おれは風俗入り浸りチュウドクシャ
おれがベッドの端に腰かけてブラウン管のテレビを食い入るように見ていると、ベッドの横にあるシャワールームの扉が乱暴な音を立てて開き、湯気の中からY子が出てきた。アラジンのランプから出てきた魔人のようであった。
「何見てるの?」湯気がまだ消えないうちにY子が興味なさげに言った。まさに倦怠期の妻のような態度だった。Y子を指名したことを今更ながら後悔していた。
おれが答える間もなくY子が横に座った。せっけんの清潔ないい香りがしたが、同時に風俗嬢独特の体に染みついた穢れが発する例えようのない不潔感を伴う匂いが鼻を衝いた。つくづく金を溝に捨てた気分だった。
おれがテレビに視線を戻すと、ニュースの特番が始まった。
「14日未明、○○県○○市の下水道から成人男性のものと思われる頭蓋骨が多数見つか――」
テレビの電源が急にプツンと消えたのでY子の方を見ると、下品に歯茎を剥きだして笑いながらおれの方を見ていた。早く済ませて帰りたいのだろう、深夜2時を回っているからそれも仕方ないだろうとおれは腹立たしく思った。
おれはY子の相手を始めた。おれ自身早く済ませて帰りたかった。Y子の体は見る人が見れば華奢と言うのだろうがおれの目にはただ貧弱としか映らなかった。体を隅々まで愛撫してやると、無理やりひねり出したに違いないしゃがれ声を上げたので手で口を塞いでやると何を勘違いしたのかY子はさらに汚いしゃがれ声を大きくした。
おれの体はY子を愛撫していたが、頭では先ほどのニュースのことが頭から離れないのであった。
下水道で頭蓋骨が発見されるとは一体何事なんだ。事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。この間の殺人事件だって刑事すら疑いもしなかった爺さんが犯人だったからな。いや殺人事件とは関係ないではないか。殺人と決まったわけでもない。ならなぜ下水道なんかに頭蓋骨が落ちていたんだろう、それも多数とは。いや待てよ、頭蓋骨ってことはそこに捨てられてから長い間時間が経って発見されたってことだろう。一体誰が発見したんだ。下水道だから捨てられた場所から大いに移動している可能性も――それにしてもこの女は汗の匂いが臭すぎる。
Y子の相手をするよりも子供が友達の作った宝地図を眺めるように、下水道の事件を考えることの方が楽しかった。それに、Y子とのおもてなしの関係は終わっていた。俺とY子の目は深海のように暗く、そして下を向いていた。まだ息は荒かったが、俺とY子の間には事の終りに夫婦がよくする会話などなかった。これは風俗嬢と客という関係なので当たり前なことなのだが、おれは寂しい気持ちを慰めてもらうためにここに来ているので、そのことを非常に残念に思っていた。
おれは若干の気だるさを感じながらもそそくさと着替え、Y子と別れた。
店から出てもなお、おれの頭にはY子との前に見た事件が尾を引いていたがY子とのことを思い出すと胸糞悪くなるばかりだったのでなるべく考えないようにした。
おれは急に背中に悪寒を感じた。それは深夜2時半を過ぎた夜中の風がもたらした悪寒であった。
誰にでも理解できてスラスラと読めるようにと
平易な言葉でくどくならないように書いたつもりです。
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