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吸血鬼には白い百合の花を!  作者: 夕風清涼
14/20

◇6

ドアボーイさんが深々と私達に頭を下げて出迎えてくれるなか、私と京子ちゃんは館内へと入っていった。


『うっわ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!何これ!!……めちゃ凄い!!…沙也架ちゃん………折野警部補、絶対に場所間違えてるわ!!…こんな豪華なホテル、うちらが入ったら追い返される!……ほら、早よ帰ろ!!』


京子ちゃんがビビるのも当然だ、自動ドアをくぐった瞬間からそこはヨーロッパ貴族を真似た豪華なエントランスが広がっており、中央にはトレビの泉をモチーフにした噴水が何色ものLEDライトに照らされ、心地よいフローラルな香りが館内を包んでいた。


(……絶対、このホテルで間違いないわ!!…完璧にケンさんの趣味だもの!!…)


『さ、行こうよ京子ちゃん♪…たぶんこのホテルで間違いないから♪…』


『いや、そんな訳ない!…うちがこんなホテルに泊まるなんて本部長にバレたら一ヶ月の給料どころやなくて、内緒で夜のお仕事もせなあかんかもしれへん!!…なぁ?どうせフロントに行っても《お客様の名前はございませんが、どちらかの宿泊先とお間違えでは?》なんて言われたら、完全にアホな女がいちびって冷やかしに来よったしか思われへんて!!…うち、そんなんで恥かきたないわ!…』


『大丈夫だって♪……京子ちゃんもケンさんが凄い人だと解ってるでしょ?…だから心配ないって♪…』


京子ちゃんと私は自動ドアに入ってから2㍍ほど進んだ所でかれこれ5分は立ち往生している、もうこれだけで周りには十分と言えるほど恥ずかしい姿をさらけ出しているに違いない。


『そら、まぁケンさんは凄い人やとは思うけど、さっきかて車1台分位の服を買ってもろたのに、それにこんな待遇って、絶対におかしいわ!!』


『…………京子ちゃん、真面目に話すけどそれだけ私達の仕事は危険なの!…たぶん……京子ちゃんがやつらと遭遇した瞬間に、世界中の仲間に京子ちゃんの存在が知れ渡り、私と同じように標的にされる……当然、現場で活動する折野警部補も同じ………万が一私達に何かあっても事故として作り上げられた事実の中に消されてしまう……観月さんのように………もしかすると、それが数時間後になるか、数日後になるか、それとも私達が勝って天寿を全う出来るかは誰も予測できない……だからこそ、ケンさんは私達に思い残しが無いように取り計らってくれてるんだと思うの……』


『…………沙也架ちゃん……………』


『私……強くなるから!……今はまだ守ってあげる!なんて言えないけど、努力するから!……京子ちゃん、私を助けて………』


『………………この世に未練ないようにか…………………面白いやん!…ほな、うちらが生き残ってその後の人生もケンさんに見てもらおか?…そのくらいの報酬はないとね♪……沙也架ちゃん♪』


『うん!!!勝ってセレブを手に入れようね♪…』


果たしてこんな約束でいいのだろうか?……ただ、1つ勉強になったのは夢や将来の展望の話をするよりは、どれだけ利益になるかを伝える方が京子ちゃんは理解してくれると言うことだった。


『じゃ!チェックイン行くわね!…京子ちゃん!…』


『はいな!いつでも恥かく準備は出来てるで!』


静かなピアノソナタが流れるエントランスから、そのBGM に全く似合わない私達がサービスフロントに向かって歩き出す、正直ピアノではなく私達が歩き出した時には戦隊物のオープニングテーマがかかって欲しいと思ったのは私だけじゃないはずだ。


『き………来た!……沙也架ちゃん!……フロントのお兄さんがうちらを見てるで!!……英語で話し掛けられたらどないしよ!……』


そんな事あるわけない!眼鏡をかけても双眼鏡で見ても完璧に私達はメイドインJAPANよ!!


