まで送る事は出来ない!…ましてや日に日にヴァンパイアの数は増えてきている、それには唯一神の力が宿るヴァンパイアハンターがボスを倒しその核を消さなければならない!…解るかい?沙也架?……』


本心言います!解りたくありません!


なんて言える雰囲気じゃないわ……こんなへなちょこ女子大生に吸血鬼のボスと戦えるわけないじゃない!そりゃ被害者の事を考えると怒りに震えるけど、恐いもんは恐い!


『…………でも………私なんか…………』


『…………………沙也架ちゃん…………』


京子ちゃんがそっと私の右肩に手を添えてくれる。


(…京子ちゃん……私を励ましてくれるの?……)


『……沙也架ちゃん……………………うふ♪………』


『…………はぁ???………』


『うふ♪……うふふふふふ♪…………沙也架ちゃん♪…………うちらほんまにツイてるわ!……特殊部隊のテクニックを教えてもらえるんやで!!それもタダで♪……軍隊に入っててもそのテクニックは教わる事が出来へんのに、メッチャラッキー♪♪…良かったね!沙也架ちゃん!うちもテクニック身に付けて年収1000万目指すわ!!』


『………………京子ちゃん…………』


よくこんな雰囲気の中冗談…いや、本心を言えるものだと私は肩から力抜けた。


『おほん、ではテクニックを身に付ける前に目の前の問題を片付けようじゃないか!…もう一度お復習(さらい)をしておくと北からは私と沙也架と京子、西からは折野君とロバートチーム、東からはマイクのチームがそれぞれ下水道の中を進みヴァンパイアを追い込んでいく!…ヴァンパイアを発見した際にはすぐレシーバーで連絡を入れる事、決して一人で行動しないように!…松本さん、他に言う事はありませんか?』


『……………全員、無事で帰ってこい!!…汚れた衣装は経費で弁償してやる!……』


『ほんまですか?本部長?ほんならケンさんに買ってもろた衣装着てきたら良かった~~~……』


『!!!あかん!それはいくらなんでもワシの首が飛ぶ!!…お前らは後でケーキを送ったるから、それで我慢せい!』


作戦室に笑い声が響いた、なぜだろう…不思議だ、これからヴァンパイアと戦うのにさっきまで身体の中に住み着いていた恐怖心が消えている、笑ったから?…それともこのチームに絶対な信頼感が芽生えたから?…


『OK!それでは各自10分以内に出動の準備を済ましてくれ、松本さん!ミニパトを1台借りるよ!…京子、この場所までミニパトを運転してくれるかな?…』


ケンさんは地図を指差し京子ちゃんに場所を指示した。


『はいな!そこやと8分ほどで到着します!』


『よし、では地下の駐車場で合流しよう!!』


『了解しました!…じゃ、沙也架ちゃん!…備品課に行くから着いてきて!!…』


私と京子ちゃんは作戦室から出て備品課に向かっていく、結局私は戦う運命から逃れる事は出来ないようだ。


『沙也架ちゃん、服のサイズは?…』


『…Mだけど……』


『了解!!』


私と京子ちゃんは2階の備品課に到着した。


『あら?京子?どうしたの?私服で?…』


カウンターの奥から婦警さんが私達の前に出てくれた、どうやら京子ちゃんの友達みたいだ。


『私服でも勤務中やねん!…あんな、うちの分と隣の子の分の青戦闘服支給して!』


『………あぁ、あれね!さっき松本本部長から連絡来てたわ!…それより、京子!…あなた捜査課に転属になったの?…それに警部補昇進なんて、何回本部長とデートしたのよ?…』


『はぁ???…アホな事言わんといて!うちは実力で今の地位を手に入れたんや!…それに捜査課やないねん!…』


『じゃ、どこの課なのよ?………』


『それはな!…………いっ!!!!……』


私は婦警さんに笑顔を振り撒きながら少し身体を京子ちゃんの背中に隠して軽くお尻をつねる。


(…ケンさんの課は他の人には極秘でしょ!!…)


『どうしたのよ、京子!…教えてよ!…』


『そ……それは、正義の味方か……な……』


『はぁ?……正義の味方課?………京子、真面目に聞いてるのよ!』


『ごめん、要人警護なのよ!だから正義の味方!!おほほほほほ!…』


『………お嬢さん、あまりこの子と関わらない方がいいわよ、人生冗談で生きていかなきゃならない恐れがあるから!…』


『やかましわ!!はよ戦闘服もってこい!!M2つやで!!』


『はい、はい!早川警部補殿!…後ポテトはいる?』


『いるか!!早よ服だけもってこい!!…』


(…………はは…………婦警さんの前に人間の女子だもんね………ミーハーにもなるわよ………)


