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灰の空

作者: 牛カルビ

あんまり書くのに慣れていないので、至らない点が数えきれないほどあります!



空が灰色だった。

でも、実際に曇ってるわけじゃなくて、僕にとってそう見えるだけだ。

天気予報のお姉さんも、きらきらとした眩しい笑顔で、今日はいい天気が続きそうですと、言っていたから。

でも大切な人がいなくなってしまったとき、いや、別に大切でもない人だけど自分に僅かにでも関係があった人。

そんな人がいなくなれば、一日中とか数分とかもっと言えば数秒でもそう見えるんじゃないか。

僕は今日、そんなに大切でもない人を見送る。


いつもはだらけた着こなしの制服に、アイロン掛けもして、わざわざクリーニングにまで出して、同じ制服を着た集団の中に僕はいた。

クラスの知った顔のやつらも、普段はよれよれのブレザーをピンと伸ばして、僕と同じように退屈だけどそれを表に出さないよう努力している顔をしていた。

中にはやっぱりきっちりとした制服の裾をぐしゃぐしゃに濡らしているやつもいた。

僕たちがこんな格好をしているのは、全員の座った視線の先にある、一枚の女の子の写真にあった。

何回かすれ違ったような気もするけど、ろくに話したこともなかったし、どんな顔なのかすらもいま写真を見て、ようやくわかったほどだった。

彼女の写真のとなりにいるのは、きっと両親だろう。

葬式というのは高い費用がかかるようなのだが、僕みたいに彼女の死を別に悼んでない人を参列に呼ぶ必要はないだろう。

呆けたように彼女の写真を見ていると、隣のやつが脇腹をつついてきた。

どうやら焼香をあげる番が近づいてきたみたいだ。だいぶ後ろの番だったはずなのに、いつの間にそんなに時間が経ったのだろう。

隣のやつが立ち上がって彼女の写真のほうに向かった。

慌てて僕はそいつを目で追った。正直に言えば焼香をあげるまでの手順がわからなかったのだ。

だけど、まるで意味がなかった。

緊張した面持ちのそいつは、たぶん写真の子の親戚の人たちに勢いよく頭を下げて、参列者たちを少し驚かせていた。

その後はもっと酷い。

焼香のあげかたも分かってなかったようで、近くにいた先生に尋ねていたのだ。

ただ、いざ彼女の写真と両親を前にしたとき、どうしてかそいつからおどおどとした雰囲気がなくなったように見えた。

少し、ほんの少しの間、写真の前に立ち尽くして隣に置かれた唐辛子のような色合いの焼香をつまみ、ゆっくりと壺のようなものに落とした。

それからゆっくりと、彼女の両親に頭を下げて、席に戻ってきた。次は僕の番だ。

やっぱりあいつと同じように、緊張していた。肩に重りを乗せられたような、ずっしりとした重みがかかる。

もしかしたらこの重みのせいで、あいつも勢いよく頭を下げることになったのだろうか。

得体の知れない重みを感じながら、大股の一歩手前くらいで参列者のもとまで歩いた。

早さと角度に気を付けながら、頭を下げたつもりだったが、やっぱり勢いがついてしまった。気恥ずかしい気持ちが込み上げて、頬に熱が流れるのを感じた。

頭をあげたとき、あいつと同じように驚かれるのかと思ったが、違った。

驚きも、軽い微笑みも怒りもなく、ただみんな頭をこっちに軽く下げただけだった。もしかすると、あいつのときもそうだったのかもしれない。

参列者への挨拶を終えて、ついに彼女の写真の前に立ってしまった。

彼女の両親に挨拶をしようと首を向けたとき、気付いた。

両親は、瞳に涙を潤ませていたのだ。

僕の顔を僕と同じようにしっかりと見つめながら、頬に雫を垂らしていた。

もし、口を開けば再び悲しみが声ごと溢れてしまうのか、血が出てしまうくらい強く唇を噛み締めていた。

頭を下げる。今度は自然にゆっくりと深く下げられた。

再びゆっくりと頭を上げて、彼女の写真に顔を向けた。

すれ違ったほどしかない、特に会話もしたことがない、特別な印象も無い。

だけど、もうすれ違うこともない、会話をするための声も体も彼女にはない。

彼女の両親は、彼女がいた日常から、彼女がいない日常に変わらなければならない。

考えてもはっきりしない、よくわからないけど、やりきれないものが込み上げてくる。

これが、あいつが立ち止まった理由なのか。

どうしようもなくなった僕は、逃げるように仄かに香ばしさを感じさせる赤い焼香を、それが詰まった壺のようなものにゆっくりと垂らした。

もう一度彼女の写真に向き直る。そのとき、肩から重荷が消えた。

写真のなかの彼女が、ほんの少しだけ喜んでいるようにも、生きている僕を妬んでいるようにも見えた。

今度はしっかりと向き直り、やり過ぎと思うくらいゆっくりと頭を下げた。


僕は今日、そんなに大切でもない人を見送った。

参列を終えたあとも、僕らは何かやかましく喋ったりふざけあったりもしなかった。

葬式が終わって、僕はよく知らないやつと、帰り道が重なったのか一緒に歩いていた。

重い重い沈黙が、流れる。

機械的に歩行を続けていると、隣のやつが急に立ち止まった。

そのまま、歩いてしまえばよかったはずだが、なぜか僕は、そいつを振り返った。

空を見上げる、名前も知らないそいつはぼそっと呟くようにこう口にした。

空が灰色に見える、と。

気づいたように僕も同じように、空を見上げた。

透き通るような青空が、どこまでも灰色に染まっていた。



最近、こんな出来事をおもいだすことになったので、書いてみました。

少しでも雰囲気が伝わってくれれば、ひゃっほー、って喜びます。

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