『いらっしゃいませ、本日は当ホテルを御利用いただき誠にありがとうございます、御予約の御客様でございましょうか?…』


『えっ?……あっ!……あの……うちらは………大阪府………』


私は申し訳ないけど京子ちゃんの腕に肘をぶつけて黙らせた、テンパった京子ちゃんは何を言い出すか解らないもので………


『あ、あの失礼いたしました……私、十文字沙也架といいまして、ケン・ハーバーランドのつれの者です、隣に居るのは共通の友人で早川京子と言います。』


『……………………しばらく御待ちくださいませ………………』


そう私達に告げるとフロントマンのお兄さんは奥へと消えて行った。


『ちょっと沙也架ちゃん!…さっきの肘鉄何なん?…ちゃんとうちが自己紹介してる時に!…』


『あれで自己紹介ですか?……職業から先に言おうとしてたよ!……』


『えぇ?ほんま?……はは、こんなとこ全然縁がなかったから、何話していいやら解らんかった!……それより、やっぱりホテル違うんやない?……あの兄ちゃん、なかなか戻ってこんで!…うちがベル鳴らして呼ぼか?…』


『居酒屋じゃないって!!』


さすがに京子ちゃんもこの雰囲気に慣れてきたのか、辺りをキョロキョロと見渡すゆとりが出来たようだ。


『沙也架ちゃん?……あのアンティークの時計、いくらすると思う?……うちの見立てやと70万位すると思うねん……それにその横の陶器の壺、あれは値打ちありそうやね♪…』


(京子ちゃん、さっきからお金がらみの話ばっかりだけど、大阪の人って自分のレベルよりも上の物と遭遇するとこんな感じになるのかな?……そういえば大阪商魂って言葉聞いたことあるわ…)


しばらくすると、先程応対してくれたお兄さんとは別にやや中肉で少し髪の薄いおじさんが私達の前に現れた。


『大変遅くなり、誠に申し訳ございませんでした、只今御部屋のコーディネートが終了いたしましたので、これよりご案内させていただきます、私、総支配人の土屋と申します、ご用の際は十文字様専属のコンシェルジュが承りますので何なりと申し付け下さいませ…それでは御部屋までですが私がご案内させていただきます…』


『は…………はい………お願いします………』


『……………スゲ!!…………………』


私達は土屋さんに続きエレベーターに乗り込む、一体どの階に案内されるのか、私は興味深く土屋さんが押す階のボタンに注目した、その横で当然ながら京子ちゃんも土屋さんの腕の先を覗き込んでいる。


(げっ!!!!!最上階の1つ下!!…マジ??)


『わっ!!沙也架ちゃん!!…56階やて!!…土屋さん、ボタン間違ったんと違う?……』


(はは………間違ってるのはあなたの態度ですわよ…)


『とんでもございません、オーナーのお連れ様にそんな失礼な御部屋を御用意するなど、私共がオーナーより御叱りを受けます』


『……オーナー!!!!!!!!』


思わず京子ちゃんと同じ言葉をハモってしまった。


『!!このホテルが………ケンさんの持ち物………きょ………京子ちゃん?………聞いた?…今の……』


『……この……大阪でめちゃ凄いホテルが………ケンさんのホテル……うは……うはははは……』


もう驚く事はないと思っていたけども、まさかホテルのオーナーだったとは驚いても当たり前よね!


『最上階は国賓専用の御部屋でございますので、十文字様はその下の階のロイヤルスィートルームを御利用下さいませ』


『ロイヤル!!…ちょっと沙也架ちゃん聞いた?…ロイヤルやて!!…スィートルームは聞いたことあるけど、ロイヤルってどういう意味やろ?…』


『そうね、よく聞く言葉だけど意味は解らないよ…』


『ロイヤルの言葉は色々な分野で分けられて使われております、王宮、一流、貴賓、王族などの意味があるそうです』


『きゃ~~~~♪…うちらにピッタリの言葉やな♪』


(どの辺が?)


♪チ~~~~~~~~~~~~ン!!


心地よい到着音と共にエレベーターのドアが開く、一階のフロアとは違い爽やかなストリングス音楽が静かに廊下を響かせていた。


『こちらでございます。』


エレベーターを出て右に曲がり少し歩くと大きな木製の扉が私達を待ち構えていた。


『お疲れさまでした、こちらがロイヤルスィートルームでございます。』


土屋さんが鍵を開けてくれ、部屋の中に私達を招いてくれた。


『えぇっっっっ!!何これ!!…………』


私達は声を失ってしまう、部屋に入ると真っ白なテーブル、お約束のフルーツの盛合せ、それに何故かシステムキッチン、大型テレビとシアターシステム完備のテレビラック、このスペースだけでも30畳はありそうだ。


『こちらのキッチンの奥には冷蔵庫とワインクーラーがございますので、ご自由にお楽しみ下さいませ、後は御夕食ですが、何か御希望が御座いますか?』


『あの……食事はどうすればいいのですか?…』


『はい、当ホテルは32階に和・洋・中と各レストランを運営しております、そちらで食事をされても結構ですし、必要とあれば御部屋までお持ちさせていただく事も可能で御座います。』


