第2話 思っていたのと違う
「君もこれで僕たちの仲間だ! さぁ、一緒に戦おう! この宇宙のために!」
俺は淫獣と契約した。
その瞬間、俺の全身は光に包まれ、宙に浮いた。
心臓のある胸の中心から、熱いものがこみ上げてくる。
「おぉ…!?」
そう、これは魔法少女の証。
マジカル・ストーン。これが俺の力。魔力の源。
ただ、なんだろう。俺が知ってるマジックストーンは、もっと綺麗なピンクの光をまとっていたのに、何だこのくすんだ黄色の輝きは。これは魔法少女というより、これはウルトラマンの胸についてて3分でピコピコなるアレに近い。
「うぁぁぁ!!」
疑問をどうにかする間もなく、全身の光が爆ぜた。同時に、着ていた衣類は散り散りになり、家財も魔力の波動で部屋の隅に吹き飛んだ。
とんでもない力だ。
「これが……俺……」
まず視界に入ったのは、自分の服装だった。
マジカル・ジャケット。
言葉よりも先に理解した。
舞ちゃんのとは違うが、アニメで見た通りの可愛らしい装飾が施され、セーラー服に模したピンク色の衣類。白い靴下に、お花がついた革靴。
夢じゃない。これは現実。
ついに、本当に俺は、変身したんだ。
「うまくいったね! さっそくで申し訳ないけど、今宇宙は窮地に立っている。地球に降り立った悪の力を退治して、この宇宙の平和を取り戻してほしいんだ!」
説明されなくても分かっている。
契約も、変身も、服装も、お前の言葉も、全て見てきた。知っている。
ただ、1つだけ違うんだ。
「なぁ、質問いいか?」
そいつは白々しく、首をかしげる。
「俺は、なんで女の子じゃないんだ……?」
そいつはさらに白々しく、さらに困ったような顔をする。
「なんで、40歳成人男性のままなんだ……?」
窓ガラスに反射して、自分の全身がうつる。
そこにいたのは、まったくもって少女ではなかった。疲れ果てて、頭部が薄くなった、コスプレ姿の小汚いおっさんがいる。
「えー……だって、もともとそうだったよね?」
明らかな困惑顔で、少し言いづらそうにしながらそいつは言った。それに対して、思わず声を荒げた。
「じゃあ魔法“少女”じゃないじゃん!! これだとさ、コスプレした変態だ!!」
「いやぁ……今って多様化社会なんでしょ……? 自分が女の子だと思ったなら、それはもう女の子なんでしょ? 女の子用トイレにも入れるし、お風呂にだって行ける。何が不都合なの? 君はもう魔法少女だよ?」
話してて気づいた。こいつは冗談のつもりで話しているわけじゃない。本当にそうだと思っているんだ。さも当然と言わんばかりに、非常識を目の当たりにした時の反応をしやがる。
こいつらの当たり前が、俺の感覚とは違うんだ。
「私のジェンダーは少女ですって言って、受け入れられるほど世界はまだ優しくない!!」
「そう言われても困るなぁ。これからは“それ”で戦ってもらわないといけないのに……」
駄目だ。そんな可愛らしい見た目や声に騙されない。お前は俺を騙したんだ。
「女の子になれないなら、俺は契約しなかった!!」
俺は魔法少女になれると思って、夢が叶うと思って契約したのに。可愛い女の子になって、舞ちゃんと一緒に戦って、女の子同士でイチャイチャできるって思ったから契約したのに……!?
そして知っている。この契約はキャンセルできないってことも。このマジカル・ストーンは、俺の魂そのものだってことも。
「まぁ、何をもって女の子なのか、少女なのかは人それぞれだし、まずはやってみよ? ね?」
なんで俺がお前にそんなこと言われなきゃいけないんだ。これじゃあ、俺がまるで仕事をやらないみたいじゃないか。まずはって言ったって、どうせもう戦う以外の未来は変えられないくせに。
その淫獣の言葉に、仕事をしない奴らの顔が脳裏を過ぎた。
仕事をしないで会社のパソコンでネットサーフィンしてるやつ。できない、やれないとウソをついて仕事から逃げてるやつ。権利主張だけ一人前で、働かないやつ。単純にスペック不足のやつ。
俺はそいつらとは違う。ただ、管理職になった俺は、そんな奴らとさえ向き合わないといけなくなった。そいつらが働かない度に、俺は「まずやってみよっか?」と投げかけた。仕事をしない、という返事がきても許されないが、そう優しく促した。
……やめろ。俺にその言葉はブーメランだ。腹が立つ。
「俺が仕事しないみたいに言うな! 貴様に俺の何が分かる! ……あぁ、やるよ! 言われなくても! やってやるよ!!」
「やる気になってくれてよかったよ」
そいつは馴れ馴れしく、俺の肩まで登ってきた。
「これからはよろしくね!」
「あぁ、よろしくぅ!!」
貴様が俺にしたことは一生忘れない。
当人の意図しない効果を生じさせ、不当な結果を生むこと。人間社会では、それを詐欺という。こいつが俺にしたことは、まさにそれだ。
この憎しみを胸に秘めたまま、俺は運命に従い、宇宙のために、悪と戦うことになった。
「ちなみに変身を解除したかったら、胸にあるマジカル・ストーンに念じればいいよ! 変身するときも同じだから!」
「あぁ……知ってる……」
このままじゃコンビニにも行けない。
とりあえず、変身を解除しよう。と、行動にうつって次の怒りがこみ上げるまで、そう時間はかからなかった。
マジカル・ジャケットが眩く光り、光が消失してから俺はまた自分の全身を見た。
「……また、アニメと違う」
俺は、全裸だった。
変身するときに着ていた衣類が砕け散ったから、まさかとは思った。
これじゃあ変身する度に服が死んで、変身解除のたび全裸だ。しかも、いちいち光を纏うから何しても目立つ。
変身しても地獄、変身解除しても地獄じゃないか。
「貴様ァ……」
淫獣はまたニッコリと笑った。
「まぁ、現実はこんなもんだよ」
「異次元の生物風情で、どの口が言う……」
田中大二郎。40歳。
職業、魔法少女。
お母さん、ぼく、間違った選択をしたかもしれません。公務員になれなくてごめんなさい。




