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吸血鬼には白い百合の花を!  作者: 夕風清涼
15/20

◇7

♪ピンポ~~~~~ン


エレベーターの扉が開くと同時に百貨店のレストラン街と同じ香りが私と京子ちゃんの鼻を魅了していく。


『あかん!…沙也架ちゃん!…うちもうお腹ペコペコや!…』


『私も!……早くお店に向かおうよ♪…』


『ところで沙也架ちゃん?……中華のお店の名前、覚えてる?……』


『…………えっ?………名前?…………えっと…………龍…………何だっけ?……京子ちゃん覚えたんじゃないの?……』


おいおい!これじゃ、まるでオバサンの会話じゃない!と、つっこんでみたものの店の名前が思い出せない!


『えっ?…うち?…………う~~~~~~~~んと……………坦々軒だっけ?………』


思い出せないけど、その名前……500%違ってると思う!


『ねぇ?…とりあえずフロア図を見れば解るんじゃない?…』


『あぁ!…その手があったわ♪…沙也架ちゃん頭ええな!……国立大卒?…』


なんでこれくらいで国立大卒になるわけ?だったら国民の96%が国立大卒だよ!それにまだ私は現役だっての!


私達はエレベーターを降りると真正面にある壁に貼られたフロア図を眺めた。


『ふむふむ………日本料理に………スペイン料理に………あっ!フランス料理もあるやん!…しまった~~~!!フランス料理にしたら良かったかも?……沙也架ちゃん?…フランス料理に変更せえへん?……』


『もう!だって中華料理の店予約されてるじゃない!…』


『そうやったわ!………あっ、でもここがうちらの住まいになるんやから、明日来てもええんや♪…………きししししし♪………これがセレブなんやね♪…』


警察官という職も警護の任務も完璧に忘れてるのはこの態度を見ればよく解る。


『馬鹿なこと言ってないでお店は見つかった?…』


『ちょっと待ってよ♪…今後の毎晩のディナーの為にお店をしっかりと覚えておかないとね♪…』


だったら、中華のお店の名前も覚えておいてよ!


『ん?玉鳳珠?……これや!!…あったで♪…沙也架ちゃん!…』


『で、ここからどう行けばいいの?…』


『現在地から………あっ、あの角を右に行って………奥へ真っ直ぐ、その角が店やね♪…』


私達は他店から香る誘惑に耐えながら目的の中華料理店を目指して歩き出す。


『あぁ~~♪…ここのイタリアンの店もピザが美味しそうやな♪…パスタの種類も豊富そうやし♪…なぁ?…沙也架ちゃん?……絶対に滞在期間中に全店制覇しよな!!』


京子さん?私達がなぜこのホテルに滞在することになったのか、覚えていますか?


『わっ!!ここの日本料理店!…ほら、見て見て!…水槽にフグが泳いでる!…うち、まだフグ食べた事ないねん!…なんかフグの顔、本部長に似てるな♪…て事は、本部長も美味しいのかな?………………………うげっ!まな板に裸で寝てる本部長を想像してしもた!!…』


京子さ~~~~ん!楽しんでますか~~~~?今の言動、ヴァンパイアよりエグいですよ~~~


『もう!京子ちゃんたら!…お腹すいたよ~…早く行こうよ!…』


『はい、はい!…そないに怒らんといて~~…』


すったもんだの挙げ句ようやく私達は目的の中華料理店に辿り着いた。


『……………沙也架ちゃん?………』


『……………京子ちゃん?…………』


立派な木の柱の入口に1枚板で玉鳳珠と彫られている看板を掲げ、蝶ネクタイに黒のスーツを着た人がずっと入口前で立っている。


『………まさかと思うけど………うちらを待ってる?……』


『……違うと思うよ……お客さんの案内人では?……』


私達は恐る恐る入口に向かって歩き出す。


『御待ちしておりました、十文字様…では、お席に御案内いたします』


『ほら!ほら!ヤッパリ!!…うちの読み通りやん!…お兄さん、うちらを待ってくれてたんや♪』


あ~~~~……大阪のお姉ちゃんって、京子ちゃんみたいな人ばかりなの?……


案内のお兄さんに続いて店の中に入ると、そこはまるで中国の宮殿のような豪華な装飾品で店内が飾られていた、驚いた事に右側のレジを通り過ぎると、目の前に赤い欄干の橋が掛かってあり、ちゃんとその下には川が流れ、錦鯉が優雅に泳いでいた。