『はぁ………何から何まで、すみません…………ねぇ?…京子ちゃん?……夕食は何する?……』


『ちょっと、ちょっと!沙也架ちゃん、ちょっとお耳を!……』


『えっ?何?……』


京子ちゃんに手招きされ私は耳を京子ちゃんの顔に寄せる。


『あんな、ホテルの料理ってメッチャ高いんよ!……初日からええの食べたら、給料日までお金が続かんから今日はコンビニでカップ麺とオニギリ買って済まそ!…』


『…この部屋でカップ麺???…』


『う、ごほん!あの…お二人様の会話に口出しするようで申し訳ありませんが、お食事の料金は一切いただきませんので何なりとお好きな料理を召し上がり下さいませ。』


『えっ♪♪…それほんま?…今、土屋さんのセリフしっかり聞いたよ♪』


いきなり京子ちゃんは目を輝かせ今にも土屋さんにキスをするような勢いで土屋さんの顔を覗き込む、まぁ絶対にキスなんてするわけないけどね…


『はい、どうぞ御来店をお待ち致しております。』


『くぅ~~~~~~……やったね♪♪…生きてて本当に良かった♪……神様はか弱い哀れな美少女を見捨てなかったのね♪♪……その神様が…ケンさん♪……うち、一生ケンさんの小判鮫になる事を誓うわ♪』


(どこがか弱い美少女なの?…それに小判鮫って……どっちかと言えば今の私達じゃ、ハイエナかハゲ鷹が関の山だわ…)


『で、京子ちゃん?…今夜は何するの?……』


ほとんど投げ槍な口調で私は京子ちゃんの意見を聞いてみた。


『う~~~~ん…………何か今日は色んな事が多すぎて、少し疲れたから栄養のある中華料理なんてどう?』


『あっ!!それナイス♪……うん、中華にしよ♪』


『畏まりました、では夕食のお時間は19時辺りで座席をリザーブをしておきますので、その時間に32階の《玉鳳珠》までお越し下さい、では、それまで御ゆっくりとおくつろぎくださいませ!』


土屋さんは私達に深くお辞儀をすると部屋から出ていった。


『ほぇ~~~………これってほんまに夢やないよね?…』


『間違いなく現実の世界だよ!……』


私達はリビングの窓に立って黄昏時の街並みを眺めた。


『うっわぁ~~~~♪………大阪港が見える!…その向こうには六甲山も!…沙也架ちゃん、あれが六甲山でその下が神戸やよ!…神戸にも美味しいもんがたくさんあるから、また一緒にいこね♪』


『うん♪楽しみだね♪…』


『………ほんまにこの部屋が………うちらの宿泊先なんやね?………』


『完全にそうだよ………』


『………ふふ♪………………ふふふ♪…………』


『………??………京子ちゃん?……』


不適な笑いを浮かべる京子ちゃんに私は思わず顔を覗いてしまう。


(……また変な事考えてるのかな?……)


まぁ、だいたい何を考えているのか想像は出来ます、だって私も笑いが込み上げて来てるんですもの♪


『………ふふ♪…ふふふふふ♪………………キャッホーーー♪♪♪♪…なぁ!なぁ!沙也架ちゃん!!うちな、こんな生活憧れててん!!ここがうちらの住まいやなんて!たまらんわぁ~~~♪…』


京子ちゃんは警察官だと言う事を綺麗サッパリ忘れてソファー上に飛び込んで寝転がる、この部屋には私しか居ない事もあり、遠慮なくスカートの中のパンティを見せてくつろいでいた。


う~~~ん……数時間前、私に敬礼をしていた京子ちゃんはいずこへ飛んで行ってしまったの?…それにお堅い警察官とはかけ離れた真っ黒のパンティ……この人が私の盾になってくれるのね!!……と、思いたいけど…………不安が頭をよぎる……


『…あの……京子ちゃん、スカートの中が………見えてるよ……』


『えっ!?……そんなん気にしない、気にしない!…女同士やねんから!…それよりもっと部屋の探検しよ?…』


ソファーから飛び起きた京子ちゃんは私を連れて次々とドアを開けていく。


『うっひょ~~~♪……これが浴室?…床も壁も総大理石でマジ凄いやんか!…へぇ~~~♪♪…浴槽から大阪の街が見下ろせるで♪…夜景を眺めながらお風呂♪♪…女子の憧れ♪…それが今夜実現するんやね♪…それに見て見て!!…この浴室セット!!…バスバブもあるし、シャンプーからリンスまでみんなフランス製の高級ブランドやで♪…はぁ~~♪…うち大阪府警に就職出来て良かった~~~♪』


