第4話 あなたも魔法少女なんですか
俺が意識を失う前だった。
あれだけ強かった敵が、突如、真上からふりかかってきた強力な魔法を浴びて、爆散したのだ。
場は衝撃波と煙にまみれ、全裸で横たわる俺をも周囲から見えなくした。
無様な俺の前に、可愛らしい革靴を履いた足が降り立った。ゆっくり見上げると、そこに立っていたのは――
「あ、あなたは……」
「大丈夫かい? 田中君」
「部長……どうして……」
その言葉を最後に、俺は気を失った。
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「もっと僕が早く来れればよかったんだけどねぇ。ごめんね、間に合わなかったようだ」
ダメージを負った俺を案じて、部長は部長室に俺を入れてくれた。全裸の俺に向かって、いつもと変わらないビジネススマイルを向けてくれる。
「しかし驚いた。君も魔法少女だったなんてね」
「ぼ、僕も驚きました……。部長が、その……」
部長のジェンダーも魔法少女だったとは。なんて、言えるはずがなかった。
自然と言葉がくぐもった。
「いいんだいいんだ。君と同じだよ。なんてことない」
いや、なんてことあるだろ。
自分のことならまだしも、他人がそうなのを見るのはキツい。ましてやそれが部長となると、普段のイメージとの乖離が凄まじい。
部長の肩から、猫みたいな見た目の可愛らしい生き物が顔を見せた。
「ぶちょーも君と同じ、魔法少女になりたかったんだよ」
淫獣に暴露されて、部長は照れくさそうにする。
「いやー参ったね。恥ずかしいから、もっと遠回しに言おうと思ったのに。まぁ、君も同類だし、いいだろう。包み隠さず、直球でいこう」
一呼吸おいて、部長は言う。
「私はね、女の子になるのが好きなんだよ。女装プレイとかってあるだろ? そういうのに近い」
近いとかじゃない。そのものだろ。
俺は、そんなのと一緒に思われてるのか。
変態からも、人外からも。
俺は違う。俺は、本当に、魔法少女になりたかったんだ。魔法少女の女の子になって、舞ちゃんと同じように戦いたかっただけだ。
部長とは志が違う。
「……でも、それだと部長は、魔法少女になって戦いたかった訳ではないでしょう。そいつからまともな説明もないまま、契約してしまったのではないですか?」
単なる女装趣味なら、魔法少女を選ばないのではないか。俺が魔法少女になれると勘違いしたのと同じように、部長もこいつらに騙されたに違いない。
部長にまで上り詰めた人間を、一体どんな錯誤に貶めたのか。
「失礼だなぁー」
部長に付き添う猫みたいな淫獣が不満そうに言う一方、部長は「まぁまぁ」とたしなめる。
「私としては、私自身が魔法“少女”になれる、と聞いてね。魅力的に感じた。が、いちおう彼に聞いたよ。魔法“少女”になるとはどういうことなのかと。私は自分の生活もあるし、子どももいる。別に性転換したいわけではないしね」
少女、という単語に、若干力がこもっていた気がする。違和感はあったが、それよりもそんな他人には言えない趣味を優先しておきながら、一方で家庭を省みるのか。その感覚が俺には分からなかった。
「あぁ……そんな天秤があったのですね」
思わず、そんな感想が口を突いて出てしまった。
部長は、何を望んだのだろうか。魔法少女に、何を見たのだろうか。
「女性になってみたい、と思うことはあったが、そういうわけにもいかない。あくまで想像の世界、そういうお店の中だけだった。だが、彼から性別は変わらないまま、なのに敵や仲間からは魔法“少女”として扱われると聞いた 」
「扱い……?」
言い訳をするように、部長の淫獣が説明する。
「どのように認識されるかは、言うまでもないだろう? そう認識がされるなら、自然と扱いだってそうなる。この社会は、他人を尊重して成り立っているんだから」
あー、そういうことか。こいつは、部長の女装趣味を利用して、そのような甘言を用いたのか。
男でありながら、女装して女性として見られること、扱われることが、部長にとってはストライクのはずだ。それが他の魔法“少女”からそう見られ、扱われるとなれば、もうたまらない。想像や店内の世界に留まらず、現実において、部長は自分の趣味を叶えることができる。
「今回、君は男だったが、他にもたくさん魔法少女はいると聞いた。君と同じように、私を魔法少女として認識する女性もいるはずだ。なにせ我々魔法少女は仲間で、私は強いからね」
部長の闇を垣間見た気がした。
魔力の強さで、他から自分を魔法少女として認めさせる。魔法少女として扱われたいから、仲間意識を強調する。
うまく言葉にできないが、なんとなく、自分が男で良かったと安心した。自分が女性だったら、力差を背景に、何に付き合わされることか。
「私たちは似た者同士だ。お互い、仲良くしよう。正直、君が魔法少女でいてくれて、私も少し安心しているんだ」
照れくさそうに頬をかきながら、片手を伸ばしてきた。握手、らしい。
「これから宜しく頼むよ」
「すみません、僕……この会社、辞めますので」
部長の手は、気持ちよく取れなかった。
なにせ、そもそも俺は部長と違って、社内社外の人間の前で醜態を晒したんだ。とてもこの会社にいれる気がしない。
それに、言葉には形容し難いが、部長の言う魔法少女と俺の思う魔法少女は異なる物に思えた。
「あぁ……。そうか、そうだよな。君は皆の前で変身して、あーなったんだ。無理もない」
部長は察してか、俺の退職の申し出を止めはしなかった。
その目は仕事としてではない。同類を見る目だった。同類として、俺に同情している目だった。私だったら家庭もあるし耐えられない。辛いよな。とでも言いたげな表情をしている。
「だが、私は知っている。魔法少女はお互いに惹かれ合うらしい。同じ会社ではなくなっても、私たちは仲間だ。その意味において、これからは宜しくだ」
今度はビジネススマイルではなく、友達に見せる笑顔だった。改めて差し伸べられた手に、俺はおそるおそる手を伸ばす。
部長は強い。部長といれば、どんな敵でも倒せると思う。そうすると、俺の身は安全は保証される。変態仲間と思われてることは心外だが、状況が状況なだけにやむ得ないだろう。俺の命がかかっているんだ。もう、あんな怖い目にはあいたくない。
不本意ながら、やはり手を取ることにした。
「よし! これで私たちは仲間だ!」
固い握手を交わして、俺たちは仲間になったらしい。
その後、部長は俺のためにわざわざ服を買ってきてくれて、今日は家に帰ることを許してくれた。
俺の去り際、明日もよろしくと告げて、部長は最後まで見送ってくれた。