『…沙也架ちゃん?……ここって、建物の中やんな?……川があって鯉が泳いでるけど……』


『………凄い………しか言えない………』


私達は橋を渡り、ほぼ満席状態のテーブルがあるスペースから更に奥の部屋へと通された。


『こちらが本日御用意いたしましたお部屋でございます、どうぞごゆっくりとお食事をお楽しみ下さい、御注文が決まりましたらそちらのベルでお呼びください、では!失礼いたします』


椅子を引き、私達を座らせてくれると案内のお兄さんは丁寧にメニューを開いて部屋から出ていった。


『………沙也架ちゃん?…この部屋って……VIPの部屋かな?……』


『………だろうね………壁の絵画も凄いし…』


大きな窓からは宝石箱のような大阪の夜景が煌めき、テーブルの中心には淡い蝋燭の灯火と花瓶が添えられ、部屋の明かりも夜景を引き立てるように薄暗く調節されていた。


『…セレブ♪……これがお金持ちの晩御飯♪…』


せめてディナーと言って欲しいんだけど……京子お嬢様!


半分口を開いてしばらく夜景を眺めた私達はいよいよ待望の食事へと挑んでいく。


『さぁ~~~~♪何食べよかな?………』


『そうだね♪…………………………伊勢海老のクリーム煮?…………アワビとなまこのオイスターソース炒め?……A5ランクの中華風牛ステーキ?………アグー豚の酢豚?………金目鯛の………………………ダメだ!………酢豚以外何にも解んない!…』


『ほんまや!……天津飯とか五目そばとか、チャンポンとか、何にも書いてへん!…………どないしよ?……沙也架ちゃん?……』


所詮、庶民とはこんなものよ!…中国語でメニューを書かれてる訳でもないのに、日本語のメニューを見てもサッパリと味の想像ができませんですわ。


『…ねぇ?…京子ちゃん?…このディナーコースにしてみない?…これなら何とか解るんじゃ?…』


『…どれどれ?………前菜が、春雨と中華野菜のサラダ……次が、燕の巣のスープ……フカヒレ焼売……伊勢海老のチリソース煮……レタスとわたり蟹の炒飯……デザートが、フルーツ杏仁豆腐とマンゴープリンのパフェか………これええやん!!…沙也架ちゃん、これにしよ♪…』


『うん♪…じゃ、ベルを鳴らすね♪…』


♪ピ~~~~ンポ~~~~ン


心地よいベルの音が部屋に響くと係のお兄さんがすぐにテーブルへと現れた。


『御注文はお決まりでしょうか?…』


『…えっと…このディナーコースを2つお願いします…』


『畏まりました、それではお飲み物はいかがいたしますか?…』


『…どうする?京子ちゃん?…』


『ほら、昼にシャンパン飲んだから、夜は控えとこ?…』


『じゃ、烏龍茶を2つお願いします…』


『はい、畏まりました…ではお料理をお持ちするまでしばらく御待ちください…』


お兄さんは私達の注文を聞くと、深々と頭を下げて部屋から出ていった、セレブ!そう、これがセレブなのよ♪


『はぁ~~~…なんかうち緊張したわぁ~~…………ヘヘ♪……でも、燕の巣にフカヒレ♪…で!…伊勢エビですか♪……こんなん毎日食べてたら生活習慣病にまっしぐらやね!』


『だからその辺は考えて食べようよ、お部屋にキッチンもあるから、自炊してもいいし…』


『自炊か~~……それならうちに任しとき!…伊達に独り暮らししてないからね♪……まずはイタリアンとフランス料理を堪能してから始めよ!…』


おい!それでは会話の意味がなくなるって!


『あ~~……はよ高級中華さん、うちの前に来ないかな~~♪…』


そうこうしているうちに、ウエイトレスさんが烏龍茶と前菜の春雨サラダを持ってきてくれた。


『…ふぅ~~~~ん……春雨サラダはどこにでもあるもんね…まずは胃を慣らして本番ってとこやろね?…』


しかし、さすが高級中華の店!野菜に春雨と完璧にマッチした手作りドレッシングは、たかが春雨サラダと馬鹿にしていた私達を唸らせた。


『ちょっと沙也架ちゃん!…このドレッシング、めちゃ美味しない?…嫌みのない酢と芳ばしいゴマ油のコンビネーション!…春雨も歯ごたえ十分やし、うちハマりそうやわ♪…』