婦警さんは軽く私にウインクをしてロッカーに歩き出した、どうも京子ちゃんは夕食からご機嫌ななめのようだ。


『まったく、あいつがうちの部下になったら毎日コキ使ったるねん!……ふん!…』


しばらくして婦警さんは2つの青のジャージとその上にコーヒー牛乳とチーズ蒸しパンを乗せて差し出してくれた。


『はい、京子!…お腹空いてたんでしょ?…早くここで済ましちゃいなよ!』


『さっすが!持つべきもんは友ね♪…私の下に付いたら楽な仕事だけ回してあげるね♪…さっ、沙也架ちゃんも食べて!』


おいおい!さっきと全然話が違うわよ!それにいきなり上機嫌になったし!!それにこの婦警さん、京子ちゃんの性格よく解ってる!…


『あのね、京子ってお腹が空くと機嫌が悪くなるの!…それもかなり!…お嬢さんもその事だけ覚えておいた方が安全よ♪…絶対京子を飢えさしてはダメ!…』


『人を猛獣みたいに言わんといて!…こんなに可愛い美女は他にはおらんねんよ!!それをサファリパークのライオンみたいに!…』


『あら?ライオンじゃない!…この前の西日本柔道大会の時、他の署から京子の事、大阪婦警のメスライオンってアダ名がついていたの知らなかった?』


『なんでうちがメスライオンなんよ!!同じ猫科でもうちはチンチラかマンチカンのほうや!』


『へぇ~~~~……マンチカンね……足の短いのは認めるけど、試合中のあなたは両手で相手の道着を掴んでは振り回して投げ飛ばすスタイルでしょ?…あの姿からみんなメスライオンが獲物に食らい付いたイメージを持ったってわけよ♪…』


私は二人の会話が聞こえないようしてモクモクとチーズ蒸しパンを食べ続けた。


『だったら一度うちに勝ってから偉そうな事を言えば?…』


『冗談!!カモシカがメスライオンに勝てるわけないじゃない!…』


『何がカモシカじゃ!……ご馳走さん!…沙也架ちゃん!…ここにおるとうちの可憐なイメージが嘘に塗りたくられてしまうから、早く着替えに行こ!!…』


『…えっ、あっ!…うん………』


パンとコーヒー牛乳を素早く平らげて私と京子ちゃんは備品課を出ようとした。


『………京子………気を付けるんだよ!……何かあったら承知しないからね!!…』


一瞬、婦警さんの声に京子ちゃんは立ち止まり、軽く右手を挙げて親指を立ててサインを送った。


(何だか京子ちゃん、カッコいい!!…それに婦警さんもある程度京子ちゃんの雰囲気から任務の危険性を察知したんだ…)


『お嬢さんもだよ!…沙也架ちゃんだっけ?…これから人生楽しい事がいっぱいあるんだから、命を無駄にしちゃダメよ!……頑張ってね!…京子を頼むわね!…』


あれ?おかしいな…私も京子ちゃんも目から涙が溢れてくる…恐くないと言えば嘘になる、それは京子ちゃんも同じ…恐怖から出る涙じゃない…こんなにも自分の身を案じてくれる人達が居る…その嬉しさから込み上げてくる涙だった。


『…………今度非番の時、蒸しパンのお礼にフランス料理を私と沙也架ちゃんから招待したるわ!!楽しみに待っとき!…』


京子ちゃんは後ろを振り向かず瞳から溢れた涙を頬に流したまま歩き出したが、私は婦警さんに振り返り頭を下げてその場を去った。


(…ぐすっ………ぐすっ………私……もっと強くならなきゃ…………私を我が子のように見守ってくれた叔母さんや叔父さん、それに友人達、ブティックの川上さん、私……もう観月さんの時みたいな気持ちになりたくない!!…みんなを守りたい!…京子ちゃんもお友達の婦警さんも、ヴァンパイアの魔の手から守りたい!…お祖父ちゃん!!…私にヴァンパイアハンターの力を与えて!!…)


これから何が起こるか解らない不安を抱きながら私達は暗い廊下の奥にある女子更衣室の中に入っていった。


『いよいよやで!!沙也架ちゃん!…』


『…………はい!!…………』



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