いやいや、大阪府警に就職出来たからってこんな待遇は億に一つもありませんが………


浴室には浴槽の他にジャグジーまで完備されており、私達は本来の目的も忘れ旅行気分になっていました。


『ねぇ?ねぇ?京子ちゃん…寝室が2つもあるけど、寝るときはどうする?…』


『そうやね~~~~~~~~~~~…………………………………………ほんまなら別々に!と言いたいけど、警護の事を考えたら一緒の方がいいと思うねん!…………………それにな………………沙也架ちゃん、気が付いてた?…』


あれ?京子ちゃん、ちょっと表情がさっきよりも真面目になってる!


『………???……何を???…』


『…ガラス窓をよ~~~く見てみ!!…』


『…??…………………………!!!!……あっ!!…』


確かに京子ちゃんが言う通り、本来ならあり得ない物が窓ガラスに貼り付けられていた。


『………十字架の形でテープが貼られてる……』


『それだけやないで!……テープを光りに透かしてみ!…』


『………あっ!!…何か英文字が書かれてる!!…メーカーのロゴかな?…』


『なんでやねん!!…ちょっと待って、訳してみるから!…』


『…京子ちゃん、読めるの?…』


『うちの容姿を見てもわかるやろうけど、インテリな外国語大を出てるんやで♪』


すみません、てっきりチャライどこかの女子大出身かと思っておりました。


『…………主?…………神は………………救い……………魂………………!!……沙也架ちゃん、これは聖書の一文やわ!…』


『えっ!?聖書の?………』


『間違いない!…この部屋のありとあらゆる窓と出入口にこの聖書の一文が書かれたテープが貼られてあるんや!…』


京子ちゃんはすぐにこの部屋の入口のドアを確めに走っていく。


(……それってもしかして…ケンさん…………ケンさんが…私達を守るために……)


『沙也架ちゃん、やっぱりや!ドアにはテープやなくてシルバーの十字架が貼り付けてあったわ!…部屋に来たときは気が付かなかったけど……』


『京子ちゃん、これはケンさんが手配してくれたんだよ………夜、私達が安心して休めるように……』


『………ケンさんが?………』


きっと観月さんの件もあったからだと思います、私達はケンさんの心配りに胸が熱くなりました。


『て事は、この部屋はヴァンパイアに対しては鉄壁の要塞ってわけやね?…』


『…うん、そうなるね…』


『でも!まだ安心出来ないで!…』


『…??どういうこと?…』


『念には念を!ってね!…うちらの可愛い寝顔を化けもんに見せるわけにはいかんし!…万が一テープが剥がれた時の事を考えて窓際と出入口の床に聖水をかけておくんや♪…例え水が蒸発してもその場所は清められてるから、ヴァンパイアが触っても効果はあるはずやで♪』


やっぱり警察官ね!ちょこっと見直しました♪


『沙也架ちゃん、確かバッグに聖水の入った瓶持ってたよね?…』


『うん、新しくケンさんからもらったのがあるよ…』


『よっしゃ!ほんならその聖水貸して!』


私は瓶を京子ちゃんに手渡すと、まるで別人のような表情で窓から出入口まで聖水をかけていきました。


『…えっと、防犯課の久美子が言ってたのは………鍵付近とサッシ……それに……鑑識の河野君が言ってたのは…入口辺りでは1㍍先位に足跡が多い……と………』


凄い!侵入者の行動パターンが全部お見通しだ!京子ちゃん、チャライ女子大出身だなんて思ってごめんなさい!


『よつしゃ!!これで後はホテルには悪いけど扉前に聖水を撒けば完璧♪』


『凄い!さすが警察官だね♪京子ちゃん頼りになる♪』


『いや~~~~♪…このくらいで感心してくれるなんて、ちょっとうちが本気を出せばこんなもんやから、遠慮なくもっと褒めてくれてええよ♪』


………全部人から聞いただけの事をしただけに思うのですが……


『ありがとう京子ちゃん、安心したらお腹すいちゃった……予約時間よりも早いけど食事にしようよ♪』


『そやね♪…うちも動き回ってお腹すいたわ!…ふふ♪…高級中華か♪………餃子に天津飯、チャンポンもええね♪』


たぶん、同じ中華としてもその路線とは違うのでは?


(はは…またいつもの京子ちゃんに戻っちゃった…)

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