京子ちゃんの言った事は私も感じていた、私生活ならこれだけで夕飯のおかずになりそうだ。


『さぁ~~♪…次は燕の巣のスープやね♪…うち初めて食べるわぁ~~♪…』


『私も♪……』


『…やっぱり燕の巣って言うくらいやから、スープの中に藁とかも入ってるんやろか?……木の枝は食べられんから取ってくれてるはずやし…』


関西人だからこれはギャグなのかな?…私を笑わそうとしてるんだろうか?…


『京子ちゃんって、面白いね♪…』


『はぁ?…別にうち、笑いなんかとってへんけど……』


余計あきまへんがな!!…と思わずつっこみそうになった私って………


♪ピピピピ!ピピピピ!ピピピピ!ピピピピ!…


『あれ?私の電話だ!………………あれ?……ケンさんだ!…………………もしもし?…』


《休んでいる時にすまないね、SAYAKA!…実はすぐに本部に戻ってきてほしいんだ!…》


『…何かあったのですか?…』


《そうだ!下水道の点検作業員が何者かに襲われたという通報が府警に入った!…今、折野君が君達を迎えにホテルまで車を飛ばしている!…すぐに準備をして玄関まで出ていてくれ!…》


『…解りました、はい…………はい……………えぇ、そうします!…………はい……解りました…すぐ京子ちゃんと向かいます!…』


『…………あの?……沙也架ちゃん?……なんかうちにとって、ものすごくガックリな話しのような気がしてるんやけど………………』


何がなんでも手にしたお箸を手放すもんか!みたいな表情を露にしている京子ちゃん………


『…………さすが京子ちゃん!…大正解!…これからすぐに本部に戻れって……折野さんが迎えに来るんだって……』


『…………嘘………そんな事ってあり?…………うちのスープは?…焼売は?………伊勢エビさんとのお見合いはどうなるん?……炒飯さんとも挨拶してないのに?………………まさか、昼間の仕返しに本部長が裏から手を回してるんやないの?…』


そんな情けない事で折野さんが覆面パトで来るわけないでしょが!!


『とりあえずすぐに部屋に戻って、準備をしようよ!…』


『え~~~~~~~~~~~~~~~~!!………料理は?…デザートは?…』


『この際キャンセルだわ!…』


『とほほ……高級中華料理店で、結局食べたのは春雨と野菜だけ………コンビニの惣菜コーナーにもある食べ物………はぁ~~~~~~…悲しすぎる……』


『もう一度また食べに来たらいいじゃない!…ほら、京子ちゃん!…行くよ!…』


私は項垂れる京子ちゃんの腕を引っ張り個室から出ようとした。


『……あの?十文字様、どうかなされましたか?…』


係のお兄さんが私達の慌てる様子に声をかけてきた。


『せっかくお料理を作ってもらってるのに、ハーバーランドさんから急に呼び出されちゃって!…本当にごめんなさい!…』


『そうですか、誠に残念ですがお気をつけて行ってらっしゃいませ…』


『あっ、あのね!お兄さん!…残りの料理、冷めててもええから、うちらの部屋に運んでくれる?』


『…………はぁ…それでよろしければ、そうさせていただきますが………』


『ほんま?やったね!…ほな、お願いしとくわ!…』


ったくこのお姉ちゃんは!………と思いつつ、心の中では京子ちゃんナイス♪…と万歳三唱している私が居た。


すぐに私達はエレベーターに乗り込み出動準備の打ち合わせを始めた。


『い………いよいよヴァンパイアとの御対面かな?……あの衣装に身を包む時が来たんやね!』


『…まだヴァンパイアと決まった訳じゃないみたいだから、詳細は本部で聞くことになりそうね、で!ケンさんからの伝言だけど、今回は下水道に行くかも知れないので汚れてもいい服装で来てくれ!だそうよ…』


『下水道!!…うら若き乙女が夕飯時に下水道探検するんかいな!…勘弁してよ………うちらネズミとちゃうで!…』


『でも、あの服で下水道は似合わないから、ある意味良かったじゃない!』


『…けどな、汚れてもええ服って、そんなん持って来てないし…………………………あっ、そや!……………本部に戻るんやったら、あれがあったわ!…』


『…あれって何?……』


『大阪府警って胸元に書いてある、青に白の縦線が入ってるジャージ!!…』


『えっ????………それを着るの?……本気で?……』


『当たり前やん!…あれなら汚れてもええし、なんちゅうても洗濯は署内のランドリーで適当に洗えばええし、仮に生地を破ったとしても新しいの支給してもらえるから、うちらの腹は痛まんしね♪…』


さすがに京子ちゃん……警察官より別の職業が向いてるかもよ……

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