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作者: 尚文産商堂

息を潜めて獲物を待つ。

スナイパーという職業を選んでから、いつもこんな感じで過ごしてきた。

職業柄、気を絶つことには慣れているし、そうじゃないと、こんな風に誰かを暗殺するということはできない。


今回の目標は、とある国からくるという大統領だった。

この依頼書を受け取った時、わずかに心に揺らぎがあった。

昔仲がよかった幼馴染の顔が写っていたからだ。

いまでもたまにメールをやりとりをしているが、今回の目標は彼女ではない。

彼女の夫だ。


幼馴染の夫を殺すということについては、かなり葛藤があった。

相手方からは、その気持ちを察してか、一度は戻そうとした。

だが、それでも引き受けることにした。

彼女にこのことを伝えられたらどれほど楽だろうか。

今すぐにでも電話をして、彼女に暗殺者がいるという事を伝えたら、間違いなく逮捕されるだろう。

それ、これまで数百人も暗殺をしてきた自身の評価も、地に墜ちるだろう。


携帯電話はすぐ脇に置いて、何かしらの連絡があればすぐに取れるように整える。

そしていつも使っているライフルを、大統領がパレードをする道の最も高いビルの屋上に設置する。

ここは30分前に警察が確認したポイントで、ここにくる事はもうないはずだ。

だから、引き下がる事はもう出来ない。

止めるなら今のうちだと、なんども心の中で幼馴染の声が聞こえてくる。

だが、自身が属している組織に必要であれば、しなければならない。


いつも舐めているミントキャンディーを口へ放り込む。

爽やかな空気が、自信を覆った。

そして、迷いも消えた。


パレードが始まった事を示す花火が打ち上がる。

暗殺できるタイミングはすぐに訪れる。

ビル陰から、いよいよ射程圏内に大統領を乗せたオープンカーが入った。

引き金に人差し指をかけ、息を整える。

スコープからにこやかな大統領の顔がはっきりと見える。

彼我距離1km未満。無風。障害物なし。


ーごめんな


わずかな心の乱れがあったが、引き金を一気に引いた。

音もなく弾が出て行く。

数秒の差で下が騒がしくなり、当たったことがわかる。

結果を見ずに、その場を速やかにあとにした。

後片付けは完璧に済ます。

残っているのは、爽やかなミントの香りだけだ。


少し離れたラーメン店で天井からぶら下がっているテレビをみていた。

大統領は一命をとりとめたと盛んに言っていた。

当たったのは心臓のすぐそばで、後1ミリずれたら、間違いなく死んでいただろう。

暗殺は失敗したが、なぜかホッとしている自身がいた。

幼馴染を悲しませなくてよかったと言った気持ちだった。

自身は、それでもよかったが組織はなんと言ってくるかわからない。

店主に頼み、電話を借りて警察に連絡した。


それから半年後。

俺は幼馴染の警護をしていた。

スナイパーとして、数百人の殺害に関与したということで、通常ならば死刑は免れないが、その腕を買われて、釈放をしてもらうと同時に大統領警護の職へつくことができた。

これまでの数々に罪を、あやふやにしてもらう代わりに、死ぬまで大統領夫人を警護せよという命令だった。

そういうことで、今は幼馴染とずっと一緒にいる。

死ぬまで一緒にいるということになったが、後悔はしていない。


あの時の後悔が、撃ってしまったという後悔が、俺をここにいさせてくれている。

だから、俺はこのことをずっと忘れない。

幼馴染にも言えない秘密だ。

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